そんなこんなでとうとう新年を迎えた。

いきなりだがそういうものだと思ってほしい。

で、今の状況を確認すると。

居間には誰もいない。

翡翠や琥珀さん、そして、秋葉も。

3人揃ってここにはいなかった。

ふと壁の時計を見る。

新年だ。と言っても、まだホンの二、三分しか経っていない。

当然、皆まだ寝ているだろう。

即ち。


「志貴様」
背後から声がかかる。
振り向かなくても分かる。俺をこう呼ぶのはたった一人。

「志貴様」
一度呼ばれる。

「ヤ、おはよう、翡翠」
にこやかに、振り返る。


「こんな夜中に如何なさいました」
怪訝な顔で俺を見ている。

如何と言われても。これが俺にとって普通だったから。

「あのさ、翡翠、ちょっといい?」
そう言ってソファーに座る。
翡翠はそのまま、直立不動の姿勢のまま。

「ここってさ、新年て、いつもこうなの」
俺の問いに翡翠は更に怪訝な顔をする。
「志貴さまの仰っている意味が分かりません」
「だからさ、遠野では新年は皆で集まって挨拶はしないの?」

「いえそんな事は御座いません。秋葉様も、姉さんもきちんと集まり、新年の挨拶はなさいます」
「それって何時ごろ?」
「朝の六時からが、例年通りですが」

ががーん
俺の頭の中で確かにそんなSEが鳴った。
そ、そんな。そんな馬鹿な。

がっくりと落ち込む俺。

そんな俺を翡翠はどう接していいか分からずに戸惑っている。

「あの」
おずおずと翡翠が俺に声をかける。
「一体どう言う事なのでしょうか。もしよろしければお話になって下さいませんか」

むくりと顔だけを翡翠に向ける。

「有間の家では」
ぼそりと話し出す。
「有間の家では新年は、皆この時間に集まり、そこで挨拶をしたんだ。
それから寝て、朝にもう一度挨拶をする。それが当然だと思っていた」

まあ、勝手にここもそうだと思っていただけだけど。
「まあ、一種特殊なこの家ではそれもそうだよな。御免、俺の勝手な思い込みで
翡翠の時間とらせて。夜の見回りだろ。悪いな」

翡翠は少し眉を寄せて、俺を見ている。
俺はゆっくりと立ち上がり、部屋に戻る。



パパ〜ン。
何か乾いた破裂音が居間全体に響く。
んでもって
「はっぴぃにゅういや〜」
とか、とんでもなく、底抜けに明るい声が木霊する。

そこには両手一杯にクラッカーを持った割烹着の悪魔、もとい天下の毒殺師(違う)琥珀さんが立っていた。
けど、俺と翡翠はとても冷めた目でそれを見ていた。

一体なんですか、これは。
「翡翠、これが遠野の新年の迎え方か」
「いえ。絶対に違います。まかり間違っても、あれが私の姉で、
夜中にこんな馬鹿なことをするなんて事は今まで一度もありませんでした。
一体何のつもりですか。姉さん」

「翡翠ちゃんヒド〜い。お姉ちゃんに向かってそれはないんじゃないかな。
これでも、今の話を聞いて頑張ったんだよお」

例の琥珀さん怒ってますのポーズでこちらに抗議する。

気持ちは大変に有難いのですがやり方等が大変に間違っているのですよ。

「折角志貴さんの考えてた様にやったのに」
「姉さん、志貴様は皆で揃って挨拶をされていたのです。
どこぞの年明けイベントとごっちゃにしないでください」

・・・しかし翡翠も言うようになったものだ。実の姉にああまで言えるものか。

「翡翠に琥珀」

ああ、やっぱり。我が家の最高権力者が起きてきたよ。

しかも、不機嫌だし。

「こんな夜中に、何をしているのかしら。あんな傍迷惑な異音までさせて。
納得いく説明をして欲しいものだわ」

心なしか、髪の毛が赤く見えるのは気のせいなんだろうなあ。

仕方がない。
「兎に角、皆一回座ろう。俺が説明するから」
で、今までの事を説明する。

当然秋葉からは非常に痛い御小言をチクチクとボディブロゥの様に喰らいつつ。

「それで、兄さんがそんなことを言ったのを琥珀が聞いててあんな事になったと」

簡単に言やそうだ。
秋葉は本当に呆れた様な顔をする。
「まったく兄さんはしっかりしている様でどこか抜けているんですから」

「まあまあ、秋葉様もそう怒らずに」
ニコニコと当事者が宥めている。
「でも、折角ですから、皆集まったことですし。ここで新年のご挨拶をしちゃいましょうか」
琥珀さんが俺のことを気を使ってか、そんなことを言う。

「・・・そうね。どうせ兄さんはそんなに早くは起きては来ないでしょうし」
秋葉よ、そんなにお兄ちゃんをいじめて楽しいか。

「では」

「新年明けましておめでとう御座います」
「今年もどうぞ宜しくお願いします」
「今年もどうぞ宜しくお願いしますね、兄さん」
「今年もどうぞ宜しくお願いします。志貴様」
「今年もどうぞ宜しくお願いします。志貴さん」

「ああ、3人ともこれからも宜しくな」

そして、これから、又新しい一年が始まるのだ。
今年もいい一年になりますように。















・・・・オチが無いのは気のせいなのですよ

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後書きの様なもの
翡翠「初めまして。翡翠です」
琥珀「初めましてです。琥珀です」
翡翠「このSSを読んで下さいまして真に感謝しています」
琥珀「でも、本当に読んだ人いたのかな」
翡翠「姉さんそれは禁句です」
琥珀「あはは〜」
翡翠「では、気を取り直して。これは月詠が初めて書かれた月姫SSです」
琥珀「色々言いたい事があるとは思いますがぐっと我慢して下さいね」
翡翠「しかし、何とも言い難いSSですね」
琥珀「まさに訳分からんSSの代表です」
翡翠「まあ、当人も精進すると言っているので大目に見て下さい」
琥珀「でも、人の言葉なんて有って無いような物だし」
翡翠「姉さん言いますね」
琥珀「いえいえ。作中の翡翠ちゃんよりは」
翡翠「・・・では次回のSSで又」
琥珀「翡翠ちゃん逃げたわね」
翡翠「ほら姉さん」
琥珀「あはは〜又です〜」





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