こちらはすいすい水夢さんの所で開催されている「萌月夜」に投稿したものです。

「月光」



月の光に誘われた訳ではないけれど。

何となく、外に出てみたくなった。

もう外は涼しいを通り越して、寒い位で、
寝巻きの上に、カーディガンしか着ていない私は
寒さに少し震えてしまう。

ハア、と大きく息を吐き出す。

吐き出された息は真っ白く染まる。

それにも拘らず
私はただ庭を歩く。

自分の体を抱く様にして、真夜中の散歩を楽しむ。

足元には赤く色付いている枯葉が敷き詰められていて
明るい内に見れば

それは真っ赤な、色取り取りな絨毯の様に見えただろう。

歩く度に枯葉達がカサカサと鳴く。



どれ位歩いたのか。

フト、一つの大木の前まで来て歩みを止める。

別にこれといって特徴の或る訳でもないが。
その大木に寄り掛かる。


冷たくひんやりとしてる、氷の様なその木に
頬を寄せる。

木の冷気が自分の火照った体に心地よい。

そのまま顔を上げて漆黒の闇夜を見上げる。

木々の葉によって完全には見えないが、
それでも
天空の煌きが私の顔に降り注ぐ。

無数の綺羅星。

雲一つない虚無の闇。

そして
その中で一段と輝く純白の真円。

ずっとその円を見ていると。

何だか、その中に吸い込まれてしまいそうになる。
この体がフワリと宙に浮き。

自分の知らない別の世界に引き込まれそうになる。
この世界から
知らない世界に。

月は別世界の入り口とはよく言ったものだと感心する。

昔、お化けはあの月の扉から出て来て。
秋葉の所に悪さをしに来るんだぞ。

何て誰かに聞かされた気がする。

成る程。
確かに今、月を見ていると
あながちそれも嘘じゃない気がする。


月を見ているとそんな昔の事ばかり思い出す。

何でだろう。

こんな気分になるなんて。

とても切なくて
それでいてじりじりと胸が焦がされて
じっとしている事すら出来ない。
狂おしい程の感情の奔流。

それなのに
頭の中で色々考えてしまい
どんどんネガティブなイメージしか浮かばなくて
そのイメージに押し潰されてしまい
気分がズンと、重くなる。



莫迦ね
何て自嘲気味に笑ってみる。

何も私は心配する事はないのに。
そう

心配する必要なんてまったく無い。

今が一番幸せなのは判ってる。
愛すべき人がいて
その愛すべき人も私を愛してくれている。

何も不安要素なんてこれっぽちも。
無い筈なのに。


今この瞬間が一番幸せなのが、判ってしまっている。
そんな事が冷静に判ってしまう自分が
堪らなく厭だし、自分の頭脳の優秀さを恨めしくすら思う。

そしてそれが判ってしまっているからこそ。
こんなにも不安なのかも知れない。


さああああ。

一陣の風が森の中を駆け抜けていく。

慌てて髪を押さえる。

「そんな体で真夜中の散歩ですか」


木の裏から声がする。
あの風にでも乗ってきたのだろうか。

そんなどうでもいい考えが浮かぶ。

「ええ。
月の明かりに誘われて。
おかしいですか?
私が真夜中に自分の家の庭を歩くのが」

その言葉にむっとしたのか
口調が少し荒いものに変わる。

「散歩自体が悪いとは言いませんが。
もう少し自分の体を考えたらどうですか、
と言っているんです」

いつもならこの人が来ただけで
神経を尖らせるのに。

今、とても穏やかで。
全然何時もと違う。

「そうですね。
でも
閉じ篭ってばかりいると
気が滅入ってしまって。
ただの気紛れです」


相手も、何時もの私とは違うのが判ったらしく。
言葉に険がなくなる。

「まあ、判らないことも無いです。
家の中で鬱々しているより。
外に出て、気晴らししたくもなりますよね」


そう言って、やっとその人は
木の裏から姿を現した。


カソック姿でメガネをかけていなくて。
何時もののほほんとした表情をしている。

「こんばんわ、秋葉さん」
「ええ、こんばんわ。シエル先輩」


「でも、ビックリしちゃいましたよ。
いきなり夜中に秋葉さんの姿が見えて。
何時も夜歩きするのは遠野君の専売特許ですから」

クスリと、笑う。

「乙女の夜歩きは危険ですか?
先輩?」

少しおどけて聞いてみる。



「ええ、それはとても危険ですよ。
特に満月の夜は。
月の明かりは人を狂わせますから。
満月なんですから狼さんが出て来ても知りませんよ」



「狼が出て来ても、大丈夫ですよ。
ここに狼も裸足で逃げ出す怖い人が
いますから」

ね?

