「偶にはこんな日も」




もうそろそろ松も取れると言う頃。
私は初詣に行く事にした。


普段なら正月の三が日内に行くのだけど。
例年のあの人の多さに辟易して、日にちをずらす事にした。



けど。
久し振りだからか、それとも、元々下手なのか。
着物って動きづらい。


こう動きが制限されて思う様に動けない。


いつもはスカートやら、ズボンだからかも知れない。
足の捌きが上手くいかないのだ。


スタスタと大股で歩いていたから
小さい動きがとてもツライ。


慣れない足捌きでゆっくりと歩いて行く。

流石にまだ世間は正月休みらしく。
通りには人の姿はまばらで閑散としている。



そんな町の中で

一際目立つ人物が目に飛び込んで来る。

赤い皮ジャンに青い着流し。
気だるげに町を彷徨う一人の人物。



その人物は私の姿を見てもさして驚かず
同じ足取りでこっちに向かって来る。


私も平静を装いながら歩いて行く。



そしてお互い後3歩と言う所で立ち止まる。


「珍しいわね。貴女がこんな時間に出歩いているなんて」

相手が何か言う前に
先制攻撃を仕掛ける。

けど

「一見した時、誰だか分からなかったぜ。
ふぅん、馬子にも衣装とはよく言ったもんだ」

ニヤニヤ笑いながら皮肉る。

「ま、馬子にもってどう言う意味よ」

そんな言葉もどこ吹く風。

「鮮花も晴れ着着るならもう少しシャンとしな。
足の捌きなんざ、なっちゃいない」


何て返されたら何も言えないじゃない。

「貴女はここで何をしてるんです?」

「別に用なんて無いさ。
只ブラブラしてるだけ」


そう。
一言呟くと。
「では、ごきげんよう。
これから初詣に行きますので」

そう言って歩き出した途端。

ビシッ
出した足が着物に引っ掛ってしまった。


何て、無様。
何て、醜態。


「ホラ見ろ。言った通りじゃないか、鮮花。
少しは俺の言う事聞いた方がいいぜ」

くっくっくっくと、おかしげに笑う。

むかつくけど。
正論なのでぐぅの音も出ない。



式は一頻り笑った後。

「少し時間、あるか?」

「ええ。余裕を持って出て来ましたから。
大丈夫です」


式はそうか、何て呟いて

「じゃ、家に寄ってけ。
それじゃ、身動き取れなくなるぜ」

いきなりそんな事、言ってくる。



「なななななな・・・・・」
余りの事で絶句してしまう。



でも。
と、考える。

ここで意固地になって断っても
後で崩れちゃったら、意味無いし。



「ああ。
別に嫌ならいいぜ。
けどな、遅かれ早かれ
そのままじゃ目的地に着く前に
泣きを見る羽目になるだろうけどな」


確かに私じゃこの晴れ着を直せないし。
途中で誰か呼ぶってのも、無理な事だ。



ここは、式の好意に甘えさせてもらいましょう。

「じゃ、ご好意に甘えます」

珍しく素直じゃないか。
何てからかって式が又歩き出す。

私もその後にくっついていく。



程無くして式のアパートに着いたけど。

やっぱり


式の言う通り。
ここに着くギリギリと言う所で。
私の晴れ着は崩れてしまい、それを何とか押えながら
式の部屋に転がり込む。

本当、人通りが少なくてよかったわ。

こんな恥ずかしい所、見せられないわ。


上がってからすぐに。
「オラ、脱ぎな。
チャッチャとやってやっから」


グイと私の帯に手を掛ける。

「や。ちょ、ちょっと待ってよ」

「黙れ、問答無用」


それ、と。
力任せに帯を引っ張る。



そうすると。

「あ〜れ〜、お代官様。お戯れを」

「ぬははははは。良いではないか、良いではないか。
そちは初い奴よのう」

と言う、お馴染みのコントになる訳で。



私は独楽よろしく
クルクルと回転し。
式も面白がって晴れ着を引っぺがす。

で。
綺麗に身ぐるみ剥がされた私はくず折れて。

「・・・・・・汚されちゃった・・・
私、もうお嫁に行けない」
ヨヨヨヨヨと泣き出す。

「何だ鮮花。お前嫁に行く気あったのか?
けど、無駄だぜ。お前みたいな奴、誰が貰ってくれるってんだ?」

「大きなお世話よ!それにそれは、貴女だって同じでしょ」
うがーと噛み付く。


・・・・・・・・・・・・・・・
マズ。

マジになってしまったわ。
反省。



暫くは着付けの為、無言になっていた。
その無言が辛くなったので。

「けど。意外だったわ。
貴女があんなジョーク知ってるなんて」

と、さっきの事を振ってみる。



「ん?ああ、前に橙子にな。
着物を脱がす時はああ言うって聞いてな。
けど。俺以外に着物着てる奴なんてそうそういないしな」
事も無げに言い放つ。

・・・・・・橙子師。
式に何て知識を・・・・・




「ホレ、終わり」
ポンと帯を叩く。


アレ?もう終わり?



すんごく早いじゃない。
町の着付けなんかぶっちぎりで。


「何そんなに驚いてんだよ。
これ位簡単なモンじゃないか」


普段から着物着てる貴女はそうでしょうが。
洋服な私には大変な事なんだから。



「有難うね。助かったわ」

「まだ時間、あるか?」


私の腕時計を覗き込みながら
又、さっきの質問をする。

「ええ、今日はこれだけだから、大丈夫だけど?」



え?
他まだするの?

