ああ、どうしよう。

一人
路上に立ちすくむ。
私の横には何か単語を羅列している男性がいる。

必死になって私に何か訴えてるけど。
私にはよく分からない単語がポンポン飛び出して来て。
言ってる内容がよく分からない。

私は慌てて周りをキョロキョロと見回す。

広い路上に人が溢れ返ってる。
路の両側には露店が並び、かなり賑やか。
私もこの賑わいにつられる様にしてここに来たんだけど。

真逆そこでこんな事になるなんて思っても見なかった。


話しかけてくる男性に曖昧に返事をしてたのがいけなかったのだろうか?
中々その人は私を解放してくれない。
私があからさまに拒否していないからかも。


「ねぇ、いいでしょ?
話だけでいいからさ。一寸そこでお茶でも、ネ?」

「イエ。結構ですから」

「そんな事言わないで。
直ぐ終わるし。そんなに時間取らせないから」

「イエ、ホントに」

ああ、本当に困った。
どうしたらいいだろう?

私がほとほと困っていると。

「ハイハイ、一寸いいかな?」
私の背後から聞き慣れない声が。

その声に直ぐに男性が反応する。

「んだよ。
こっちは取り込み中なんだよ。
横取りしようってのか?」
その男性に喰って掛かる。

「悪いね。
横取りなんて気は無いんだがよ」

とか言って

ぺし、とその男性の顔を黒いメモ帳みたいなもので叩く。

「てめぇ、何するんだよ!」

「そう気を悪くするなよ。
こっちも仕事じゃなきゃ、君の邪魔何ざしないさ」

トントンとそのメモ帳で今度は自分の肩を叩く。

何?
と男性がそのメモ帳に目をやる。

そこには
金文字でよく知っている文字が並んでる。

「御理解頂けたかな?
只のナンパにしては随分と御熱心だったのでね。
声を掛けさせて貰ったよ」

「何でおまわりが出てくんだよ。
ナンパにすら文句あるのか?」

怒りが収まらないらしく警官に更に喰って掛かる。

あの。
余りそんな事しない方が。
いいと思うですが。

「相手が嫌がってるのに無理強いはどうかと思うぜ?
それにここ最近ナンパなのかどうかも疑わし輩もいるんでね。
この一帯は警備を強化されてるんだ」
ホレ?
とお巡りさんは道にある立て看板を指差す。

そこには赤文字で
「痴漢・ナンパ月間強化取締り中」と大きく書いてある。

「ま。
そう言う事で。ナンパしたけりゃ他所でやってくれ。
ここでやったら今度はパクるぜ?」

ニヤリと咥え煙草のまま笑うお巡りさん。

私に散々付き纏っていたその人は二、三捨て台詞を吐いて退散して行く。

「覚えとくぜ?坊主。
今度あったら問答無用でパクるからな」

ニヤニヤと不敵に笑いながら手を振って見送る。
今のお巡りさんってこんなにフレンドリーと言うか、やさぐれているんですか?

「さて、と」
手に持っていた警察手帳をポケットに仕舞って
私の方に向き直る。

「君も君だよ。
あんなのに捕まったらいけないな。
ああ言うのは無視するに限る。
でなけりゃ大声出して直ぐに逃げないと。
付いて行ったら何されるか知れたモンじゃないぞ」

