「病院内での携帯電話解禁」のメリット・デメリット


共同通信の記事より。

【入院中も、友人や家族と携帯電話で気軽に話したい。そんな患者の希望に応えようと、九州大病院(福岡市)が、医療機器への悪影響を理由に禁止していた病院内での携帯電話使用を昨年10月から解禁したことが27日、分かった。
 最近は病院でも公衆電話が減少し「入院患者の心情や外来患者の利便性を考えると、デメリットよりメリットの方が大きい」(田中雅夫副病院長)というのが理由。解禁から半年たっても事故はないという。医療機関での使用禁止が定着する中で常識を覆す試みだが、電磁波で誤作動を起こす可能性もある心臓ペースメーカーの装着者からは疑問の声もあり、議論を呼びそうだ。
 使用を解禁したのは集中治療室(ICU)や手術室などを除く病院内のほぼ全域。ただし病室では、人工呼吸器など特定の機器が使われていない場合に限る。
 総務省が実施した医療機器に対する電磁波影響調査の結果などを参考に、院内の患者サービス専門部会で検討、「医療機器の性能向上などもあり安全性に大きな問題はない」と判断し、昨年6月の臨床部長会で解禁を決定。昨年79月の試行期間を経て、同年10月から本格実施した。】

参考リンク:「王様の耳はロバの耳/Reiko Katoのお仕事日記(2/16)」〜『入院したら』

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 とりあえず、「解禁」によるトラブルは、今のところないみたいです。
 実際、「携帯電話の電磁波による、医療機器の誤作動の可能性」については、かねてから指摘されてはいたのですが、実際に現場でのトラブルを耳にしたことはないですし。
 ただ、テレビの近くにいて携帯電話がかかってきたときの画面の乱れを目にすると「やっぱり体に悪かったりするんじゃなかろうか…」なんて少し不安になることもあるんですけどね。

 まあ、この「解禁」の理由は、「せっかく携帯電話を持っているのだから、病室内でも話したい」という患者さん側の希望と、この記事にもあるように「公衆電話自体が減ってしまっていて、電話をかけたい患者さんにとっては不便だけど、これ以上公衆電話も増やせない」という病院側の事情とで、お互いの利害が一致した、という面もあるのだと思います。

 ある程度重症の患者さんだと「部屋から出られないために家族に電話をかけられない」とか「電話まで車椅子で行かなくてはならないので、看護師さんに手間をとらせるから頼みにくい」なんてこともありますし。
 確かに、携帯電話を病室内で使えるメリットというのは、けっこう大きいと思います。
 外来で、家族と連絡をとるときにも、電話の順番待ちをしなくてもいいし(まあ、調子がよければ、屋外に出てかければいいとも思うのですが)。

 ただ、安全性の面では、こういうことは「何かが起こってからでは遅い」というところもありますし、一考の余地があるかもしれません。
 「それなら、街のどこにでもペースメーカー使っている人がいるかもしれないだろ!」とか言う人もいるでしょうが、少なくとも「ペースメーカーを使用している人の密度が高い空間」であることは、間違いないですしね。

「病院の携帯電話解禁」というのは、そのほかにも問題を抱えています。
 ひとつは、「プライバシーの衝突」というもの。
 僕がもともと携帯電話というものが好きではないからかもしれませんが、あの「自分がいる空間で、他人が声の聞こえない誰かと話している状況」というのは、けっこう気になるものではないですか?
 話している当事者にとっては「会話」でも、一方の受け答えしか聞こえない同室の人にとっては、限りなく「騒音」に近いもの。それも、基本的に静かな病室の中では、気になって仕方がない場合も多いのではないでしょうか?話の内容も、けっこう深刻な話題が多いでしょうし。

 「聞きたくもない他人のプライバシーを無理矢理聞かされる」という状況は、意外と辛いものですよ。電話が終わったあと「聞いた?」なんて雰囲気で、お互いに気まずくなってしまったり。
 基本的に個室であれば問題ないですし、もともと大部屋での生活というのはプライバシーの晒しあいみたいになりがちなものですから、相互理解があればいいのでしょうが、世代も病状も異なる相部屋の人の間では、トラブルの素になることだってあるでしょう。

 そして「入院の本質」にもかかわることです。
 「入院」というのは、「病気を治すこと」に体力を集中するために、現実生活から隔離されるという意味合いも持っています。「入院中だから」と言えば、いろいろな面倒ごとから逃れることができるはずです。
 まあ、現実にはなかなかそうもいかない場合も多いようなのですが。それにしても、ね。

「現実生活から隔離されての安静」のためには、必ずしもメリットだけではないようです。

 携帯電話というのは、自分から「かける」だけではありません。当然、かかってくることもあるはずで。そして、それは僕たちから「不在の時間」を奪ってしまいました。
 自分がきつくても、電話が鳴れば無視するわけにはいかない場合だってあるでしょう。

 極論すれば、今まさに息をひきとろうとしている患者さんの枕元に、安否を気遣う遠くの親類からの電話がかかってくることだってあるかもしれない。相手が見えない、というのは、無神経な行為の元凶になりやすいものです。

 携帯電話は「便利」なものです。
 一度使いはじめたら、もう手放せないくらいに。

 でも、その一方で、「必要ない携帯電話の使用を避ける節度」を持って使わないといけないのではないかな、とも思うのです。
 会話はなるべく短くする、とか、同室の人に気配りをする、とかの配慮も大事です。
 そうしないと、電車の中みたいに「安全性は関係ないけど、迷惑だから使用禁止」ってことになりかねません。

 病院の中というのは、みんなナーバスになっているものだしね。