〜小春日和〜
いつだって追いかけた。
私よりも大きな背中・・・・。
「志貴兄さ〜ん!」
私は兄さんを追いかける。
「秋葉!・・・早く早く!」
兄さんはそう言って足を合わせてはくれない。
私はと言えば、置いていかれないように必死に走るだけ。
それでも差は広がっていく。
「秋葉〜!翡翠とシキと先に待ってるからな!」
そう言って、兄さんは加速する。
私の追いつけない速度で・・・・。
いつしかその背中は見えなくなってしまった。
―――待ってください!兄さん!
―――そのあと、貴方は・・・・。
「兄さんっ!」
ガバッという効果音が聞こえそうな勢いで私は起き上がった。
ベッドのシーツは私の夢のせいもあってか、汗で少し湿っている。
寝間着も、じんわりと、私の体にはりついていて少し気分が悪い。
「・・・そっか、夢だったんだ・・・。」
私はそう呟いて、ベッドから立ち上がる。
今朝から少し具合がよくなかったから眠っていた。
そして、今は時計を見れば2時を回ったあたり。
体の気だるさもとれているのを考えれば、朝、琥珀に処方してもらった薬が
効いているのだろう。
季節はずれとは言え、今は二月の末。
私は浅上から週末で帰ってきたのに、安心して風邪を引いたのか、
体の具合を壊して、日曜だと言うのに朝から休んでいた。
さすがにこのままでは気持ちが悪いので、風呂に入りに行く。
「ふぅ・・・。」
湯船に浸かりながら、大きく息を吐く。
髪の毛をアップにして、湯船にもたれる。
「・・・・どうして、あんな夢・・・。」
ふと、口に出してみる。
私は、どうも、言霊にしてみることがある。
それは決まってなぜか解らないとき。その事象が起こる理由が私には
わからないときに出す。
そうすれば、言霊というものが力を発揮しそうだから。
しばらく考えても答えは出ない。
昔からそう。
言霊にするともっと解らなくなる。
そういう所を、蒼香は笑うのだろう。
―――お前さんはそういうところが乙女だねぇ・・・。
なんてことを言う。
それでも、今は、そんな不安でもない。
それは兄さんがいるから。
私の大切な唯一の人が近くにいてくれるから。
着替えて、屋敷の居間に入る。
そこには琥珀がいて、ちょうど買い物に行くようだった。
「秋葉さま、いいのですか?風邪は油断出来ないものですから、安静にしていないと。」
琥珀の気遣いだろう。
私は体の調子が良くなっていたから、
「明日の朝、学校に戻るんだし、寝たままだと、体力が戻らないからね。」
そう言うと、琥珀も「そうですか。」と言って、
「そうそう、秋葉さま、今夜は何がいいですか?何か要望があれば・・・」
そう問うてきた。
私は
「兄さんのリクエストは?最近は3人での生活だったみたいだし?」
意地悪に言う。
琥珀も、少し困ったように笑って
「志貴さんには秋葉さまに合わせるように言われたんですけどね、それなら
いつものような夕食にしますね。」
そう言って出かけようとする。
私は冷たい紅茶を口に流し込んでいたが、ふと思い出し、
「琥珀、兄さんは?」
出かけようとする琥珀に聞くと、
「志貴さんならお部屋におられると思いますよ。」
とだけ、答え、
「それでは行って来ます。」
と、屋敷から出かけた。
居間でカップの紅茶を飲み干し、私は廊下を歩く。
兄さんの部屋に向かって。
その前に体を冷やすと悪いと思って、上にストールを羽織った。
そして、部屋を出ると、
「秋葉さま、もう体はよろしいのですか?」
そう言って礼をする翡翠がいた。
「えぇ。翡翠。兄さんは今、部屋にいる?」
ひんやりとした空気が廊下を通る。
そして、頭を上げていた翡翠は
「志貴さまはお部屋におられると思います。先程、屋敷を見回っていたときには部屋に居られました。」
翡翠は掃除の途中らしく、どうやら、早く仕事に戻りたいらしい。
本当に、琥珀とは違って、この子はわかりやすい。
「ありがとう。翡翠。掃除、ほどほどにね。」
そう軽く言って私は兄さんの部屋に向かった。
「兄さん、失礼しますよ。」
答えがないけれど、部屋に入る。
二人は恋人なのだから、それでいいだろう、と。