幾分真剣な口調で私を諭す。
その目を見て
私も何も言えなくなる。

確かにそうかも。
以前の苦い記憶が甦りそうになるのを必死に圧し止める。

お巡りさんはそんな私の心に葛藤に気付いたのかいないのか。
「で。
君は実は家出少女だな?
益々いけないな、それは」

じぃぃと私の顔を覗き込む。
やっぱり制服のまま出歩くのはいけなかったですね。
一目見て気付かれてしまいましたし。

「んー。
まぁ、天気もいいしな。
外を出歩きたくなる気も分からなくも無いがね」
にか、と笑ってそんな事を言う。

「あ、あの……」

「ん?」

「いいんですか?その……」

「何が?」

何がって。
私を補導したりとか何か処置をしたりするのでは?
普通ならそうすると思うのですけど。

「さーて。
コレでサボりの口実も出来たし。
さっきの野郎の台詞じゃないが。
どうだい?そこでお茶でもしないか?」

はぁ。
見逃して貰えるのならそれでもいいですが。

「ああ、自己紹介、まだだったね。
俺は秋巳大輔。
コレでも警察官だ」

「私は、浅上藤乃って言います」






















「溢れる想い」












運ばれてきたコーヒーを飲みながら
そんな自己紹介をする。
秋巳さんはコーヒーをガブ飲みをして即座にお代わりを。
私は余りこう言う苦いものは苦手でちびりちびりと舐める様に飲む。


「しかしねぇ。
礼園の娘ってのはこう簡単に外には出られないんだろ?
君は何か特別なのかな?
それとも家出の常習犯かい?」

咥えていた煙草を吸おうとして
慌てて灰皿に押し付ける。

失礼、と小声で謝りながら。


何でいきなり謝るんでしょう?
私、何かしましたか?

「ああっと。
何時もの癖でね。
コーヒーを飲みながら煙草を吹かすのが。
幾らなんでもレディの前では禁煙しないとな」

はぁ。
そう言うものなのですか。
私は曖昧に笑みを返してコーヒーに口をつける。

「ウチの鮮花も割かし外に出てるみたいだけど。
それは成績が優秀だからとか言ってたしなぁ。
君もそうなのかな?」

え?

鮮花を知ってるんですか?

