医局の机
僕は今、医局のがらんとした自分の机の上で、この文を書いている。
この病院にやってきて、2年。もともと散らかし魔だった僕の居場所になったために、この机はハードワークと白い眼にさらされてきたことだろう。当直の時に読みかけた雑誌や、薬のパンフレット、ケースがどこにあるかわからないCD。もう時代遅れになってしまった、貝殻型の青いiBook。
思えば、ここにはじめて来たとき、自分の机を持つというのは、ものすごく偉くなったような気がしたものだった。院内LANのおかげで、当直の夜がさびしくなかったし。
いや、それは忙しかったためなのかな。
ICUに患者さんがいて、ここで眠れない夜をすごしたこともあるし、研修医とうまくいかなくて、ここで一生懸命自分をクールダウンさせようとしたこともある。
患者さんが亡くなられた夜に頭が真っ白になりながらコーヒーをすすったこともある。
寝不足で、額に机の縁の型がのこって笑われたこともあったっけ。
友人の幸せなニュースを聞いたこともあるし、不幸な別れを知ったこともある。
ホームページを作り始めたのも、当直の夜に何か自分なりに楽しいことができないかと思ったのがきっかけだったっけ。
いま、ここに座っていると、なんだか自分がここからいなくなってしまうことが信じられない気がする。
ガラガラの本棚やむきだしの机の表面は、現実を僕につきつけるんだけど、そんなに綺麗にしたつもりでも、机の上にはまだいろんなものを残しているような気がしてならない。それは、永遠に片付けることができないもの。それは、ここに置いていかなければいけないもの。
2年間…長いようで、短かったような気がするなあ。
さあ、もう行かなくちゃ、これから最後の送別会だ。