「シロウ。最後の命令を」

セイバーが背を向けたまま俺に声をかける。

俺が命をジッと待ち続ける彼女の背中。
その背中を凝視しながら
俺は未だに心の中で葛藤している。































「消せない想い」



































俺がこの聖杯戦争に巻き込まれてから様々な事があった。
そのどれもが二度と忘れられないモノ。
記憶に深く刻み込まれている出来事たち。



その仕上げとして
今俺とセイバーは「聖杯」を前に対峙している。
後はこれを壊せば全てが終わる。


そう
全てが。


この永かった戦争も
今までの楽しかった日々も。


これが終わればセイバーは自分の世界に戻り。
そこで自分の人生を全うし、俺たちの世界での伝説となる。

それが自然の流れ。
極自然の事。
当たり前の世界。






















なんだけど。

アレだけ固く誓ったのに。
未だ未練が断ち切れていないのも事実。

そう簡単に忘れられるものか。
そんな簡単に忘れられる想い出なんて俺たちの間には一つも無い。



毎日の何気無い会話も
毎日の楽しかった食事。



二人で行ったデートや
その帰り道の橋の上。


その時見上げた星空。


その想い出一つ一つ
今でも鮮明に思い起こせる。

そんな大切な記憶を俺にくれた
セイバーを消してしまえるなんて。


















「シロウ。
早く私に命令を。
何を迷っているのですか?」

焦れた様に命を急かすセイバー。
ドコと無く声に震えがあるのは俺の思い上がりじゃないよな?


