こちらはhitoroさんの所で開催されている「空コス祭」に投稿したものです。

そこは、何時もと同じ、僕の勤めている所の筈だった。

その場所の名前は「伽藍の堂」

その主は青崎橙子。

そして僕の名前は

黒桐幹也。

よし、大丈夫だ、頭はしっかりしてる。

もう一度、目の前をしっかりと見る。


・・・・・・

やっぱり変わらない。

と言う事は。


あの人、又何て事してくれたんだ?


僕の目の前には、


そこには・・・・・・



「いらっしゃいませ〜」

「ようこそ、クラブ「伽藍の堂へ」」




「橙子さんのマダムな一日」





暗がりから、女性の声がする。

中は喧しい程の大音量のBGMと
目まぐるしく変わる色取り取りのライト。
退廃的な空気の漂う一室。

男女の嬌声が響き渡るここは。

多分、クラブと言うものなのだろう。

生憎と言うか、僕はその様な場所には
行った事は無いので、実際はこうなのかは判らないけど。

見聞きした情報だと、こんな場所らしい。

「いらっしゃいませ。
お一人様ですか?」

ここに僕以外の男性が来るのか?
そう言えば、男性の声がするけど、
誰かいるのか?

そんな疑問もお構いなしに、
その女性は僕を中に招き入れる。

中で、ソファーに座ると、
すぐに女性が横に座り

「何にします?
お酒?それとも?」

とか言いながら、胸元に
ライターを挟み込み
艶やかな笑みを浮かべる。


いい加減にしろぃ。

ばこ

その女性を思いっ切り
何の躊躇いも無くグーで殴る。

「な、殴ったわね?
女の子を、しかもグーで!!」

「ええぃ、女の子とか言う歳か。
いい加減にして下さい
僕だって怒る時は怒りますよ」

女性は渋々立ち上がる。

「で?橙子さんは?」

「私も橙子だけど?」

「もう一回僕に女性を殴らせたいのですか?」

ぐっ、と拳を握る。

「もぅ。冗談の欠片も判らない子ネェ。
呼びますよ」

ふぅ、とワザとらしく大きく溜息をついて。

「ママァー。お客様がお呼びよぉー」


ああ、成る程。

当人はママですか。


ホント
こう言う事には手間ってモンを掛けるよなあ。
この人は。

ママと呼ばれた、その人は
勿体ぶって
店の奥から、ゆっくりと姿を現す。

そのお姿は

確かに、この店にマッチして。
黒のカクテルドレスで。

ボディラインをクッキリと強調させ
大人の女性の色気を醸し出している。

彼女が動く度
名前の通り
橙色のイヤリングが音もなく動く。

「ようこそ、クラブ伽藍の堂へ。
何か御気に召さなかったですか?
黒桐様」

ニヤリとルージュの引かれた口元が吊り上る。

「ええ、何から何まで御気に召しません。
何だって、いきなり
こんな風になってるんですか?」


「ふむ、これが気に入らないとなると。
黒桐の好みは何だろうな。
君は存外世間には揉まれていないからな。
これでも刺激が強いと思っていたが」

腕を組んで、まったく見当違いの考えを口にする。

「誰が僕の好みの話をしてるんです。
僕が聞きたいのは
何だって、いきなりここが
こんな安っぽいキャバレーになってるかです」

「安っぽいキャバレーとは又酷い言い方だな。
そんなに悪いか?
私のバニー姿は?」

そう。
この店(と言ってしまおう)
の女性は全員、所謂「ウサギさん」な格好をしていて。

あの、網タイツに黒の(何て言うのかは僕は知らないけど)
服を着ているあの、典型的なバニー姿だ。

多分これが本格的に開店したら
とんでもない位に繁盛するのではなかろうか。
と言う程、マッチしていた。

が、問題点も当然の如くあって。


「橙子さんのバニー姿はいいんです。
問題は」

「問題は?」

又、例の笑みを浮かべて僕に聞いてくる。
この確信犯が。

「お店の女性全員が「橙子さん」て事です。
何て無駄な事してるんですか。

右を見ても、左を見ても。
橙子さんだらけ。

メガネをかけている橙子さんもいれば
煙草を咥えている橙子さんもいる」

そうなんだ。

最初、ドアを開けた時から
橙子さんのバニーさんがお出迎えしてくれて。

店内でもずっと橙子さんずくし。

「何がいけない。
私では満足できないとでも言うのか?」

