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2005年6月12日
ルーブル美術館展 19世紀フランス絵画 新古典主義からロマン主義へ 横浜美術館 |
◆ アングルの傑作を中心に、ダヴィッド、プリュードン、ジェリコーなどの作品を展示。フランス革命期から7月革命あたりの時代の作品が中心。この、人類史上でも類を見ない激動の時代に、絵画表現も驚くほど多様化したという事実を目にする事が出来る。芸術家の表現欲求はそれまでの芸術的な規範を超え始め、モダン・アートまで突き進んでゆく。
◆ 主な出展作品・・・
● ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル Jean-Auguste-Dominique Ingres
スフィンクスの謎を解くオイディプス OEdipe expliquant l'enigme du sphinx (1908年)
新古典主義の巨匠とされるアングルだが、人物のデッサンは至高の理想美を通り越して、シュールとさえ言える境地に達している。この点では、激しい筆致を追及したライバルのドラクロワの人物像さえ普通に見えるほど。このアングルの初期の作品では、独自の芸術観が若さゆえの直裁さと強烈さで表現されている。ロマン主義に対する古典主義の代表者として語られてきたアングルだが、21世紀の今日的視点で見れば、アングルの作品もロマン主義的な要素を多く含んでいる事が分かる。
● ジャック=ルイ・ダヴィッド Jacques-Louis David
シャルル=ルイ・トリュデーヌ夫人 Madame Charles-Louis Trudaine (1791-2年?)
赤を背景に、腰掛けた一人の女性の肖像。常に人物を徹底して客観的に描いたダヴィッド。制作年が1791-2年と考えられているが、それはフランス革命が最も劇的な局面に差し掛かる激動の時期。過去の価値観が崩れて新たな価値観が生み出されるまでの間の、人々の空虚な心理状態を、巨匠が巧みに捉えた傑作と思えるが、深読みに過ぎるであろうか?
● ギヨーム・ボディニエ Guillaume Bodinier
イタリアの結婚の契り Le contrat de mariage en Italie (1831年)
婚約者達、その家族、契約書を起草する公証人。歴史画を描くような見事な筆致で、地方での婚約の場面という風俗的な題材を描いている。一見、神聖な儀式を描いている絵画という趣だが、各人物の表情に人間的な喜怒哀楽が現されている。完璧な画面構成と人物の表情のコントラストが、何ともユニーク。作者は、何を最も表現したかったのであろう。
2005年4月29日
南仏モンペリエ ファーブル美術館所蔵 魅惑の17-19世紀フランス絵画展 French Paintings from the Musee Fabre, Montpellier 損保ジャパン東郷青児美術館 |
◆ 主な出展作品・・・
● シモン・ヴーエ
賢明の寓意 (1645年頃)
ヴーエ特徴である、丸みを帯びてはいるが明確な輪郭線。この展覧会は製作年が17世紀から20世紀と幅広い。バロック期に描かれたこの作品は、比較的コンパクトなサイズであるし、際立って明るい青を用いるなど少しモダンな感覚を帯びており、意外と違和感がなかった。
● ジャック=ルイ・ダヴィッド
アルフォンス・ルロワの肖像 (1783年頃)
巨匠ジャック=ルイ・ダヴィッドの描く、際立って堅固なデッサン力を見せ付ける肖像画。抜群の安定感が、光彩を放っていた。
● フレデリック・バジール
路上で歌うイタリアの少女 (1866年)
初期の印象派の中でも大きな存在感を示すバジール、この絵画もすぐに筆者の目を引いた。風景を多く描いたバジールの、珍しく街路での人物を捉えた作品。このアーティストの画歴がもう少し長かったらと思わずにはいられない。
2004年11月23日
マティス展 Henri Matisse 国立西洋美術館 |
◆ フォービズム(野獣派)とまで呼ばれた20世紀初頭の前衛芸術だが、マティスの作品には、今日的な視点で見れば古典的であるとさえ言える静謐さすら備わっている。荒い筆致のデッサンに、乱雑に撒き散らされたかのような色彩。一見するとインプロビゼーションで筆を動かしているようのようだが、実は入念に、考え抜かれた末に描かれた絵画。理解を超えたマティスの感覚だが、衝撃的とさえ言える色彩群に、鑑賞者は同化していくしか道はない。
◆ 主な出展作品・・・
● ナスタチウムとダンス Capucines a "La Dance" (1912年)
