「全国ヤブ医者マップ」の恐怖!


参考リンク(1):「全国ヤブ医者マップ〜こんなトコ二度と来るか!」


参考リンク(2):『へいわぼけ (4/14)』〜『保存版』 全国ヤブ医者マップ こういうのは名誉毀損にならないの?


 最近ネットでちょっと話題になっている、この「全国ヤブ医者マップ」なのですが、僕も「まさか自分の病院が載ってないよな……」と不安になって、思わず探してしまいました。しかし、ここに書かれているコメントの多くは「誹謗中傷」や「患者さん側の思い込み」に属するものが多いし、「ダメな病院」というネガティブ情報なために、「実用性」には非常に乏しいな、という気はするんですけどね。そもそも「全国」って言っても、名医にかかるために遠くに行く人はいたとしても、ヤブ医者に診てもらいに行くために他県にまで行く人はいないでしょうし。

 それにしても、【○○耳鼻咽喉科:又聞きですけど、なんか愛想悪いらしいです】なんていうような「レポート」を見ていると、何がしたいんだこの人は?という気はしますよね。「又聞き」で「らしい」なんていうのを書かれてもねえ……こういう人って、愉快犯なのか、それとも「営業妨害目的」なのか?でも、こんないいかげん極まりないような書き込みでも、もし自分の家の近くにこの病院があったら、なんとなく「他の病院にしようかな…」という気分になる人も多いのではないでしょうか。こんな内容は信用できない、と頭ではわかっていても、「なんとなく嫌なイメージを植えつける」というくらいの効果は期待できそうではあるんですよ。なかには、【○○総合病院:医学に関わる人なら北海道から沖縄まで、全ての人が知るという日本最大のヤブ病院。特に内科、外科は信用して殺された患者は数知れず。戦前は人体実験も行っていたという筋金入り。】なんていう「誹謗中傷としか言い様がない」酷い書き込みもあります。でも、僕はこの病院知らないってば。それに、「以前に人体実験」って言い始めたら、某有名旧帝大病院だってそうなのでは……

 しかしながら、これを読んでいて本当に背筋が寒くなるのは、【熱が出て受診したのになかなか治らず、2週間後に他の病院を受診したら「白血病」と診断された。ヤブ医者!!】というような事例なんですよね。こういうことって、どこの病院でもあり得ると思うから。医者の世界には「後医は名医」という格言があるのです。この「熱が出て……」という事例の場合には、最初に「38℃の熱があります。その他にとくに自覚症状はありません」という30〜40代くらいの患者さんを診たときに、「じゃあ、白血病を疑って精密検査をしましょう」という医者はまずいません。インフルエンザの検査くらいはするかもしれませんが、一通りの診察をして、全身状態に大きな問題がなさそうなら、「抗生物質と解熱剤を処方して自宅療養」というのは、ごく一般的に行われている「治療」なのです。ほとんどの患者さんは、それで良くなりますし(そもそも、もともと元気な人であれば、抗生物質すら「必要」ではないのかもしれませんが)。

 でも、「2週間経っても熱が下がらない」ために他の病院を受診した、という場合、その「第二の病院」の医者は、こう考えるわけです。「ずっと発熱していて、抗生物質が全然効いてない。ということは、白血病も含めた頻度の少ない疾患も考えなければならないな」と。

 つまり、後から診る方は、いろんな面で「有利」ではあるんですよね。医者にとっては、「他の病院でこんな薬を処方されたけれども、全然効いていない」というだけでも、かなり大きな「情報」なのです。逆に言えば、「最初に受診される身近な病院」というのは、大きな病院のようにすぐに検査がいろいろできるわけでもない場合が多いですし、まず「可能性の高い疾患に対する治療」を行っているわけです。熱があるからと病院を受診したとき「念のために」といきなり骨髄検査をされるような病院は、それはそれで問題がありますよね。少なくとも、僕はそういう病院には行きたくないです。

 さらに、「思いこみ」で病院を責めてるんじゃないかな、と思われるような書き込みもけっこうたくさんあります。病状が思わしくなかったら「なんで治らないんだ!」って言いたくなる気持ちはわかるのですが、世の中の病気が全部治るわけじゃないしね……それこそ、【ここに入院しているのは、がんの患者さんばかりです。入院すると危険!】とか、「がんセンター」にコメントしているような人もいるし。じゃあ、「重症の患者さんや治らない患者さんは診ません!」という病院が「名医」なのか?という話です。でも、本当にそう思われている節もあるような……「うちに入院している末期がんの患者さんが亡くなりそうだから」という理由で転院依頼をしてくる病院だってあるらしいですし。「うちで亡くなると、うちの病院の評判が悪くなるから」って。

 この「全国やぶ医者マップ」って、医者の目から見れば本当にいいかげんで腹立たしいものではあるのですが、その一方で、こういう「誹謗中傷的なものを含めての噂レベルの口コミ」に対して、とくに開業医の先生たちは、かなり恐れているのではないかと思うのです。このレベルのものであれば、参考リンク(2)のように、多くの人は静観あるいは否定的に見てくれているようですが、これがもっと大がかりなものになれば、この手の「口コミ情報」が、医院や病院の経営を左右するようになっていく可能性は十分にあると思います。ほんと、開業医の先生たちは、「評判」っていうのをすごく意識されているんですよね。病院っていうのは、「試しに受診してみる」というわけには、なかなかいかないところではありますしね。

 医療側から言わせていただければ、こういうのって、「Yahoo!」のオークションみたいに「この書き込みをしている人は、○○人の閲覧者から『良い』という評価を得ています」という「相互評価」ができるようなシステムにしてくれればいいのにな、とも思うのですけど。いろんな病院に次々にかかって、自分が思い込んでいる病名と異なる検査結果が出ると、文句ばっかり仰って帰っていかれるような患者様も、けっこういらっしゃいますので……