忠彦丸のタチウオ釣り
金沢漁港(2007年7月8日
 銀箔のフィッシュイーター、タチウオが東京湾で釣れ始めた。強烈な引き込みと掛けるまでの繊細で微妙なかけひきが釣り人を虜にする人気魚だ。
 7月初旬8日は日曜日。我慢できずに足を運んだのは金沢漁港の忠彦丸。出船は午前7時ということで40分前には港内の駐車場に止めて受け付けに行くとすでに釣り座が残り4ケ所しかないのにビックリ。改めてタチウオ人気の凄まじさを実感。確かに数日前の某船宿の釣果は「17〜71匹」と記載されていた。爆釣である。
 同じポイント(金谷沖)を狙う忠彦丸でもたぶん同程度は釣れるのではと考え釣り人が押し寄せたのではないだろうか。右舷胴の間に釣り座を構えて左右を見渡すと、片舷で15本の竿が立っている。
 これは大変だ。いくら魚影が濃くてもオマツリによるバラシが多発するだろうと予想できた。
 金谷沖のポイントまでは航程約50分。群れの探索に約15分掛けて船長からの仕掛け投入の合図が出たのは午前8時10分頃。
 この時期のタチウオは極浅い表層を回遊するようで船長の指示ダナはなんと「15mから海面まで」と言う。使用オモリが30号と聞いていたからライトタックルであることは事前に知っていたが、ここまで喰いダナが浅いと引き味を堪能できる時間が短い。反面、浅い分だけ刺激的な引き味を満喫できるだろうとほくそ笑んだ。
 当日の筆者のタックルは20〜50号負荷1.6mの竿に小型両軸リールの組み合せ。道糸はPE2号を100m巻いたもの。仕掛けは鋳込み天秤30号に7号ハリス2mの1本針で終始通した。理由はオマツリ対策に他ならない。右手の横浜市磯子区の関山俊秀さんも左側の狭山市から来たという佐々木さんも仕掛けは一般的な2本針で長さもたぶん3m近い市販モノと見受けた。
 夏場のタチウオはタナが浅いためハリスは短くした方が有利だ。ハリ数も1本の方が絡みが少ない分オマツリによるバラシは減るはず。両隣との竿間隔は1m程度。単純に考えてもハリス2mもあれば充分だ。
 船中最初の流しは不発だったが、活性が高まり始めたのは大体9時頃からだ。船中ポツリポツリと上がるが、どれも小さくて短い。コレには筆者もガックリ。
 正直最初の1本はあまりに小さいので仲乗りスタッフに「コレ放流サイズですね」と告げて一応バケツに入れ込む情けない自分がいた。
 今年初タチウオだからという言い訳をしつつ針にサバの短冊を付け替える。
 誘い方の前にエサ付けも重要。長さ10cm弱の短冊は基本的に縫い刺しが良い。2回から3回針を刺して垂らし部分を減らす。
 こうすることでエサ取りがうまいタチウオに早い段階から攻撃をしかけることができる。皮は上でも下でも構わない。
仕掛け投入後、早々に釣り上げた磯子区の関山さん。タチウオはその名の通り、銀箔の美しい魚である。
 活性が高ければどちら側が皮でも問題はない。決定的なのは誘い方のようだ。当日は深くても指示ダナは18m程度だったから仕掛けを道糸のマーカーに合わせてキッチリと止め数秒間ハリスが潮に馴染むまで待ち静かに誘いをかける。
 その際誘いあげる幅は30〜50cm幅で静かにスーッと竿先を上げ数秒間喰わせる間を与える。穂先が反発するような早い誘いはNG。穂先の硬い竿ならかなりゆっくりと誘うこと。
 オモリ負荷が20〜40号でも8対2よりも6対4に近い軟調竿の方が食い込みは良い。指示ダナの中途で、ククッとタチウオがエサをくわえて抑え込んだら3秒間ほどジッとそのまま待つ。何も変化がなければ静かに穂先を小刻みに上下して誘う。
 その回数は5〜7回まで。何も変化がなければ諦めて上で30cm程度誘うと良い。その際、再度グッと抑え込むアタリが出ればタチウオはエサを追って来ているので次の強い引き込みを待つと良い。
 だが、当日は喰いが渋くエサを追わないことが多かったので、2分以上待っても次の引き込みがなければ上へと少しずつ誘いあげれば良い。エサを追わない個体もあるためあまり長い時間を待ってもエサをポロポロにされるだけで意味がない。
 ただし、最後の海面まで誘いは続けた方が良い。筆者も最初のアタリから針掛りまでかなり長い時間を費やしたケースもあるので海面下3mまではジックリと誘い上げてくること。最後の1mで針掛りするケースも数回経験したからだ。
 また、喰いの良い時間帯にマメにエサの確認をすることも大切。アタリを1回でも感じてその後に何も変化がなくてもエサがほとんどかじられてなくなっている場合もあり、いつまでも仕掛けを海中に入れているのは決して得策ではない。針が2本あるからという考え方は甘い。活性の高い時間帯は数分でエサがないと思った方が良い。