手を取って輪になって踊る裸婦を描いた、一連の作品、花瓶を輪の中心に置いたバージョン。画面上方に置かれた青が網膜を刺激し、水中を漂っているかのような錯覚を引き起こすかのよう。
● イタリアの女 L'Itarienne (1916年)
正面を見据えた女性像の背景が、マティスには珍しくグレー系の色彩で覆われている。女性の右肩は、まるで切り取られてしまったかのように、背景のグレーで塗りつぶされている。時代を超えた前衛的なフィーリングに、快感すら覚える。
(記 2005.4.29)
2004年11月13日
ピカソ展 -躰とエロス- パリ・国立ピカソ美術館所蔵 Picasso Metamorphoses:forme et erotisme 東京都現代美術館 |
◆ 昨年の "ピカソ・クラシック 1914-1925" に続き、1920〜30年代という更に大きく変貌を遂げた時期の、パブロ・ルイス・ピカソの芸術を堪能出来る。いつもながら驚かされる、ピカソの作品の量と質。デッサン、油彩、彫刻それぞれの手法で、一つのモチーフの展開形が次々と生み出される過程を、まるでピカソのアトリエに滞在して目の前で製作しているのを見るように、感じ取る事が可能である。日記を書くように作品を製作したとピカソ自らが語っているように、イメージするフォルムを即座に作品としていった状況を、よく理解する事が出来る。キュビズムという芸術的な革命を起こした後、"古典的"な安定した作風で社会的な成功を収めたが、自分でその安定した生活に対して嫌悪感を表現するかのような人物のデフォルメが目立つ。デフォルメと再構成、内的な衝動の表出、新たな幸福感の獲得とその表現。美と醜悪。この時期のピカソの作品が、一般的に捉えられているピカソの作品の持つイメージに最も合致しているかもしれない。
◆ 二つの大きな戦争の狭間という不安的な時代の持つ特性、シュルレアリスムという大きな潮流を生み出した芸術的時代的な背景。混沌の時代が織り成す波打つようなウネリと、ピカソ個人が持つ余りにも強烈な芸術的エネルギーが、驚くべき連鎖反応を引き起こしている。"古典期"までの作品には見られなかったグロテスクなまでに直接的衝動的な表現、あるいはクルクルと波打つような女体という幸福感を伴った表現方法を駆使して、雪崩を連想させるように次々を作品を吐き出して行く。もはや人間の持つ平均的な能力を大きく超えた、超絶的なエネルギー。そしてピカソの芸術は、1937年に製作されたあの"ゲルニカ"という一つの頂点へ収斂して行く事となる。
◆ 主な出展作品・・・
● 人物と横顔 Figure et profil (1928年)
マサにピカソ的な、人物とは呼べない人物の、奇怪さと滑稽さと悲哀を含んだ表情。本当にこれを実在の人物として描いたとすれば、その画家の内面というのはどのような世界観を示しているのだろうか。
● 読書 La lecture (1932年)
マリー=テレーズをモデルとして描いた、この時代特有の、キュビズム的な手法を用いた丸みを帯びた女性の身体。円弧に近い曲線で描かれて微笑みを浮かべさえしているマリー=テレーズを描いた作品群は、ピカソの幸福感を表現したしたものと言われている。だがその幸福感は通常の幸福感ではなく、何か普通ではない別の側面すら強く感じさせるものである。ピカソの作品の一つ一つは、混沌を伴った超強力な多面体のごく一部分の側面であるとは、既に我々が良く知っている事である。
◆ 東京都現代美術館
2004年8月16日
ニューヨーク・グッゲンハイム美術館展 MASTERPIECES FROM THE GUGGENHEIM COLLECTION モダン・アートの展開 −ルノワールからウォーホールまで− FROM RENOIR TO WARHOL Bunkamura ザ・ミュージアム |
◆ 主な出展作品・・・
● オーギュスト・ルノワール Pierre Auguste Renoir
女性とオウム La Femme A La Perruche (1871年)
明るい色彩を主体にした作品が多い印象派の画家の中で、異例に黒を強調した作品の多いルノワール。女性の黒いドレスの表現が見事。この展覧会では、印象は以降のモダン・アートの秀作が多数展示されており、このルノワールの作品が最も写実的である。だが、印象派の画家というのは、モダン・アートの先駆であるというのを強く感じさせた。他の印象派の画家の作品と比較して、ルノワールは人物を写実的に描いたという感が強いが、この展覧会の作品の中でも、ルノワールの人物画にも非常に強い個性があり、強烈な芸術観に導かれて描かれた事が理解出来る。
● アンリ・ルソー Henri Rousseau
砲兵たち Les Artilleuers (1893-95年頃)