「徹底的にやるならその髪も直してやりたいんだが。
そこまでし出したら時間何ざ幾ら有ったって足りやしないからな」


言われて髪に手をやる。




一応、晴れ着に合う様にアップにはしてるけど。
式から見ると甘いのかな。


「いいわよ、これだけで。
これだって十分助かったし」


「さっきよりかなり動きやすいだろ?
お前は静々とした動きは似合わないしな」



うん。
確かにさっきよりも断然動きやすい。


「・・・今度、習いに来ようかしら」
そんな事を一人呟く。

「何か言ったか?鮮花?」


別に、と慌てて誤魔化す。




「って、式。何で貴女も着替えてるの」

「何でって。お前一人だと、又着崩れした時直せないだろ。
心配だから付いて行ってやる」




そう。
式はいつもの着流しから晴れ着に着替え始めていた。




「いいわよ。そんな事。
貴女にだって用事、あるんでしょう?」

何て言ってる間に
あれよあれよと式の着替えは進んでしまい。





「支度完了。鮮花、行くぜ」

ホント、アッと言う間ってのは
こう言うのを言うんだろうな、と痛感してしまう。


それ位式の着替えは早かった。



しかし、流石は良家のお嬢。
いいお召し物持ってるわ。



いつもの着流しだって品がいいってのに。
晴れ着を着ると、まるで日本人形みたい。




「あ、ちょっと待って」

草履を履こうとしてる式を呼び止める。




「何だよ、鮮花。置いてくぞ」

やっぱり。




「いいからこっち来なさい。
さっきのお返し、してあげるから」



「いらないよ、そんなもの。
さっきのお前が余りにおかしかったから
手直ししただけで」




「四の五の言わない。
来なさいったら来なさい」


今度は逆に私が式を引っ張り込む。
渋々と言った風で式もおとなしく来る。




「俺のどこがおかしいってんだよ?」

「少し黙って」




そう言いながらポシェットをゴソゴソ漁る。

式は不思議そうな顔で私の方を見てる。

あ。あった、あった。




漸く目当ての物を見付けた私は。
「動かないでよ、式」




ずずぃと式に近付く。


「何だよ、一体」

「静かにして」



手に持ったソレを式の顔に向ける。


式も最初は嫌な素振りを見せたが。
やがて私の言う通りに静かになって。





「・・・自分でしといて何だけど。癪ね」

コトをし終えた式の顔を見て惚れ惚れしてしまう。



何だって、こいつはこうも綺麗になるのかな。
絶対不公平よ。


「・・・鮮花、おかしくないのか、俺?
よく分からないけど」

あんたがこれでおかしかったら世の中の女性全員
首括って死ぬわ。




「うすーく紅を引いただけなのに
何でこんなに映えるのよ、貴女わ」

「おかしいならコレ取るぞ」




そんな勿体無い事するな。
「おかしい訳無いでしょ。
あまりに綺麗だから嫉妬したの」



式はうぐぅと小さく唸って
鏡の中の自分とにらめっこしてる。





「式?もう行くけど、大丈夫?」



今だポーと、鏡を見てる式に声をかける。

もしかして、式、ナル?

あ、ああ。悪いなんて
気の無い返事をしながら漸く立ち上がる。



「そんなに珍しいの?自分の顔」



「自分の顔何ざ見飽きてる。
こう・・・化粧ってのか。
してるのは、その、滅多に見ないから」


俯きながらごにょごにょと。
ほんのり赤くなってるなんて。
