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美術展へ行かなければ 2002-03
2003年10月5日
ピカソ・クラシック 1914-1925 Pablo Pocasso
PICASSO CLASSIQUE
上野の森美術館

◆ "青の時代"からキュビズム期を経て、パブロ・ピカソの画業は"古典時代"と呼称される時期を迎える。過激なエネルギーを発散し続け、痛々しいまでのアバンギャルドなアートを生み出しさえしたピカソであるがこの時期は、家庭を持って社会的にも芸術家として認知され、平穏な生活ぶりを反映した作品を制作した。キュビズムにおける人物や静物を分解し再構築した作品や、ゲルニカなどに見られる感情を表出する為の過激なデフォルメよりは、輪郭が明確な人物を描いた作品が目立つ。だが、ピカソはピカソであって、生涯を通じて維持された作品の質・量・エネルギーは、平穏なこの時期の作品であっても鑑賞者を圧倒する。
◆ 主な出展作品・・・
● 座る女 Femme assise (1920年)
大きな画面に描かれた、大きな手・足・眼・鼻を持つ座した女性。単なる人物像のはずなのだが、得体の知れない強烈な存在感を発散している。
● 馬と調教師 Cheval et son dresseur (1920年)
鉛筆で一筆書きで描かれた8つの作品。真剣な作品なのか、遊びで描いたのか?我々の知るピカソという人間は、その作品を通じて理解される。難解な作品が多いように見えるが、彼の人生と作品を対置させると、不思議とそれぞれの作品を制作している時点でのピカソの心理状況が分かる事もある。ピカソの人生は画材と共にあるという事を、膨大な作品群が語っている。本当に、ピカソという人間は、常に作品を制作していたのであろう。コーヒーでも飲みながら、ついつい何気なく一筆書きで8つの絵を描いてしまったのかもしれない。芸術というと真剣に真面目に、正座するような心持で見るものと思い込む傾向があるが、ひょっとしたらピカソという芸術家は、作品の中に人知れず遊び心を加えているかもしれない。ピカソはひょっとしたら、大美術館に展示されるような作品であっても、真面目に鑑賞しようとする小市民を笑い飛ばそうとして制作していたのかもしれない(まさか)。

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2003年6月29日
ミレー3大名画展
La Dignite des humbles :
Jean-Francois Millet et le naturalisme en Europe
Bunkamura ザ・ミュージアム

◆ 主な出展作品・・・
● ジャン=フランソワ・ミレー Jean-Francois Millet
晩鐘 L'Angelus (1857-59年)
農民と農作業とその周辺を、ただひたすらに描き続けたミレー。ミレーの描く農民の表情は茫洋としており、喜怒哀楽を窺い知る事は出来ない。人物の表情を克明に描く事から来るリアルな感情表現は、意識的に避けられているようにすら思われる。数多くの作品の中で、農民のあらゆる労働の能動的姿勢を捉え、ミレーという芸術家が農民へコンプレックスを持たず、寧ろリスペクトをさえしている事を伺わせる。だがその芸術表現の中に、農民の生活の苦しさに対する同情の類は見られず、土色を中心とした配色を地味に置き、デッサンの厳格さなどは追求せず、極々詩的な表現に終始している。そこにあるのは芸術家としての表現欲求と純粋な感性であり、ミレー自身の生活そのものなのであろう。"晩鐘"という作品の、大きくはない画面の中には、広大な農地と夕刻の空、男女の農民の祈りの姿が、極めてシンプルに描かれている。決して彼らの生活の切実さを描こうとしているのではなく、ミレー自身の芸術の発露でしかないハズであるにも関わらず、描かれた人物像が鑑賞者の共感を強く呼び覚ます。
● ジョン・エバレット・ミレイ Sir John Everett Millais
盲目の少女 La Petite aveugle (1854-56年)
同時代の作品とは言え、一瞬、他の作品とは場違いであると感じさせる、ラファエル前派の代表的な作品。淡い緑色の草原と青い空に現れた二重の虹と、二人の少女の存在のコントラストが、何か切実に物悲しい。

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2003年2月23日
メトロポリタン美術館展 -ピカソとエコール・ド・パリ-
PICASSO AND THE SCHOOL OF PARIS
PAINTINGS FROM THE METROPOLITAN MUSEUM OR ART, NEW YORK
Bunkamura ザ・ミュージアム

