『お年玉 新年の祝いに贈る金品。(子供など)目下の者への贈り物にいうことが多い。[季]新年。』 「よし―――――」 遠野志貴の2004年元旦の朝は辞書を閉じる音と共に始まった。 『情報戦』 「明けましておめでとう、秋葉」 「おめでとうございます、兄さん」 去年以来、遠野家にも年が明けたら年賀の挨拶をし、 また起きてから挨拶するという習慣が根付いた。 それを許可してくれたのすら秋葉だが。 しかし、俺は、三度、 彼女に、 愛する妹に戦いを挑まねばならない。 「?…どうしました、兄さん」 「いや、秋葉は遠野家の当主だよな?」 「勿論です」 怪訝な顔をする秋葉。 「お年玉というのは『新年の祝いに目下の者に送る贈り物』だ。 去年の様に高校生にもなってとかいう理由は通用しないぞ! くれるんだろうな」 「あら、勉強していらしたようですわね、兄さん。 結構です、夕食の際差し上げましょう」 勝った。 琥珀さん抜きで俺は勝った――――― そんな志貴の満足感は夕食後に打破された。 「では、おやすみなさい、兄さん」 「待て待て待て」 夕食が終わっても、一向にお年玉をくれぬまま床に入ろうとする秋葉をあわてて押しとどめる。 「なんですか?」 艶然と微笑む秋葉わかってやっている事は明らかだ。 「お年玉は」 「あら、夕飯にお食べになったではありませんか」 !? 「ば―――」 馬鹿、金を夕飯の雑煮に混ぜたのか!? そう言おうとしたがこれからお年玉を貰う身である志貴は満足にツッコミもできない。 「兄さん、折角勉強していらしたのに本来のお年玉を御存知ないのですね」 「本来のお年玉?」 「お年玉とは年の初め、神様から賜るものという「年賜(としだま)」や、 神様の魂をいただくという「年魂(としだま)」に由来し、 もともとは、神様にお供(そな)えした後、分け合って食べる鏡もちのことを指していました。 お金を贈るようになったのは、戦後からだそうです。 つまり―――」 「先程の夕食で、『旨い旨い』とご満悦でお食べになったお餅がお年玉ですわ。 ご満足いただけて嬉しいです、兄さん」 「――――――そ…そんな馬鹿なーーーーーーーーーー!!」 12人妹がいる男のような絶望の叫びが遠野家に木霊した。 『前哨戦』 「…酷いじゃありませんか、琥珀さん」 「そんな恨みがましい目で見ないで下さいよ、私だって知らなかったんですからー」 明らかに目が『私嘘ついてます』と自白しているのが志貴としてはやるせない。 「それに、私、お年玉なんて貰った事もありませんから―――」 「あ…」 悄然とする。 考えてみれば当たり前だ。琥珀は――― 「ゴメン、琥珀さん」 「いいんですよ、その―――」 涙を浮かべながらも笑う琥珀。 咄嗟に志貴は彼女を抱きしめた。 「あのね、琥珀さん」 志貴は辞書で新年について表層的ながらも調べた。 新年になると、昨年一杯の穢れは落ち、また新しい体になるという。 「メイドの琥珀さんは俺より目下だから、はい、お年玉」 「志貴…さん…」 「あはー、という訳で志貴さんの懐は火の車ですよ翡翠ちゃん」 「ここで私がお年玉を差し上げれば翡翠株がぐっと上昇して東証一部も二万円台を突破… 完璧です、姉さん」 『心理戦』 例の如く酒盛りの後、翡翠は志貴をテラスに連れ出した。 「思えば、昔はよく翡翠と凧揚げしたっけね」 「はい、あの頃は広い庭を志貴様に随って駆け回りました―――」 遠い目をする翡翠。 「何いってるのさ、あの頃は翡翠の方が速かった。」 「私の方が少々志貴様より年が上でしたから…今思えば、あの年代の成長というのは一・二年の差がはっきりする程のものなのですね」 「そっか、何か琥珀さんはお姉さんって感じがするけど―――」 「私はしませんか?」 苦笑して、うなずく志貴。 ここです、とばかりに翡翠が畳み掛ける。 「では翡翠お姉ちゃんが貴方にお年玉です」 すっ、と出てくるお年玉袋。 積載量夢一杯。 「ええっ!? でも翡翠って―――」 志貴の記憶では給料など貰っていないはずなのだが。 「はい。 ですがこれは姉さんの手伝いなどしてもらったお小遣いから出た正真正銘、翡翠からのお年玉です。」 「翡翠…」 はらはらと志貴の目から涙がこぼれる。 なんて、健気。 『電撃戦』 「あけましておめでとー志貴! お年玉だよーっ!」 塀を飛び越える白猫と共に、その手にある分厚いお年玉袋が宙を舞う。 選択肢など、ない。 志貴は白猫にゲットされてしまいました。 この為、猫はヒロインの仲間達から怨まれ、12支からはずされたという事です(嘘
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後書き
まずはEIJI・Sさんありがとうね。
忙しい時に無理難題を言って。
これは私の誕生日に何かくれ、と頼んで頂いたSSです。
こう言うのをサラと書けてしまえるんですから流石ですよね。
では今年も宜しく御願いしますね。
月詠でした。