「私なら大丈夫です。
シロウもあの時に誓ったじゃないですか。
だったら何も迷わずに」

ハッキリと
だが
決意の篭ったセイバーの声。

本当にそれでいいのかよ。

確かにそれが正しい判断。
正しい行動だろうさ。




だけどさ。
人としてそう簡単に割り切れるもんじゃないだろ?
他の誰でもない俺がこの世で只一人愛した女。
その女が俺の一言でこの世からいなくなってしまう。





それがどんなものか
今から考えるだけで発狂しそうになる。
これからをたった一人で生きるだなんて
そんな事考えたくも無い。





でも
それが酷く残酷で
酷く子供じみた我が侭
自然の摂理を無視したエゴだって事も理解してる。







もし俺が彼女をこの世に留めて置きたいって思えば。
その時点で世界が変わってしまう。









俺一人のエゴで
この世を変えられる







それを当の彼女が望んでいない。





彼女はありのままの現実を受け入れると言っている。
自分はこのままいなくなってもいい、と。
だから























悲しまないで、とも。








































決断の時、か。




大きく
息を吸う。



そして
ココロを落ち着ける。





一切の雑念を取り払い、残った想いを。
口にする。



























「ああ。
セイバー、聖杯を破壊してくれ」



その言葉に
無言で頷くセイバー。





















そして
一閃。

閃光が煌き
視界が純白に染め抜かれる。



































目映い程の光が
漸く収まると。


















俺の方を向き直って
にこやかに微笑んでるセイバーの笑顔。


「終わりましたね」

「ああ、そうだね」

「今まで本当に有難う。
矢張りシロウ貴方は素晴らしいマスターでした」

「冗談。
それはセイバーが素晴らしいサーヴァントだったからだよ」

互いに互いを褒め
そこで
会話が途切れる。

「今ココでしか言えないですから、言います」
キッ、と表情を固くする。
俺もそれに習う。



「私は貴方の事が、好きです」

突然の告白。



え?
余りの事で頭が真っ白に。



「この想いはきっと私が元の世界に戻ったとしても
永遠に忘れる事は無いでしょう」

湖から微かに風が流れる。
その風に乗って木の葉が一つ、舞う。
セイバーの髪が風に流されふわりと舞う。

「私は衛宮士郎が好きです」
俺の目を見つめハッキリと言い放つ。


「俺もセイバーが、アルトリアが好きだ」
頷きながら俺も思いの丈をぶつける。






セイバーはその答えを聞き
ニコリと輝く様に笑う。

「良かった。
最後にもう一度その言葉が聴けて」





























さぁぁぁぁぁぁ
一度
強く風が吹き付ける。























その風が止んだ時。
俺の目の前には
彼女の姿は消えていた。


















悲しくないと言えば嘘になる。
寂しくないと言える程今までの生活は軽いものじゃない。
辛くないと言える位の半端な気持ちで
彼女を愛していた訳じゃない。



















けど
これが俺と彼女とで決めた事。
悔やんでも
後悔しても
一度決めた事なんだから。




















「とか言って。
ホントは残って欲しかったんでしょ?」









そりゃ本音ではそうだけど。













「ならなんでそうしないの?」













俺のエゴで彼女を困らせたくは無い。













「でもセイバーだって心残りはあったんじゃないの?」














無いとは言い切れない。
けど
彼女の心の中なんて分りやしない。














「もし。
もし戻って来られるとしたら嬉しい?」













当たり前さ。
出来るならそれを望んでいる。

















「なら。
全てをチャラにしたげよっか?」
















そんな魔法みたいな。


















「出来るよ?
する?」
















出来るならね。


















「言ったわね?
これで契約成立よ?」


















突然。
物凄い圧力を感じる。

ナニ?
慌てて周囲を見回す。
一体何が起こったのか。

落第生と言われた俺にだって分かる程の魔法の奔流。
何か途轍も無い魔術回路が開いて行く感じ。

世界が
空が
地上が

この世の全てから魔法の粒子が溢れ出す。


「時間軸の、操作?」
そんな事を胡乱な頭で考える。


紅い粒子が渦となって湖に集まり始める。
蒼い湖面が
紅く染められて行く。




やがて極限まで集められた粒子は
一点に集中し
紅く発光しながら
一直線に空を穿つ様に虚空に向かう。







紅い線が空に吸い込まれた瞬間。
又も
物凄い風が周囲を奔り抜ける。






余りの風に
思わず目を瞑る。



嵐の様な突風が吹き抜け止んだ後。

俺の目の前は
先程の出来事が嘘の様にシンと静まり返っている。
湖面も凪いでいて。
全くさっきのは一体なんだっただろう。

「て言うかさ。
さっき聞こえた声って誰さ?」


フト
疑問に思う。





上空から何かが落ちて来る音が。



その音は
徐々に大きくなって





しかも
何だが俺の方に向かって来ている様な?

ごごごごごごごごごごごごご

と言う音と

ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ

と言う落下音。


そして
それは見事に避ける事も出来ず
俺の上に落下して来て。







どっしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいん。
的確に命中。




とんでもない衝撃が俺の体を突き抜ける。
暫くその衝撃の為に息が出来ない。



いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!
と言った筈だけど。
声にならない。


一体ナニが?
俺の上に乗っているものをどけてみる。


「痛た…………」
???????????????


もしかして?



「シ、シロウ。
大丈夫、ですか?」

聞き間違いじゃないよな?

「私の声が聞こえていますか?
意識はしっかりありますか?」

幻聴でも幻覚でもないよな?

「セイ、バーだよな?」



自分の頬っぺたを抓って見る。

痛い。
文句無く自分の頬に痛みが走る。


「シロウ。
矢張りどこかおかしいのですか?
そんないきなり自分の頬を抓るだなんて」


ああ、おかしいさ。
とってもおかしいさ。


「……帰って来たんだ」


「ええ。
何故だか分りませんが。
突然体が宙に舞ったかと思うと」
自分でも不思議だったのだろう。
しきりに首を傾げるが。

そんな事はどうでもいい。

今もう一度俺の目の前に
愛しい女がいる。
それだけで
俺は満足だ。



「でさ。
少しは私の事も気にかけてよね」

背後から先程の声。


そう言えば誰だ?

ん?
と背後を見る。

そこには
如何にもご機嫌斜めです、って感じの


「イリヤ?
気が付いたんだ」


「さっきから意識はあったわよ。
それなのにシロウったら私の事無視なんだから」
プンスカ、と頬を膨らませる。




「?
て事とは。
さっきの会話はイリヤと?」


「そよ。
他にいるなら別だけど」
サラリと言ってくれる。



「更に質問。
で、さ。
結局どうなったのさ。
セイバーは自分の世界に戻ったんだろ?
それを強制的に戻したの?」


イリヤはそれに
ふふ〜ん、と凛の様な笑みを浮かべる。

「甘く見ないでよね。
これでも聖杯の依り代なんだから。
セイバーはさっきの聖杯を壊す事で自分の願いを叶えた。
だから今度はシロウがもう一個の聖杯を使って
シロウの願いを叶えたの」