「あの、鮮花、黒桐さんを御存知なのですか?」

それに秋巳さんは訝しげな顔をする。
「君でも知ってるのか。
ウチの鮮花の事。
有名人だな、ヲイ」
頭をボリボリ掻いて呟く。

「イエ。あの。
同じルームメイトですから」

ああ、そうなのかー。
今度は喜色満面。
パッと顔色が変わる。

「で?大丈夫かい?
ウチの跳ねっ返りは?
君に迷惑とか掛けてないかい?」

「ええ。
とてもいい友達ですから」

そうかー。
ボフ、と椅子の背もたれに寄り掛かる。

「よかったよかった。
あいつにも友人が出来ていたかー。
あいつなりに学生生活はエンジョイしてる訳だな」

ウンウンと一人納得してる。

「あの。失礼ですが。
黒桐さんとは?」

「ああ、悪い悪い。
あっとな。
俺は鮮花の叔父にあたるんだ。
最も鮮花にあったのは昔だから今の姿は思い描けないけど」

そうですか。
鮮花の叔父様ですか。
と、言う事は。
先輩の叔父様でもあるんですね。

「で。
君は家出少女かな?
でも浅上と言えばかなりの資産家だし。
ああ、そうか。
元々礼園はお嬢様学校だしな。
君みたいな綺麗な娘がいても当然か」

何か一人で話して一人で納得していますが。
確かに資産家ですが。
だからって綺麗とは結び付かないと思いますよ。

それと。
以前から疑問に思っていたのですが。

「あの。
前々から思っていた事があるのですが。
宜しいですか?」

暫く会話が無かったので窓の景色を見ていた秋巳さんに
質問を投げかけて見る。

秋巳さんも
?と言う顔で私の方を向く。

「何だい?俺で答えられる事でよければ、いくらでも」

「あの、ですね。
何時も、と言うか。
外に出るとよく言われるのですが。
私ってそんなに綺麗なんですか?
皆口を揃えてそう言うんですが」

秋巳さんは私の質問を聞いた途端。
盛大にむせた。

危うく私の所まで飲んでいたコーヒーがかかる位に。
それはそれは盛大に。

ゲホゲホ思い切り咳き込む。
あまりに苦しいのか。
目には涙すら浮かんでる。
咳のし過ぎで顔も真っ赤に。

そんなにおかしかったでしょうか?
私の質問。

「あ、あのね、君」
未だ、ゲホゲホ言ってる秋巳さん。

「君、鏡位は見た事あるだろ?」

それは勿論。
いつも髪を梳かしますし、服を着る時も。
鏡は毎日見てますが。

「君。
普通の娘がそれを言ったらまず、厭味にしか聞こえないよ。
君くらいの美人に
『私って綺麗ですか?』って言われたら」

そうなんですか?
自分では余り実感が無いもので。
只遭う人遭う人皆そう言うから。

「でも
私から見れば鮮花だって十分過ぎる位綺麗ですし。
なのでどうなのか、と」

「ああ確かにな。
ウチの鮮花もタイプは違うが綺麗かもな。
それとも何かい?
礼園ってのはそんなに美女の集まりなのか?」

くっそー
行ってみてぇー。
とか小声で呟いてる。

「確かにお嬢様学校だから綺麗どころしかいないのは分かる。
その中で基準が曖昧になのも理解出来る。
でも、今みたいな質問はそうそうしちゃいけないよ。
さっきも言った様に厭味に取られるから」

漸く落ち着いたのか、もう一回コーヒーを飲み直す。

「そうですか」

「ああ、間違い無く君は綺麗だし、美人だと思う。
俺が今までで見た中で五本の指の中に入るな」
力強く断言されてしまいました。

でも、中でも一番は橙子さんだけどねー。
何てニヤニヤしながら言ってましたが。

「んー?でもさ。
何て言うかな?
美人だ綺麗だってのはさ。
結局、他人の意見だろ?
君は他人の意見に振り回されたいのかい?」

ずずぃ。
幾分身を乗り出して私に問い掛ける。

「いいかい。
確かに他人からのイメージってのは大事だ。
それによってかなり左右される事も多いし。
けど。
勘違いしないで欲しい。
何処まで行っても他人は他人だ。
絶対に自分にはならない。
自分、ってのをしっかり持ってる人は男でも女でも強いぜ?」

「自分、ですか」

「そう。
他人が何を言おうともそれに動じない人。
信念、とも言い換えてもいいかな?
しっかしとした考え。
夢でもいいさ。
何か一つでもそう言うのを持ってるってのは心強いと思うがな」









信念

























想い















そうですね。




鮮花も




そう言う確固たるものを持っているからあんなに強いんですね。

わたしもそう言うもの持たないと。

そして
しっかりと今度は胸を張って言える様にならないと。


「ん。
何か閃いたみたいだね。
そー。
そんなに難しい事じゃなくてもいいんだよ。
美味いモン喰いてー、とか
この前私を振ったあいつを見返してやる!
ってのでもいいと思うぜ?」

あのー
そう言う事でもいいんですか?
とてもグレードが落ちた気がするんですが。

「ま。
なんにし、人生は短いんだ。
自分の思った事しないなんて勿体無いし
人生半分捨ててるもんだ。
やりたい事やらないと、な」

そう言ってさっきのニカッって笑みで笑いかけて来る。
私も
はにかみながらも
そうですね、微笑み返す。

「おおっし!!
こんな綺麗な娘とお話出来たし、しかも微笑まれたら
男としてこんなに目出度い事はない!
よし!!
気合も入ったし、お仕事再開するかな」

ぐぃーーーーー、と一気に残っていたコーヒーを飲み干し。
勢い良く椅子から立ち上がる。

「俺は仕事が残ってるから先に行くけど。
君も早い内に帰るんだよ。
さっきみたいなのに引っ掛からないとも限らないしな」


じゃあね。
と言って秋巳さんはコートを羽織ってお店を出て行きました。
私は秋巳さんを暫く目で追い
テーブルに残ったコーヒーを一口飲む。











うん。
何だか私も元気が出てきた気がする。
今のこのままの気持ちならこの私の想いを打ち明けられるかな。


今からでも遅くないですよね?
この想いを打ち明けても。







顔ぶれはかなりの強敵揃いですが。
それでもこの想いだけは誰にも負けないつもりですよ?







