第111夜 そして僕は指紋を失った…「マーブルマッドネス」


 はじめてこのゲームを見たときは、「何これ?」と思ったものです。
 だって、「マーブルマッドネス」の筐体には、丸いボールとスタートボタンがついているだけで、ジョイスティックもミサイル発射ボタンもないんだから。
 そこにあったのは、「トラックボール」という、あらゆる方向に転がすことができる、ボール状のコントローラーのみ。
 しかし、今から考えてみると、このゲームほど「感覚的」なゲームって無かったような気もします。プレイヤーのやることは、このトラックボールをゴロゴロと転がして、そのトラックボールと同じように動く画面上の丸い玉(マーブル)をゴールまで辿り着かせればいいのですから。
 それこそ、「子供にでもわかる」操作法です。
 周りの人たちの冷たい視線を浴びながら、マーブルが吸い込まれる吸気孔を避けるために必死の形相でトラックボールを転がしたり、狭いところを通るために息をひそめてゆっくりゆっくりトラックボールを動かしたり。
 上り坂では早くトラックボールを動かさないと登りきれませんし、下り坂ではちょっとスピードを出しすぎるとオーバーラン。当時のゲームで、ここまで画面の凹凸を感じられたものは、他にはなかったような気もします。
 しかし、このゲームの最大の難点は、あまりに熱中しすぎると、まず手が真っ黒になり、それでも挑戦をやめないと手の皮がむけまくる、ということでした。
 全部で6面しかなかったのですが、それぞれバラエティもあって、いかにもアメリカンな感じの鋭角な画面は、忘れられないゲームです。
 このゲームをやっていると、人間の手って、本当に微妙な動きができるんだなあ、なんて妙な感心をしてたものです、そういえば。