注意!!

この作品は
シエルを好きな方、応援する方、そのほかシエルに対するあらゆる好意を持っている方に対し
多大な不快感を与える表現が目白押しかもしれません。
よって読んでいただける方を選ぶ作品になっています。
どんなことでもドンと来い、というシエル好き以外のシエル好きは見ないほうがいいかもしれません。
もし見てから作者に対する誹謗中傷を言われてもそういう作品なので直すつもりはありませんのでご注意ください。

以上を読まずに作品を読まれた方もコレを承知したものとして扱います。


それではどうぞご覧ください。






 今日は日曜。でも遠野くんが遊びに来てくれません。しかも最近は学校にも来ていないから心配です。

 先週から毎日電話してるんですけど「志貴さん(志貴様、兄さん)はいらっしゃいません(いません)」の一言だけ……
学校を休んでまで遠野くんの部屋を張っていたというのに収穫なし。

 昨日は勢い余ってアルクェイドのマンションに奇襲をかけちゃいました。

 それで朝まで戦っていてたった今帰ってきました。

 結果は善戦むなしく敗北でした……ですが目的は達成できました。

 結果はシロ……


「一体どこに行ったんですか遠野くーん!」




AC ―れ・みぜらぶる―




「ひどいですよマスター。私だって疲れてるのに〜」


 そう言って作業を止めシエルのほうに振り返る『セブン』。

 彼女は一角馬との半人半馬の精霊でありシエルのパートナー兼下僕である。

 とてもありがたい聖典なのだがエプロンをつけて台所に立っていた。


「何を言うんですかセブン。あなたはこれっぽっちも役に立たなかったじゃないですか」

「それはマスターが私を振り回してアルクェイドさんに殴りかかるからじゃないですか。
ちゃんと聖典として使ってください。だいたい振り回されるこっちの身にもなってくださいよ」


 そういって“やれやれ…”というジェスチャーをしてみせるセブン。


「黙りなさい!」

「イターー!?」


 ジェスチャーに腹を立てたのか、シエルの魔力を込めた愛の鞭(拳)がセブンの頭頂部に炸裂した。


「大体あんな馬鹿でかいモ ノ、アルクェイドが大人しく当たるわけないでしょう!」

「そういう改造したのはマスターじゃないですか〜」


 頭をさすりながらわざわざ涙目にしてこちらの視覚に訴えてくる精霊。しかし――


「前からそうでしたが乾君のお宅に行ったあたりから特に反抗的ですね?」

「ち、違いますよ……」


 誰が見てもわかるほど露骨に目を逸らす。


「…………今日から1ヶ月、あなたのご飯はにんじん抜きのカレーにします」


 小さな芽とはいえ見逃さない。

 いや、小さな芽だからこそ大きくなる前に抜き取るのだと言わんばかりに高圧的な態度をとる非道なマスター。


「そんな!? ご、ごめんなさいマスター! 悪気はなかったんです!!」

「悪気がないのなら最初からやらないでほしいものです。ですがまあ、私も鬼ではありません。
今日の出来しだいでは考え直さないこともありませんよ?」


 鞭の次は飴、と言わんばかりに得意げな顔をして救済案を出してはいるが、そんなものは虐待でしかない。

 シエルが指し示す場所には、先ほどまでセブンが掻き混ぜていた鍋があった。

 普通の家庭ではありえないバカでかい鍋
――もちろん業務用で、しかも専門店でしか見られないような一品――
は幼児が気絶するのではないかというほどの匂いを当然のように放っている。まさにR指定料理。


「が、頑張らせていただきますー……」


 休ませてもらえない上に更にプレッシャーまでかけられたセブンは力なく返事をした。


「それでセブン……そのかじっているものはどこから調達してきたんですか?」


 彼女はその質問にあわてた様子でソレを食べきって
「マスターが食事はにんじん抜きのカレーだって言うからおやつを食べてました」なんてふざけたことを言ってきた。しかも真顔で。

