患者よ、医者を信じすぎるな!


参考リンク:プライマリ・ケア (by 『il mio diario』)


↑の文章を読んで、僕は正直ドキッとしました。自分も、今まで同じようなことをやってしまったことがあるのではないか、と。
例えば、カルテが山積みになって、患者さんが「自分の順番、まだ?」とスタッフに声を荒げているのが聞こえるような状態で、遠くから旅行でこの街に来ている患者さんが、胃の痛みを訴えて来院されたとします。実際に便が真っ黒だったり、血をどんどん吐いたりされていれば、それはもう(それか可能な病院であれば)、緊急内視鏡の適応でしょうし、そうでなければ高次病院にいそいで紹介でしょうが、そうではなく、「とにかく胃が痛くて辛い」という訴えであれば、「とりあえず胃薬を処方しておく」というような診療は、ごく当たり前に行われているのです。こういうとき、医療者サイドはどう考えているかというと「旅先での体調不良だから、現在の症状を抑えておけば、家に帰って具合が悪くても地元の病院を受診してくれるはず」だと思っているのです。つまり、そういう「旅行中の患者さん」のニーズというのは、「この場での精密検査」ではなくて、「当面の症状緩和」だと解釈することが多いわけです。
 でも、患者さん側としては、医療者側が「あくまでも、つなぎの(悪い言葉でいえば、『その場しのぎの』医療」でやっている治療に対して、「専門家がこのくらいの治療で大丈夫だと太鼓判を押しているのだから、とりあえずたいしたことはないんだろうな」と判断してしまうのですよね。

 もちろんこういう場合、かかった病院の設備上の問題もあるでしょうし。胃カメラやCTが無い(あるいは急にはできない)個人病院というのも、まだまだ日本中にたくさんありますし、逆に、そういう病院が地元の高齢者たちの受け皿として機能しているおかげで、いわゆる「中核病院」の外来はパンクしないですんでいるのです。実際に「胃の痛みを訴える患者さん全てに胃カメラを緊急で実施する」というのはマンパワー及び機械の数量、患者さんが絶食の状態でないと検査ができないことからも不可能なので、そのあたりの「見極め」というのが、プライマリ・ケア医の腕のみせどころ、ということになるのでしょう。全部高次病院に紹介、では、何のためのプライマリ・ケアなのかというところになってしまうし、本当にそのさじ加減というのは難しいのです。
 この参考リンクのような状況の場合、「胃カメラをその場でやらないのは藪医者だ」と僕には言い切れません。患者さんの状態を自分で診たわけでもないので。
 ただ、この最初に診察した医師が確実にやるべきことがあります。

 それは、患者さん(あるいはその家族)に、「もし具合が悪い状態が続くようだったら、必ず地元の病院を受診して、詳しい検査を受けてくださいね」と念を押しておくこと。

 いや、こういうのって、医療者側には、「調子悪かったら、また受診されるだろう」というような思い込みがあるんですよね。でも、実際はこのように、医療者側にとっての「とりあえずの応急処置」が「100%の治療」だと解釈されてしまう場合も少なくないので、医療者側としては、「これはあくまでも現状から判断しての応急処置なのだ」というのを、しっかり説明しておかなければならないのです。このようなことは、夜間診療などの場合でも言えるので、「空いているから」という理由で夜間にあえて救急外来を受診するというのは、非常に危険なことです。医療者側としても「十分な検査ができないこともあり、何かわからないことがあってもそう簡単には他の医者に相談できないという当直」というのは、すごくストレスがかかります。

 「自分の病院ではできないこと」を熱心に患者さんに説明してくれる病院ばかりではない、というのが事実です。けっこうアバウトな治療が続けられていて、大きな病気がいきなり見つかって驚いて大きな病院に紹介、なんて話は、そんなにレアケースではありません。僕としては、医療従事者に対して、検査ができず、診断に確実性がない場合には、患者さんに「自分はここまでのことはやったけど、ここからは無理だった」ということをしっかり説明しておきべきだと自戒しましたし、その一方で、患者さんには、「医者が何と言っても、説明の内容に納得できなかったり、症状がおさまらなかった場合には、説明を聞いたり、検査の追加や他の病院への紹介を求めたほうがいいですよ」と伝えておきたいと思っています。紹介してくれなかったら、自分で次の病院に行くべきです。残念ながら、医療界の意識そのものが変化するスピードより、病気の進行のほうが早いに決まっているのですから。
 ある程度熟練した医師であれば、患者さんの全身状態を短時間で把握することも可能なのでしょうが、実際に臨床をやっていると、「えっ、この元気そうな患者さんが?」と思うようなことや、「見た目はすごく元気なさそうだけど調べても何もない…」と悩むようなことは、けっして少なくないのです。極論すれば、「自分の症状は、自分にしかわからない」のです…医者というのは、「こういう病気の患者さんなら、こういう症状が出てしかるべき」だというふうに判断しているだけなんですよね。

 ただ、その一方で僕には「なかなか医者の話を聞こうとしてくれない患者さんが多い」という実感もあるのです。どんなに説明しても、「私にはわからないから、先生の好きなようにやってください」と言われる方や、「薬を増やしても血糖が下がらないのはおかしい(食事療法ができなければ、どうしようもないのに)」「○○病院の先生が大丈夫って5年前に言ったのに…」「隣の××さんが、お酢が効いたって話してたから…」自分の不安を打ち消したい気持ちもわかるのですが、「ひとりの医者が『大丈夫』と言ったとしても、ずっと症状が続くということは『大丈夫じゃない』」に決まっています。でも、その「自分にとって望ましい1つの意見」みたいなものにとらわれて、そこから出てきてくれない人は、ものすごく多いのです。10人が「このままでは危険です」と言ったことは忘れてしまうのに、1人が「だいじょうぶです」と言ったことはきちんと覚えていて、「自分はだいじょうぶ」という結論を導き出してしまう人が、なんと多いことか…
本当は、「全部医者にまかせてください」って胸を張れればいいんでしょうが、正直、患者さん側のほうも、「自分の体を自分で守る努力」が必要な時代なのだと思います。だから、患者よ、医者を信じすぎるな!
あえて、そう言わせていただきます。(でも、やたらと疑ったり恫喝するのもやめてね)。