ある麻酔科医の手近なストレス解消法


共同通信の記事より。

【宇都宮市の済生会宇都宮病院(中沢堅次病院長)の麻酔科医が、麻酔に使う麻薬を院内で自己使用し、隠ぺいのためにカルテなどを改ざんしたとして麻薬取締法違反の罪で宇都宮地検に在宅起訴されていたことが26日、分かった。
 起訴されたのは群馬県桐生市、坂口昌司被告(27)=昨年12月に懲戒解雇。
 起訴状によると、坂口被告は昨年10月、院内で麻酔用の合成麻薬約0・2ミリグラムを含む水溶液を自分の腕に注射。同年7月から10月まで16回、患者16人のカルテと処方せんを改ざんし、患者には実際は92アンプルしか使っていないのに327アンプル使ったと虚偽の記載をした。
 坂口被告は「ストレス解消のため使った」と供述しているという。
 昨年10月、本人の言動がおかしいことから病院側が問いただすと使用を認めた。病院から通報を受けた栃木県の麻薬取締員が捜査し、1月と5月に書類送検していた。】

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 「ストレス解消のため使った」って、もうちょっとマシなストレス解消法はなかったのかなあ…

 以前、医学生を描いたドラマの中で、中居正広演じる医学生が、「国家試験受験のストレスから逃れるため」に病棟の麻薬を常用してしまい、結局医者になれなかった、というのがあったのですが、僕たちはそれを観て、「ありえねー!!」とツッコミを入れていたものです。

 医者なんだから、好きな薬はいくらでも手に入るんじゃない?というのが世間一般のイメージみたいなのですが、実際はそういうわけにはいかないのです。自分の病院を持っている開業医の先生なら多少は融通が利くのかもしれませんが、大きな病院の勤務医の場合には、自分の風邪薬すら他の先生に診てもらって(まあ、お互いに医者ですから、簡単に診察をして「こういう薬を出して」とかお願いすることも多いのですが)、処方してもらう、というプロセスが必要になります。

 ましてや、麻薬というのは非常に管理が厳しい薬です。癌による疼痛の患者さんに処方するのにも、特別な「麻薬用の処方箋」を書いて、スタッフの誰かが直接取りに行かないといけませんし(機械で送ることはできない)、薬品庫のなかでも鍵つきの金庫のなかにしまわれており、毎日数量のチェックが行われます。麻薬のアンプルは、病棟でも金庫にしまわれており、使用時には他のスタッフのチェックが必要です。もし患者さんが退院されたり亡くなられたりして麻薬がアンプル内に残ってしまった場合には、それもキチンと薬局に返却しなければなりませんし、点滴内に混入している場合には、その点滴内の残量も報告しないといけないのです。実際「ここまでやらんといかんのか…」という感じで、万が一麻薬のアンプルを間違って落として割ってしまったりしようものなら、もう一大事。

そのくらい、麻薬の管理は厳重なはずなのに、一般病棟よりは麻薬を緊急で使用する必要がある麻酔科の現場でも、いくらなんでも92アンプルを327アンプルに水増しなんて、もっと早く気づけよ!!という感じなんですけどねえ。

ほんと、どうやったらそんなにごまかせるんでしょうか…それに、本人の言動がおかしくなるまで気がつかないなんて…

こういう事件がひとつ起こると、「麻薬の管理なんて、どこもこんなもんだろ」とか思われてしまうのではないかと憂鬱なのですが、僕たちからすると「こんなのありえない!」のだけど。
 医者だからって薬をなんでも手に入れられるわけじゃないので、僕には頼まないでくださいね…

本人は、「忙しいから身近にあるものでストレス解消!」とか考えたのかもしれないけど、そういうものが身近にあるっていうのは、本当に怖いことです。

まあ、麻薬はあんまりだけど、不倫とかギャンブルとか(僕もか…)でストレス解消するのも、あんまり自慢できることじゃないですね…