88%の「異常」な人々


読売新聞の記事より。


昨年の人間ドック受診者の9割近くに、肝機能の低下や肥満など、生活習慣病やそれにつながる何らかの異常が認められたことが19日、日本人間ドック学会(奈良昌治理事長)の調査で分かった。
 同学会は、食生活をはじめとした生活習慣の欧米化に加え、検査技術の向上で異変の早期発見が可能になっていることが背景にあると見ている。
 調査は、昨年の人間ドック受診者のうち約294万人を対象に行った。その結果、「異常なし」と判定された人は全体の12・3%で、前年よりも1・0ポイント減少。20年前の1984年(29・8%)と比較すると17・5ポイントも減っていた。男10・7%、女15・0%で、男性の方が健康な人の比率が低かった。
 項目別では、肝機能異常が25・2%と最も多く、次いで高コレステロール、肥満、腎・ぼうこう疾患、高血圧などが続いた。女性だけで見ると、高コレステロールが24・2%で最も多かった。
 調査を実施した同学会の笹森典雄・副理事長は「食生活以外にも、生活習慣病にはストレスもかかわっているとみられる。受けているストレスの強さを測る問診票を作製中で、来年から、人間ドックの際の生活指導に活用できるようにしたい」話している。

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 病院で働いていると、いろんな「健診異常」の患者さんが受診されるわけなのですが、僕は「健診異常って、なんだかすごく多いんじゃない?」と日々思っていたのです。しかしながら、ここに出されているデータを読んでみて、驚きました。まさか、88%とは!それって、「むしろ正常なほうが、異常なんじゃない?」とか言いたくなるようなデータなんですけど。確かに、健診の表をチェックしていて「全部正常」の人なんて、めったにいないような気がしますしね。

 まあ、これは一般健診ではなくて、「人間ドック受診者」ですから、受診された300万人足らずの人々の大部分は、具合が悪くて病院にかからなければならないような自覚症状はなくても、「ちょっと危ないかな…」という自覚がある人も多かったのだとしても。

 正直、医療という仕事に携わっていると、「このくらいで、わざわざ病院に来なくてもいいんじゃないかなあ…」とか「こんなになる前に、病院に来てくれれば良かったのに…」とか思うことがしょっちゅうあるんですよね。もちろん、病気の症状と病状は必ずしも正比例するものではないので、そういう「見極め」みたいなのを患者さんが出来ないのは当然のことではあるのですが。

 ただ、こういう「90%の異常者」というようなデータを見ていると、「医学というのは、過剰に『病人』を作り出しているんじゃないかな…」という不安にかられることもあるのです。もちろん、「血糖がこのくらい高いと、これだけのリスクがある」というようなデータは存在するのですが、じゃあ、総コレステロールが220と223の人の間に、どのくらいの差があるのか?とか考え始めると、実際はそんなに「違い」なんてないんじゃないかと思うのです。どこかで「線引き」をしないと、どうしようもない面があるにせよ、今後は、「正常値」の概念そのものが変わってくるような気がします。その一方で、いろいろな「新しいリスクファクター」が発見されて、さらに「健康な人」というのは減ってきそうな気もしますが。

 「正常」な人が10%強なんていうのは、やっぱり何か変だし、今の基準値では、「普通の人は、すでに異常である」ということになってしまいますし。ただ、「健診」というのもひとつの「産業」になってしまっている面もあるし、やっぱり「リスクが高い」ということがわかってしまうと、無視するわけにもいかないし。診察台の向こう側から診ていると、「ああ、この人今年もγ―GTPが高いよなあ、やっぱりお酒飲んでるんだろうなあ…でも、とりあえず精密検査受けて、「お酒控えて」と言われて、「はいはい」って答えてまた2、3日経ったら普通にお酒飲むんだろうなあ…」とかいう考えが浮かんでくるのです。その数日でも、意識してもらうというのは大事なことなのかもしれないけどさ。

 実際、これを書いている僕も「健診異常者」なわけで、やっぱり自分のこととなると心配で精密検査を受けたりもしているのですけどねえ。今の基準では、よっぽど頑張らないと「異常なし」にはなれそうもないなあ……