「ジャパネットたかた」と「ある地方病院」の個人情報のゆくえ
【どこまで個人情報漏れが広がるのか―。三洋信販やヤフーBBに続き通販最大手のジャパネットたかた(長崎県佐世保市)でも九日、顧客データの外部流出が明らかになった。テレビやラジオなど電波を使い、軽妙な語り口で地方のカメラ店を有名企業に育て上げた高田明社長だが、会見では独特の口調は消えやつれた様子。個人情報がインターネット上でも飛び交う情報化社会だけに、相次ぐ個人情報漏れに消費者は不信感を募らせ「知らないところで悪用されているのでは」「ほかの企業は大丈夫なのか」との不安が渦巻いた。
「顧客第一を企業理念としていちずに走ってきた。顧客情報流出という大事な部分で不安を与え、心からおわびします」―本社での会見。高田社長は、やや青ざめた表情で頭を下げた。
名簿が流出したとみられる一九九八年当時は、同社の急成長に合わせて社屋の新築が続き、名簿管理のコンピューター管理システムも変更。「社員が複数の業務を兼務することも多く、情報管理の対応に遅れが出た」と高田社長は悔やんだ。
一方、消費者には「個人情報が、どこでどう使われるのか分からないので怖い」(佐世保市内の飲食店従業員女性)「どこかで自分の情報が流れているのではないか。ほかの会社も疑ってしまう」(北九州市の五十三歳主婦)などと、相次ぐ顧客情報流出に不安が広がっている。
店頭販売がない通信販売は、買い物をするために住所、氏名などの情報が不可欠だけに、茶の間の不安と戸惑いも大きい。昨年三月に同社からパソコンを購入した長崎県対馬市の保育士女性(49)は「身に覚えのない督促状もきた。通販は、店が少ない離島の暮らしに欠かせない便利なシステムだが、このままでは不安で利用する気になれない」と、徹底した原因究明と再発防止を求めた。】
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「ほかの企業は大丈夫なのか?」
僕の結論としては、「大丈夫じゃないに決まっている」なのです。
「医者」というのは、「収入が多い職業」の代名詞のように、長年扱われてきました。しかしながら、一部の「ものすごく稼いでいる人」が平均収入を押し上げているのでしょうが、大部分の医者は、「大企業の同世代に比べたら、ほとんど変わりないくらい」で、おまけに退職金もない、というようなのが現実ですし、研修医や僕のように研究などをやっている人間、あるいは都会の中堅勤務医など「修行中」の人間は、生活自体がラクではないのです。
それでも、そういう「イメージ」っていうのは、なかなか払拭できないものみたいで。
当直先の病院には、よく電話がかかってきます。
「患者さんから、先生にということなんですが…」と受付の人の歯切れの悪い声とともに回されてきた電話は、「もしもし」と返事をすると「○○先生ですか?」という問いかけとともに「実は、私たちは、先生たちのために税金対策としてマンションの購入をオススメしているんですが…」というセールストークがはじまります。当直中に電話がかかってくれば、「どんな患者さん?」とアドレナリンがドバドバ出始めているのですが、この電話ほど腹が立つものはありません。人の仕事中に、しかも、どう考えても怪しいセールスの電話をかけてくるなんて…
余談ですが、まさか、こんな電話で本当にマンション買う人はいないだろうに、バカバカしい、と僕は常日頃から考えていたんですけど、昔勤めていた病院で「2軒も買ってしまった」という人を知って、考えをあらためました。だいたい、「自分は騙されないから、からかってやろうか」なんて多寡をくくっていると、かえって洗脳チックな目にあわされたりするのかもしれませんし。
でもね、僕は常日頃から疑問なのですよ。こういう電話は、自宅にもかかってくることがあるのですが、この人たちは、いったいどうやって僕たちの電話番号を(もしくは当直医の名前を)知るのか?と。後者については、患者さんのふりをして当直医の名前を聞き出したりするらしいのですが、いずれにしても迷惑です。
その他にも「医者」というだけで、いろんなものを「買いませんか?」というような広告や電話は多いような気がします。他の先生もそんな感じらしいですから、僕に特異的なことだけではないのでしょう。
考えてみてください、成歩堂さん。どうしてピンポイントに狙われるのか?自分からそんな迷惑マンション販売業者に自分の電話番号や住所を知らせる医者なんて、いないですよね。
つまり、「誰かが、医者の個人情報をばら撒いている」ということなんですよ。
もちろん、一緒に働いている人たちを積極的に疑うのは良くないことですよ。でもね、どこかから漏れていないと、そういう「個人情報」なんて知るのは困難です。
