腕。

 目を開けた瞬間、ソレはわたしの目の前にあった。筋骨隆々としているわけじゃないが、一目で鍛えられているとわかる腕。そして、ソレが誰の物か、わたしは知っている。 衛宮士郎。

 わたしの大切な家族で。

 同時にわたしにとって最も愛すべき男性。

 彼は未だに眠っていた。静かに上下する露わとなった胸からわかる。その胸は腕と同様に鍛えられていて、その広い胸に抱かれたら安心するほかない事も、わたしは知っていた。

「ん……」

 少し身じろぎし、太腿を擦り合わせる。昨夜の事を思い出してしまったのだ。昨夜の彼は一言で表すなら――激しかった。月並みだがその一言に尽きる。ヤメテッ、とわたしが叫んでも彼は止めるどころかその動きをより激しくした。

 繋がった故の幸福感、貫かれたための激痛。その二つに苛まされたわたしは本当に気が狂ってしまいそうだった。前者は良い、いや、むしろ幾らでも味わいたい。だが、後者を散々なまでに味あわされたのはどういうことか。彼はケダモノだ。……うん、実際、味わったわたしが認定する。

 それでも、これが惚れた弱み、とでも言うのか。目の前にある彼の身体を見ても、激痛をもたらした元凶としての恨みよりも、その熱さ、その心地よさを思い出してしまう。

 ごくり、と喉を鳴らす。そしてわたしの指は彼の胸をゆっくりと這う。少しだけねっとりとする感じ。それもまぁ、当然か。すでに乾いたとはいえ、昨夜はあれだけ汗をかいたのだ。

 ふと、這わせていた指を止める。そこに付いているのは彼の汗。凝縮されたソレはきっと塩辛いのだろう。じっと自らの指を見詰める。

 ――舐める。やっぱり塩辛い。ただ、それだけなのに……どうしてわたしの身体は昂ぶるのだろう? 言うのもなんだが、わたしは昨夜のが『初めて』だった。なのに、こうなるのはわたしが淫乱という事だろうか? ……まぁ、別にそれでも構わない。それで彼が側に居てくれるのなら。










新しい朝















 嬉しかったのだ。

 彼がわたしに襲い掛かってきた時、わたしはとても嬉しかったのだ。実際の所、それはわたしから誘った様なものだったのだけれども、それでもわたしを女として意識してくれたことが嬉しかったのだ。

 自分の身体を見やる。それなりには成長した、けど、わたしにとってコンプレックスでしかなかった身体。少なくとも同年代の平均からしたら、わたしの身体は全ての項目を下回っているだろう。つるぺたろり。友人にそう評された事もある。……いや、さすがに『ろり』はなかった。わたしだって二十歳を過ぎたのだから。

 そんなことを考えながら彼の寝顔を観賞したり、その生理現象に少々驚いていたのだが、時計を見ればいつもなら起きて彼が朝食を作り始めている時間。だけど、彼はまだ起きない。……もしかしたら、これは良い機会なのかもしれない。わたしだって料理くらいできるのだ。だけど、彼の方が美味しいので結局いつも彼が作っている。けど……今日ぐらい新妻気分を味わっても良いと思う。

 わたしは彼が起きないうちに、と思って急いで台所へ走っていった。














「ん……んん……」

 目が覚める。季節は春だというのに少し肌寒い。不思議に思って見れば、見えたのは自分自身の胸。裸だ。一応、布団をめくってみても見えたのは自らの聳え立った物。その聳え立った物の根元に赤いモノが在るように見えて、昨夜のことを思い出す。

 陰鬱な気分だった。いや、別にその行為自体に後悔があるというわけじゃない。本音を言ってしまえば前から度々、彼女に女を感じてその度に自制していたのだ。彼女の潤んだ瞳、白い首筋、それらを間近で見る度に何かが落ちる。それでも、いつもならちゃんとブレーカーを上げるかのようにそれを直していた。

 だけど。

 夜更けに。

 薄い寝間着一枚で。

 布団の中に潜り込んでこられたら――

 いつものように俺の頭の中で何かが落ちる。直そうとしても直せない。直そうとする度にその柔らかい感触が、透き通る白さが、逆に何かを落としていった。

 そして、気付いたときには俺は彼女を組み伏せていた。驚愕に満ちる彼女の顔を覚えている。俺はそんな彼女に口付ける。いや、口付けなんて生易しいもんじゃない。貪ったのだ。唇を開かせ、その中にある舌を吸い、俺の舌と絡ませあう。貪っている間、苦しそうに鳴る彼女の声で俺はより欲情した。手は彼女の身体を這いまわり、鬱陶しくなった寝間着を破り捨てるかのような勢いで剥ぎ取る。寝間着を剥ぎ取れば何も邪魔するものはなかった。胸にも腰にも何もない。今思えば「窮屈だから」と言って彼女が寝る時に下着を着けていない事は知っていたはずだ。だけど、そのときの俺にはそれは誘っているのだと、そうとしか思えなかった。それで俺の欲望は業火のように燃えさかり、ただスルことしか考えられなくなった。故に手は彼女を昂ぶらせるためだけに這いまわり、彼女を弄んだ。そして最後――