◆ 主な出展作品・・・
● パブロ・ピカソ Pablo Picasso
盲人の食事 The Blind Man's Meal (1903年)
いわゆる"青の時代"の、典型的な作品。青系統の色彩で覆われた画面、意味深長に描かれた人物。若くして写実的な描写技法を完璧に学び取ったピカソが、20歳にして早くも画業の第一の頂点を極めてしまった。画面の人物は、ピカソの圧倒的な創造のエネルギーを受けて、振動するかのような怪しげな光りを発するかの如く、鑑賞者の視点をクギヅケにする。
● パブロ・ピカソ Pablo Picasso
白い服の女 Woman in White (1923年)
アングルに影響を受けたという、新古典主義時代の作品。あらゆる対象をデフォルメし続け、これ以降も続けていくピカソの、写実的な作品を制作した一時期。写実的であるといっても、ピカソというアーティストの個性を消してしまうものでは全くない。彫像のような堅固な力強さを持っており、鑑賞者に作品と対峙する事を要求するような圧迫感がある。
● アメデオ・モディリアーニ Amedeo Modigliani
ジャンヌ・エビュテルヌ Jeanne Hebuterne (1919年)
モディリアーニの、例によって、赤系統の色彩で描かれた、弓のようにしなった女性の像。画家の持つスタイルの個性、強烈さ、そのように描かれるべき必然性、それを認める鑑賞者。作品の制作中に作者は、彼の作品が世界中の鑑賞者によって賞賛される事を認識してはいないだろう。だが、自分の作品が個性的で優れた作品であると考えているハズである。でなければ、この作品は作られはしない。弓のようにしなった女性を、人はどのように見るのであろうか?美しいと見るか、醜いと見るか、感嘆して見るか、嘲笑して見るか?こう考えると、実に不思議な作品である。少なくとも、これからもモディリアーニの作品は我々の記憶に残っていく。

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2003年2月8日
ドイツ表現主義の芸術
Deutscher Espressionismus - 1905 bis 1925
府中市美術館

◆ 主な出展作品・・・
● エーリヒ・ヘッケル Erich Heckel
横たわる女 Liegende Frau (1918年)
うつ伏せに横たわる女の上半身。キュビズム的視点で人物が捉えられ、空間が歪められている。また、人物像には、ドイツ表現主義に共通するテイストも漂っている。第一次大戦前後の緊迫した情勢の中で、芸術にも少なからぬ影響を与えずにはおかない。"横たわる女"の、何を見ているか分からない空ろな眼差しが語るものは何だろう。第二次大戦前のドイツで、表現主義の作品の多くは、当局から"頽廃芸術"と決めつけられる。芸術作品を"頽廃的"だと決定する権限を有する体勢、"頽廃的"な芸術を生んだ時代の明るからぬ情勢。芸術のもつ意味の変容と、変容を拒否する芸術の自由性。芸術家が、常に周囲の状況を作品の中に意識的に込めるという事はないであろうが、後世の鑑賞者が同時期の作品をまとめて見る場合、表現主義の作品群ほど明確に時代性を鑑賞者に意識させるものはないだろう。
● フランツ・マルク Franz Marc
木の下の猫 Katze unterm Baum (1910年)
青色の太い木の幹の背後で眠る猫。現実には有り得ない色彩が、そこには与えられている。だが猫には、リアルな手法で描かれた猫以上に、リアルな佇まいを感じさせる。マルクの、動物に対する並々ならぬ執着が感じられる。

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2002年12月7日
スーラと新印象派展
Georges Seurat et le Neo-Impressionnisme 1885-1905
損保ジャパン東郷青児美術館

◆ 主な出展作品・・・
● ジョルジュ・スーラ Georges Seurat
クールブヴォアの橋 Le pont de Courbevoie (1886冬-87年)
後期印象派の代表的なアーティストであるジョルジュ・スーラ、彼が世に広めた点描画法で描かれた作品。細かい色点をイッパイに打った画面を距離をおいて見れば、人間の視覚が認識しうる形態となっている。スーラは単に点描画法という技法の斬新さだけではなく、この技法を自分の表現したい芸術と見事に合致させ、独特の静謐な世界観を実現している。彼の技法を模倣するアーティストの作品を、この展覧会では見せてくれている。それぞれ個性的で素晴らしい作品だが、スーラの作品はやはり群を抜いて印象が強い。まず表現したい芸術観があり、それに点描画法が見事にフィット、作品の完成度と衝撃度が高かった故に、追随者を多数生んだという事であろう。
● ポール・シニャック Paul Signac
サン=トロペの松林 Saint-Tropez. Soleil couchant sur la ville (1892年)
くすんだ黄色系の色を多用した、他の点描技法を使ったアーティストの作品とは一線を画す独自の作風。風景画に自然界では有り得ない原色を用いて、もう一方の革新的な技法を現した、ゴーギャンの初期の作品にも通じるものがある。

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2002年9月16日
コロー、ミレー、バルビゾンの巨匠たち展
THE NAKAMURA COLLECTION --- PLEIADES BARBIZON SCHOOL
損保ジャパン東郷青児美術館

◆ 19世紀中盤に、風景画家の俊英達がフランスのバルビゾン村に集合、フォンテーヌブローの森の景観を、飽く事なく描き続けた。この展覧会では、小品が中心ではあるが、コローやミレーなどの自然描写の妙技を堪能する事が出来る。自然の景観を絵画の画面に定着させると、なぜか画家それぞれの個性が現れ、描写方法が異なるのが分かる。フォンテーヌブローの森に対する、アーティストそれぞれの美観の違いを鑑賞できれば、会場まで足を運ぶ意味があったと言えるかもしれない。
◆ 主な出展作品・・・
● ジャン=フランソワ・ミレー Jean-Francois Millet
葉巻を持つ男の肖像 Portrait of a Man Holding a CIgar (1843-45年頃)
ミレーの肖像画は、自然を描写するのと同様で、とてもシンプルである。黒と茶を中心に組み立てた画面が、静謐な感覚を見る者に与える。
● コンスタン・トロワイヨン Constant Troyon
牧場の牛と羊の群れ Flock of Cows and Sheep in the Meadow (1862年)
牛と羊の、単にたむろさせているだけでなく、人格を与えているかのように見える描写がユニーク。