 フフフ、なんてわざとらしい笑いを浮かべながら自らの主人を見る精霊。

 そして目を逸らさずに見つめ続けること約5分。もちろんその間もスパイスの凝縮された鍋の中から半殺人的な香りが立ち上ってきている。

 そしてようやく自分で墓穴を掘ったと気付いたのか、見る見る顔が青くなっていく憐れな精霊。そして……


「ち、ちがうんですよマスター。話を聞いてください。い、傷むといけないと思って泣く泣く処分を――」

「 たしか昨日買ったばかりだと思ったんですけど?」

「ハウッ!?」


 再び沈黙……精霊が知恵を絞り必死に言い訳を考えている。

 青くなっては震え、あわあわと考え直してまた更に青くなっては震える、というのを繰り返している。

 セブンが何度か繰り返していると電話が鳴り出した。


「セブン、ちゃんと鍋を見ていてくださいね。焦がしたら容赦しませんよ?」

「は、はい!」


 笑顔ながら怒り以外の表情が窺えない主人にセブンは恐怖し、誰とも知れない電話の相手に感謝した。



 シエルの電話番号を知っているのは志貴か、或いは埋葬機関でよほどの立場にいる者くらいだ。
学校にも伝えていないが何かあれば暗示を使うので問題はない。


「もしかして遠野くんから!?」


 しかし電話番号を教えてはいるのだが志貴からはここ数ヶ月かかってきたことがない。

 シエルは遠野家の電話機には秋葉の命令で琥珀が仕掛けた盗聴器があるためだと思っているのだが
志貴は盗聴器が仕掛けられているのを知らないし、アルクェイドにはわりと頻繁に逢うので電話に寄り付かないのだ。

 そうとは知らず電話機に駆け寄る自称女子高生。哀れである。

 シエルは受話器を取って違和感を感じた。それは魔術的なものではなく、誰でも気付くこと。

 受話器をとったのに電話の呼び出し音が鳴りっぱなしの状態。しかも音は背後のコンポから聞こえている。

 シエルがコンポに向かって振りむくと音が鳴り止んだ。

 どうやらラジオがついていたらしい。

 だがラジオ番組で延々電話の呼び出し音を鳴らすなんて事があるわけが無い。

 そして次の瞬間シエルがこれまで生きてきた中で一番聞きたくない声が聞こえてきた……


「やあシエル、最近の調子はどんなものだ?」


 知らぬ者にとっては心地よいかもしれないその声は
シエルの所属する埋葬機関の中にあって彼女を知る人物であれば吐き気がするような声にしか聞こえなかった。


「なんで……なんであなたなんですか!? 期待させといてそれかこんちくしょう!!」


 すでに志貴からの電話だと信じきっていたシエルはぶちきれた。

 普通に考えれば、上司にこのような発言をした部下は、何かしらの処分を受けるのだろうが相手も普通ではなく――――

「それはなによりだ」


 なにがおかしいのかくすりと哂う声が響いた様な気がした。


「一体なんのようですかナルバレック!」


 ナルバレック、それが彼女の名であり、とにかく嫌な相手らしい。

 埋葬機関の頂点に位置しているがどうやら本人は暇潰しでやっているらしく面白いことが見つかれば躊躇なく今の立場を捨てると豪語している。

 もちろん周囲は早くいなくなって欲しいと願っているようだ。


「アカシャの蛇が消滅して大分経つだろう? すでにその街周辺の死徒は殲滅済み
にもかかわらずその街に居座っているのは暇だろうと思ってな」

「まだあれから半年程度しか経っていませんよ。これからでてこないとは限らないでしょう?」

「安心しろ。後任は私だ。それに話を聞いてみてお前が直死の魔眼の保持者と接触してどう変わったのかも見たいしな」

「え?」


 シエルはナルバレックが遠野志貴を知っていて当然のように切り出され、迂闊にも声を漏らした。

 シエルはこれまで志貴の存在を知られないように、できる限りの手を尽くしてきた。

 埋葬機関には真祖の姫君と一時的に手を結び混沌とアカシャの蛇の殲滅に成功したと報告をして
シエルとアルクェイド、そして今は消滅したネロ・カオスとロアしか志貴が直死の魔眼だということは知らないはずであった。