「?もう一個の聖杯?」

そんなものは聞いた事無いぞ。
聖杯が二つあるだなんて。

「そんなものどこにあったのさ。
それに幾ら言峰があんな奴だったとしても
そこまで嘘を付く様な奴じゃない」

「だから言ったでしょ?
私は聖杯の依り代、と言うか聖杯そのもの。
もう一回聖杯を作っただけ」
簡単な事でしょ?
とサラリサラリと言ってのけるイリヤ。


ちっとも簡単じゃないぞ。
第一さっきまで意識不明だったてのに
そんな危険な真似を。

「では私はシロウの願いの為、今一度戻ったと?」

「ん。
それは少し違う。
セイバーはセイバーで自分の願いを叶えたから。
自分の人生は終えてるの。
でも
その後シロウがセイバーを召喚と言うか、呼び戻した。
だから今いるセイバーはセイバーだけど今までいたセイバーとは違うの」

よく分らない。
分らないけど
彼女が戻って来た事は確か。


「シロウは彼女を戻してしまった事への自責。
セイバーは又ココへ戻って来た事への後ろめたさ。
そして
私はさっきのでスッカラカンになっちゃたし。
これって「三方一両損」って言うのよね?」
カラカラと笑いながらそんな事を言うイリヤ。
これってそんな言葉で片付けていいのか?
簡単に三方一両損なんて事で。

「?
イリヤ?
スッカラカンとか言ったけど。
もしかして
さっきので今まで蓄えられた魔法回路が全部無くなった、とか?」

その言葉に恐る恐る聞いて見る。

「そ。
ぜーんぶ使っちゃった。
感謝してよね。
私のそれこそ全てを使ってさっきのやったんだから」
見てよ、と自分の顔を指差し
むすっ、として俺に詰め寄る。


顔?

じ〜〜〜〜〜とイリヤの顔を見つめる。

「ここよ、ここ」
とイリヤは瞳を指差す。




瞳?
瞳がどうしたって言うんだ?

ジッとイリヤの瞳を…………

って
ええええ!!!

「紅く、無い?」

「そ。
完全になくなったんだねー。
だから瞳も戻っちゃった」




うわ。
それは笑い事じゃないんじゃないのか?
「ゴメン。
俺の我が侭で。
イリヤにまで迷惑掛けて
それで大丈夫なのか?」
深々と頭を下げる。
どんな理由であれ自分の為にイリヤに迷惑をかけたのは事実。



「いーよ別に。
私がしたくてしたんだし。
シロウが謝るのは筋違い」
それに、と
チラリと横を見る。


「何の為に無くしたと思ってるの。
それが理解出来たなら早く再開を祝ったら?」

呆けている俺の背中を思い切り押し
俺はその勢いでセイバーの目の前に押し出される。
そこで体力の限界が来たのか、仰向けにばったりと倒れ込んだ。


「イリヤ!」
慌てて駆け寄るが。








「くぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
疲れたのか
そのまま眠り込んでしまっていた。



その寝息を聞いてホッとする。

それはそうだよな。
残っていた魔力全て注ぎ込んだんだから今まで元気だったのがおかしい。
暫くはそのまま寝かして置くしかないかな?
動かす事さえしなければよさそうだし。






