「DINNER TIME」










「幹也いる?」
がちゃりとドアを開けて部屋の住人を呼びかける。
が、無音。
当然ね。
一人納得して部屋に入る。

だってさっき逢ったんだから。
私よりも早くこの部屋に帰ってくるだなんてソレこそ魔法よ。
無人の部屋に上がり込む。

ここは幹也の部屋。
そして
恋敵の式もいる部屋。
今日は又気紛れで散歩に出てるみたいでいない。

いないのを見越して来たんだけどね。
靴を脱いでまずは。
台所に。
思っていたよりも綺麗になってる。
幹也がしてるのかしら?
それとも式が?

考えにくいなぁ。
あの式が家事をするだなんて。
料理は得意だって言ってたけど。

何だ私する事無いか。
じゃ、洗濯物は?

……こっちも綺麗ね。

こっちこそ幹也じゃなくて式もするわよね。
女物を幹也が洗濯する所を想像する。

何となく似合ってる気もしなくも無い。

白い割烹着を着て頭には同じく白い三角巾。
天気の良い日に洗濯物を干してる幹也。

うん。
自分の想像ながら間違ってない気が。

さ、て、と。
じゃ、これからどうしようかな?
まだ幹也と約束した時間には早いし。
あの様子じゃ帰って来てから出掛ける気力も無いだろうから。
私が今晩の食事、作って置いて上げようかな。
よし。
そうと決めれば早速材料の確認。

……幹也〜。
何で冷蔵庫の中身が(以下検閲に掛かり削除)なの〜?
幾ら何でもコレじゃ倒れるわよ?
今度橙子師に私からも一言言って置かないと。
幹也が餓死する前に。

材料の買出しからしなくちゃね。
お財布を握り締めて外に飛び出す。
そして小一時間。
手にスーパーの袋を提げての帰宅。
コレって何だか新婚みたいよね。
愛する夫の帰りを待って。

トントントンとリズミカルな音を立てて野菜を切り、鍋に。
鼻歌を歌いながら手際良く料理を作る。
キャ〜、まるで新妻みたいだわ〜。
早く帰って来ないかしら?
この私の姿を見たら幹也なんて言うかしら?

吃驚するかな?
それともにこやかに笑うのかな?
男なら誰でもこの姿には弱いって言うし。

この私のエプロン姿。
当然中は着てますよ?
裸エプロンだなんて安売りはしません。
コレで幹也のハートをがっちりキープして。

「何一人でニヤニヤしてるんだ?お前」
ぴき。
空気が凍る音。
もしくは
私の笑顔が割れる音。

何でここであんたの声がするのよ?

「大丈夫か鮮花?
ここ最近気温の変化が激しいからな。
とうとう頭に来たか?」
当人はしれっと私の顔を覗き込んで来る。

何かむかつく。

「何であんたが先に帰って来るのよ?
よりによって幹也よりも早く!」

「何でって今日は鮮花の手料理だから早く帰って来いって
さっき事務所で言われたんだよ」
あー。
行き違いになったのね。
私が帰った後にこいつ来て。
幹也から聞いたのね。
幹也〜。
折角二人きりで食事が出来ると思ったのに〜。

「で?何作ってるんだ?」
ひょいと私の肩越しに覗き込む。

「ちょっと!
勝手に見ないでよ!それにまだ作り途中なんだから!」
ぐいぐいと居座る式を台所から追い出す。

「良いだろ別に。見る位なら」

「ダメなものはダメです!
それにコレは二人分だから貴女の分は無いですっ」

「あぁ?
ソレは違うだろ?
幹也の分が無いんじゃないのか?」

はぁ?
このバカシキは何を言ってるのかしら?
どう見たって貴女の分が無いに決まってるじゃないの?

