漸く、最後の客が帰ったらしい。
まったく大変だな、当主ってのも。
したくもない社交辞令やら世辞やら。
それだけならいいが、皮肉や中傷。
陰では何言われてるか判りゃしない。
それでも
笑みを絶やさずにいられるってのは
ある種の才能なのか。
本来なら、その立場は俺であって
凛とした表情を見せているこの妹ではなかった筈。
それを思うと居た堪れなくなる。
あの弱々しく俺達の後を付いて来ていた
泣き虫な少女が。
八年でここまで成長するのか。
その間にどれ程の苦しみや、辛い出来事が
あったのか。
想像すら出来ない。
まったくすまないな。
何にも出来ない兄で。
「転寝」
目の前で
椅子に座ったまま転寝している
妹を見て。
フと
そんな事を思う。
この数日間
家に来た客人の対応で疲れたのか
自室に戻る事無く。
一寸休もうとしている間に
寝てしまったらしい。
・・・・・・寝顔はかわいいんだよなぁ。
そんな俺の考えなんかよそに
何も知らず静かに寝ている。
そんな寝顔を見ていると
ついつい悪戯したくなる。
恐る恐る手を近づけて行く。
まだ起きる気配はない。
そうっと
本当にそうっと
長い黒髪に触れる。
さらりと流れる、美しい黒髪。
よく「鴉の濡れ羽色」とか「翠の黒髪」とか
髪に対して色んな形容があるけど。
秋葉の髪はその表現が正にあてまはる位
綺麗な黒髪だと思う。
ゆっくりと梳く様にして
サラリと撫ぜてやる。
するりと滑るようにさらさらと流れていく。
そう言えば
昔
まだ俺達が小さかった頃も
こうやって
秋葉の髪を撫ぜてやったっけか。
幼い秋葉は
俺達よりも遅いくせに
必死になって追いかけて来て。
漸く追いついたと思ったら
疲れてしまってて。
小さな原っぱで
皆でごろんと寝そべって。
その頃から秋葉の髪は長くて。
よく俺や翡翠はその髪を珍しそうに
眺めたり、時には遊んだりしてた。
あの頃から綺麗だったよな、秋葉の髪は。
「・・・・・・さっきから
私の髪をいじってますが、兄さん。
そんなに私の髪が珍しいんですか?」
気が付くと。
いつの間にかに目を覚ましていた
秋葉が、ジーと俺の方を見ていた。
一方。
俺の方は。
手は秋葉の髪を弄んでいて。
これは完全に、お兄さんまずいな、と。
秋葉は勘違いしてるだろうしな。
どうやって納得してもらおうか。
「兎に角、手を離して貰えませんか?」
ああ、悪いな。
秋葉の髪から手を離す。
秋葉は一度
髪を大きく梳き、かき上げる。
ふぅ
なんてこれ見よがしに溜息までついて。
「それで、いきなりどうしたんです?
私の髪がそんなに珍しかったのですか?」
「いやな、珍しいと言うか、その、何だ」
うう、こうやって面と向かうと、流石に言いずらいな。
どの面下げて
「秋葉の寝顔が可愛くて。
それにとても綺麗な髪だったから」
なんて言えるんだ。
秋葉は腕を組んで、じっとこっちを睨んでるし。
ここらで、素直に言わないと
後で何されるか分かったもんじゃないか。
でもなぁ。
何だかこれを素直に言うのも癪に障るし。
「私には言えない事ですか?
それとも、言えない訳でも?」
あ、やばいな。
目付きが鋭くなって来た。
威圧されていくのが判る。
お兄ちゃん弱し。
「そう言えば、昔から兄さんは私が寝てる時に
よく私の髪をいじってましたよね。
翡翠なんかとよく。
これってクセなんですか?」
・・・・・・・
これはビックリした。
秋葉も同じ事考えてたのか。
「まあ、そんなトコだ。
フトな。
寝てるお前を見てたらな。
そんな昔の事を思い出してな。
で、まあ、髪を梳きながら思い出に浸ってて」
頬を掻きながらぼそぼそと呟く。
うう。
やっぱ、こう言う事言うと流石に照れるな。
当の本人は、別に動じてないけど。
ふぅん、とか言いながら。
自分で髪をすくって見る。
まじまじと見て
一言。
「兄さん、私の髪って綺麗ですか?」
・・・・うわ
確信犯か、こいつ。
言い終えた後、にこりと笑って。
あくまでも俺に言わしたいのか。
ならこっちも
「長さは朱い月の方が長いかもな。
綺麗なら、アルクだって負けてないんじゃないのか?