と、先輩に微笑みかける。

先輩はふう、と息をつき。



「何の事だか」

とか言ってすっ呆けてる。

そして
私と同じく
天空の舞踏会を眺めている。


私もそれにつられる様に又、上空に目を向ける。


「それにしても、いい月夜ですね。
これは、お散歩するにはもってこいです。
何も私だってそこまで無粋じゃありません」
クルリと、後ろを向く。



「それでは、ごゆっくり。

ああ、でも。
くれぐれも先程言った事。
忘れないで下さいよ」

それだけ言って。


その先輩は
風と共に去って行った。


暫く先輩がいなくなった場所を見つめていたが。


寒さが辛くなってきたし。

私も戻ろうかな。




「秋葉。どこにいるんだ?」



丁度

家の方から、私を呼ぶ声がする。

余計な心配させてもいけないし。

段々呼ぶ声が近くなる。

その声の方向に私も歩いていく。


ねえ。
兄さん。

決して私を離さないと約束して下さいますか。
決して私の前からいなくならないと誓って下さいますか。



決して私にさびしい思いをさせないと、

決して
決して
そんな事ないよ、と。

言って下さいますか。

私を呼ぶ人の姿が見える。

姿を見つけた瞬間、その人の胸に飛び込む。

二度と離さないように。
私の腕から逃げないように。

「駄目だろ、秋葉。
その体でそんな軽装のまま出歩いて」


この人はなんて・・・・・
暖かいのだろう。


「・・・・帰ろうか、秋葉」

無言で頷く。






ああ
この日々が永遠に続きます様に。











FIN
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後書き
秋葉:皆様、お久し振りです。遠野秋葉です。
月詠:今日はです。秋葉に強襲された月詠です。
秋葉:アレは自業自得でしょうが。
月詠:何とでも言え。この祭りが終わるまではこのスタンスは崩さん。
秋葉:強情なんだから。
月詠:お前よりはマシだと思うぞ。
秋葉:・・・・・・さて。このSSですが。
月詠:これも一応、「秋葉SS」だな。
秋葉:でしょうね。登場人物なんてそれこそ。
月詠:でも、萌えって言われると、困る。
秋葉:萌え、ですか。当然、私でしょう。
月詠:そんな事ぁ判ってる。このSSの中でどこに萌えが。
秋葉:全部(きっぱり)
月詠:・・・・・・それがOKならそれでもいいけど。
シエル:何を言ってるんですか。萌えは私にこそ相応しい言葉です。
二人:黙れ、この貞子。
シエル:うっ。それは、あくまで、話題の中のネタで。
秋葉:カレーを差し上げますから、お引取り下さい。
月詠:出口はあっちですから。
シエル:ううう。私って一体(カレー持ちながら退場)
秋葉:まあ、何でしょうかね。取りあえず、私に萌えて下さい。
月詠:私としては秋葉書ければいいけど。
秋葉:何時もそうなら何もないのに。
月詠:まあ、それはそれ。
秋葉:いいですけどね、別に。
月詠:それでは、ここまで読んで下さいまして有難う御座いました。
秋葉:又次のSSでお会いしましょう。






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後書きの後書き(舞台裏)
えー。
月詠です。
今回も秋葉SSです。
しかし、どこにも萌えがないような気がします。
とりあえず、秋葉で萌えて下さい。
だって他に要素がないモンで。

う〜ん、何が書きたかったんでしょ。
考えてる時はよかったんですが。
何だか、全然条件には合ってない様な。

文中で言ってますが、秋葉がどんな体なのかは
皆様の想像にお任せします。


さて。
それでは、ソロソロ終わりが見え始めましたが。
頑張って下さい。

月詠でした。

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