テレビ版「ブラックジャックによろしく」によろしく(1)
第3話にして、はじめてこのドラマを観たのだけれど(ちなみに漫画版は、4巻まで読んでいます)。
この「ブラックジャックによろしく」は、医療業界でも、けっこうみんな読んでいて、当直室とかによく置いてあります。
で、このドラマ版なんですが、僕の感想としては、「よくできてるなあ」というところと
「こりゃ、やり過ぎだろう…」というところがあったのです。
まず、リアルなところから言うと、研修医が本当に何もできないところは、まさに現実的。僕も最初に研修医になったころは、研修医の仕事は、採血と毎日の回診とカルテ書きと検査の予約、カンファレンスの準備くらい。検査のときは、患者さんに付いていったのですが、ほんとに「そこにいるだけ」で、たまに注射とかするくらいでした。
研修医というのはもう、悲しくなるくらい無力。
でも勉強しなければいけないことも多くって、気持ちには全然余裕なし。
斉藤先生も言ってましたが、「僕なんかが主治医ですみません」って感じでした。
カンファレンスの前日は早くて26時、ヘタすりゃ徹夜。
もう毎朝、出勤するのがイヤで。
医者というのは、車の運転と同じで、ある程度のレベルまでは練習すれば大抵の人間はいけるのですが、逆に才能だけで手術とかいきなりできるわけではなく、とにかく最初は練習と慣れの日々なんですよね。
そうそう、あと心臓外科のカンファレンスのシーンには笑いました。
いや、実際はあそこまで外科の先生はガラが悪くはないですけど、はじめて他所の科のカンファレンスに患者さんのことを相談しに行ったときのことを思い出しました。
現病歴を説明してると、話を遮られて「CTは?合併症は?」と矢継ぎ早に聞かれ、シャーカステン(レントゲンを見せるための台)まわりに集まってくる外科の先生たち。
別にケンカしたり、罵倒されたりはしませんが、確かに最初に外科カンファレンスに出たときには、「なんだか怖そうなところに着ちまったなあ」と感じたものです。
でも、実際は外科と内科は、お互いに患者さんを紹介しあっているので、あんなに仲が悪くはないですよ、多くの場合は。
そうそう、あの伝説の「トイレで居眠り」のシーン、僕はトイレはなかったですが、家の風呂とか、当直への行き帰りの車の中とかでは、けっこう危ないことがありました。
なんだか、将来的には、当直の後は「休息時間」をとることが義務化されるような話もあるみたいなんだけど、本当かなあ。
あと、あんな意地悪(というかヒマ)な教授は、ほとんどいないと思います。
大学の教授なんて、臨床の患者さんひとりひとりの状況を把握している人はほとんどいないでしょうし。というか、それは病棟医長クラスの仕事なんで、教授に噛み付いてもしょうがないのでは?と思ってしまいます。
自分の部署の不満を課長の頭越しに社長室に訴えに行ってもねえ。
それに、あんなに一研修医をいじめているヒマのある教授なんていないって。
そういえば、マンガ版とは設定が変わっているところがありましたね。
マンガでは宮村さん(ガッツ石松扮する冠動脈疾患の患者さん)では「肝硬変を合併していて、治療が難しい」という設定だったのが「石灰化が強くて、人工心肺による手術が難しい」という設定になってましたね。
やや専門的なツッコミを入れると、肝硬変の患者さんというのは血清コレステロールが低下しやすくて、動脈硬化は起こりにくいのです。
その辺を考慮に入れたのか、それとも「ひどい肝硬変の患者さんでは、バイパス手術をすること自体がリスキーである」という事実を指摘されたのか、その設定はなくなっていました。
たぶん、マンガを読んで「肝硬変でも手術できる病院があるんだろう!」とか言われた医者がけっこういるんじゃないかなあ…
まあ、まだまだドラマは続くので、今回はこのくらいで。
ちなみに、Y嬢の意見は「あんなに患者さんの前で感情を露わにするのって、医者としては、周りに不安を与えるだけだと思うし、好きじゃない」ということでした。
僕の率直な感想は「う〜ん、あんな同僚を持った出久根君(極楽とんぼの加藤浩次)は、板ばさみになって可哀想やなあ」ということなんですが。フォローするの大変そうだし。
みんなが最良の医者に診てもらおうとすれば若い医者は育たない。
でも、患者さんにとっては、自分の命はひとつだけ。
実際、医者を育てるというのは、根本的に矛盾を抱えていることなのです。
アメリカでは、おおまかに言えば、経験豊富な医師による「良い」医療は金がかかり、
若い医者を育てる病院では、経験の少ない医者が診ることがある代わりにお金がかからない(もしくは安い)というようになっているとのこと。まあ、確かに合理的。
ある意味、日本の医療は患者さんと医療従事者の「善意」で支えられているような気がします。
それも、そろそろ危ない感じなんだけど。