あいつだっていいトコのお姫様だし
髪の手入れ位はしっかりしてだろうし」
ニヤリと笑って返す。
秋葉は俺が素直に返すと
考えてなかったみたいで。
「そうでしょうね。
あの方達はそれ位はしているでしょうし。
逆にその程度も出来ない様では
お里が知れると言うものです」
くうううう。
そう言うか、我が妹よ。
まったく口を開けば可愛げのない事ばっか言いやがって。
くそ
可愛いと思ったのが間違いだったか。
寝てる時はあれだけ可愛いってのに。
あー、勿体ね。
「兄さん、何で素直に髪の事
褒めてくれないんです?
これだけ私の髪を弄んでたくせに」
クスリと微笑んで。
素直に褒めて欲しいなら
お前も素直になれよ。
そんなに意地を張らなくてもいいとは思うがな。
お兄ちゃんはね。
俺の考えが判ったらしい。
ふん
何て、鼻を鳴らして
そっぽを向く。
「兄さん」
突然秋葉は立ち上がって
俺の方に向き直る。
?はて
何かしたっけか?
「まだ、きちんと挨拶していませんでしたね」
そだっけ?
「改めまして。
明けましておめでとう御座います。
今年も宜しくお願いしますね、兄さん」
「ああ、よろしくな、秋葉」
終わり
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後書き
月詠:新年明けましてオメデトウ御座います。
秋葉:新年明けましてオメデトウ御座います。遠野家当主・遠野秋葉です。
月詠:さて。新年早々、このSSだが。
秋葉:随分と短いですね。それに何やら簡単というか。
月詠:リハビリ中とでも思ってくれ。最近はこう言うのは書かなくなったし。
秋葉:結局は私のSSですけどね。
月詠:お陰でアルクアンドシエルがまったく書けなくなった。
秋葉:いいんです、あの人達を書く余裕があるのなら私のSSをもっと書いた方が有意義です。
月詠:有意義かは知らんが、色んな称号を貰ってるぞ。
秋葉:対秋葉徹底抗戦は終了したんですか?
月詠:どうでしょ?今回は偶々これが書きたくなたっだけで、まだかも。
秋葉:まだ懲りてないんですか?あなたは?
月詠:さあねぇ、何とも言えないな。
秋葉:いいですけど。私は、SSさえ書いてもらえれば、何を言われようが。
月詠:さいですか。まあ私は妹スキーらしいので。多分まだ書くんじゃないの?
秋葉:当然です。これは当主命令です。貴方はずっと私のSSを書き続けなさい。
月詠:秋葉かどうかは分からないけどね。今度はもっと壊れたものじゃないの?
秋葉:兄さんとのラブラブなSSを書くのなら許します。
月詠:・・・・・・・・・・
秋葉:何で黙するのですか?妹スキーなんでしょ?
月詠:それでは又次回のSSでお会いしましょう。
秋葉:一寸待ちなさい。話は終わっていません。
月詠:それではここまで読んで下さいまして有難う御座いました。
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後書きの後書き(舞台裏)
はい、お久し振りのSSとなります。
ドモです、月詠です。
今回は初心に帰ってほのぼの秋葉SSです。
何やらのほほんとした感じがしますが、私も
今のほほんとしているので、多分その所為です(そうなのか)
しかし、ちょっと、短いかなぁとも思いますが、
これ以上話を増やすとなると、趣旨から外れるので
すっぱり切りました。
まあそう言う事なので(?)
又次回のSSでお会いしましょう。
さよーならー