いや、「個人情報漏洩」なんて堅苦しい意識じゃなくて、知り合いの商売をしている人に「病院の名簿をちょっと見せて」と頼まれれば、ムゲにはできない、というのが一般的なレベルでの「個人情報への意識」じゃないでしょうか。
病院の職員というのは、緊急で連絡を取らなければならない場合がありますから、電話番号とかもちゃんと載っているのだし、そういう名簿が「タバコ銭程度にはなる」なんて噂も、聞いたことがあるのです。
「どうせ、医者なんて金持ちなんだから、そのくらいいいだろ」
とか、思っている人だって、いないとは限らない。
おかげで、どんなに迷惑していることか。
でも、緊急時を考えると、非公開にもできない。
僕が以前勤めていた病院では、ある議論がありました。
「診察にあたっている医師のプロフィールと顔写真を公開すべきた」という意見についてのものです。「顔やプロフィールが公開されていたほうが、患者さんは安心できる」という意見と、「写真とかを誰でも観られるようにするのは、セキュリティ上問題があるのではないか?」という意見。一応、「各科の判断に任せる」ということになったんですけどね。
僕の気持ちとしては、あまり写真とかは出したくない。何かのときに、狙われたり、巻き込まれたりしたくはないし、個人的なメリットがあるとは思えません(見栄えに問題がある、というのも確かですが)。ただし、アメリカで見学させてもらった病院では、ロビーに外来担当医の写真と専門分野が大きく飾られていました(ここの病院だけかもしれません)。こういう形でオープンにされるのは、やむをえないことなのかも。
でも、病院のサイトというのは、あまりにも「個人情報を得たい人」にとって簡単すぎる方法なのではないかな、とも思うのです。
精神科の医師の大部分は、自分の携帯番号を非公開にしているそうです。そうしないと、四六時中電話をかけてくる「電話依存的な」患者さんがいるから。いや、他の科にしても、医者側からすれば、「情報公開することによって患者さんを集めたいと思うごく一部の医師」を除いては、個人情報の公開なんてことは、百害あって一理なし、なんですよね。
患者さんには、「24時間携帯で直接連絡できるようにしてもらいたい」なんて要望があるのかもしれませんが…う〜ん、僕はたぶん、そんなことになったら医者辞めます。
「個人情報が漏れたらどうするんだ!」と「ジャパネットたかた」に抗議の電話をした人の大部分は、「個人情報」というのがよくわからないまま、「世間で騒がれている不祥事を起こした会社」として非難しているのではないかと思います。
おそらく、その「個人情報」は「通販をよく利用する人々」ということで、他の通販会社にとってはノドから手が出るほど欲しいリストになるでしょう。カードで買った人などは「カード番号」というのは気になるところですが、住所・氏名・電話番号なんてのは、もっとも基本的な個人情報である代わりに、ダイレクトメールを送る、セールスの電話をかけるくらいの利用法しかないような気もします。それはそれで、迷惑には違いありませんが…
現在のところ、どんな大企業であっても、個人情報を守る最後の砦というのは、それを担当する人間のモラルでしかありえないのです。カードを作ったことがある人は、暗証番号を書いたあとに担当者に「見ないように」と上からシールを貼ったりするのを見たことがあると思うのですが、あれだって、「暗証番号を入力する担当者がいるのだから、担当者にその気があれば、いくらでも悪いことはできる」のです。そこには、「そんなことをしても、お互いにメリットはないはずだよね」という暗黙の諒解があるだけで。
僕たちは大企業の不祥事ばかり槍玉に挙げていますが、身の回りで「友達だから」「親戚だから」というような理由で、身の回りの人経由で、自分の「個人情報」は、簡単に漏れまくっている、という事実を知る必要があるでしょう。
もちろん、企業の信用を考えれば、「個人情報の保護」というのは大事です。「あそこで通販を頼んでから、変な勧誘やダイレクトメールがたくさん来るようになった」なんていう会社は、気持ち悪いですから。
ただ、「家にいて買い物が出来る」というメリットを享受するためには、ある程度自分の個人情報が漏れるというリスクが高くなる、という覚悟は必要なのかもしれませんね。もちろん程度問題ですが。
「ヤフーBB」も「ジャパネットたかた」も、急激に成長を遂げた会社です。その一方で、「情報管理の不備」ももちろんなのですが、「情報管理に関わる人間の質の整備」が、できていなかったんだろうなあ、と僕は思ってしまうのです。