「・・・兄さん?」
部屋には誰もいない。
いつもテーブルかベッドに座って本を読んでいるはずなのにいない。
部屋ではなかったらしい。
「本当に、何処にいったのですか?兄さんは。」
そう言って私のもう一つの心当たりのある場所に向かった。
「ここにもいない・・・?」
来たのは中庭。
兄さんは休みの日は大抵ここにいるはずなのに。
どうも、さっき見ていた夢のせいだ。
不安感が私の中を駆ける。
追いつけなくなりそうで・・・。
そんな私の脳裏に、一つの場所が思い浮かんだ。
―――兄さんと、初めて結ばれた・・・・大切な場所。
離れに向かう。
風はまだ、少しひんやりとしていたが、寒い、というほどでもない。
「失礼しますね。兄さん。」
いるのがわかっているのだから返答も聞かずに中に入る。
しかし、そこにもいない。
障子を閉め切っているせいか、薄暗い。
それでも、昼間。
言う程の暗さもない。
・・・なぜか不安な気持ちが押し寄せる。
夢だとわかっていても、
兄さんの顔を見たい。
兄さんの温かな手に触れたい。
兄さんの声を聞きたい。
気付けば、森の中にいた。
行く当てがあるというわけでもなかったけれど、兄さんが他に行く場所は
ここしかわからなかった。
・・・そういえば、ここで、兄さんは転んだ私の額にキスしてくれたんだった・・・。
ふと、思い出す。
まだ私も小さくて、兄さんはまだ、こちらに来て間もない頃だった。
いつものように前を走る兄さん、シキ、翡翠を追いかけていたらはぐれてしまい、
泣いていたところを兄さんに見つけられた、というところ。
「・・・あの時のおまじない・・・兄さんは覚えているんですか?」
呟いてみる。
かと言って、何かを求めるでもない。
今は兄さんが私の隣にいてくれる。
だから、今はいつでも、兄さんのおまじないがある。
それでも、不安。
今日は、どうも、幼い頃の思い出に引き戻されてしまう。
5分くらい歩くと開けたところが見えた。
私が、倒れていたところ。
兄さんと、少しの別れをした場所。
―――そこに愛しい人は立っていた。
「秋葉・・・体はもういいの?」
兄さんは私の気持ちも知らずに言う。
「えぇ。兄さんの側にいるだけで、治りが早くなってますから。」
私は兄さんの弱いところを知っている。
・・・あ、赤くなってる。
「で、、、でも、兄さん、少し兄さんの顔が見たくなったので、探していたんです。」
そう言って、咳払いをして、兄さんの側に寄る。
そして、兄さんの隣に立つとそこは少しだけ、樹の隙間があって、太陽の光が
差し込んでいた。
「眩しいですね。」
私は少し、兄さんの体にもたれる。
「あぁ、秋葉、でも、どうしたんだ?何か用があったんじゃないのか?」
兄さんは困ったような顔をして私の顔を見る。
「いえ、小さい頃の夢を見て、少し不安になったんです。でも、兄さんの顔を
見たら、平気になりましたよ。」
そう言って、兄さんから少し離れる。
「だって、こんなにも、側にいられるんですから。」
そう言って、兄さんの顔を見る。
照らしている陽は、一瞬だけ陰になり、すぐにまた照らし出した。
心の中で兄さんに呟く。
「だから、私は兄さんの側で、ずっと、いさせてください。
――――――終わりが来るまで。」
〜〜〜FIN〜〜〜
あとがき
TAMAKIです。
こんばんは。
秋葉さまです。
普通に生活感と、女の子っぽく書いてみました。
いかがでしょうか?
秋葉はどうも、メルブラでキャラが壊れているらしいんで
「女の子」っぽさを少し出してみようと・・・・。
うぅ・・・でも、そういう心境は書けているかわかりませんが
成功していればいいなぁ・・・。
まだまだ、寒い季節です。
風邪には気をつけましょう。
TAMAKI
うわ〜い(くるくる)
秋葉様SSです。
しかも自分の作品でなく頂いた作品です。
嬉しいですね、やっぱり。
今まで殆ど貰った事は無いので(逆ならいくらでも)
秋葉様は確かに最近イメチェンの途中らしく様々な様相を呈してますが。
やはりこの様な秋葉様が一番好きです。
TAMAKI様真に有難う御座いました。