 ――――詮索は後でもできる。

 そう思ったのか、シエルは気取られないように行動を起こさずに気持ちを落ち着ける。


「どういうことですかナルバレック。直死の魔眼など神話の類ではないですか」

「シエル、不死性を失ったお前では足手まといだ。これからは後輩の育成に専念しろ。近いうちにヴァチカンへ戻ってきてもらうぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください! 私はここから離れるわけには行きません。ロアの死徒がいるかもしれないのに!!」


 質問をはぐらかされたが今の言葉を聞き流すわけにもいかない。

 志貴のこともそうだがヴァチカンへ戻れという命令も聞けない。

 ここにはシエルにとって大事な人がいるのだから…………


「シエル、私は埋葬機関を辞めることにした」

「は?」


 今度は先ほどの驚きとは違い、ただ呆然と口を開き声を漏らした。

 シエルが必死でこの場をまとめるべく思案しているというのに、ナルバレックはまた別の問題を投げかけてきた。


「それでな、私が辞めると言ったら老人共がごねてな……」

「当たり前でしょう! 埋葬機関の長が後継者も決めずに自分から辞めるなんて前代未聞です!」

「フ……あれほど辞めてほしそうにしていたというのに、いざ辞めるといったらあの有様だ。まったく、理解に苦しむな」


 などと心にもない発言をする。

 わかっていて楽しんでいるのだ。自分が辞めることで何が起きるのか、どんなことになるのか、その全てが。

 そしてナルバレックに後継者はいない。そもそもナルバレックという名は世襲制である。

 彼女に子供はいなかったし、他に後継者を育てていたという話も聞いていなかった。


「一応聞いておきますが……なぜ辞めるんですか」

「寿退社だ」

「…………馬鹿にしてるんですか?」


 頭を抱えて悩む。が、ナルバレックならやりかねないと顔をあげた。


「老人共なんだが辞めることの交換条件として私が一国の吸血種全てを受け持つといったら渋々ながら承諾してくれたよ。
まあ体面は保てると思ったのだろうな」


 サァ……、っとシエルの血の気が引いていく。


「さきほど後任は私だと言っただろう? 実はすでに日本へ来ていてな。なかなか快適な国じゃないか」


 人は多いがね、と彼女は続けた。


「ちょっといいですか?」

「何かなシエル」

「まさかとは思いますけど――――」


 質問しようとしたシエルの声を遮るようにコンポの向こうでドアをノックする音が聞こえた。そして――――


「ナルバレック、俺だけど」

「ええ、入ってきて」

「そんな……なんで…………?」


 それはシエルの良く知る人物の声だった。












 そこはベッドがあることを除けばテラスのような場所だった。

 部屋にはテーブルと大きめのソファーがあり、テーブルの上にはティーセット、そしてソファーの真ん中にナルバレックが座って壁に話しかけていた。

 しかしただの壁ではなく複雑な魔術文字で直径1メートルほどの円が描かれており、その中心にはぼんやりとシエルの姿が映っている。

 ガチャリ、と部屋のドアが開き一人の少年が部屋に入って来た。


「思ったより早かったわね」

「まあね、翡翠は俺なんかにはもったいないメイドだよ」


 少年は苦笑する。そしてそのままナルバレックの座るソファーへと近づきナルバレックの隣に座った。


「それで何してたんだ?」

「シエルと話をしていたのよ」


 ほら、と壁を指すナルバレック。


「遠野くん!!」

「うわぁ……えっと、なんでしょう?」


 1メートルほどの円一杯に写るシエルの――カレーを馬鹿にされたときと比べると若干落ちるものの――
怒り心頭な顔に口端を引きつらせながら聞き返す。


「やっぱり遠野くんなんですね。でもどうしてナルバレックなんかと一緒にいるんですか!!」

「なんかってヒドイじゃないか」


 一転してシエルの一言にあからさまに不機嫌な表情になっているだがシエルにはこちら側の映像は見えなていない。


「大体自分から目のことをばらすなんて! あれほど注意してくださいって言ったじゃないですか! これからどうなるかわかってるんですか!?」

「シエル、それは言いがかりというものだよ。私はすでに埋葬機関を辞めた」

「あなたのいうことなんて信じられるものですか!」

「大丈夫だよシエルさん。それにナルバレックは俺に嘘なんかつかないよ」


 まるで聞く耳持たず憤慨しているシエルを見て志貴があきれながら話しかけ諭そうとする。


「…………あの遠野くん」

「なに?」

「なんでシエル“さん”なんですか? いつもは先輩って……」


 今までと呼び方が違うことに気付き不思議そうな顔をしながら質問をした。


「だってシエルさんは年上だしさ。それにヴァチカンに帰るってことは学校の手続きも済ませたんでしょ? だったら先輩じゃないじゃないか」


 それにホントは○○歳なんでしょう? という凶弾まで放たれた……シエルダウン。


「まったく、その歳で現地の高校に学生として潜入とは……泣かせてくれるじゃないか」


 ナルバレックはにやけながら愚かな挑戦者を慰めた。


「あなたなんて私より年上じゃないですか、この年増!」

「そうだな。だが私ならば教師として潜入する。問題はあるまい」

「だ、ダメです! 被っちゃうじゃないですか!」

 何が被るのかは微妙なところだがそれよりも重要な問題が残っていた。


「そ、それよりもなんで遠野くんとナルバレックが一緒にいるんですか!」

「あれ? まだ言ってなかったの?」

「ええ、シエルが無駄話ばかりするからなかなか伝えられなくて」


 じゃあ俺が伝えるね、とナルバレックの髪を一撫でする。


「シエルさん」

「遠野くん……」


 今にも泣きだしそうな顔をしながら見つめる。


「俺たち結婚しました」

「……………………はい?」

「入籍しました」

「いや言い方じゃなくてですね――――」

「年齢の方なんですけど、実は戸籍を七夜に戻したんです。その際に一歳いじったんです」

「え? あの……」

「志貴が少しでも私と一緒にいたいというから少し強引な方法を取ったのよ?」

「ありがとうナルバレック」

「い、いいのよ志貴」

「駄目です!! そんなの駄目です遠野くん!!」


 初々しい反応を見せるナルバレックと志貴の
仲睦まじい音声のみの姿を見せ付けられたシエルの怒り狂う有様はとてもお子様には見せられない。
嫉妬に狂った人の業、バーサーカレーに見える。

