「全国の4分の1の病院で医者不足」という統計への疑問
福島民報の記事より。
【只見町が運営する町内唯一の医療機関の国民健康保険朝日診療所は4日から、一般診療を休診する。1人しかいない常勤医師の所長(39)が1日に極度の過労で入院してしまい、診療所が機能停止状態になったため。再開の見通しは立っていない。町議会は3日、全員協議会を開き対策を検討する。町は4日にも県に緊急支援を要請する方針。】
参考リンク:福島民報の記事「只見の朝日診療所/あすから休診/唯一の常勤医過労で入院」
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共同通信の記事より。
【全国の4分の1の病院で医師の数が医療法で定められた基準を満たしていないことが7日、厚生労働省の集計した2002年度病院立ち入り検査結果で分かった。特に、大学病院の医師が実際には勤務していない病院から報酬を受ける「名義貸し」問題が表面化した北海道・東北地方では、半数近い病院で医師が不足していた。
検査結果を受け厚労省は11日、総務、文部科学両省と連絡会議を設置し、来年1月までにへき地での医師確保や、大学と地域医療機関の連携の在り方などについて当面の対策をまとめる。
病院の医師配置数は医療法で規定されており、一般病院では入院患者52人までが最低3人、それ以上になると入院患者であれば16人、外来患者は40人増えるごとに1人以上増員する−などとしている。】
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39歳といえば、医者としては働き盛りの年齢ではありますが、それにしてもハードですよねえ。でも、僕の印象としては、「これは酷い!」とまでは思えずに、「きっと、このくらい『酷使』されている医者は、全国にたくさんいるんだろうなあ」なんて暗澹たる気持ちになるのです。
この「外来130人」という数字は、実際に診察を受けるが130人なのか、「薬だけ」の人も含むのか定かではありませんが(たぶん、後者だと思います)、やっぱり多いよなあ。
半分の人が薬だけとして、60人をひとり5分ずつで診ても、5時間かかるのか…
9時から外来を開始して、飲まず食わずで14時に終わる計算になりますね。
まあ、ひとり5分で診られるわけもないし、ちょっと検査(自分でやるエコーや胃カメラ、レントゲンの読影など)を入れたりすれば、ひとり平均5分なんてありえません。
外来だけ、重症者ほとんどなし、のクリニックなら、1日に対応できる数字かもしれませんが。
でも、この診療所は、「救急搬送も月平均18人」と書いてありますから、「とりあえず血圧測って具合を尋ねて…」どころじゃない患者さんもけっこう来られているんでしょうね。
「町で唯一の診療所」ですし。
しかも、「老人保健施設の回診」というのは、字面から受けるイメージ以上に大変です。
「老人保健施設」とはいっても、それなりに持病のある高齢者の方がほとんどですから、たぶん、診察や検査の途中で呼び出されたり、夜中にもコールされたりしていたのではないでしょうか?
それを考えたとしても、この診療所には入院施設がなかった分だけ、労働量としては、少しはマシなのかもしれません。
実は、「このくらいの仕事量+入院患者」くらいの状況で働いている医者というのは、そんなに少なくはないというのが僕の印象。
だいたい、医療法の規定では、病院の医師配置数については、「一般病院では入院患者52人までが最低3人、それ以上になると入院患者であれば16人、外来患者は40人増えるごとに1人以上増員する」なんですよ。
要するに、医者の仕事量というのは、ひとりで入院患者16人+外来患者40人は、こなせることになっているのです。
みんながみんな、「スーパードクターK」じゃあるまいし。
もちろん、比較的安定した状態の患者さんが多ければ、ひとりで入院患者さん20人くらい担当することは「不可能」ではありません。実際に、市中病院ではそのくらいの担当患者さんを抱えている医者はたくさんいますし。
まあ、実際にやってみると、疾患について考える時間もほとんどなく、ルーチンワーク的に指示を出し続けているうちに1日終了、ということになってしまうのですが。
でも、それが望ましい状況か?ときかれて、自分が、その「16分の1」や「40分の1」になりたい患者さんがいるでしょうか?
それでも、名義だけで実際に医師が勤務していない「名義貸し」なんてのが行われているくらいですから、実質はもっとひとりひとりの医師の負担は大きい、ということになりますね。
とくに「外来のみ」のクリニックが増えてきている現在、入院施設のある病院での医者の負担は、たいへんなものです。身も心も休まる暇がない。
現場の感覚としては、「75%の病院で、医者の数が足りている」という結果のほうに、むしろ大きな疑問を感じます。ウソだろそんなの、って。
僕は8年医者やってますが「医者が足りない、看護師が足りない」って話はよく聞くけれど、「医者が余って困ってる」って話は、聞いたことがありません。
ひょっとしたら、僕が知らないどこかに、「医者のたまり場」みたいなのがあるのかなあ…
(ちなみに、経営サイドからは、「スタッフの数が多すぎて、人件費が経営を圧迫している」という話はよく聞きます。まあ、現実は厳しい、ってことでしょう)
いずれにしても、医療現場というのは、何より関係者のプライドと誇りによって支えられているのです。患者さんには「ゆっくり休まないとよくなりませんよ」と言いながら、解熱剤や痛み止めを飲んで、みんな働いています。
医者が体調不良になるのは「自己管理が悪い」ということになって、生活が乱れまくっている患者さんに一言注意をすれば「ドクター・ハラスメント」。
入院している患者さんから「毎日、先生が来てくれて嬉しい」という言葉を聞くたびに、いい気分になりつつも、「それは、裏を返せば『休まないで』ってことなんだよなあ…」とか、考えて、ちょっとだけ悲しくなってしまうのです。