「リピーター医師」と「日勤教育」


読売新聞の記事より。

【日本医師会(日医、植松治雄会長)は24日、医療ミスを繰り返す「リピーター医師」の再教育に向けた「医療事故防止研修会」の内容を公表した。
 日医の医師賠償責任保険や都道府県医師会からの情報などをもとに、「過去3年で3回以上の有責の医事紛争」にかかわった医師らを集め、8月上旬までに実施する。
 初回の対象は約120人。医療ミスを繰り返すリピーター医師のうち特に再教育が必要とされる者のほか、管理責任を問われた病院の院長ら施設管理者も加えた。対象者は、医師の職業倫理や患者と医師の関係、患者の安全などのテーマについて、2日間にわたって講義を受け、自己評価を行う。
 日医では、「リピーター医師に対処することが、日医の社会的責任だと認識している」としている。】

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 僕はこの記事を読んで、例のJR西日本の「日勤教育」を思い出してしまったのですけど。

 日本医師会が、このような研修会を行うことはけっして悪いことではないのでしょうし、こういう「再教育」に関するすべての責務を負うものではないのでしょうが(「医師会」というのは、すべての医者が加入しているわけではなく、基本的に自由参加の組織ですから)、【医師の職業倫理や患者と医師の関係、患者の安全などのテーマについて、2日間にわたって講義を受け、自己評価を行う】というのに、どの程度の「再発予防効果」があるのかは、正直疑問です。まあ、受けさせられる側はたまったものじゃないでしょうけど、それこそ「運転免許書き換えの際の『特別教習』くらいの効果」しかないような気がします。あの「特別講習」に実際にどの程度の効果があるのか、僕はよくわからないんですが。

 それこそ、怪しげな自己啓発セミナーみたいに「洗脳」してしまうのでもなければ、2日間の講習で、何かが劇的に変わるというのは、なかなか難しいですよね。医師会側としては、「何か対策をやっているというアピールのため」という面が大きいのかな、なんて考えてもみるのです。

 強制力がなければ、実際に参加する医師がどのくらいいるのだろう?そんなものに参加しては、かえって悪い評判が立つのを気にする人が多いんじゃないかなあ、とも思えます。

 ところで、「医療ミス」は、大きく分けて「技術的なミス」と「道徳的なミス」というのに分かれるのではないでしょうか。「技術的なミス」というのは、正直、誰にだってありうることですし、経験によってカバーできるようになる面も大きそうです。まあ、最大の問題点は、「できないこと」よりも「自分ができないことをできると思い込んで、ひとりでやろうとしてしまうこと」なのかもしませんが。

 まあ、「技術」に関しては、ある程度のトレーニングで改善可能なのではないか、とも思うんですよね。まあ、2日間でどうにかなるようなものではないし、技術を磨くために犠牲になる患者さんがいてもいいのか!ということになると、疑問なところもあるんですけど。

 その一方で、「道徳的な欠落」というのは、正直、どうしようもない気がします。「人を人と思わない性格」とかいうのは、いくら講義を受けても変わるようなものではないでしょう。もちろんこういうのにも「本当に知らなかった」という人から、「知っていたけど自分や組織を守るために隠蔽した」という人までいるのでしょうが。

 ただ、この2つのケースの場合は、それぞれ分けて考えたほうが妥当な感じはします。

 こういう記事を読んでいると、同業者である僕たちの立場としては「なんとか更正させたい」という気持ちになるのですが、その一方で、「そんな医者、辞めさせちまえ!」と思っている人も多いのではないでしょうか。

 確かに、同業者からみても「この人は危険だ…」と思うような医者もごくまれにいて、周りもヒヤヒヤしているのですけど、逆に、研修医時代は「こいつはどうなることやら…」なんて思っていたような医者でも、成長して立派になっていくこともけっこうあるのです。

 本当は、ひとりひとりに合わせたプログラムを組んでいくべきなのでしょうし、そんな「矯正」が必要な連中は要らない、のかもしれません。でも、現場で働いていると、「リピーター医師」とか言われていますけど、一部の「どうしようもない人々」を除いては(正直、このグループは辞めさせたほうが良いと思う)、普通の医師との差は、紙一重もない場合がほとんどなのではないか、というのが実感なのです。僕も同じ立場だったら、同じことをやっていたのではないか?と思われるような「医療ミス」というのは、けっして少なくありません。

 「草むしりをしたって、運転が上手くなるわけがない」のと同じように、「セミナー受けたからって、いい医者になれるわけがない」んですけど…

以前ここに書いたように「いい医者になるために必要な要素」というのは、もっと人間としての根源的な要素なのではないかな、と思うし、それは、僕に不足している部分であるとも自覚しています。

本当は、「できないことをやろうとしてしまう」のが一番怖いんだよね。

でも、そういう向上心(あるいは野心)がないと、成長しないのも事実だし……