こちらは須啓さんの所で開催されている「魔術師の宴」に投稿したものです。

「泡沫の夢」


「兄さん。今日は何の日だか知ってますか?」

なんて、唐突に幹也に話を振る。

当然、振られた当人は面食らってる。


「?え?
えーと・・・何だろうな。
まだ給料日じゃないし。
誰かの、誕生日でもないしな・・・」
とか、何とか言いながら何やら指折り数えてる。

まあ、仕方ないか。

まだ日本では、そうそう馴染みは薄いし。

ハア、と一つ大きく息をつく。


「今日は、ハロウィンです。
余り日本では知られていませんが。
それで、それがどう言う日だかは、知ってますよね」

そこまで言われて漸く得心がいったらしく


「ああ、成る程ね。
あの仮装行列のパーティーの事か。
小さい子供達が家々を訪ねて
「お菓子をくれないと、いたずらするぞ」
って行って、お菓子を貰うって言うイベントだろ」

むう。
少し偏った情報と言うか、知識だけど。
まあ、許容範囲ですか。

「まあ、大筋はそうです。
そう言う訳で、兄さんにも、参加してもらいます」


「え。僕はいいよ。
ああ、だからか。
そんな格好をしているのは」



今頃気付いたんですか。

まったく鈍いんですから。

それじゃあ、どっかの朴念仁と一緒ですよ。


そんな事言ってますと。
今度のプレゼントは
エプロンに
でっかい筆文字プリントの奴でも差し上げましょうか?
文字は当然
「朴念仁」でいいですよね。


「それで、鮮花。
今日がハロウィンだってのは判ったけど。
これから街に出てお菓子を貰いに行くのかい?」


「冗談でしょ兄さん。
そんな恥ずかしい事しませんよ」
はん。
と、鼻で笑う。

幹也は頭上に?マークを飛ばしまくってる。

「え?
それじゃ、どうするんだい。
ここで、仮装披露会でもするのかい。
と言っても」

そう言って周りを見る。

「それも、冗談。
今日私がこんな格好をしているのは、訳があります」

「どんな?」

「今日はハロウィンです。
お祭りです。
子供の為の一大イベントです。
ですから、ここにいる大人から
ありとあらゆる物を分捕るんです。

例えば、
お金とか、お金とか、お金とか、お金とかです。

厭味な年増から普段の鬱憤を晴らすかの如くに
毟り取るんです。

そう。
私と幹也の結婚資金ぐらいは取らないと
ワリが合わないんですよ。

ですが、私だって本当はそんな事したくは無いんです。
曲りなりにも私の師匠ですから。
ああ見えても。

その師匠に対し、「さっさと金出せや」
なんて口が裂けても言えません。


それでも、兄さん。
仕方が無いんです。


その年増がしっかりと兄さんに
給料を払っていてくれていれば何も問題は無かったんです。

全ての原因はその人のお金に対するルーズさが原因なのですから」


一気に鮮花が捲くし立てる。

久し振りに鮮花の長口上を聞いた気がする。

それは別に問題は無いんだけど。
言っていることが酷いな。

仮にも僕の雇い主だし、君の師匠だろ。
そんな事をそうずけずけと言っていいのかい。


ああ、後が怖い。
絶対何か仕返しがあるって。


貴方の視線が痛いです。


「と、言う訳で。
橙子師。

「とりっくおあとぅりーと」

です。

「お菓子をくれないと、いたずらしますよ」

さささ。
ささっと、出して下さい」



クルリと。

私達の後ろに座っている橙子師に話しかける。

橙子師は椅子に腰掛け、足を組んで煙草を燻らせている。
その顔にはあの、特有の笑みが張り付いている。



「それで?
その漫才の一部始終を見ていた私は驚けばいいのか?
それとも怒り狂ってお前や、黒桐に当り散らせばいいのかい?」

「いいえ、橙子師。
そのどちらも間違っています。

私達を見ていたんですよね。
でしたら答えは判ると想います。

私達が要求しているのは只一つ。



多額の金銭。


それのみです」


・・・わかった。
と、小さく呟く橙子師。



「きゃ〜、鮮花ちゃん、どうしたの、その格好。
あら、幹也君。
一体どうしたのかしら。

え?今日はハロウィンですって?
あらあら、そうでしたね。
だから、鮮花ちゃん、そんな格好しているのねえ」

いや、もうとにかく。

止めて下さい。

橙子さん、メガネありバージョンの口調を
メガネ無しで話されると。

非常に怖いです。

恐怖です。

絶望的に明日という日が怖いです。



「と。
こんな感じでいいのか。
鮮花。
満足したか?」

「大却下。
で・す・か・ら。
私が欲しているのは金銭のみです。
そんな、作られた空々しい会話なんて望んでいないんです」


うううう。
鮮花も言うなあ。

鮮花、一体何がそこまでさせるんだ?


そんな私の意気込みを
橙子師はハン、と鼻で笑う。

「それなら、御望みの物をくれてやろう。
そら、両手を出す」

その言葉通りに私は両手を出す。

そこに。




「ハイ?」
素っ頓狂な声が私の喉から出る。

「何だ?何が不満だ。
お前の御望みの物を渡したんだ、満足したろ?」

「ふざけないで下さい。
誰が飴玉なんて要求しましたか」


「フン。
今までの下らない三流漫才には飴玉一個で十分だ」

そう。
私の手の平には小さな飴玉一個。

冗談じゃありません。
飴玉一個でどうやって結婚式を開けと?