 ――その後、何度シタのかはっきりとは覚えていない。覚えている事といったら彼女が苦痛に顔を歪め、何かを叫んでいたのに欲望を吐き出すためだけに獣欲を剥き出しにしていた事くらいだ。

 マズイ事をした。本当にそう思う。いや、彼女とシタことに関してじゃない。彼女は最高だった。肌は手に吸い付いてくるようだし、感度も最高だ。ある意味、理想の女性と言えるだろう。マズイ事というのはほとんど無理矢理だった事だ。彼女が俺に対して好意を抱いている事ぐらい、いくら鈍い俺でも気付いている。だけど……さすがに無理矢理はマズイ。

 頭を抱える。本当なら、実際に彼女とスルのかどうかはともかく、優しくするはずだった。当然だ。彼女は初めてなのだから。しかし、あんな事になってしまった。全て俺の責任だ。いくら彼女の服装が、行動が無防備だといえ、俺が我慢すればよかったのだ。今までだってそうしてきたのだから。……思考がループしているような気がする。寝起きだからだろうか。

 頭をはっきりさせるために首を振る。そして息を吐く。……そういえば今は何時だろうか。今日は休日だから別に大丈夫とはいえ、気になる。辺りを見回せば時計はちょうど俺の真後ろにあった。短針が指しているのは7と8の中間、長針は6を指していた。七時半。いつもなら朝食を食べている時間だ。気分としては食べる気にならないのだが、身体は正直に空腹を感じている。どちらにしても食べた方がいいだろう。

 布団から出て立ち上がる。……そういえば裸だった。いそいそと服を着る。服を着終われば後は居間へ行くだけだ。居るとすればそこに彼女は居るだろう。だけど……もしかしたら、すでにこの家には居ないかもしれない。

 それでも、俺は行かないといけない。彼女がそこに居るとしても居ないとしても俺は責任を取らないと駄目だ。

 意を決して居間へ歩き出す。

 今までの朝は壊れ、不確かな朝が始まった。














 うん、今日のはいい出来だ。味噌汁の味見をしてそう思う。……そりゃ、彼の方が美味しいのだけれど、そこら辺は愛情で。

 居間の時計を見る。たぶん、彼も起きてくるだろう。彼はわたしの料理を美味しいといってくれるだろうか? ……ふふ、もしかしたらそれどころじゃないかもしれない。客観的に見れば昨夜のはわたしにも非はあるが、結局は無理矢理したとなるのだろう。ならば、責任感の塊みたいな人だから今頃、色々と思い悩んでいるに違いない。実際にはわたしが誘って、そういう風に仕向けたも同然なのに。

 ……まぁ、なんにしても彼を手放す気なんてわたしには無い。責任を感じているのならそれを利用するだけ。気持ちなんてのは最後に付いてくればいい。……そりゃ、愛してくれた方が嬉しいけど、彼の事だ。責任感に押しつぶされて在ったとしても気付くのは相当、後になるだろう。それでもいいのだ。ライバルはたくさんいる。だけど、彼はただ1人。そう、早い者勝ちなんだから。

 そんな事を考えていたら廊下から足音が聞こえた。彼が来た。襖を引いたらにっこりと笑ってあげよう。

 わたしは気にしていない、そう感じさせる笑みを。

 ううん、違う。

 貴方を愛してる、そんな笑みを彼にあげよう。

 今までのもどかしい朝は消え、愛欲の日々が始ま――ったらいいな♪














 襖を引いた瞬間、彼女の笑みがそこにあった。

 それはとても嬉しそうな笑み。

 昨夜の事なんか夢だったのかと思えるように輝く笑み。

 だけど、それで俺は気付いてしまった。

 自分は彼女に囚われたのだ。だって、こんなにも彼女の笑顔が嬉しい。彼女がそこに居てくれるのが嬉しい。そして何より――

 ――そんな彼女が居ない事、それは世界の終わりのように思えたから。



























二人で
なんですとっ!

このあとの展開としては。

後ろを振り向いた彼女の姿を見て裸エプロンに気付いた士郎君が我慢できなくて後ろから襲う。

一度イって抜かないでその余韻に浸っていたら某姉妹が侵入。その姿を見られる。

某姉妹は逆上し、二人に詰め寄る。ただ、抜かないままで局部を某姉妹に見せたのが失敗。

しかし、逆上しきった某姉が「好きなんだからっ!」とどさくさ紛れに告白。某姉妹の仲が裂ける。

そして、某姉妹が言い争っているうちに二人は脱出して、どっかでいちゃつく、っと。

そんな感じで。けど18禁になりそうだから無し。ってかなる。

あとは……まぁ、彼女が誰かはすぐにわかりましたよね?

きっとその通りです。

それでは、風鳴飛鳥でした。



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