背景の木々などは丹念にリアルに描かれているが、人物や銃は何とも子供じみたデッサン。だが、滑稽なほどアンバランスな構成ではあるが、堂々たる油彩画として極めて丹念に制作されている。見れば見るほど、何とも不思議な作品。ルソーの作品がピカソなどから賞賛を受けたのは、何とも不思議な巡り合わせではある。時代的な意味でも、美術史に名前を刻んでいるのは非常に幸運であると言える。だが、ルソーの芸術に普遍的な価値を認めようとするのには十分に意味があるし、だからこそルソーの名声は今日まで持続しているのである。
● パブロ・ピカソ Pablo Picasso
黒いマンティーラを掛けたフェルナンド Fernande A La Mantille Noir (1905-06年)
ピカソの作品といえば、作品自体に強烈な感情表現を見せている場合も多いが、人物の表情はデフォルメされて人間味は薄い。だが、黒と茶という地味な色彩で描かれたこの作品の人物は、何か非常にもの悲しい。他の作品と違い、完成した作品が意図しないにもかかわらず物悲しくなった、という感が強い。"青の時代"の強い残像と、"キュビズムの時代"の微かな予兆を感じる。
● フランツ・マルク Franz Marc
白い雄牛 Stier (1911年)
フランツ・マルクは、なぜ動物を主な主題に選んだのだろう。その理由を追求する事に、あまり意味はないのかもしれない。彼の作品には、青を中心とした色彩を背景として、丸みを帯びてはいるが堅固な動物の像がある。そこには制作者の強烈な主張などは感じられず、普遍的な安心感を鑑賞者に与えてくれる。
● マルク・シャガール Mark Chagall
画家の妹アニュータの肖像 Portrait Of The Artist's Sister Aniuta (1910年)
シャガールといえば、柔らかい幻想的な画風が著名である。肖像画も柔らかい筆触で描かれてはいるが、客観的でドライに感じる。
● ピエール・スーラージュ Pierre Soulages
絵画1953年5月 Peinture, Mai 1953 (1953年)
高さ2メートルのキャンバスにたたきつけるように描かれたた、縦横の黒々とした帯。モダン・アートが、単なる絵画というよりは、近代建築の装飾の一部であるという事を強く感じさせる。
2004年5月4日
ウイーン美術史美術館所蔵 栄光のオランダ・フランドル絵画展 Flemish and Dutch Paintings from the Collection of the KUNSTHISTORISCHES MUSEUM WIEN 東京都美術館 |
◆ 主な出展作品・・・
● ヨハネス・フェルメール・ファン・デルフト
Johannes Vermeer van Delft
画家のアトリエ(絵画芸術)
Die Malkunst (1665/66年頃)
至高の画家、フェルメールによる代表的な作品。作品に描かれている題材は、静謐な室内、白と黒の格子柄の床、壁に掛けられた地図、楽器を持った女性などは、当時の他のフランドルの画家達のものと大きく違うという事はない。だが、フェルメールの作品はナゼか違う。高い絵画技術を持っているのは間違いないだろう。光と影の描写、静物や服地の陰影や色彩の見事さ、人物のデッサンの的確さ・・・。各要素に分けて鑑賞してみても、どれも素晴らしい表現力である。だが、フェルメールの作品には、21世紀に生きる我々を納得せてしまう、何か現代的なバランス感覚がある。同じ題材を使用しているハズの他の画家と比較して、ビジョンが何ともリアルなのである。"画家のアトリエ"の中では、"楽器を持った女性のモデル"を写生している"画家"の後姿が神秘的に見え、"絵画芸術"という副題は我々を納得させるものがある。"画家"のソックス(?)の赤と、女性がナゼか持っている本の黄色が、アクセントとなって鑑賞者の眼を引く。それ以上に筆者の眼が行ってしまったものに、画面の下の方に描かれている椅子である。この椅子はカーテンの陰の暗い場所に置いてあるという設定であるが、作品の実物を見ると少し赤味掛かった茶色で、何か生命が宿っているような妙な存在感があった。壁に掛かった地図、地図と重なって描かれているシャンデリア、これまた非常にリアルである。しかしそれ以上に、人物や物の配置がリアル、画面自体が時代を超越して何かリアルなのである。フェルメールは、絵画という芸術に関して、少なくとも他の画家以上に強いコダワリを持っていたのは間違いないであろう。
● アントーン・ファン・ダイク
Anton van Dyck
マリアと福者ヘルマン・ヨーゼフの神秘の婚約