 そしてアレな姿が写ると同時に壁の魔術文字が揺らぎシエルの姿が消えた。


「遠野くーん……私を捨てるなんて許しませんよーー……」


 そして重く、おどろおどろしい声が聞こえたかと思うとひときわ大きく壁が揺らぎシエルが生えてきた。


「これが日本で起こるという貞子現象(タタリ)」

「いや、こんな物騒なこと起きないから。どうみてもシエルさんでしょコレ」


 とりあえずバーサーカレーからは元に戻っていたがシエルの体はどしゃ降りにでもあったかのように濡れていた。
しかも服装は黄色の着物。


「あんなに愛し合った恋人の私を捨てるなんて……許しませんよ遠野くん!!」


 どうやら壁から出て来るためだけの演出の衣装だったらしく、着物を脱ぎ捨て地面に叩きつける。
それにどうやって着物の下に着ていたのかわからないが今は制服だ。


「シエル、いつお前が志貴と愛し合ったというのだ?」

「それはもう毎晩のように愛し合っていましたよ。それなのに一週間ぐらい前から学校に来なくなって……だから遠野くんを探してたんですよ?」

「そうなの志貴?」

「いや、俺が学校以外でシエルさんと会うのは4ヶ月ぶりくらいだよ?」

「よく電話で話もしましたし」

「どうなの志貴?」

「そういえば琥珀さんが『呼び出し音がうるさいから』ってかなり前から夜は電話線抜いてるんだよね」


 遠野グループ絡みで何かあったときには琥珀さんの携帯電話に連絡が入るらしいんだ、とシエルに説明する志貴。


「シエル」

「なんですかナルバレック」

「ストーキングは犯罪だ」

「何言ってるんですか? 私と遠野くんは愛し合ってるからストーカーじゃないですよ?」


 まったく動揺せずに答えるシエル。

 どうやらシエルの中ではすでにシエルと志貴は恋人の状態で深い仲のようだ。


「現実を直視しろ。お前と志貴は何の関係もない」

「シエルさん、気をしっかり持ってください。そんなの勘違いですよ」


 暗に友人ですらないと伝える二人。


「ナルバレック、悪ふざけがすぎますよ! そんな陰湿な嫌がらせをしても私と遠野くんの絆は揺るぎません。
遠野くんも弱みを握られていても安心してください。私は何があろうとあなたの傍にいますから」


