グリッドコンピューティングには懐疑的 ソフトウェア業界では、XMLのWebサービスに加えて、 グリッドコンピューティングというものが、ブームになってはやっている。 私はこれらに懐疑的である。 ソフトウェア自動生成をやりたいと言っても、 どう良いのか、絵空事でないのか、素人でも分かるように説明できないとやらせてもらえないのに、 じゃあ、Webサービスや、グリッドコンピューティングはどこがどう良いの?絵空事でないの? と聞いても、誰も私の納得のいく説明はできないだろう。 私の感覚でいくと、Webサービスは、本質的にはCORBAとなんら変わらないし、 グリッドコンピューティングは、分散処理・並列処理となんら変わりはない。 WebサービスとCORBAで違うところは、使うプロトコルが、 CORBAがOSIのネットワーク7層モデルのトランスポート層・ネットワーク層のTCP/IPなのに対し、 Webサービスは7層モデルの層のアプリケーション層・プレゼンテーション層のHTTPに変わったことで、 UDDIレジストリは、CORBAのネーミングサーバーと同じようなものである。 グリッドコンピューティングと分散処理・並列処理で何が違うかというと、 古典的な分散処理・並列処理ではLANなど比較的タイトな結合が多かったが、 グリッドコンピューティングでは、それがインターネットのWANに変わっただけだ。 CORBAや分散処理・並列処理で目ぼしい研究成果がないと思われることを鑑みると、 形態が変わだけなので、 Webサービスをやっても、グリッドコンピューティングをやっても、 ソフトウェアプロダクトが、TCP/IPのCORBAがHTTPのWebサービスに変わるだけ、 LANの分散処理・並列処理がWANのグリッドコンピューティングに変わるだけ。 私の感覚では、CORBAや分散処理・並列処理と同じようなソフトウェアをもう一度つくることでしかない。 可能性がないわけではなく、やっているうちにイノベーションが起きて、 何かか変わるという期待を持っている人が多かろうが期待しないほうがいい。 CORBAが出たときは、スタンドアロンコンピュータと端末の世界から、 LANのネットワークでワークステーションがつながった世界に変わる時期だった。 これからは分散コンピューティングということでそれでCORBAが持てはやされた。 今に目を転じてみると、LANのネットワークでワークステーションがつながった世界から、 インターネットで世界中の人々がつながる世界に変わる時期である。 それで、HTTPのインターネットを使ったWebサービスが持てはやされているように見える。 インターネットで世界中の人々がつながった世界に移行してしまったら、Webサービスもすたれる。 グリッドコンピューティングは、インターネットにつながっている遊休コンピュータに処理を分散させて、 大規模な計算や処理を、透過的にリソースを必要なだけ使ってということができると言われているが、 私はこれに懐疑的である。 分散するときに転送するデータ量が少なくて、少ないデータ量で膨大な計算が必要になるような アプリケーションがあれば、それはグリッドコンピューティングで恩恵を得るかもしれないが、 私の感覚からすると、そのようなアプリケーションはごく稀であり、 普通のアプリケーションでは、データ転送にかかるオーバーヘッドの方が大きくて使えないだろうというのが 私の予想である。 グリッドコンピューティングで私が期待できるのは、データを分散してレプリカを作り、 それが透過性を持ち、どこかのコンピュータが故障したり、ネットワークが切れたりしても処理が続けられる ようになることだが、それをするなら、既にサーバー多重化の技術があり、 これをインターネットを介した多重化にすればよい。 何も大風呂敷を広げてグリッドコンピューティングと言う必要はない。 CORBAがすたれてきている理由は、CORBAを使ったアプリケーションを作るのが難しいということに 最大の問題があったと私は感じる。 CORBAがWebサービスになっても、ソフトウェアの作り方は変わっていないので、 現状のままでは、Webサービスを使ったアプリケーションを作るのが難しく、 これが改善されないかぎり、WebサービスもCORBAと同じ道をたどる。 グリッドコンピューティングは、多くの人は基盤を作ることにばかり目が行っているようだが、 その上で動くアプリケーションというものを具体的にちゃんと想定しているのだろうか。 はなはだ疑問である。 グリッドコンピューティングも、LANのネットワークでワークステーションがつながった世界から、 インターネットで世界中の人々がつながる世界に変わる時期にホットになっているに過ぎない。 2003年 7月29日 作成 2006年 9月26日 更新