至福の人間ドック!!


「週刊アスキー・
20051025日号」(エンターブレイン)のエッセイ「だってサルなんだもん」(いしかわじゅん著)より。

【人間ドックに入ってきた。
 渋谷駅から109の脇を入って東急本店の奥に歩いていくと、統一教会の先に、そことは違う某宗教団体がやっている病院がある。ワタシは、そこでドックを受けてきたのだ。
 そこは、2年前に続いて、2度目である。なかなかに素晴らしいとこなのである。
 医者の腕とか検査技術は、正直いって、ワタシにはよくわからない。ではなにがいいのかというと、女の子がいいのである。
 ここの受けつけには、大量の若い女の子がいる。最初は看護婦かと思って、いやにレベルの高い看護婦を揃えたんだなと思っていたら、そうではなかった。彼女たちは、客のエスコート役なのだ。
 受けつけで名前を告げると、担当のエスコートがつく。その子が、今日1日の面倒を見てくれるのだ。
 体のラインの出るピンクの制服。スカート丈は、膝上だ。ワタシがソファに座って待っていると、石川様、と床に膝をついて話しかけてくる。
 うーん、こりゃオヤジはイチコロだなあ。
 というわけなので、ワタシも2年前に続いてまたやってきたのだ。】

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 よく「歯科助手さんはルックス重視!」なんていう「伝説」を耳にすることはあるのですが、時代はここまで来ているのですね。「綺麗な看護師さんを揃える」なんていうどころか、人間ドックのために、専任のエスコート役、しかも「レベルが高くて体のラインが出るピンクの制服でミニスカートですよ!かえって血圧上がるんじゃないかこれは!

 まあ、この病院は、まさに「狙っている」のでしょうけど、世間一般の男性の感覚からすれば、「検査受けるんだったら、こういう病院がいいなあ…」という人が多数派で或ることは間違いないでしょう。無愛想な受付の人にあれこれ指示されていそいそと着替え、結果説明の前に診察室で長い間待たされるよりは、ね。ただ、これだけのサービスが行われているということは、それだけの費用がかかるのだとは思われますが。残念ながら、このいしかわさんのエッセイではそのあたりことには触れられていないのですけど、都会の病院はこんな「患者サービス」までやっているのか…と驚かされる記事ではあります。

 先日も、「600万円の『会員権』で、東大病院でがん検診」(読売新聞)なんていう記事がけっこう話題になりましたが、こういう風潮をみると、いまや、病院というのは「サービス競争の時代」なのかなあ、という気がしてきます。もちろん、救急車で運ばれるような事態ではあまりえり好みもできないでしょうが、やっぱり、ただでさえ楽しくない人間ドックであれば、なるべく快適に、そして信頼できるところで受けたいというのが人情でしょうし。まあ、東大病院の「会員権」がその値段に見合ったものかどうかは、よくわからないのですけど。

 僕は「よくわからない」と書きましたが、実際に人間ドックに来られる人たちにとっても、このエッセイでいしかわさんが【医者の腕とか検査技術は、正直いって、ワタシにはよくわからない】と書かれているように、「人間ドックの医学的な技術の差なんて、よくわからない」という人は多いのだと思います。だからこそ、眼に見える「美人のエスコート」とか「東大というブランド」とかに惹かれるのです。「人間ドックの実績」なんて、調べてもなかなかわからないですし、わからないのなら、快適なほうがいいですよね、やっぱり。

 本当は、「きちんと欠かさずに定期的に受けること」のほうが、1回だけブランド病院で健診を受けるよりも大事なことだったりもするのですが。

 ところで、僕も以前このいしかわさん御用達の病院のような「患者さんサービス重視の病院」にアルバイトに行っていたことがあるのです。その病院はものすごく内装が綺麗で、待合室はまるでロビーのようで、受付の対応もテキパキしています。そして、病室も診察室も片付いていて、各フロアには案内係の女性もいます。病院というより、高級ホテルのようなたたずまい。患者さんに対するスタッフの言葉遣いは丁寧で、話しかけるときには床に膝をついて、「○○様、いかがですか?」という感じ。田舎の病院に慣れていた僕は、本当にビックリでした。ああ、こんなカッコいい病院で働いてみたいなあと、思ったのですが…

 …でも、この病院、実際に勤めている側からすれば、本当に大変だったみたいです。「患者様のため」ということで、なぜかスタッフ、とくに医者の給料は激安で(というか、最初にバイト代として提示された金額には驚きました。相場の半分くらいだよそれ!)、そのわりには休日でも「患者様のため」に平然と呼び出されていました。そして、外来でも待たされると文句を仰る患者さまが優先で、おとなしい人は後回し。結局、スタッフの労働条件は最低なのですが、病院そのものは、けっこう儲かっていたみたいです。いやまあ、「病院の健全経営」のためにはいいのかもしれないけど、内情はもうボロボロで、勤めている医者たちも、医局の人事で、1年間の辛抱だから…という状況。
 それって本当に、「患者様のため」になってるの?

 結局、どこかに「歪み」というのは出てくるものみたいです。これからは、「この病院はサービスが悪い!」と叫んでも、「それならもっとお金を払って『高級病院』に行け!」と言い返される時代になっていくのかもしれませんね。