「何だ、なにも聞いてないんだな?
幹也なら今日は遅くなるから二人で食事してろって。
どーせ又幹也の顔ばっか見ててロクに話し聞いてなかったんだろ?」

ショ〜〜〜〜〜ック!!
上の空だった事は否定しないけど。
よりによってこいつの分を作ってたなんて。

がっくし。

何か急にヤル気が無くなったわ。
別の意味で殺る気は起き始めたけど。

あたしこの食事しないで毒でも盛って上げようかしら?
あー、でも効かなそうね。
ネガティブイメージてんこ盛りな料理が出来そうだわ。
こんな気分で作ってたら。

「鮮花ー?
大丈夫かー?
おーい、帰ってこーい」
何時の間にかに又入って来た式が何か言ってる。

「式、ネェ式」
くるん、と式の方を向く。

「あんだよ?」

「貴女、何食べたい?
良いわよ何でも作ってあげようじゃない」
死んだ魚の様な目でそんな事を呟く。

「ホ〜ラ、しっかりしろって。
そんなに俺と食事するのが嫌なのか?」

「嫌です」
ドきっぱりと言ってやる。
でも式もそんな嫌味を軽く流すと

「泣くなよ。
全く、幹也も罪な事してくれたぜ。
あいつなりの気遣いなんだろうけど。
より気まずくなるだけだってのに」
はぁ〜、と溜息を付いて。

「鮮花。
俺も手伝うから。
ホラ、暫く気を落ち着かせろって」
コップに水を汲み、私に渡す。
私も無言でソレを受け取り、一気に飲み干す。

式はソレを横目で見ながら
どっかから引っ張り出して来た割烹着を着込み。

「んー。まだ何とかなりそうだな。
さーてじゃ再開と行こうか」
たすきをかけて、包丁を握る。

私はボーとしながら式の料理してる後姿を眺める。
テキパキとこなして行く式。
確かに味に煩いだけあって手際が良いし、見事だと思う。

さっきは余りの事で取り乱したけど。
だいぶ落ち着いたかな。
幹也が帰って来ないってのはショックだったけど。
まぁ、式が相手でも良いか。

「式。手伝います」
横に立って料理を見る。

「何も無いぜ。
見てるだけでも良いなら構わないが。
ああそうだな、冷蔵庫にあるその、そう、それ」
……結局
手伝いと言うか、本当の手伝いだけで終わってしまった。

出来上がった料理を囲んで。
二人での食事。

「まぁた随分と買って来たなお前。
コレで暫くは喰う物には困らないけど」

「何も貴女の為に買って来たんじゃありません。
アレは幹也の分です。
貴女には米一粒だって上げませんからねっ」
食べながらの女同士の攻防。

しかし……美味しいなぁ。
それだけに又腹が立つ。
コレでまだ料理が下手だったらそこを突っ込んでやるのに。
非の打ち所が無い位。
幹也が言ってたけど、料理屋を開ける位だって。
認めるわ、ソレ。

「幹也の分なら俺の分でもあるだろ?
俺もここに住んでるんだし、俺が料理したって問題無いだろ?」
男みたいにご飯をかっ込む式。
ねぇ、式。
表面上はオンナノコなんだから、そう言うの止めない?
お淑やかになんて難しい注文付けないから。

「式。そうやって食べるの、行儀悪いわよ。
も少し上品に食べなさいよ」

「うっさいよお前。
今から小姑気取りか?」

ぷっち〜〜〜〜ん。
キレタ
完全に今の一言でキレタ。

「誰が小姑ですかーーーー!!」

「お前」
さらりと言うな、この野郎。

「大体俺がどうやって食べようがお前には関係無いだろ?」

「大有りですっ」

ばしんっ、とテーブルを叩きそうになるのを必死に抑える。

「いい?
一応貴女もオンナなんでしょ?
だったらもう少し
……慎ましやかとかはもう諦めましたから。
荒っぽいのを抑えないと」

しかし式はそんな私の抗議をハナで笑う。

「ハン?
女らしく?
冗談じゃない。
俺は俺の好きな様にやるだけさ」

それに
と言ってから私を見る。

「女らしくってのはお前に対して言う言葉じゃないのか?」
とか言ってくれる。
言うじゃないのよ式。
この私の何処が女らしくないって言うのかしら?
この礼園でも優秀な模範生であるこの私の何処がよ?

「幾ら俺がガサツだろうと。
黙っていたら果たしてどっちに寄って来るかな?
俺とお前、なぁ鮮花?」
ニヤリと笑う。

何が言いたいの一体。
ソレだったら私でしょ?
式には寄らないわよ。

「表面上は俺もオンナなんだろ?」
ホレホレ、と自分を指す式。

……あぁた、死ぬ覚悟は良い?

「俺もオンナだからよ。
い・ち・お・う
あるんだよ、これはさ」
とこれ見よがしに持ち上げる。

うっさいわー!
私にだってあるわよ!

