「兄さんは、意外とセンスがよかったんですね」
「………どういうこと?」
 秋葉の言葉に、志貴はきょとんとした顔を返した。










『バスローブ』





Written by “Lost-Way”










「バスローブを着ると、その人の持っている『センス』が如実に現れるものなんです」
 志貴の不思議そうな顔に対して、秋葉は説明を始めた。
 ソファに座る志貴の隣に腰を降ろし、志貴に半ば身体を預けるようにしながら。





 バスローブを着て、バブリーになってしまう人は、バスローブが悪いのではなくて、着る人のセンスが悪いのだ。
 センスのいい人は、バスローブを上手に使いこなしている。
 バスローブ、と聞いて「うぇー」と顔を顰めてしまう人は、ちゃんとしたバスローブを着た事がない人だ。





「兄さんは、浴衣をはじめとして和服を着こなしていますから、そこで知らずに培っているのかもしれませんね」
「そうなのかな?」
 秋葉は志貴を見上げるように、にっこりと微笑んだ。





 バスローブは、大人のリゾートホテルでは必需品だ。
 タキシードなどの夜会服と同じくらいに、バスローブを着こなすセンスが必要なのだ。
 バスローブと一言に言っても、いろいろある。
 薄いタイプもあれば、着ると重さでひっくり返りそうなくらいの厚手のものもある。
 デザインも、人間ドックのお仕着せのものから、コートのようなものまである。
「うぇー」って顔を顰めてしまう人は、ガウンみたいなものしか知らないのだろう。
 襟の形1つをとってみても、千差万別だ。
 ホテルのレベルは、バスローブに出る。
 ホテルに行ったら、必要があってもなくても、とりあえずバスローブを着てみよう。





「そうなのか?」
「ええ。私は、このホテルのバスローブは気に入っていますよ」
「………屋敷でも見たことあるんだけど」
「ええ。買いましたから」
「売ってるんだ?」
「ホテル、とは、それだけで総合的な『ブランド』だからですよ」





 ホテルのバスローブを気に入ったら、ロゴショップで買って帰ろう。
 いいホテルでは、必ずバスローブなどをホテル内のロゴショップで売っている。
 バスローブにも、ちゃんと『夏用』と『冬用』がある。
 ホテルでいろいろバスローブを着ていると、バスローブに対しての目が肥えてくる。
 このあたりは、『慣れ』によるものもあるだろうが、経験こそが最高の教師なのだから。





「とりあえずは、お気に入りのバスローブを1つ、見つけることから始めましょうか」





 バスローブが着こなせて、初めて大人なのだ。










あとがきのようなもの
 主人は半年に1回は、それなりに名の通ったホテルに泊まりに行きます。
 ひとつは、バーにカクテルを飲みに。
 もうひとつは、自身のマナーを確かめるために。
 ご褒美で泊まりにいく、とか、身体を休めに、となると、なぜか近場の、自転車で行けるようなホテルに行く事が多いようですが。
 大人になる、ということは、何も20歳を超えたから、とか、異性関係を済ませたから、とか言うものではないようです。
 主人と暮らしていると、つくづく、「私ってまだまだコドモだなぁ」と思わされます。

 当人は、
「一番子供っぽいと思うんだけど?」
 と、苦笑してますが。

 無防備になれる時、ちゃんと自制出来るかどうか。
 それが、『大人』の分かれ目かもしれません。
 だからって、無防備すら見せてもらえないのは寂しいんだけどね。

では。
『でも、そういうバスローブとかすごく高いのよ(苦笑)』
Lost-Wayでした。



その又後書きの様な感想
LOST-WAYさん、SS有難う御座います。
ここ最近全くSSを書いて無いにも拘らずこの様に作品を頂けるとは思いも寄りませんでした。
私ももう少し引き出しの中身を集めない事には何も書けない状態が
ネタギレのまま書き始めてもいい物は出来ませんし
矢張り世に出すのなら自分で納得したものを送り出したいですから
こうやって様々な方からのSSを読ませて頂いて一日も早いSS復帰を図りたいと思います。
「引き出しの中身、削り過ぎて書けなくなった鉛筆が一本」の月詠でした。

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