「そういう事で無くて」

むっとした顔で僕を睨む橙子さん。
そりゃ、確かにそのテの人には
この橙子さんバニーは正に夢でしょうが。

僕にとっても、まあ、目の保養ですが。
ット、そんな事ではなく。


「ああもう。
僕が言いたいのは
僕に払われるべき給料が
ここに注ぎ込まれている事に腹を立てているんです。
何でこうも、無意味な事にお金使うんです?」


「何も無意味ではなかろう?
君を驚かすには十分だった筈だ。
それだけでも、これは意味はあった。
それにこれは君の為を思っての事なんだぞ」

僕の為なら、こんな事にお金を使わずに
きちんと払って下さい。

「常日頃から、仏頂面している君の労を労う為に、
態々、私の工房からこの私の分身とも言えるべき
私達を連れて来たのだ。
少しでも君に日頃の疲れを癒して欲しいと思ってな」

「こんな所で、疲れは癒えません。
何で、僕が橙子さんに囲まれて癒されるんですか」

それに橙子さんは心底驚いた表情をする。

「何でだ、君は何で癒されない?
何時もとは逆の立場だぞ。

君が私に色々命令できるんだ。

普段では言えない事や、やれない事を、ここで言ってみて。
それを見て楽しむ。

そんな願望は君には無いのか?」

橙子さん。
例えその願望があったとしても、
ここにいる全員が橙子さんですよ。

敵の前でそんな弱味を見せるとでもお思いですか。
そんな事したら次の日から
そのネタで虐められるのが目に見えてます。

「と言うか、橙子さん。

もし僕がここで普段の鬱憤を晴らすかの如くに
あれこれ命令したとして。
果たしてその内の何割が成功すると思ってますか」

「ゼロ」
言い切りやがりましたよ、この人。


「私はマゾではないのでな。
そんな奇癖はない。
もし君が私に命令したとしても。
君の予想通り、私がその命令に従う事はないだろうさ」

じゃあ、どの道僕はここで酒の肴にしかならないじゃないですか。


「ほほう。黒桐。
少しは世の中が判るようになってきたじゃないか。
まあ、君が肴になるのは前提条件だが。

それでは流石につまらないからな。

他にも余興はあるさ」

いや、そんな事しなくていいから。

僕に自由を下さい。

と言うか、帰っていいですか?

「何を言っている、黒桐。
これから面白くなるんじゃないか。

まあ、座って待ってな」

そんな事言って、ママである橙子さんオリジナルは
モンローウォーク宜しく
腰をくねらせながら店の奥に消えて行った。

・・・・・・
何だって、こうも魔術師って者は
世間一般とかけ離れているんだ?

・・・・・・
愚問だ。
かけ離れているから、魔術師なんだな。


こんな風に割り切れてしまう位
僕はこっちに近くなったんだろうなあ。


出されたお酒と、おつまみを
ちびりちびりと頂きながら
(当然、橙子さんはご遠慮願った)

僕はそこで居心地悪い思いをしながら
只ひたすら待った。



やがて
奥の方ががやがやとうるさくなってきた。

そして
フッ、と店内の照明が消える。


「れでぃ〜すあんどじぇんとるめん。
ようこそ、伽藍の堂へ。

それでは、只今より、
伽藍の堂から選りすぐった美女達のショーをお楽しみ下さい」


ひたすら嬉しそうな橙子さんの声が聞こえる。
はぁ。
そうですか。

そんなものいいから、早く僕を返して下さいよ。

「本当にいいのかね?黒桐。
これからがお楽しみだというのに」

いいです、もうどうでも。

「詰まらん奴だな。
そんな事だから、何時もそんな顔になるんだ」

「大きなお世話です。
それに、何で僕の心の声が聞こえるんですか。
そんな事、態々放送で言わなくてもいいでしょう」

「そんなに怒るな、皺が増えるぞ」

「そっくりそのまま返します」

・・・・・・・・・・・

あ、黙った。



「・・・・では、どうぞ」


なんだか、少し動揺の入った声で
ショーが始まる。

真っ暗な中で
スパンと一つの壁にスポットが当たる。

その横でわいわい声が聞こえる。


「さあ、さっさと出ろよ」
「何で私が先なのよ。あんたが出なさいよ」
「何で、私もなんです?」

・・・・・・この声は。
もしかして、橙子さん?

