どこまでが「説明義務」なんですか?



毎日新聞の記事より。

【風邪薬を飲んだ後に重篤な皮膚疾患にかかり99年に死亡した横浜市のデザイナー、永野明美さん(当時31歳)の遺族が13日、製薬会社を相手取り、「副作用の説明が不十分だった」と賠償を求めて横浜地裁に訴えを起こした。問題の薬の添付文書に、副作用の可能性のある疾患の名が明記されたのは厚生省(当時)の指導があった00年12月だった。
 原告側弁護士の調査によると、永野さんが服用した当時、風邪薬「コルゲンコーワET」の添付文書「使用上の注意」には、発疹、水ぶくれなどの症状が出た場合は服用を中止するよう書かれていた。しかし、永野さんがり患した「スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)」と「中毒性表皮壊死症(TEN)」の病名は記載がなかった。
 原告側は「病名や症状の内容が適切に書かれていなかったことが、製薬会社側の説明義務違反」と訴える。
 厚生省は00年12月、薬品の注意書きにSJSやTENなど副作用のおそれのある病名を記載するよう製薬会社に指導した。興和によると、同社は同月中に指導通りに注意書きを改訂したという。
 厚生省が00年12月に公表した「医薬品・医療用具等安全情報」によると、SJSは死亡率6・3%、TENは死亡率20〜30%とされ、SJSの59%、TENの90%以上が医薬品の副作用による症例だとする報告もあるという。】

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 アメリカでは、濡れた猫を電子レンジでか乾かそうとして死なせてしまった消費者が、レンジのメーカーを訴え、勝訴したという話があります。それ以降、説明書には「動物を乾かさないでください」との一文が加えられたとか。嘘のような、本当の話。
 この「説明義務」というのは、医者もいつも困惑するところではあるのです。
 たとえば、ステロイドという薬を使用する場合(まあ、この薬は、あまり手軽に処方するような薬ではありませんが)、薬の副作用というのを当然説明するわけです。
 たとえば、抵抗力が低下して、感染を引き起こす可能性があるけれども、十分注意します。
とか、糖尿病の発症あるいは悪化、胃潰瘍の出現、など。
 あるいは、胃の検査や手術をするときも、僕たちは患者さんに、いろんなトラブルの可能性を話します。手術中の危険性とか、術後の合併症など。
 そこで、たまにですが「絶対にミスしないように手術しろ!どんな合併症でも起きたら訴える!」というような方がいらっしゃるのです。
 そういうときは、本当に困ってしまいます。人間のやることだから、100%大丈夫なんて保証はできないし(いや、内心では、その検査くらいは大丈夫だって…と思っていることもありますが)、急に大地震が起こって、変なところを刺したりする可能性がないとは言い切れませんよね。
 とはいえ、手術を受けていただかないと、病気で命を落とされる可能性が高い。
 まあ、「手術する場合のリスクと受けなかった場合のデメリットを比べてみてください」と話すと、たいていの場合は理解していただけるのですが。

 その一方、こちらが詳しく説明しようとすると「もういいよ、わかったわかった」と言われたり、「怖いから、あまり副作用や合併症の話はしないで」と言われることもあります。
 確かに、手術の前に、そんな話ばかりされたら不安感をあおることは間違いないでしょうし。
 「説明」というのは、医療者にとっても万が一のとき訴えられたりするのを避ける手段でもあるんですよね。
 最近の薬には、「これでもか!」というくらいに詳細な説明書がついています。
 ただ、それを全部詳細にチェックしてから風邪薬を内服される患者さん、というのは、ほとんどいないんじゃないかなあ、と思うんですよね。僕だって「これ飲んだら、早く良くなるかなあ」くらいの感じで市販の風邪薬を内服することもありますし。
 医療関係者でなければ、説明書を読んだって、専門用語が多くって、わかりにくいものもあるだろうし。

 はっきりしていることは「現時点では、副作用の可能性がない薬は存在しない」ということと「異常を感じたら、すぐ医者に診せる」ということくらいなんですよね。

 市販されている薬は、一部の怪しいものを除いては、治験が行われてある程度の安全性が証明されているものばかりなのですが、それでも、絶対安全な薬なんてありえない。

 「説明すること」は、良心的ではあるんだけれど、副作用や合併症を熱心に説明する病院は流行らないし、副作用が効能よりも大きく書いてあるような薬は、あまり飲みたくないですよね。
  
 どこまでが「説明しない方が悪い!」ということになるのか、医療関係者はみんな、戦々恐々としているのです。