「Dr.コトー診療所」第2回感想。



 もうすでにレギュラー化しつつある、ドラマの感想。
 このドラマは医者的にはツッコミどころ満載なのですが、もともと医療ファンタジーみたいなこの話に、医学的考証がどうとか言うのは無粋なのではないか、という気もします。

 手塚治虫の『ブラックジャック』に、「それだけ全身に転移した癌、全部取っても再発するって、とか言ってるのと同じようなもの(人間が鳥になっちゃう回には、子供心に驚愕しましたが)なのではないかと。

例の「ブラックジャックによろしく」みたいな、「リアル路線を標榜」しているドラマだと、逆にツッコミ甲斐があるんだけどなあ。

とはいえ、さすがにあの島での「腹部大動脈瘤」の手術にはビックリしました。
 いや、「島だからできない」という言い方には語弊がありますね。
「一般的な島の診療所の医療体制では、根本的にムリ」ということ。

普通、あの手術を病院でやるとしたら(もちろん、一般開業医ではなく、大学病院や地域の中核病院などで)、執刀医のほかに、縫合や固定、緊急時の術者交代などのサポートの医師が2〜3人つくことになります。

それに、途中で「血液再環流します」って言ってましたから、当然、体外循環装置(人工心肺)を使っていたと考えられます。ということは、それを操作する係も必要。

ドラマでは、彩佳さん(柴咲コウ)がひとりで介助していましたが、彩佳さんは、島に戻ってくるまでに、手術室勤務の経験があったんでしょうか?
 
手術の介助業務というのは、ただ道具を渡せばいいってものではないし(ましてや、あんなデリケートな手術ですから)、全く経験のない人にはムリだと思うけど。

やっぱり、手術の「流れ」を把握していないと、スムースな介助はできないって。

全身麻酔では、本来麻酔科の医師がつくべきなのですが、一般的には、「麻酔を勉強したことがある外科の医者」が麻酔をかけることも多いです。
 しかし、人工心肺使うような手術では、いくらなんでも麻酔科医がついてないと危険極まりないと思うのですが。
 だいたい、人工心肺があの診療所にあることも疑問だし、人工血管常備してるのかよ、この診療所…と驚いてしまいました。けっこう高価なものなのに…

『ブラックジャック』の影響なのか、手術は外科医が1人(プラス助手)いれば可能と思っている人が多いのかもしれないけど、医者ひとり、助手ひとりでできる手術なんて、ほとんどありません。

それに、専門じゃないコトー先生に、あの若さで大動脈瘤の手術の術者の経験があるなんて考えられないのですが。まさか、初体験!?

あと、島の人たちにAB型の血液の輸血を求めていましたが、現在では「血が必要だから」ということで、そのまま誰かから採ってきた血を輸血するなんてことは、まずありません。肝炎ウイルスなどの感染の危険もありますし(あの短時間では検査しきれないでしょう)。

まあ、「非常事態で、命の危険が迫っているから」というのはわかるんですが、いろんなリスクと手間をを考えると、「島の人たちを説得する」よりも、柴咲コウが言っていたように「騙してでも本土に連れて行く」というほうが、よっぽど救命の可能性は高いんじゃないでしょうか。

船で6時間かかるとはいえ、ああやって島の人を説得したり、安全とはいえない血液の輸血の準備をしたり、慣れないスタッフが手術の準備をしたり、ホコリをかぶりまくっていて動くかどうか怪しい人工心肺を引きずりだしている時間があったら、本土に速く連絡をとって受け入れ態勢を作ってもらい、急いで搬送したほうがはるかに救命率は高いと思うんだけどなあ。動かすこと自体にもリスクはあるでしょうが。

Dr.コトーは、腕利きの医者だとは思うけど、島のひとたちの「切りたがる人」という評価は、あながち間違っていないような気もします。

それに、あのような大きな手術は、術後管理がまた非常に大変で、それこそ大きな病院では、研修医が眠い目をこすりながらICUのベッドサイドに張り付きます。

スタッフも少ないし、機材もほとんどないあの診療所では、あの手術の術後管理はムリですよ、いくらなんでも。

だいたい、ドラマの外科医は手術が終わったらすぐ病院から帰りますが、実際は、あのあとの術後管理が大変なんだって。そりゃ、地味でドラマチックではないけどさ。

まあ、いろいろ書きましたが、僕はこのドラマけっこう好きなんですよね。
 やっぱり、輸血してもいいって、島の人が集まってきたときには感動したし。

田舎の排他的なところも(やや過剰ながら)きちんと描こうとしています。

主人公が「癒し系」の吉岡秀隆なので、観る側としては押し付けがましさを感じませんし、なんといっても島の自然は言葉を失ってしまうくらいに美しい。

そうそう、このドラマ、僕にはもうひとつ気になるところがあります。

それは、「方言」の問題。

このDoctor’s Ink」の第1回に書いたのですが、実際、よそ者は、田舎の病院に行くと地元の高齢者の言葉がわからなくてけっこう苦労するものなので、みんな標準語で喋っているあの島は、ちょっと違和感を感じます。

まあ、そう言いはじめたら、ハリウッド映画なんか、ドイツ軍人が平気で英語を喋っていたりする映画がけっこうあるんですが。