うう、そう言う所可愛いわ。



それに勿体無い。

式がその気になってお洒落したら。



それこそハーレム位
楽に出来るってのに。

言い寄る男は引きも切らず、いつも数人の・・・・




「鮮花、お前今物凄い事考えていなかったか?」

やば。
顔に出てたかしら。

ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。




「いいえ、気のせいです」
しれっと返す。







「さ。行きましょうか」

式の手を引きながら
外に飛び出す。






いつもは恋敵だけど。

今日くらいは
女友達でもいいよね、私達。







同じ人に恋した者同士。
当然負けられないけど。

こう言う関係もたまにはいいわよね。







ねぇ式。


明日からは
又喧嘩するかも知れないけど。


今後とも、幹也共々よろしくね。
























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後書き
鮮花:皆様、久し振りです。黒桐鮮花です。
式:両儀式だ。
月詠:どもです。最近は妹専用SS作家になりつつある月詠です。
式:で?今回のコレは何だ?
鮮花:そうよ、何で私が式とこんなに仲良しに。
月詠:いいやん、たまには。いがみ合ってても仕方ないだろ。
鮮花:いいえ、勝たなくちゃいけない敵です。
式:敵、ねえ。まあ、俺はどうでもいいがな。
月詠:だろな。いずれ、妹と呼ぶ事になろう人物だしな。
鮮花:な、なななな(絶句)
式:ぼん(真っ赤)
藤乃:所で私の出番はどうなったのです?
鮮花:いきなり来たわね、藤乃。
藤乃:ええ。元々は私も出てたのに、いつの間にか消えてるし。
式:ああ、確かに。
月詠:ゴメン、その予定だったんだけど。余り話しに絡めなくて。
藤乃:それで、ばっさり。ですか。
月詠:ごめんてばさ。
藤乃:凶れ(にっこり)
月詠:のおおおおおおおおおおおおおお
二人:をを。スコ○ピオン・デスロック!!
藤乃:凶れ(にっこり)
月詠:うぎゃああああああああああああ
二人:ををををををを。飛○十字蔓。
月詠:ギブ!!ギブ!!
藤乃:分かって頂けました?
式:やるな、こいつ。
鮮花:さて。じゃ、この作家は放っておいて。
式:ここまで読んでくれて有難うな。
鮮花:それでは又次回のSSでお会いしましょう。
三人:又お会いしましょうね。

























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後書きの後書き(舞台裏)
はい、どーもです。
SS作家の月詠です。

二大妹キャラの双璧と言われ始めている(らしい)月詠です。

自覚、あるんですけどね。
確かにこの二人がメインですから。
私のSSは。

それと、ふじのん。

ああゴメンヨ、ふじのん。
今回がせめて三人までなら良かったのにね。

コレも断腸の思いなんよ。


さて、今回のSSですが。
何やら式がとても面倒見のいいお姉さんになってます。

鮮花の事を何だかんだ言っても気に入ってるみたいですから。

ああ、こんな風にこの人たちもほのぼのしていてほしいです。


では。
又次回、お目にかかりましょう。

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