こちらはかすがさんの所の「秋隆祭」に投稿したものです。

「これが私の生きる道」


床板がギシギシと厭な音を立てて軋む。

まだこの長い廊下は続いている。

一体何時まで、いやどこまで行くのだろう。

・・・・と言うか。



やっぱりこうして見ると、大きなあ。この家は。





目の前を歩く秋隆さんは何も話さずにひたすらこの屋敷を進んでいく。

僕はと言えば屋敷の大きさ、古めかしさなどちょっとした史跡めぐりの
気分でその後を着いて行ってる。


途中で、ここが稽古場です、とか、応接間です、とか色々見せても貰ったけど。
只、僕としては何を見せられても驚くしかなかった。


だって、こんな時代劇なセットの家に未だに人が住んでいて
言うなれば専属の案内人付きで歩いている訳だし。


凄い所に住んでいたんだね。



君がホンのちょっとお姫様に見えたよ。

いや、本当にお姫様だったのかも。

ここまで来る途中に式の幼少時代の思い出の品なんてものもあって
秋隆さんはそれはそれは愛しそうに愛でながら
その思い出を熱っぽく語っていた。


些かその熱っぽさに引いてしまったりもしたが
それだけこの人が式の事を大事に思っていたんだとも感じ取れたりもした。




さて
何で僕が秋隆さんと一緒に両儀家にいるかと言うと。

それは4日前の午後の日。
珍しくその日は何もなく仕事が終わり、家に帰ってきた時。



「お帰りなさいませ」


家のドアを開けた瞬間。


玄関にこの人が正座で座っていた。

そのあまりにもな光景に声の出ない僕。

そこにいたのが何の不思議でもない風を醸し出している秋隆さん。

暫く膠着した時間が続いた。


「この様な場所での立ち話もなんですから、どうぞ中へ」
何とか石化から回復した僕が彼を促す。

秋隆さんもそれに従い、中へ入る。



一体この人はどうやって中に入ったのだろう。
今確かに鍵はかかっていた。
ならばこの人はここの鍵を持っていてそれで入ったのか。

いや、それにしたって変だ。

入ったなら何故又鍵をかける。
更に何で、居間で待ってないで玄関で待ち伏せていたんだ。



ワカラナイ。

イヤ、ワカリタクモナイガ。

「はい、それが賢明でしょうなあ」
突然の声に体が反射的にびくりとなる。

「あ、秋隆さん。あ、あのですね・・」
「いやいや。皆まで言わんでも私には判ります。
それに世の中、知らぬ方が面白う事もありましょうて」

無言の拒否。

威圧とも言おうか。

それ以上の詮索は死ぬぞ。
言葉の端々に殺気が読み取れる。


「あの、一言だけ言わせて下さい」
「なんなりと」

とても丁寧に頭を下げる。

「お願いですから勝手に人の心を読まないで下さい」
「以後気を付けましょう」

にこやかに微笑んで答えていたが
目が笑っていないんだよな、この人。

もう考えるのは止めた方がよさそうだ。
やぶ蛇になりそうな予感がビシバシとする。



そして
二人でテーブルを囲んで話し出したのだが。

要するに

今後僕達二人が将来一緒になったとして。
二人で式の家に行ったとしても。

その時になって家の間取りも分からないんじゃ話にもならない。

是非一度来て見て下さい。
その時には私がご案内しましょう。

と言う話だった。

確かに成る程な、と思う。
一度は行かないといけない場所だし。
その時になって困っては洒落にもならない。

けど。
何だってこの人はこれをこんな不意打ち見たいな格好で言いに来るんだ。
別にそれは今度僕が式に頼んだって。

「黒桐様。これは、式お嬢様の前では言えない、男同士の話もあるのです」
ずずい。

秋隆さんが顔を思いっ切り寄せてくる。

勘弁して下さい。

そんなドアップ耐えられません。

「ああ、判りましたから。
じゃ、行きますから」

何とかその場を凌ごうと了承する。

それこそ我が意を得たり。
みたいな笑顔をして秋隆さんは離れる。

ああ、心臓に悪い。

この人も、橙子さんと同種の人物なんじゃないのか。

「では。4日後。屋敷の方にお出で下さい。
で・す・が。
くれぐれもお嬢様には御内密に」
判りましたからそんなにドアップで迫らないで下さい。

僕は手足をばたつかせて秋隆さんから離れる。

「では、楽しみに待っておりますので。
ごきげんよう」

にこりと笑って
帽子を被りながら秋隆さんはマントを翻して窓から去って行く。

?????????

帽子?

マント?

窓?