覚悟して下さいね?


先輩。


















FIN
_______________________________________
後書き
月詠:コンバンワー。
藤乃:ハイ、こんばんわです。
月詠:いや〜、久方振りの登場だね、ふじのん?
藤乃:そうですね。
月詠:しかし自分もふじのんには甘いなぁ。
藤乃:そうですか?
月詠:そうでしょ?ふじのんSSはまず甘甘だもんさ。
藤乃:思いが叶わないSSがそんなに好きですか?
月詠:言い方キツイな。
藤乃:私と先輩が結ばれるSSは書く気は無いんですか?
月詠:えちぃのはいけないと思いますが。
藤乃:誰もそっちで書けとはいいません。
月詠:だろうね。
藤乃:例えば、先輩と私の挙式とか、二人での生活とか。
月詠:無いんだよねぇ。イメージが浮かばない。
藤乃:だから私は何時も道の上でしか発見されないんですね。
月詠:君は他には学園内しかいないでしょ?
藤乃:それは認めます。
月詠:それでも他のヒロインと比べると待遇はかなりいいと思う。
藤乃:主に私と鮮花は、ですね。
月詠:どーにも私は式はねぇ。
藤乃:あの人は敵です。
月詠:又ハッキリと言い切ったね。
藤乃:先輩に仇なす人は皆敵です。
月詠:では例のメガネのあの人も?
藤乃:当然敵です。目下最大の敵ですね。
月詠:スゴイ気合の入り方だね。
藤乃:あの人がちゃんとしてくれないと先輩は餓死してしまいますから。
月詠:その為にふじのんがゴハンを作っていってあげれば?
藤乃:行ったら行ったで敵がいますし。
月詠:難しいね。
藤乃:各個撃破して行くしかないです。
月詠:でもふじのんは私は凄くいいと思うけど。
藤乃:有難う御座います。
月詠:ウン。礼儀正しいし、見た目も清楚だしさ。文句の付け所ないと思うけど。
藤乃:なのに先輩は私でなくてあの殺人鬼を。
月詠:そこらは仕方ないね。本編でそうなってるしさ。
藤乃:なのでここだけでもそんな夢を見させて下さい。
月詠:努力はするよ。
藤乃:約束しましたよ。
月詠:男に二言は無いよ。
藤乃:嘘吐きはいつもですから気長に待ちます。
月詠:酷ぇ言い草だ。私の何処が?
藤乃:全部。
月詠:………………
藤乃:アラ?落ち込んでしまいました?
月詠:……それでは皆さん次回のここでお会いしましょう。
藤乃:アララ?
月詠:それでは皆様ここまで読んで下さいまして有難う御座いました。
藤乃:それでは、感想など送って下さいましたら悦びますので。
月詠:有難う御座いました。




























________________________________________
後書きの後書き(舞台裏)
えー。
月詠です。
かなり珍しいカップリングのSS。
まー
誰も思い付かない(ついても書かない)でしょうね。
最初はまともにみきやんだったのですが。
矢張りこう、諭すとなると年の功より亀の甲と言いますか。
それなりの人で無いと、と思いまして。
みきやんには降りて頂きました。
橙子さんと言う頭は最初から無かったですけどね。

秋巳さんは初めて書いたかもしれません。
元来こう言うがらっぱちな人は好きです。
書いてて楽しい人ではありました。
でも
アレだけ親身になったのに結局恋心は芽生えず。
その想いはみきやんに。
当人も橙子さんラブですからどっこいどっこいかな?
いい人で終わっちゃうんですよねー(溜息)

これで
ふじのんも目覚めてみきやんに猛烈にアタック開始。

するかどうかは又別の話ですが。

さて。
それではここまで読んで下さいまして誠に有難う御座いました。

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