 優しく微笑むシエルに志貴は苦笑いをする。


「仕方がないな。……ナルバレック」

「なん――――ん……」


 志貴はナルバレックを優しく引き寄せると見せ付けるために荒々しくその唇を奪った。

 急なことではあったがナルバレックはまったくの抵抗を見せずに志貴のなすがままにしている。


「どうかなシエルさん。これで俺とナルバレックが愛し合ってるってわかってもらえた?」

「志貴はいつも自分勝手ね」

「ごめんねナルバレック」

「いいのよ、嫌いじゃないから」


 今、目の前で起きたことを否定するために必死で何故こんな状況になるのかを考える。


「百歩譲って仮に、仮にですよ? 志貴君が一時の欲望に身を任せたとしても結婚なんて秋葉さんが許すわけないでしょう!?」

「そんなことありませんよ」


 否定の言葉はナルバレックでも志貴でもなかった。

 声のしたほうを向くとそこにはベッドがあり、その上には――


「秋葉さん!?」

「大きな声を出さないでください。相変わらず下品ですね」


 ただ素肌の上にシーツをのせただけの状態でも秋葉の態度は普段と変わらなかった。


「ナルバレック、あなた遠野くんだけじゃ飽き足らず秋葉さんまで……」

「人聞きの悪いことをいうな。これは志貴と秋葉の提案だ」


 ナルバレックの言葉に秋葉と志貴を交互に見るシエル。


「俺は今でも秋葉の兄だと思ってるけど世間的に見ればもう兄妹じゃないしね」

「私にとっての男性は兄さんしかいません」

「……それって秋葉さんがナルバレックを遠野くんの知り合いと認めるのに関係があるんですか?」

「シエルさん、辞めたとはいえ職場の上司だった方を呼び捨てとはどういうつもりですか?」

「その女を上司と思ったことは一度もありません。人のカタチをした吸血鬼にも劣る生物です!」

「シエルさん、いくらなんでも言いすぎだよ……」

「兄さん、私も手伝います」


 よほど許せなかったのか志貴は眼鏡をはずし、秋葉の髪も真紅に染まっていた。


「いいのよ志貴。秋葉も気持ちは嬉しいけれど落ち着いて頂戴」


 志貴はその言葉に無言で眼鏡をかけなおす。


「お姉さまがそういうなら……」

「お姉さま!?」

「いちいち騒がしい人ですね。兄さんの妻ならば私にとっての姉にあたるんですから当たり前でしょう」

「で、でもいいんですか!? あなただって遠野くんの事をずっと前から想ってたのでしょう?」


 シエルのうろたえる姿がおかしかったのか、クスリと笑ながら――


「お姉さまのおかげで私の想いは果たせました」


 その言葉がどんな意味を持つのか彼女の今の表情を見なくても気付けないわけではない。

それでも一縷の望みとばかりにシエルは志貴を見つめた。


「ん? だってもう七夜だし」


 普段シエルにみせることが無い微笑。加えて――


「それにナルバレックも一緒だったしね」

「…………………………………………アハハ

































しばらくお待ちください







































 
部屋の隅には体をロープでぐるぐるに巻かれ裸眼の志貴に睨まれているシエルがいた。

 眼鏡をはずした志貴に一時は『殺される』とまで思ったシエルだったがそれでもなお疑わなかった。自分は志貴の彼女であると。そして――


「遠野くん、もう安心してください。私があなたを守りますから」


 何故か満面の笑みを浮かべるシエル。


「そうですね。私が遠野くんを満足させて上げられなかったからちょっと浮気というか、気を惹きたかっただけですものね?」