それに








「あ、と。
そのお帰りセイバー」

流石に面と向かうと気恥ずかしい。

「ハイ只今です。シロウ」



「その。
やっぱり俺はもう一度逢えて嬉しいよ」
正直な感想を口にする。




「私も正直に言うと矢張り嬉しいです」


俺はそれに答えず
ゆっくりとセイバーの方へ歩き始める。
そして
そのまま
無言でセイバーを抱き締める。

ぎゅっと
もう
二度と離さないって位に。
きつく
固く
その小さい体を抱く。


「お帰り。アルトリア」

「只今、シロウ」








































二つの影は一つになり
久遠の誓いの口付けを何時までも交わしていた。
























































FIN
______________________________________________________
後書き
月詠:ハイ。こちらでは初めまして。
セイバー:初めまして。
イリヤ:初めまして〜
月詠:えーと。今回のこれはかなり強引な力技です。
セイバー:かなり所じゃないです。
イリヤ:そだねー。でも分らなくもないわー。
月詠:あったりまえだ!!あんなED認められるか!!
セイバー:これはかなり賛否両論ありますから。
イリヤ:美しく終わってるからいいと言う賛成派と。
月詠:冗談じゃねぇ!!!って言う私みたいな反対派。
セイバー:どちらにも言い分はありますから。
イリヤ:それでこのSSを書いたのん?
月詠:アレを黙認出来るほど俺は砂吐SS作家を諦めてはいない!
セイバー:意味不明だが。要するに認めないと。
イリヤ:あのED見た時の激昂は凄かったもんねー。
月詠:クリアした後、真EDがあるんじゃないかってサイト回ったり。
セイバー:あれでもいいじゃないですか?
イリヤ:当人はアレで満足なの?
セイバー:しないと言ったら嘘になりますが。そう決まってしまった以上。
月詠:その因果律を捻じ曲げるのがSS作家。
イリヤ:言い切ったよ。
セイバー:確かにそうですが。
月詠:それと一応言って置きますが。
セイバー:ここのSS全般に言えるのですが。
イリヤ:ここのSSは作者が都合のいい様に様々な箇所を改竄しています。
月詠:なので本編と違うとか、こんな設定は無いぞ。
セイバー:と言う異論、突っ込みは無用です。
イリヤ:それらを捻じ曲げるのがSS作家?
月詠:でないとセイバーが戻って来られません。
セイバー:です。
イリヤ:あそこで私が目を覚ますなんて。
月詠:更には残っていた魔力全部注ぎ込んでもう一回なんて。
セイバー:全くのこの作者の造作ですから。
イリヤ:いないとは思いますが信じないでねー。
月詠:信じて貰ってもいいけどそれについての批判なら聞かないよ。
セイバー:嘘を承知で書いているのですから。
イリヤ:突っ込むだけ野暮ってもんよ。
月詠:しかし、最初ってのは疲れるなぁ。
セイバー:当然です。未だ私以外はクリアしてないじゃないですか。
イリヤ:コンプしてないのに書くなんて勇気あるよね。
月詠:うっさい、アレから暇が無いの。
セイバー:ではコンプしてから書いても。
タイガー:そんな事はおねぇちゃんがゆるさなーーーーーーーーーーい!
月詠:以上、今の心理状況でした。
イリヤ:確かに的確な状況説明ね。
セイバー:そこまで烈火の如き怒りでしたか。
月詠:うん。かなりお怒りモードでした。
セイバー:ですが月姫でも秋葉ルートは?
イリヤ:アレも確か志貴がいなくなってたりとか。
月詠:それでもこっちに比べたら。
セイバー:処置無し、ですね。
イリヤ:かなり根が深いよ、これ。
月詠:別にベタベタなハッピーエンドにしろとは言わないけどさ。
セイバー:許せないと。
イリヤ:そこまで言い切るのも凄いと思う。
月詠:アレで二人が幸せなのかってんだよ!
セイバー:このまま放置して置きましょう。
イリヤ:そだね、私たちだけで。
月詠:(ずっと文句を言いまくり)
セイバー:それではここまで読んで下さって真に感謝します。
イリヤ:それでは次回のココで又お会いしましょう。
セイバー:さようなら。
イリヤ:じゃーねー。







































___________________________________________________________
後書きの後書き(舞台裏)
はい。
そう言う事で。
こちらでは初めまして月詠と言います。
でですね。
今回のこれは上記しましたが
セイバーED自分的補完SSです。

あのEDがどーしても許せなくて。
こりゃ一体どーゆー事よ?と。

美しいから
綺麗だから

確かにそうでしょう。
それは認めます。


でもさ!!!
互いの半身とも言える最愛の人がいなくなるんですよ。
それをああもキッパリと切り替える事が出来るんですか?
私は(比較にならないですが)出来ません。

精神的な愛なのかも知れませんが。
それで満足出来るのですか?


どうしても納得出来なかったので
今回のSSを書こうと思い立ったのです。

余りに勝手な意見だと思いますが。
少しでも読んだ方の共感を得られれば幸いです。

それでは又次回お会いしましょう。

TOPへ