こちらはかすがさんの所の「秋隆祭」に投稿したものです。

「未来考察」





もうここに来て何年になるだろうか?


フト、思い立ち指折り数えて見る。



・・・・・・




そうか、もう、30年は経ったのか。

では今までの30年を振り返ってみようか。




そう言えばそんな事を思い立った事もなかったな。

丁度いい機会だし。


少しばかり、私の昔話にお付き合いして下さい。




・・・・・・・・・・・・・・・・







私が、この家に来た時。

先にお兄様がいらしましたが。

私がお世話する事になりましたのは。



次の式様でした。



この式様がお生まれになった時。

この家のお慶び様は一言では言い尽くせませんでした。



何でもこの私の代で「完全体」が生まれるとは。

と、先代は何度も何度も呟いていたのが記憶に残っています。


その時はその意味が判りませんでしたが。
式様が成長されるに従って疑問は氷解しました。



式様は幼少の頃より余り他所様への関心が薄かったようでした。

理由は皆様ご存知の通り。


式様にはすでに体内に「織様」がいらっしゃいましたので。

世界に出る前に他人と言うものを知っていらした式様は
他の人に心を開く事が出来ませんでした。




そしてそのまま式様は成長されまして。

世界を隔絶しながら。


他人を拒否しながら。



そんな式様も。


いつの間にか


高校になり





あの事件が起きました。




そう


黒桐様との出会いからの一連の事件です。


それにより


式様は「織様」を失い


その代わり

黒桐様と他、様々な方達とも接点を持つ様になりました。


確かに「織様」をお喪いましたのは
大変な悲しみでした。


特に両儀の家ではそれはそれは。



ですがそれは個人を失った悲しみというより。




この代での「完全体」の喪失による悲しみでしたが。



しかし私に言わせて頂ければ




式様は「織様」をお喪いになられて

初めて「完全体」になられた、と思います。




他人を知り、又自分を見つめて。

他人との繋がりを持ってこそ「人」として


それこそが「完全体」だと私は思うのですが。



いえ
別に「織様」を悪く言うつもりは毛頭御座いません。


ですが
「織様」がいらしたらこの様な事にはならなかったのでは?
と思っただけでして。




ああ



出来うるなら


式様には


式お嬢様には


このまま何事もなく

幸せに過ごして頂きたいものです。



それが
私「秋隆」の切実なる願いです。
























・・・・・・・・・・・・・・・

















ふう。
そいつは私が手渡したレポートを一通り読み。

溜息をついて私を見る。



「フム。確かに私たちも両儀家の事は関心があったが。
だが。

こんな幼稚なレポートを貰っても、な。
これでは只の感想文だ。

それとも何か。

これを私に渡す事で、自分の封印指定を解除してほしいとか言うのか?

冗談ではない。

この程度のレポートではそんな条件は飲めんな」



そいつの辛辣なジョークを私はハンと鼻で笑う。



「封印解除?
そんなものこっちから願い下げだね。

大体そんな小賢しい駆け引きをあんたとするつもりなんかないさ。

只少しは興味が在るだろうとわざわざこっちから足を運んでやったんだ。


何も私だってこれを只の両儀家に関するレポートとして渡す訳でもない。
こいつは私の長年の研究の経過を示す重要な奴だよ。


知ってるよな、私の研究位は?」



「当然だ。
人として禁断の域まで辿り着こうとしているもの。

人が人を造り出す。


荒耶とは別の方向の人形制作。



君は肉体の方への造詣が深かったな。
それがどうだと言うのだ?


それとこの感想文が一体何の関連があると言うのか。
研究の経過?

こんな事の為に君は協会を裏切り、東洋の偏狭の地に逃げたと言うのか?」


ピクリ

その言葉に多少の反応を示す




「別に逃げた訳じゃないがね。
自分の研究のしやすい所を探して来ただけさ。

さて。

確かにこいつは素人が書いた幼稚なレポートさ。
だが。

も一度だけ、言うぜ。

私の研究は何だ?


私は人形遣いだ。

それだけだよ」





じゃあな


それだけ言い、私はその場を離れようとする。




「待て。
一体何の事だ?


人形遣いだからなんだと言うのだ?


このレポートのどこに人形が出ている?
まったく関係無いだろうが?


こんな素人が書いたもの」



こいつの話を聞いているとイライラする。


「ったく。
いい加減に気づけ。

さっきからお前は答えを言っているんだ。


いいか。
今までに会話で何回言ったと思ってる。


ああ、そうさ。

確かにこれを「人」が書いているならな」





バアン。

部屋の扉を荒々しく閉める。
























私があの「秋隆」と言う人物に興味を持ったのは
式とコクトーとの話の中に出て来た時だった。



何の気無しに聞いていたが。


聞いていればあのコクトーですら何の痕跡も掴めない奴がいるとは。




酷く興味がそそられた。





そして「私」なりに調査をして見た結果。



その「秋隆」と言う人物は。








その昔。













私が無名だった頃。














私が作った「私の人形」だった。
















これでは確かにあのコクトーでも無理だろう。

あの時。





私の噂をどこで聞きつけたのか
フラリと現れた人間は


私に一体の人形を製作する様に言い
その人形が出来るとすぐに持って行ってしまった。




特に私はその人物に対しても詮索もしなかったし
その時は興味もなかった。





だが

まさかその時の人形に

「秋隆」何て名前がついて

もう一度私の目の前に現れるとは。








ふう、と煙草に火をつける。


吐き出された紫煙は四角い窓から空へ向かい昇って行く。






これは流石にあの二人にも教えられない。


まあ


教えてもいいがこのままの方がいいだろう。



何と言っても









「その方が面白いしな」







にやりと笑った私の笑顔は
人形の様な作り笑いだったろう。






紫煙は






私が欲して止まなかった色の空に







吸い込まれて行った。






















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後書き


まず最初に。

剃刀は間に合ってます。

それから
ウィルスは必要無いです。


はい。
どーもです。
月詠です。

「秋隆祭り」第二段のSSです。

まーた、かなりの奇策ですが。


如何ですかね。

ああああああ、
私はシリアスなんて書けません。

何とも不思議なモノに仕上がりましたが。

少しでもお役に立てれば幸いです。


では。

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