薄曇りの中、怪しい光沢を放つ怪魚を両手にポーズを取る狭山市の佐々木さん。なにか、釣りの写真というよりも超現実的絵画のオブジェを持つという感じに映るのは筆者の気のせいか。
 話しを実釣に戻そう。午前10時を過ぎるとアタリは少なくなったが、誘い方とマメなエサの点検を怠らない人にはポツリポツリと釣れていた。
 指示ダナを守りつつもマメな誘い上げと待ちの「間」を与える繊細な釣り方を続けている人にはそれなりの釣果が期待できたようだ。
 午前11時30分。通常よりも船長は延長してくれたようだ。筆者はおかげでトップ11本の次頭の10本をゲット。マサバの外道付きで満足の行く釣果を得られた。今年最初の夏タチウオとしては満足できる釣果となった。
 ただし、型は平均して小さく回りを見渡しても80cmオーバーを釣り上げている人は少なく大半は65〜70cm程度の指3本前後ばかりだったように見受けられた。
 それでも、自宅に戻りサクサクと簡単に調理してバター焼きで食べたがとても美味であったことを付記しておこう。
 今年の魚影はすこぶる濃いとのこと。1mオーバーを目指してぜひトライして欲しい。
釣趣と食味の両方に魅力が溢れる釣り魚だけに筆者も何回足を運ぶか未定である。
 次回は刺身を満喫できる良型を期待しつつ。
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美由丸のマダイ釣り
和田港(2007年6月24日)
 房総半島の千倉と鴨川のほぼ中間にある和田港は、昔からクジラの港町として知られる漁港だ。そんな港町にも古くからマダイを釣らせる老舗の釣り宿があると聞いて訪れたのは美由丸。電話を入れて粕谷船長に模様を聞くと「ここんとこタイは厳しいね、良くないけど土産は捕れると思うよ」と正直な人柄が伝わってきた。確かにマダイは数が釣れる魚ではない。
 6月24日、早朝4時前に港の駐車場にクルマを止めて支度を済ませ漁協内側の岸壁に行くと、船長がエンジンをかけてスタンバイの最中。挨拶をして左舷トモに釣り座を構える。時間はまだ午前4時15分。出船は午前4時30分の予定だが、予約のお客はまだ誰も来ていない様子。船長は「タイ釣りが好きな常連客だけどまだクルマの中で寝てるんじゃないかな」とのんびりした雰囲気。よく聞くと当日の乗船客4人。全員釣り仲間同士だから全員が乗り込んでから出るという長閑な出船体勢がなんとも南房総といった印象。結局港を離れたのは午前4時50分頃。
 ポイントは間近。港を出てから10分足らずで最初のポイントに到着しゆっくりと潮回りをして「プー」という音で釣り開始となる。当日の天候は曇りだが、湿気もなく爽やかな感じ。海上も無風ベタ凪ぎだからほとんど揺れを感じない。
 船長はスパンカーを張りエンジン流しの体勢だ。驚いたのは水深が浅いこと。24m前後だ。タナは底から12〜13m。ハリスは4号10mが標準だからリールのカウンター計は12m前後を指す。付けエサもコマセもオキアミを使用。コマセブロックから付けエサを釣り人が勝手に選んで付ける手法。
 船長は「この時期は浅い場所が多くなるけど深くても40m位かな」と言う。それでも喰いタナにリールを巻いてセットすれば水深計は30mを切ることになる。夏場の千倉のマダイは浅瀬に寄ると言うことなのだろう。
 しかし、本命マダイからのアタリは遠い。真直ぐに海面に落ちて行く道糸。潮の動きに合わせて穂先が上下に動く。正確に言えば、波の上下動で穂先がお辞儀をする「振幅定連運動」といった表現がピッタリくる。
 東の空が朝焼けでオレンジ色に染まる光景は美しいが、気象的には午後から天候の崩れが予想される暗示でもある。午前6時を回ってからも穂先を揺らすのはアジか良型のサバだ。ポイントを深い40m付近に変更してもその傾向に変化はない。底ダチを取ってから12〜13mを巻いロッドキーパーにセットすると数分後にグイグイと勢い良く竿先を不連続に揺するのは体長40cmを超す大サバが多い。ゴマサバも釣れるがマサバも多くかかるので、数匹はエラをちぎって血抜きをしてからクーラーに。
 穂先にプルプルと可愛いアタリが出るのはアジ。巻き上げてくればすぐにサバではないことが分かる。上で横走りすれば間違いなくサバである。アジも時折30cmオーバーが釣れるのでバカにできない。
 しかし、80号ビシにハリス4号10mだからアジが掛かった程度では引き味はマダイとは比べるまでもない。大サバであればそこそこのファイトを見せて上がってくるがハリスが長いため他のお客の仕掛けと絡むケースもあり、サバだと分かっても即効で巻き上げないとオマツリ騒ぎになってしまい迷惑をかける。