Mystische Verlobung des Seligen Hermann Josef mit Maria (1629/30年頃)
肖像画が著名なファン・ダイクであるが、大画面の宗教画も見事。ルーベンスと同時代のアーティストである事を証明する、バロック的なダイナミックさが示されている。しかし、ルーベンスのうねるような激しい表現が、人物の冷静な描写に置き換えられているのが、ファン・ダイク的と言えるだろうか。
2004年5月1日
モネ、ルノワールと印象派展 Monet and Renoir : Two Great Impressionist Trends Bunkamura ザ・ミュージアム |
◆ ルノワールの作品は人物画が中心、モネ、シスレー、ピサロ、シニャックなどは風景画が中心、という構成。
◆ 主な出展作品・・・
● オーギュスト・ルノワール Auguste Renoir
麦藁帽子のガブリエル Gabrielle au chapeau de paille (1900年)
ルノワールの人物画の特徴は著名で、誰が見てもそれと分かる。丸い輪郭と橙と緑を中心にした色調を多用した人物画は、対象が女性でも裸体でも子供でも、晩年まで変わらない。画風を大きく変化させるアーティストなどと比較すれば、極論すれば、どれも同じとさえ言える。印象派は台頭した当初は前衛であったが、今日の我々の眼から見たルノワールの画風は、前衛という言葉からは遠く離れてた穏やかなイメージを喚起する。芸術一般に纏わりつく事が多い、孤高、執着、没入、冷徹、などという言葉とも無縁である。色彩に溶け込んでしまうような淡いイメージの丸い人格の人物像が、無機的な都会での我々の生活の中で、忘れていた何かを思い出させてくれるのかもしれない。
● クロード・モネ Claude Monet
アルジャントゥイユの鉄橋 Le pont de chemin de fer a Argenteuil (1873年)
モネの作品といえば、光の捕らえ方が"印象"的。この作品は鉄橋の堅固な描き方が特徴的。背景の晴れた空と川が快適なまでに青くに、鉄橋の灰色と絶妙なコントラストを生み出している。画面に漂う空気の中に初夏の暖かさを感じさせ、緑の敗色は少量ではあるが、強烈な生命感が満ちているように思える。
● ポール・シニャック Paul Signac
ポン・デサール、パリ Le Pont des Arts, Paris (1925年)
シニャックといえば点描画であるが、製作年を見れば1925年、スーラが起こしたムーブメントが発生してから30年以上経過しているのである。この作品の様式美は、同一の画法に拘っただけあって、見事までに絶妙である。
2004年2月11日
マルモッタン美術館展 -マネとモリゾ- The Marmottan Monet Museum Exhibition Japan 2004 東京都美術館 |
◆ 巨匠クロード・モネと女流画家ベルト・モリゾを中心に、印象派の作品を展示。
◆ 主な出展作品・・・
● クロード・モネ Claude Monet
プールヴィルの海岸、夕日 La plage a Pourville, Soleil couchant (1882年)
赤を中心に描かれた海岸と夕日。印象派という呼称の語源となった作品、"印象・日の出"を連想させる。自分のビジョンを表出させる為に選択された独自の荒い筆致が、並々ならぬエネルギーを感じさせる。
● クロード・モネ Claude Monet
日本の橋 La pont japonais (1918-24年)
赤・青・緑などを厚塗りし、題名を見なければ橋の原型を連想する事が出来ない絵画。連作として、"日本の橋"と、著名な"睡蓮"が展示されている。モネの睡蓮の連作などについては、余りにも著名過ぎて、今まで特に注視して来なかった。だが、実際の作品を目の当たりにすると、予想外の迫力に驚かされる。マネの晩年といえば、絵画史的にはフォービズムの後、キュビズムの只中の時期に当たる。モネがこれらの前衛に対してどの位の知識を持っていたかはよく知らないが、モネの睡蓮や日本の橋の連作の前衛性は、ピカソやマティスの作品の持つ前衛性やパワーに勝るとも劣らないという事を知らされた。やはり、著名な美術作品の現物は直接見るべきである。
● ベルト・モリゾ Berthe Morisot
立葵 Roses tremieres (1884年)
エドゥアール・マネの義理の妹であるベルト・モリゾの作風は、やはり印象派である。自分の家族を多数描いた作品群には、前衛的な厳しさよりは、女性的な暖か味や安心感がある。直立する立葵を描いたこの作品は、彼女の作品の中では、どちらかと言えばスクエアなイメージを与える。