「危ない」医薬品と「自然な」健康食品という虚像


読売新聞の記事より。


【インターネット販売されていた清涼飲料水「ハイ グッド モーニング」(30ミリ・リットル)に性的不能治療薬「バイアグラ」と同種の成分が含まれていたと9日、大阪府が発表した。
 薬事法に違反するとして、東大阪市の輸入・販売会社「シンコーブライト産業」は、販売中止と回収を指示された。
 含まれていたのは頭痛や視覚障害などの副作用があるとされる医薬品成分のヒドロキシホモシルデナフィル。厚生労働省からの通報を受け、府立公衆衛生研究所が成分を調べていた。健康被害の報告はないという。
 同社は「ハイ グッド モーニング」を、昨年12月、韓国から3万7000本輸入。1本5250円で、これまでに約1万7000本を売っていた。同社は読売新聞の取材に「医薬品成分が含まれているとは全く知らなかった」と話している。】

参考リンク:「健康食品と薬事法」

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 また、この手の話題が。
 この「ハイ グッド モーニング」というのは、要するに男性の生殖機能を亢進させる飲料らしいのですが、僕が昨日調べたサイトでは、「バイアグラと違って、自然な成分だから副作用もなく安心!」なんて書いてありました。なんていいかげんな…
 病院で外来をやっていると、「健康食品信者」の診療にあたることがあります。こういう患者さんは、まず「近所の人にすすめられて健康食品をはじめた」というような話から、「医者が出す薬は副作用が怖い」「薬は一度内服をはじめたらやめられない」とおっしゃるのです。
 それに比べて、「健康食品」は、「成分が自然界のもので、副作用がなくて、体にやさしい」と。
 いや、気持ちはわかりますよ。僕だって、自分が薬を飲む立場であれば、わざわざ病院で偉そうな医者の診察を受けて説教を聞かなくても手に入り、「いつでも好きなときにやめられて」「副作用がない」ほうがいいに決まっています。
 でも、「健康食品」には、けっこう危険なものも含まれているのです。
 だいたい、「薬効」には「副作用」がつきもので、例えば「血圧を下げる薬」であれば、使用する分量やタイミングによっては、「低血圧」になることだってありえるわけだし。

 そして、大きく誤解されているのは、「健康食品は絶対に安全である」という点です。
 上記参考リンクを見ていただければわかるように、「健康食品の定義」なんて、実際はものすごく曖昧なものなのに。
 この「ハイ グッド モーニング」にバイアグラの成分が入っていたなんてことは例外中の例外、というわけではなくて、先日は某中国製の「やせ薬」に、甲状腺ホルモンの成分が入っていて肝障害を発症した、という話もありました。実は、「健康食品」と呼ばれるものの中には、「医薬品と同等、あるいは類似の成分が含まれているもの」がけっこうあるのです。

言い換えると「病院の薬は自然じゃない」というほうが思い込みで、人類が使っている薬品の中には、伝統的に使われている民間療法からヒントを得て、薬効成分を抽出して開発されたものが多いのです。
 もちろん、ある種の「手が加えられている」こともありますが、それはあくまでも安全性を高めたり、大量生産するための必要性からで。
 そして、いちばん大事なことは、医薬品は何重にもわたる治験を受けて、効果と安全性が確認された上で商品化されている、ということです。よく健康食品の広告などでは「これを使ったらこんなに元気になった!」なんて何人かの体験談が大きく書いてありますが、医薬品のチェックでは、逆に「それを使って重篤な副作用が出たり、病状が悪化した人が何人かいた」ということになれば、大きな問題になります。
 10人に1人しか効かなくても大きく宣伝できるものと、10人に1人に重篤な副作用が出ただけでも、商品化できないもの。どう考えても、どちらが安全かなんて、わかりきったことなのですが。

 みんな「ここではないどこか」に劇的に病状を改善するための方法があると信じているのかなあ、なんて、暗澹たる気持ちになることもあるのです。末期がんで、現代医学で治療困難な患者さんが、アガリクスとかに希望を見出すのを「非科学的だ」なんて言うほど僕は原理主義者じゃありませんが(僕の身内も使っていたくらいなので)、普通に病院で処方できて、安全に使える薬よりも怪しくて高くてハイリスクな「健康食品」に頼ってしまう人が絶えないのは、なぜなんだろう?

 本当は、思い当たる節もあるのですけどね。
 やっぱり、病院は敷居が高くて医者は偉そうで、自然食品とか健康食品を売っている人は、親切で優しくて話を聞いてくれたりするのかな、とか。
 でも、「自然」ってそんなに良い事ばっかりじゃないですよ。
 みんな、ハイキングに行って「山はいいなあ」なんて言うけどさ、ヘビとか熊に襲われたり、崖崩れにあうのだって「自然」なんだから…
 確かに「バイアグラ欲しい!」って、言いにくいのはわかるんだけど、僕たちにとっては、「週刊プレイボーイをレジ打ちするコンビニ店員」と同じくらいの「自然な業務のひとつ」なんだけどなあ。
 心臓疾患がある人とかには危険なので、実際に処方できるかどうかは別として。