「甘いな、鮮花。真の仮装と言うのはこう言う事を言うんだよ」
もったいぶって横にあるドアノブに手をかける。


その中に何があるというのです。
私を驚愕させうるものですか。


「フフン。見て驚くがいい。
これが、ハロウィンだ!!」



ババアアアアアン。

力一杯にドアを開け放つ。

その中から。

一つの、影。


その影には見覚えがある。

あるけど。


少しシルエットが違う。

ああ、仮装しているからか。



「ったく。トーコ、話が長い。
俺は、そんなに気が長い方じゃないんだぜ」


ちり〜ん
何の音だろ。



「まだこんなの起承転結で言えば。
転、だ。
ここから話がどんでん返しとなる。
それに
そんなに退屈しなかったろ」


ニヤリ
橙子師がニタニタと笑う。


その笑みは
「してやったり」

そう言っている。


クッ。

確かに。


これは、かなり、効く。


「式。その格好。
又、何か橙子さんに言われたね」

幹也も少なからず動揺してる。

だって
当然よね。


今の式の格好は。



「クックックックック。
さあ。
式、今までの訓練の成果だ。
「勝利のキメのポーズ!!」
さん、ハイ!!」



「にゃ、にゃ〜」
小声でゴニョゴニョ言いながら。

両手を挙げて。
その、キメポーズをとる。


クウ。
今、ズッキュ〜ン。と、キた。

来たわ。

確かに。確実に。的確に。

正にストライク。


その格好で、それは反則だわ。


「どうだ。
鮮花、これが真の仮装、ハロウィンだ。
それに比べればお前のなんて
只の子供だまし。

お遊びでしかないんだよ」

びびしッ。
そんな効果音が聞こえる位
鋭い指摘。



「しかも
お前の起源は「禁忌」
今のお前なら
この式にグラッと来てるんじゃないのか」


「・・・・・ご指摘の通りです。
流石橙子師。
私の起源まで考えに入れて式にこの仮装をさせていたなんて」


がくりと橙子師の前にくず折れる。
正直、今の式は私の心をクリティカルに直撃した。


当の式はもじもじしてる。
幹也は完全に置いてけぼり。

御免。
今は式しか目に入らない。



「いや、分かってくれればいいんだ。
さあ、立ちあがって自分の心のままに行動しろ」

ハイ
さあ、式覚悟なさい。


って。
「そんな訳無いでしょ。
一体何させるんですか。


いくら式が
猫又な格好していて
私的に萌えまくりだとしても」


「なんだよ。
別に俺は関係ないだろ。
俺は只、幹也が喜ぶからってトーコが・・・」

成る程。
そうやって言い包められたんだ。


「それでも、嬉々として仮装してたろ。
それは幹也に気に入ってもらえると思ったからだろ?」


「う、うるさいな。
どうだっていいだろ。
いいよ、脱ぐよ。
それなら・・・」


「ダメだ。それはダメだ」
慌てて橙子師が諫める。

あああ
やっぱりこの人が絡むとロクな事にならない。

そのまま
式と橙子師の二人で口論を始めてしまった。

私達を残して。
けど、何をどう頑張ったって
口で橙子師に叶うわけ無いのに。



あーあ。
結局。

折角のイベントなのに。
何やってんだろな。




?ん?


けど、これって
もしかして、チャンス?



今は二人しかいない。



今、ここで手を出せば・・・
今までの夢が叶う。



二人っきりで過ごす夢の様な日々。


だったら私が取る行動はたった、一つ。


そうでしょう?幹也。



「さあ。
今宵はハロウィン。

一時の魔法の夜。
泡沫の夢。

一緒に、踊りましょう。

幹也」

FIN



後書き
月詠:魔術師の宴最後のSSです。うう〜難しかったです。
   これだけ苦労したのは久し振りです。
鮮花:それにしたって何このSS。いつもながらに支離滅裂。
月詠:いつも皆に言われる。返す言葉も無いです。
橙子:ハン。判ってて書くとは。愚行だな。
鮮花:でも、まあ、一応私主役ですから。
式:それがどうした。今回のお前の仮装。一体なんだ?
鮮花:あの後、幹也とのめくるめく官能の日々。
   ああ、SSにならないのが残念ね。
橙子:確かにあの仮装じゃ、口をつぐむのも頷ける。
月詠:さて。一体何のことだか。
式:一応、あれが魔女っ子って奴か?
鮮花:否。断じて否。一応魔術師つながりでウィッチのつもり。
月詠:魔術師にしないで魔法使いにしてみました。
橙子:ほう。それは私に対する挑戦か。
月詠:そんな事は無いです。
橙子:・・・・行け。
(断末魔の悲鳴が上がっています。暫くお待ち下さい)
式:当人不在のまま閉めていいのか?
橙子:構わん。進めよう。
鮮花:それでは、皆様。月並みですが。
橙子:(メガネあり)ここまで読んで下さって有難う御座いました。
   又、須啓様。この様な機会を下さって感謝いたします。
式:それでは。皆々様。本当に有難う御座いました。







後書きの後書き(舞台裏)

はい、どうもです。
月詠です。
ハロウィンSS「泡沫の夢」で御座います。
うう〜ん。
むずい。

一応「鮮花メインSS」です。
前回と同じ轍は踏みません。


これで遣り残した事は無いです。

さて。
それでは今回のお祭りに
参加させて頂きまして有難う御座いました。

では。

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