誘導集電による車上電源に関する超電導磁気浮上式鉄道 実用技術評価
内容
①ガスタービン発電装置における以下の課題を解消するべく、誘導集電方式の開発を行った。
・多量の燃料の長大トンネルへの持ち込み
・長大トンネル及び立坑等における排気ガスの排出
・保守費、運営費の低減
②原理は、ガイドウェイ底面に設置した地上側のコイル(地上ループ)と車体の底面に設置した車上側のコイル(集電コイル)を対向させ、地上ループに高い周波数(10kHz未満)の電流を通電することによって、集電コイルで集電するものである。
③山梨実験線先行区間にて、約1kmの区間に地上ループを設置し、また、超電導リニアの車両に集電コイルを設置して、停止時から最高速走行時までの走行集電試験を実施した。
取得したデータ
○山梨実験線先行区間にて、停止時から最高速走行時(0~505km/h)までの走行集電試験を実施した結果、次のデータが得られた。
・停止時から最高速走行時(0~505km/h)まで一定の出力を確保。
・誘導集電による車内磁界実測値はICNIRPガイドライン参照値(公衆)の1%未満。
・誘導集電による沿線磁界についても、高さ10mの標準的な高架橋の下、及び駅のプラットホームやコンコース等での磁界は、ICNIRPガイドライン参照値(公衆)の1%未満。
※ICNIRPガイドライン:国際非電離放射線防護委員会により、磁界による人体への影響に関する予防的な観点から検討されたガイドライン。
技術的成果
○誘導集電により、以下のような特性を持つ実用性のある車上電源システムが確立した。
[集電性能]
・停止時から最高速走行時(0~505km/h)まで一定の出力を確保。
・編成全体の車上消費電力に見合う十分な集電能力を確認。
[磁界影響]
・誘導集電による駅・車内磁界及び沿線磁界の問題はない。
[安全性]
・誘導集電についての安全に関する事象を網羅的に検討する中で誘導集電特有の事象として「火災」「破損」「磁界」を選定し、その各要因を分析した結果、技術的な対応策は確保されており、適切な対処がなされている。
[信頼性、冗長性]
・車上電源は、ガスタービン発電装置の場合は1編成に2台のみであるのに対して、誘導集電装置の場合は車両ごとに複数設置しているため、ガスタービン発電装置に比べて信頼性を確保するための冗長性が向上している。
・誘導集電の地上側設備については、給電経路の全てを冗長構成としており、地上設備に起因する信頼性低下を回避する方策が講じられている。
車上電源方式の比較 | ||
誘導集電方式 | ガスタービン発電方式 | |
燃料の有無 | 〇(なし) | △(有、約3kL/編成) |
NOx の排出 | 〇(なし) | △(有、脱硝装置必要) |
エネルギー効率 | 〇(総合効率でガスタービンと同等) | (基準) |
速度特性 | 〇(全速度域対応) | 〇(全速度域対応) |
定 員 | 〇(先頭車定員増) | (基準) |
故障時影響 | 〇(各車両に複数組設置:高冗長性) | △(2組/編成:低冗長性) |
信頼性・保守性 | 〇(可動部なし、一般的な電気設備と同等) | △(高速回転機械部品) |
[評価]
燃料を使用せず車両から排気ガスを出さない環境面で優れた誘導集電方式による車上電源について、停止時から最高速走行時まで連続的に車両に必要な一定の電源を確保することができる性能を有すること、及び誘導集電による駅・車内磁界及び沿線磁界の問題がないことが検証された。
また、誘導集電方式の安全性については、安全に関する事象を網羅的に検討する中で誘導集電特有の事象として「火災」「破損」「磁界」を選定し、その要因を分析した上で対応状況を検討したところ、技術的な対応策が確保されていることが確認された。
更に、営業時における運用安定性を検討したところ、車上設備については、ガスタービン発電装置に比べて信頼性を確保するための冗長性が向上しており、変電設備等の地上設備についても信頼性を確保するための十分な冗長性を備えていることから、車上に必要な電源の安定的な確保が可能となっていることが確認された。
以上により、誘導集電については、車上電源として実用化に必要な技術が確立していると判断される。
なお、今回の誘導集電技術に関しては、従来の車上電源であるガスタービン発電装置の置き換えであり、他のサブシステムに影響を与えることがないことから、平成21年7月の実用技術評価報告書における総合技術評価及び今後の課題と技術開発の方向性については、誘導集電を除く他の部分の内容を引き継ぐものである。
今後は、設備更新・延伸後の山梨実験線において、誘導集電方式による車上電源の経済性の向上等更なるブラッシュアップを行い、詳細な営業線仕様の策定を行うことが望まれる。
以上
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