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2002年8月4日
ミロ展
JOAN MIRO:1918-1945
世田谷美術館 SETAGAYA ART MUSEUM

◆ バルセロナが生んだモダン・アートの巨匠、ミロ。子供が描いたかの如き、単純なフォルムの連なり。だが、画面全体をよく観察すれば、単に描き散らかしたのとは正反対の、計算された画面構成である事が理解される。しかも、展覧会という形で一箇所に集められたミロの作品の多様なデザインには、本当に驚かされる。
◆ ミロの発言には、"既存の絵画を破壊させる、云々"といった、アナーキーとすら形容できるような、過激な発言が見受けられる。確かにミロの作品は、単純化した人間の姿や星や動物といった"素朴"なパーツを組み合わせて画面を作っているだけであるのに、信じ難いほどに力強いパワーを見る者に感じさせる。だが時代は経過し、ミロの作品もきっと、発表当初ほどの衝撃性は、我々に与えてはいない。ミロの発言とは裏腹に、ミロの作品は"破壊"などではなく、非常に高度な次元での"創造"なのである。現代に至ってその"創造"の客観的な価値は純化され、ミロの作品を見ること自体が創造的な行為であるとすら言える。そこには、破壊的な衝動などではなく、平穏な喜びだけが存在する。
◆ 主な出展作品・・・
● ロバのいる野菜園 Vegatable Garden and Donkey (1918年)
ロバ、建物、野菜園・・・単純な素材を、不思議な縮尺で並べている、素朴な絵画。だが、何かしら圧倒的なエネルギーを発散しており、ついつい意識が引き込まれてしまう。

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2002年3月21日
プラド美術館展
PRADO ・・・ Obras Maestras del Museo del Prado
上野・西洋美術館

◆ ルネッサンス以降、近世の絵画を展示。ベラスケス、ティッツィアーノ、ゴヤ、ブリューゲル等の作品が見られる。
◆ 主な出展作品・・・
● エル・グレコ EL GRECO
洗礼者ヨハネと福音書記者ヨハネ San Juan Bautista y San Juan Evangelista (1600-07年頃)
エル・グレコ特有の、炎のように揺らぐ人物像。アカデミックな写実的でなく、デフォルメに近い感覚で、作者の自由な意思で人物が描かれているところに、1600年代の作品とは思えない近代性を備えている。
● ディエゴ・ベラスケス・デ・シルバ DIEGO VELAZQUEZ DE SILVA
彫刻家ファン・マルティネス・モンタニェース El escultor Juan Martinez Montanes (1635年頃)
人物の性格を完全に写しとっているかの如く、透徹した視点で描く肖像画。

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2002年2月10日
レオナルド・ダ・ヴィンチ[白貂を抱く貴婦人]
LEONARDO DA VINCI / Lady with an Ermine
チャルトリスキ・コレクション展
TREASURES FROM THE PRINCES CZARTORYSKI MUSEUM
横浜美術館

◆ ポーランド最古の美術館、チャルトルスキ美術館より貸与された、ルネッサンス期の絵画・工芸品等を展示。
◆ 主な出展作品・・・
● レオナルド・ダ・ヴィンチ LEONARDO DA VINCI
白貂を抱く貴婦人 Lady with an Ermine (1940年)
ルネッサンス期の大芸術家、革新的画家、ダ・ヴィンチの数少ない絵画作品のうちの一つ。

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2002年1月14日
ウイーン分離派 1898-1918 クリムトからシーレまで
The Vienna Secession 1898-1918
Bunkamura ザ・ミュージアム

◆ 19世紀と20世紀の移り目に活躍した芸術家集団、ウイーン分離派。アカデミックで正統的な芸術に飽き足らなくなったアーティストが、芸術的な自由を指向し、活動した。クリムトとシーレが中心であるが、やはり、ウイーン分離派のアーティストの作品の多くには、共通の作風がある。公共建築を装飾する技量を持つ芸術家が、"芸術の自由"を指向する時、そこには幾ばくかの"退廃的"傾向を内在させる。いわゆる世紀末的な、ニヒリズムとも言うべき、独特のムードを漂わせる。
◆ 主な出展作品・・・
● グスタフ・クリムト Gustav Klimt
パラス・アテネ Pallas Athene (1898年)
黄金の鎧に身を包んだ、ギリシア神話のキャラクター。正方形の画面の中で正面を向ける人物は、単なる絵画である以上に、作者の強烈なメッセージを託されているようでもある。

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