 それでもタナが浅いから手巻きリールで充分対応できる。その点はこの時期のマダイだからだと言う。「10月頃からは深いポイントになり12月には60m〜80m近くまでに下がりますね」と。タナは大きく変わらず底から年間を通じて12〜13mだという。
 午前10時を回ると空から白い粒がポツリポツリと落ちてきた。当日の厳しい釣りを象徴するような天気となる。だが風はほとんどない。海面は湖状態が続く。
 右舷胴の間で良型アジを釣り上げた松戸市の保坂健二さんにアジを手に写真撮影に協力をしてもらう。左舷でも茨城県金江津町から来ていた中村雄二さんにもアジの釣り上げた直後を撮らせてもらい画撮りは悲しいことに完了。同時に昼12時に沖揚がり。マダイが厳しいことは聞いていたが、船中ゼロでは写真は撮れない。船長の話しによれば毎年4月上旬の春先が好調で5月GW前までがピークとか。秋は9月中旬頃から11月が好調になる日が多いようだ。
外道でも良型アジはお土産に。しかし肝心の本命のタイが来ないのも少し寂しいが・・・(左)
松戸市保坂さんも良型アジゲット。これだけ良型のアジが釣れれば、タイが出なくてもいいか・・・と思うのは筆者だけだろうか?(右)
 今回美由丸に乗り込み粕谷船長と常連客数人と接してみて分かったことがある。ひとつはのんびりとしたマダイ釣りが好きなこと。もうひとつは優しく正直な人柄の船長を乗船客皆が好いていること。要するに和やかな雰囲気で釣りを楽しませてくれる船宿だということである。
 そのため、美由丸では基本的に乗合は4人までとしている。仕立てなら応相談とのこと。土日の週末は年末まで予約が入っているが、人数によっては予約はまだ可能とのこと。のんびりとマダイを釣りたい人には最適な船宿といっていいだろう。
 船長自身もマダイ釣りには一家言を持つ。ただ「釣りたい魚を言ってもらえればたいていは対応できますから」と目尻に皺を寄せたのが好印象だ。
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爪木丸のイサキ釣り
須崎港(2007年7月19日)
 年に1度はどうしても食べたくなる魚がある。「梅雨イサキ」だ。だがすでに終盤を迎えたイサキだけに30cm級の良型イサキにこだわりたい。
 とくれば、南伊豆の神子元島回りを狙うしかない。向ったのは須崎港の爪木丸。
藤沢の自宅からでは早朝5時30分の出船に間に合わせるのが大変ということで7月18日に前泊することに。爪木丸では「ブルー爪木」というペンションを併営しているため何かと便利だ。しかも朝食弁当付き素泊まりで4000円はお得だ。天然温泉に浸かってノンビリできるのも嬉しい。
 前夜の田中船長に近況を聞いてみた。「今日も北東の風が強かったけど喰いはまずまず。トップで40〜50匹は釣れていた思うけど、お腹の真子や白子をはたいてしまったのもいるから。本当なら7月上旬までが最高なんですよ。外道にマダイが混じることもあるので楽しみはありますよ」と日に焼けた優しい笑顔が印象的だ。
 翌19日は平日だというのに5人のイサキファンが集まり定刻の5時30分より15分も早く港を離れた。前日から吹いていた強い北東風も静かなになり波は高くない。天気は曇天だが、イサキ釣りには好都合。この時期の晴天は体力を消耗するため暑いのは勘弁である。
 田中貞一船長の静かな操船で航程約40分の横根沖に到着。午前6時に釣りを開始するまで魚探の反応をチェックしながら潮回りを続け、「この辺からやっていきましょう」の合図と共に仕掛けを投入。指示ダナは35m。潮の流れが速くなり始めると1流し1回の仕掛け投入だから案外神経を使う。
 カケアガリを狙っていることもあって数分後には「30mに上げて」と指示ダナの変更がマメに告げられる。すると、右舷ミヨシに座った葛飾区の吉田豊富さんが竿を大きく曲げながらヤリトリの最中。早くも3点掛けかと思ったが、「1匹ハズれちゃったかな」と笑いながら抜き上げている。
 それでも数分後の流しでは見事に良型の3点掛けを披露してくれた。左舷ミヨシに釣り座を構えた沼津市の山根昭雄さんは「今日は喰いが渋いね」と言いながらも30cm級を連続で抜き上げている。
 自作のオリジナル仕掛けを使って喰いの渋い良型イサキに対処していたのが印象的。ハリスを2.5号に落とすのは危険なんだけど喰いは良くなるからと、言っている矢先にイサキがヒット。
 追い喰いを待っていると突然強烈な引き込みが来てリールが巻けなくなるどころかドラグが滑り始めて糸が出る場面に。間違いなくマダイの三段引きである。
ベテランの3点掛けはお見事!