「……なにを言っているのかわからないんだけど」


 流石に薄気味悪いものを感じたのかやや後ずさる。

 そのとき部屋がノックされて声が聞こえてきた。


「志貴さん、アルクェイドさんが来てますけどどうします? 帰っていただきましょうか?」


 声の主は琥珀だった。部屋に志貴がいることを知っているようで中には入ってこないで質問だけをしてきた。

 志貴は少し思案して秋葉とナルバレックの顔を見たあとドアに向かって話し出した。


「この際アルクェイドにも説明したほうがいいだろうし……琥珀さん、アルクェイドを連れてきてくれる?」

「ほんとにいいんですか?」

「ああ、構わないよ」

「わかりました。少し待っててくださいね」


 一度だけ確認を入れて簡単に了解した琥珀は足音も無く立ち去った。


「いいんですか兄さん? アルクェイドさんのことだから暴れだすかもしれませんよ?」

「大丈夫だよ。もしそうなっても秋葉とナルバレックは守ってみせるよ。もちろん俺も生き残る」

「志貴……」

「兄さん……」

「と、遠野くん? わたしは?」

「シエルさんなら一人で逃げ切れるでしょ?」

「私だって出来ないことはあります! それに今は縛られてるんですよ? だから守ってください遠野くん!!」

「ごめん、無理」

「即答!?」


 顔を伏せ、肩を震わせている。


「あはははは、こうなったらやっぱり遠野くんについてる害虫を退治する方が先ですね」


 だが、それでもなお屈服はしないと焦点の合わない瞳が妖しく輝いている。


「遠野くんは自分を見失ってるだけです。駆除が終わり次第元に戻してあげますから安心してくださいね」

「相変わらず根性捻じ曲がってるわね〜」


 突然あっけらかんとした声が部屋に響いた 。

 声の主はノックもせずに部屋に入ってきていてニコニコしながらシエルの嫉妬に狂った姿を眺めていた。


「アルクェイド?」

「やほ〜志貴ー」


 志貴に名前を呼ばれて腕に抱きつくアルクェイド。もちろんシエルはそんなアルクェイドを睨んでいる。


「最近何処に行ってたのよ。探しても見当たらないし、昨日なんてシエルが襲ってきたんだからね」


 もちろんシエルごときじゃ相手にならないけど、と付け足す。


「アルクェイド。実は俺、結婚したんだ。その準備とか他の手続きとかで一週間出かけてたんだよ」

「結婚って誰と?」

「私だよ、真祖の姫君」


 いくらか嫉妬があったのかアルクェイドと反対の腕に抱きつき答える。


「誰あなた?」

「ああ、直接会うのは初めてだったな。埋葬機関の長をしていたナルバレックだ」

「シエルの上司ってこと?」


 まるで値踏みするかのようにナルバレックを眺めている。


「以前の話だ。埋葬機関は志貴と結婚して辞めた」

「ふうん、そうなんだ」


 眺めるのもそこそこにナルバレックのことはさほど気にせず、志貴に構ってもらいたくてしょうがない様子で素っ気ない返事を返す。


「そうなんだ、って……いいんですかアルクェイド!」


 シエルに話しかけられて、ようやく志貴とあえて幸せいっぱいな気分を害したのか冷ややかな表情のアルクェイド。

 まるで『まだいたのか、さっさと帰れよ』とでも言わんばかりの眼光で睨みつける。

 それでもシエルの言葉が気になったのか遠慮がちに志貴に質問をした。


「ねえ志貴。私のこと嫌い?」

「いや、お前のことを嫌いになんかなれないよ」

「これからも会ったり、どこかに連れて行ったりしてくれる?」

「そうだな、前みたいにいつでも連れて行けるわけじゃないけどたまにならいいぞ。もちろん会いに来るのはいつでもかまわないよ」

