「ドクター・ハラスメント」と医者の非常識
<参考リンク>
(1)「ドクター・ハラスメント」(YOMIURI ON-LINE)
(3)「ドクハラ医師の種類」
「ドクター・ハラスメント」という言葉が流行(?)しています。幸いなことに、僕はこれで訴えられたことは今のところないのですが、これらの参考リンクを目にしていると、暗澹たる気持ちになるのです。
ああ、世の中はこんなに酷い医者に満ちているのか…と。
ここで挙げられている事例の多くは、「医者として、人間として言い訳のできないもの」であり、襟を正さなければならないものです。
そもそも「子宮はもう要らない」とか言う必要なんてありませんせんし、そんなことをわざわざ患者さんに言う医者は、淘汰されて当然。
ただ、これらの「ドクター・ハラスメント」の中には、「いや、それはちょっと違うんじゃないかなあ…」なんて感じさせられるものもあるんですよね。
僕が今回これを書こうと思ったのは、「ドクター・ハラスメント」についてGoogleで検索して最初に出てきた(1)のページを読んでいて疑問に思ったからでした。
その中に【いたずらに患者さんの不安をあおり、希望を奪う言葉はドクハラです。不適切な時期に「あと何か月」などと余命宣告するのも同様です】という「ドクター・ハラスメント」という言葉の産みの親とされる土屋先生の言葉が出ているのですが、現場の医師としては、「でも、希望を持ちようがない状況というのも存在するんだよなあ…」とも思うのです。じゃあ、絶望的な状況で、ひたすらに希望的観測を述べていればいいのか?とか。
そして「不適切な時期の余命宣告」についても、「いつが適切な時期かなんて、誰にわかるの?」と感じます。
どんなに医療者サイドが考え抜いた結論でも「結果として不適切な時期だった」と患者さん側が思うことはあるでしょうし…
さらに、【子供の虫歯で歯医者に行ったら、「親の管理が悪い」となじられた】というのは、「ドクハラ」として適切な例なのでしょうか?(いや、あまり挙げ足とってもしょうがないかもしれないけど)
相手が大人であれば、その親にこんなことを言うのは筋違いというものですが、患者さんが小さい子供であれば、多くの医者はこういうリアクションをせざるをえないのではないか?という気がします。
内科でも、たとえば糖尿病のコントロールが悪い患者さんに「コントロールが悪いから、食事や運動に気をつけなければダメだよ」と医者が発言して、患者さんが「不快」になってしまったら、やっぱりそれは「ドクター・ハラスメント」なのでしょうか?
医者の仕事はタイコ持ちではありませんから、患者さんのためになると判断すれば、ときには厳しいことも言わなければならないことがある、と僕は思うのですが…
にもかかわらず、患者さんの病気に対する不快が「ドクハラ」として医者に向けられる場合があるとしたら、僕は危機感を抱かざるをえません。
多くの場合、医者と患者っていうのも人間対人間なので、ごく一部の人格崩壊医師を除けば、「相性」ってけっこう大きいと思うのです。
医者が怒れば「本気で心配してくれている」って感激する患者さんだっているそうですし(だからって、怒ることが正しいと言っているわけではありません、念のため)、丁寧に気を遣って接しているつもりでも「頼りない」なんて思われてしまうこともあるのです。
ところで、僕が今回これを書いたのには、もうひとつキッカケがあります。
それは、この文章を読んで、「ああ、やっぱり医者の中には、世間の常識とか、他人の感情に疎い人がいるのだな」、と感じたからなのです。
そういえば、前の例とはちょっと違いますが、こんなこともありました。
僕が以前、研修医時代に担当した患者さんが退院したときのこと。
病棟の階のエレベーターの前で「元気でね」と言って別れたのですが、担当の看護師さんは、あとでこんなことを話してくれました。
「先生、○○さん(退院した患者さん)怒ってたよ。『先生がエレベーターの前までしか見送ってくれなかった』、って」
それが「世間の常識」なのかどうかはさておき、人それぞれ「誠実さとして求めるレベル」は違うのだなあ、と痛感させられたのです。
いずれにしても、医者というのは忙しさを理由に、他人の気持ちになる、ということが苦手な人種なのかもしれません。「お前は特別だ」って言われてきている人が多いわけだし。
僕だって子供の頃から、医者とはいえ他人の前で裸になるのはイヤだったし(もちろん、大人の今でもイヤです)、自分が性病だったらあんまり診察室の外に聴こえるような大声で病名は言って欲しくないのに。
自分の親だったら「バイバーイ」とかいい大人にやられれば、烈火のごとく怒るだろうと思うのです。それは、医者だからとかいうのは関係なく。
個人的には、「それはおかしい」と思ったら、遠慮なく言ってもらえたらありがたいのだけれど。それも、いきなり「訴えてやる!」じゃなくて、「その言い方は、失礼なんじゃないですか?」という穏やかな感じで。そうしないと、医者はみんな「対患者恐怖症」になってしまうのではないかなあ。