「困ったなぁ鮮花。
男らしい俺の方が大きいってのはさ。
少し分けてやろうか?」

「大きければ良いってもんじゃありませんっ
そんなものは唯の飾りですっ
男の人にはソレが分からないんですっ!!」
とか私が言ってる間もこいつはずっとチチを指してる。


うがーーーーーーーーーーー!!!!!!
揺らすな
持ち上げるな
ふにふに揉むなぁ!!

「ま。そう言う訳で。
女らしくない鮮花にとやかく言われる筋は無い、と」
ずずー、とお茶を飲みながらそんな事を言ってくれる式。
口惜しい。
とっても口惜しい。
口惜しいけれど、言い返せない。

なんでああも男みたいな式が大きくて
こんなに淑やかで慎み深い私がちっちゃいのよ?
不公平よ。
絶対に不公平だわ。

「鮮花。
チチで女の評価は決まらないさ。
特に幹也はそんな事気にし無さそうだし」
ポンポンと肩を叩く。
慰められちゃった。
式に。
恋敵に。

コレってもう私は敵として認識されて無いって事?
完全独走、ぶっちぎり。
私の付ける隙なんて髪の毛一本もありません?

「あ、あと鮮花な」
呆けてる私に式が声を掛ける。

「幹也はもう少し薄味の方が好みだぜ。覚えときな」

「アラ?これからどっか行くの?」
私の口から当然の質問。
でもこいつの性癖を知ってれば愚問。

「コレから夜の散歩さ。
お前だって知らない訳、無いだろ?」

革ジャンを着込み
ドアを開ける。

「じゃあな。鮮花。ごっそさん」
軽やかな足取りで漆黒の闇にその身を溶かして行った。

そんな式を私は呆然として眺めていた。

何だか
台風みたいな。
嵐かな。
突然来て、引っ掻き回してそのまま消える。


何だか疲れちゃった。
ぽふん、とベッドに体を投げ出す。
はぁぁ〜
眠たくなっちゃった。

幹也は帰って来ないとか言ってたし。
私もこのまま寝ちゃおうかな。

うん。
寝てしまおう。

ではでは。
後片付けをして


お休みなさ〜い。





























……うん?
何か、重い。

ああ、式、帰って来たのかな。
でも私の上で寝る事無いじゃないの。


もそりと上半身だけ起こす。

乗っかってる人影を凝視する。


あれ?
式、じゃない?


と言う事は?

この部屋の住人は式と幹也のみ。



式ではないと言う事は。

「みき、や?」
返事は無い。

かなり熟睡してる。
試しにほっぺをツンツンと突っつく。

無反応。

このままでもいいか、とか思ったけど。
流石にコレじゃ風邪引いちゃうから。
悪いとは思うけど、起こすわよ、幹也。

「幹也、起きて。幹也」
ゆさゆさと揺すって見る。
幹也もう〜〜ん、とか言いながら意識が覚醒しているみたい。

「起きた?幹也」

「あーーーーー……
鮮花、か。おはよう」

寝ぼけ眼の幹也。
コレは貴重なワンショット。
じゃ、無くって。

「幹也。そんな場所で寝てたら風邪引きますよ。
ほら、早く布団に入って下さい」

コレって幾分かの賭けだったんだけど。
幹也は何の疑いも無く私がいる布団に入って来て。
あまつさえ、余程眠たかったのか
私の方に倒れ込む様にして
と言うか。
倒れ込んで来た。


ちょ、ちょっと幹也。
そんなの
待ってよ。

「お休み、鮮花」

そのまま寝てしまった。







私の上には寝てる幹也。
……あのーーーーーー

あのね、幹也。
私、妹だけどオンナノコよ?
何だってそうも警戒心も無く寝られるの?

そんな私の心の中の葛藤など無関心に
幹也は静かに寝息を立てて。
静かな部屋に幹也の寝息のみ聞こえる。


よほど疲れていたのかしら?
それともホントに警戒してないの?
どっちにしろ又起こすのは得策じゃないわよね。
よいしょ、っと。
ゆっくりと幹也を起こさない様に
幹也の下から体を引き抜く。

はふぅ
ひとまず一息付いたわ。

それじゃ私も寝ようかな。
勿論幹也の横で。
このまま私も横で寝てて、朝起きたら幹也はどんな顔するかしら?

