スゥ……ハァー……。
とりあえず扉の前で深呼吸を一つ。
それから私は右腕を挙げ軽く拳を握るように丸めてドアを叩きます。
コンコン
「おはようございます、志貴様」


「いつもの朝……?」


いつもの用に返事はありません。
そのまま私はドアノブを回し部屋の中へ入ります。
「失礼します」
いくらまだ寝ておられるからとはいえ無言で部屋に入るようなことはいたしません。
その場で体を回してドアをそっと閉めます。
姿勢を正してベッドを覗くとそこには未だ寝ておられる私のご主人様。
そして今は私にだけ向けられている無防備な寝顔。
何時見ても、幾時間見ても飽きることを覚えさせないその寝顔は今となっては私にとっての一日の活力源と言っても過言ではないでしょう。
しかし今日は学校のある日、何時までも眺めているわけには行きません。
志貴様の寝顔を見ているうちに顔が熱を持ったようですが、私はすぐに平常心を取り戻していつもの翡翠に戻ります。
「朝です。お目覚めの時間です、志貴様」
ベッドの中で安眠している志貴様への朝の挨拶。
一言だけで起きないのは既に承知している事。
「おはようございます、志貴様」
二回目の挨拶。志貴様は目を少しあけて私の顔を見ました。
寝起きの志貴様も私だけが見れる志貴様の顔。
少し寝ぼけているようで私はもう一度志貴様への朝の挨拶。
「志貴様、おはようございます」
今の挨拶は言葉だけではなく礼も一緒につける挨拶。
「ああ、おはよう。翡翠」
まだ完全には起きていないような志貴様の声。
「制服の方は準備してありますのでお着替えになってから、居間の方にいらしてください」
私はそこでもう一度礼をすると振り返り部屋を出ようとする。
「翡翠」
背中からかけられる志貴様の声。
なぜだか志貴様に名前を呼ばれると背筋がピンっと正される様な心地よい緊張感が私に走ります。
「なんでしょう、志貴様」
振り返りベッドに腰掛けている志貴様に視線を向け、姿勢を正す。
「いつも起こしてくれてありがとう、翡翠」
たった一言。
何気ない様なお礼の一言と、笑み。
それだけで私の顔には少しだけ熱がこもります。
志貴様の笑みは私にとって極上。
何にも替えがたい笑み。
「いえっ、メイドとして当然の仕事をしているだけです」
言葉がどうもハッキリ話せない。
口調がままならない。
それを聞くと志貴様は笑みを浮かべる。
この笑みは先ほどの笑みと違い、いたずらを思いついた子供のような無邪気で企みのある笑み。
「そうか、じゃあ翡翠は俺のメイドじゃなかったら朝起こしに来てくれないのか……残念だな……」
顔を下に向けてしょんぼりしている用に装っている志貴様。
しかし私はそんな子供だましの様ないたずらにかかってしまう。
先ほどの笑みの衝撃が頭の中に残っていて正常な判断が出来ないでいる。
「そっ、そんなことは思っていません!私は志貴様さえよろしければ私は喜んで……」
……
…………
………………私は今、何を言ったんだろう。
言葉を言い終わってから気づく、志貴様の満足げな笑みと自分の今言ってしまった言葉の意味を……。
言葉が私の意思に反して頭の中で反響して、顔赤く染まっていくのが分かるほど恥かしくなっている。
下を向いてどう今の言葉をフォローしようか考えていると、いつの間にか志貴様が目の前に立っていた。
下から見上げて志貴様の顔を見る。
きっと今私の顔は真っ赤になっている。
「そうか、俺が望むなら翡翠は何時までも毎朝俺を起こしてくれるのか……」
志貴様はニンマリという形容詞が当てはまるような笑みを浮かべていた。
私が何もいえないでいると志貴様がもう一言……。
「俺はいつまでも翡翠に毎朝起こしてもらいたいな……」
そして私が返事を言い終わる前に志貴様の唇が……。



っは!
いけないいけない、昨日の朝のことを思い出していたらまた顔が赤くなってきました。
私が今いるのは志貴様の部屋のドアの前。
今日からまた一日が始まります。
スゥ……ハァー……。
私はいつもの様に深呼吸をすると手を少し丸めてドアをノックします。
コンコン
そしていつもの挨拶。
「おはようございます、志貴様」
そしてきっとこれからずっと……。

こんばんは、誰かさんに脅迫されてはじめてSS書きました、ozaです。(語弊アリ)
丁度電波の受信に成功して二三十分ほどで書き上げ、あるお方に読んでもらい
恥かしくなりながら訂正したり……。
こんなSSですが、読んで頂けたら幸いです。
それではozaでした。皆様、良い一日を・・・。
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後書き
ozaさん、この度は御願い(脅迫)にも関わらず有難う御座いました。
いやはや久し振りに翡翠ちゃんSS読みました。
いーねー、翡翠ちゃん。
この健気さが堪らないのです。
でも私は秋葉様一途だけど。
お忙しい所、無理言って申し訳無かったです。
本当有難う御座いました。

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