ちょっと待て。
ここを何階だと。

その現実に気が付いて窓に行った時にはもうその姿は見えなかった。

「一体何者なんだ、あの人は」

思いっ切り疲れてしまった僕はそのまま壁に向かってへたり込んでしまった。






そんな訳で今僕は式の家をご案内されている訳で。

やがて、僕らは一つの部屋の前まで来た。

もうお分かりだと思うが
今はもう殆ど使われなくなった「両儀式の部屋」だ。


「秋隆さん。
もしかとは思いますが。
この中に入るんじゃないでしょうね」

「ええ。
当然です。
これからお嬢様の夫となる方ですから。
お嬢様の全てをお知りになって頂かないと」

何を今更、てな感じで言い返されてしまった。

「まさか、この前の男同士の話しって、これですか」

「はい。女性の部屋に入る。
しかもアポ無し。こんなに萌えるシチュエーションはそう滅多にないでしょう。
これを男同士の話と言わずして何を言うのですか」

力説されてしまった。
萌えとか言ってるし。
ググッと力こぶしまで作ってこの人は僕に熱弁を振るう。

この長かった前フリは全てこの為の伏線なのか。

「いや、そんな大層なものでもないが」

「?何か言いましたか、秋隆さん」
「今のは私ではないです。どこかの腐れ外道でしょう」

「さて。
それでは如何致しましょうか。
幸いにして私はここの部屋の鍵もお持ちしております。

黒桐様さえ心の準備が宜しければ、すぐにでもお開け致しましょう」

式の部屋を前にして、僕は良心と葛藤していた。

当人がいない部屋を勝手に入るなんてそんな事は出来やしない。
しかも女性の部屋だ。

そんな男として恥ずべき行為は断固として出来ない。


・・・んだけど。

心惹かれるのもまた確かなんだよな。
ここには僕の知らない過去の式がたくさん詰まっている。

式はあれから僕には良く話してくれるがそれでも
自分の好きになった娘の事をもっと知りたいってのは誰にでもある
欲望なんじゃないのかな。


この扉一枚を隔てて僕の求めるものはそこにある。


「何も心配は御座いません。只ホンの少し、扉が開いてしまって
中が見えてしまっただけです。
チラリと。
目がそこに行ってしまった事を誰が咎めましょうか」
























「俺が咎めちゃ、いけないのか?秋隆」











この時、僕は初めて自分の死と言うものを体で実感した。


とてもじゃないが振り向く事なんて出来ない。
そんな事したら視線だけで殺されてしまう。

ああ
どうしよう。

どうやってこの場を。


「お嬢様。お帰りなさいまし」

流石だ。
この状態でもそんな言葉が出てくるなんて。

「ああ、只今、だ。
秋隆、早速で悪いがすぐに出て行け。
今すぐにだ。

あと少しもう少しホンの少しなんて言い訳しないでさっさと出て行け。
今までのよしみで殺しはしないでやる。
さあ、判ったらさっさと出て行け」

物凄く怒ってるな、式。

これはやばいんじゃないのか。

「では。
この場はいわれたとおり引きましょう。
ですか、お嬢様。
激情に任せて未来の旦那様に八つ当たりする事はお止め下さいます様」

その言葉に式の顔色が真っ赤になる。

「うるさい!いいからどっかいっちまえ!」

懐に入れていたナイフを秋隆さん目掛け投げつける。


とーん。

ナイフだけ扉に突き刺さる。

その場にもう秋隆さんの姿はなかった。

「くっ。俺の目を持っても追い付けないとは」

口惜しそうに式がごちる。

「はっはっは。お嬢様、この秋隆をそう甘く見てもらっては困りますな。
式お嬢様を幼少の時から影に日向に見てきましたこの秋隆。
僭越ですがまだ式お嬢様には負けぬと自負しておりますぞ」

どこからかそんな声がする。

本当に一体何モンだ。
この人は。

「では、お別れです。
又再び相見える事もあるでしょう。
その時まで、お二人ともせめて結納まではお済下さってくれていないと
私としましてもここまでやった甲斐が無いと言うものです」



もう式はやたらめったらナイフを振り回して暴れてる。

顔が赤いのも口惜しさと恥ずかしさが入り混じってるからなんだろうな。

「おい。コクトー」
ぎろり

血走った目で僕を呼ぶ少女。

「な、なに?」

「中、見たいのか?見たいのか?見たいのか!
本当にみたいのか?
世の中の男ってのは皆彼女の部屋に無断侵入しようとするのか?
そうなのか?
中に入って何をしようってんだ?
何が目的なんだ?

どうしてだ?
なんでだ?

そんなに見たいのか?
いないから見たいのか?
何が見たいんだ?

ああ。
まだ言いたい事は沢山あるが、くそっ。

とにかく答えろ、コクトー」

もう支離滅裂な式が自棄になったとしか言えない。

僕もその怒涛の様な式の質問に少しばかりやられている。


「何故だ、どうしてだ。
問いたい。
問いただしたい。
問い詰めたい。
小一時間問い詰めたい」

ああ、もう駄目かも。


もう止まらない式を何とか僕はなだめて
落ち着かせたのは夜も随分更けてからだった。

そのまま式に睨まれながら僕らは僕のアパートまでとぼとぼと帰る事となった。
とにかく
式は自分の部屋に入れる事を極端に嫌って僕の部屋に帰る事になったんだけど。

「いつかは見せてよね」
「いつか、な。本当に、いつかだぞ」

なんてそっぽ向きながら、ぼそぼそっと呟いたり。




ふう。
色々あったけど。
まあ、いい日だった、かな?
























終わり?
























「ふふふふふ
ふっふっふっふっふっふ。
これで、お嬢様好感度が又一つ増えましたな、黒桐様。
さあ、もっと増やして早くお二人のラブラブタイムを
満喫して下さいませ。
それがこの不肖秋隆、せめてものお手伝いで御座います」






いや、勘弁しろって。





















どっと笑う。
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えー。
この度は「秋隆祭」なるお祭を開催されましてそのお祭に参加させて頂きます。
ヘタレSS書きの「月詠」と申します。



さて。
なんて言い訳しよう。

とりあえず、趣旨には合っている筈なんですが。

とてもじゃないが、皆様のものとは比べ物はなりませんな。はっはっは。
御免なさい。

物投げないで下さい。

えー。(汗)

こんなものでも良かったら、使って下さい。

では、これからも頑張って下さい。
月詠でした。


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