それこそ
余りの衝撃で声も出ないかしら?
顔面蒼白で、小刻みに震えちゃったり。

あ。
何か面白そう。

うん
そうと決まれば後は行動のみ。
ぼふ、と幹也の横に。
お休み、幹也。
よいユメを。









































そして起きてから爽快な悪夢を。






















FIN
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後書き
月詠:久方振りで御座いました。
鮮花:久方振り過ぎるわっ。
式:んで?
鮮花:何よ?
式:それでこのSSは何だって言ってるんだ。
鮮花:コレは「鮮花ちゃん新妻ウキウキSS」に決まってるじゃない。
式:誰が新妻だって?
鮮花:私。
式:誰の?
鮮花:あんた、本物のバカ?
式:変態にバカとは言われたくないな。
鮮花:何よ?
式:何だよ?
月詠:おまへら止めんか。
鮮花:今回のコレは誰が見たって私がメインじゃないのよ。
式:ソレは否定しない。
鮮花:なら良いじゃない。
式:だがな、その新妻ってのはヤメロ。
鮮花:どして?
式:お前を貰ってくれる奴なんて幹也以外にはいないさ。
鮮花:勿論。幹也と結婚するんだから。
式:フッ(あからさまな嘲笑)
鮮花:何よー!今のハナで笑ったのは。
式:別に。
鮮花:むっかーーーーーー!!!!!
式:只俺の方が、な?(ゆさゆさ)
鮮花:うきーーーーーーーーーーーー!!!!!
式:まぁ、コレは只の飾りなんだろ?(ゆさゆさ)
鮮花:そ、そうですっ。そんな脂肪の塊!!
式:あぁ、肩が凝るなぁ(ゆさゆさ)
鮮花:イライライラ!!!
式:剣とか振る時邪魔なんだよなこの「脂肪の塊」(ゆさゆさ)
鮮花:あんた、喧嘩売ってるでしょっ!!
式:べーつーにー
鮮花:そこに直れ!成敗してあげるわ!!
月詠:どぅどぅ。
式:そんなにムキになるなよ。たかが脂肪の塊なんだろ?
月詠:お前もそこで煽るなよ?楽しいけどさ。
鮮花:あんたら皆敵だ!!
式:俺は敵とは思ってないがな。
鮮花:戦力外通知っ!!
月詠:と言うか完全勝利宣言か?
式:ああ、鮮花。今度の週末空けとけよ?
鮮花:何でよ?
式:式場巡り、幹也と行きたいんだが、あの年増が簡単に休ませるとは思えなくてな。
鮮花:真っ平御免よ。何であんたと行くのよ。
式:お前ももしかしたらあるかも知れんだろ?
月詠:式が手放せばね。
式:ソレは無い。
鮮花:なら無駄じゃない。
式:をっと、誘導尋問か。
鮮花:もういや〜〜〜〜〜(えぐえぐ)
月詠:あ〜あ、泣かした後でみきやんに叱られるぞ?
式:(おろおろ)ああと、そのごめんな。ホラ泣き止めって。
鮮花:(えぐえぐ)じゃ、その巨チチ、揉ませて?
式:?ェ?
鮮花:その脂肪の塊を思う存分揉みし抱かせろっていってんのよ!!
式:え、いや、あの、ちょっと。落ち着いて……うわぁぁ!!
月詠:あーーー。二人がどっかいってしまったので。ここで締めます。
式:いーーーーーーーーやーーーーーーーーーーー!!!
月詠:それでは皆さんここまで読んで下さって真に有難う御座いました。
鮮花:このチチに幹也は誑かされてるのよっ!!
月詠:又次回のここでお会いしましょう。
式:このまま締めるなーーーー。






























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後書きの後書き(舞台裏)
ハイそう言う事で。
コレマタ久し振りのらっきょSSです。
ホントに久し振りです。


久し振りのSSが鮮花新妻ラブラブSSです(一部誤解有)
鮮花なら喜んでしまいそうなシチュですが。
式がなー。
少しインパクト弱いかな?
それと料理の時の鮮花が少し。

かなりのブランクが空きましたから。
徐々に勘を戻していかないと。
う〜〜〜〜ん。

又暫くらっきょSS書くつもりなので。
その時も是非お読み下さい。

それではここまでお付き合い下さいまして真に有難う御座いました。
又次回先でお会いしましょう。



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