「ならいいや♪」


 太陽のような笑みを浮かべて志貴の体に抱きつく吸血姫。


「くっ、こうなったら私一人でも遠野くんを救ってみせます!」


 どうにかしてロープから抜け出そうとしているが抜け出せずもがくシエル。

 そのロープはナルバレックお手製のもので簡単に切れることは無い。勿論普段何に使っているのかは秘密だ。


「兄さん、そろそろ時間です」


 秋葉はいつの間に服を着たのか、すでに準備は出来ていると志貴に時計を見せている。


「ああ、もうそんな時間か。シエルさん、悪いけど出かけるからお別れだね」

「何を言うんですか遠野くん。あなたが元に戻るまでどこまでも付いていきます。離れませんよ!」

「違うんだよシエルさん。これから新婚旅行もかねて家族で旅行に行くんだ」

「何を言うんですか! 尚更です。私も憑いていきます!」


 嫌な空気を纏いながら今だ縛られたまま志貴へと近づくシエル。


「駄目だ。シエル、お前は明日の朝一番の便でヴァチカンへ戻ることになっている。遅れるなよ」

「そんな命令破棄します! 遠野くんの方が大事です!」

「言い忘れたがお前のマンションは明日引き払うことになっている。きちんと今日中に荷物をまとめておかなければ大事なモノを失うことになるぞ」


 途端ガタガタと震えだすシエル。


 シエルの部屋には様々な香辛料が置いてある。それこそ埋葬機関という組織でなければ手に入れることが敵わなかっただろう希少種まである。

 志貴にはまた会えるかもしれないが香辛料を失ってしまえば二度と手に入れることが出来ないかもしれない。

 香辛料と志貴のどちらかであれば志貴を取るだろう。多分……

 しかしもう手に入らないかもしれない香辛料とまた会える志貴とでは話が違う。


「ごめんなさい遠野くん……でも。でも〜〜〜〜!!」


 遂にはさめざめと泣きながらごろごろと床を転がりはじめた。


「ねぇ志貴、私も一緒に行っちゃ駄目かな?」


 転がるシエルを気遣うものはなく、見向きすらされない。


「いいかな?」


 そう言ってナルバレックと秋葉に了解を求める。


「私は構わないわ」

「私も構いませんよ」


 この旅行は家族だけのものといっていたが先ほどのやりとりでアルクェイドに問題は無いと判断したのかナルバレックも秋葉も志貴の提案に承知した。


「じゃあ行こうか」


 部屋から出て行く志貴たち。後には一人泣きながら転がるシエルだけが残った。


「っう、うぅ―――\」

「■■■■■■―――― !!!!」



 その日、三咲町に獣の如き叫び声が響き渡ったと言う…………

























後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。
おそらく途中で飽きた人もいるかもしれませんが……
もしかしたら最初の注意書きの割には大した事無い、という方もいるかもしれません。
申し訳ございません
今後なんとかしていきたいと思うので許して下さい (っдT)
それにしても確かにシエルいぢりは楽しい。
今回は期限に間に合わせるためにどうにかしました。次こそは(ホントスイマセン


後書きの後書き

ハイ有難う御座います。
今回はこのような作品を贈って頂き有難う御座います。
諸々の事情がありまして記念日に上げられませんでしたが
今回漸く掲載する事が出来ました。
矢張りシエル(以下削除)ですね〜。

本当に有難う御座いました。
そして遅れました事深くお詫び致します。

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