「くっくっくっく。
流石に気付いたかい黒桐。
そうだよ、多分君の想像通りさ」

げし

と、袖から人が蹴り出される。

その数は三人。

3人とも、スポットに当てられて
否応なくその姿を強調される。

3人は暫く蹴られた衝撃で
蹲っていたが。

漸く立ち上がる。

そして、僕の姿を見て。

絹を引き裂く様な悲鳴。

特大な悲鳴が店内に響き渡る。


「〜〜〜〜〜っ!!
見るな、コクトー。
俺を見るな!!」


「きゃ〜〜〜〜〜!!
兄さん、見ないで下さい。
見ないで、見ないでぇ!」

「せ、先輩?
見ないで、下、さい・・・・」

三者三様な悲鳴が聞こえる。

橙子さん、これが素晴らしいショーですか。
これは、血の雨が降るとしか思えないのですが。


3人とも、橙子さんと同じく
「バニー」な格好をしてる。

うう、確かに素晴らしいけど。

式も結構こうして見ると凹凸のある体してたんだなぁ。

鮮花は・・・・御免。見なかった事にするから。
早く大きくなるんだよ。

意外だったのは藤乃ちゃん。
この娘、着やせする方だったんだね。
橙子さんに負けず劣らず。

いやはや
まさか、ここでそんなものがお目にかかれるとは。


・・・・・・・・・・

これじゃ僕はまるでセクハラ親父ではないですか。




「はっはっは、どうだ、黒桐。
素晴らしいだろ。
癒されるんだな、三人に」

待て、それは無理だろ。

もう3人とも、かなりキてるし。
この状態で爆発しないなんて無理だと思いますが。
又僕は病院で寝る羽目になるんでしょうか。

チラリと三人を見る。

3人とも、顔を真っ赤にしてもじもじしてる。
でも、無駄だと思うよ。

今、君達にスポットが当たってる以上
目立って目立って仕方ないし。

「さ、3人とも。
早い者勝ちだぞ。その中の一人のみが
黒桐の横に座れる。
さあ、頑張ってくれ」

こ〜の〜、性悪が。
いいじゃないか、3人とも来れば。
何だって、そんなに煽るんですか。

見てみなよ。
3人とも、一気に殺気立っちゃって。

勘弁して下さいよ。
何だって、僕が癒される筈なのに
こんなに気苦労しなくちゃいけないんですか。

やっぱ本気で怒らないといけないかな。
あの時もう一発位殴っとけばよかった。

あ、なんかむかむかしてきた。


「いいよ、3人とも、こっち来て、皆で楽しくやろうよ」

「「「黙ってろ(下さい)幹也」」」

鬼の様な形相をしてる三人に睨まれて
あえなく僕の意見は却下された。

そして、お馴染みになった
三人による周りを省みないバトルが始まって

僕は命からがら家に帰る事となった。


一体あの人は何がさせたかったんだろう。
「イヤイヤ、私は純粋に黒桐の労を労う為にだな」
嘘つけ。

あーあ。
これは、式や、鮮花や、藤乃ちゃんのバニー姿が見られただけでも
儲けものと考えないといけないかな。




そして次の日。



「いらっしゃいませ〜」

今度はナースの服を着ている橙子さんが出迎えた。



「ようこそ、イメージクラブ「伽藍の堂へ」」





悪夢はまだ続くらしい。


終わり。


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後書き
初めまして
月詠と言います。

今回は「空コス祭」と言う事で。
メインは橙子さんな筈です。

実は、私。
らっきょで橙子さんメインなSSはこれが初めてです。

何時も、鮮花か、ふじのんなので。
これは珍しい。

さて。
それでですね、橙子さんのバニーさんです。
どうなんでしょ、実際。
メガネありなら、自分的にはいいかなとも思いますが。
ないと、一寸あの口撃は痛いものがあるかと。

と、まあ、そう言う訳で。
お祭りはまだ始まったばかりですが。

これからも頑張って下さい。

月詠でした。

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