 しかし、道糸を出されたためか根に持ち込まれ結局ハリス切れとなってしまった。時計の針はまだ7時を少し回っただけ。
「今日は7時50分頃に潮変わりになるからその時分までが勝負だと思う」とは山根さんの弁だ。通常ハリスの太さは3号で、長さは6mのところを2.5号に細くしつつ4.5mと短くしたりその日の潮流や食い気に合わせてマメに交換することもイサキ釣りには大切だ。
 ハリ数は3本。付けエサはコマセ同様にオキアミが主流。船長の話しでは一番先バリはオキアミを付けて後はイカタンでもウィリーでもOKだという。80号のビシはビッグまで。因に筆者の当日の仕掛けはハリス3号6mの3本バリ。ハリはチヌ3号。
付けエサは3本ともすべてオキアミで通した。MISAKI製市販仕掛けが良かったのかどうかは分からないが、画撮りを終え7時過ぎから釣りを開始した筆者にイサキとは違う強烈なアタリが来た。良型のダブルかなと慎重にリールを巻いてきて海面に浮いた赤い魚体は紛れも無いマダイ。全長36cm(後検)の食べ頃サイズである。
 その後も飽きない程度に潮回り毎にポツリポツリとイサキが釣れ、潮変わり直前にはダブルで抜きあげる場面も多くなりバケツの中が焦茶色で埋まり始めた。
 ちょうどその頃、潮変わり時に山根さんから声がかかった。「右舷でマダイのダブルが上がったよ」。カメラを手に飛び出して行くと、まさに釣り上げたばかりのマダイの一荷を手に吉田さんが満面の笑顔で撮影に協力してくれた。
 山根さんは「まさに潮変わり直前の時合だったみたいだね」と羨ましそうにポツリ。
「今日は1匹はどうしてもマダイを釣る予定だったけどハリス切れを3回もやってしまっては今日はダメだね」と残念そう。マダイは朝一番から1時間が最も喰いが立つという。
 潮変わりまでがマダイの時合らしい。イサキを釣りながらも密かにマダイを本命視していた山根さんから興味深い話しを聞いた。
ダブルもリッパなもの。その後、筆者は山根氏から興味深い話を聞くことになるのだが・・・。
 「実はイサキの良型は船長の言う指示ダナより3mほど低いタナで喰わせると良型が釣れるケースが多い。もちろんその日の潮具合にもよるけど喰い気の旺盛な時間帯はそれでも充分アタルから大きいのを狙いたいなら上ではなく3m下を狙うと効果的な日が多い」と自信たっぷり。
 また、ウィリーはピンクがオススメ。オキアミカラーの針とセットで使えばヒット率は高まると言う。ビーズ玉は夜光グリーンをチモト側に、上に天然貝の白系ビーズを付けるのが良い。イサキでもマダイでも好結果を体験している山根さんの言葉には不思議な説得力がある。チタン素材を使用した自作のロッドで良型イサキを中心に25匹も釣り上げていた。
 午前11時を回ると雲間から青空がのぞき風も南寄りに変わった。だが、その頃からアタリが激減。田中船長もポイントを移動しながら活性の高い群れを探索してくれたが、如何ともしがたい。午後12時30分に沖揚がり。正味6時間半で竿頭の右舷ミヨシの吉田さんが33匹。筆者は23匹にマダイ1匹であった。台風4号直後の喰い渋り状態を考えれば決して悪い数字ではない。
 帰港後は女将さん手作りのザルソバと温泉入浴の無料サービスが魅力。汗と疲れを落としてゆっくり帰路につけるのは嬉しい限り。(ブルー爪木)
 田中船長の話しでは8月からはマダイとメダイを狙って行くとのこと。希望によって両魚のリレーもできるというから楽しみである。
 自宅に戻ってから捌いたイサキの腹には真子が8割で白子が2割の割合で入っていたことを付記しておこう。
筆者のクーラーBOX内。

高級魚をクーラーに満タン状態にし、その後、温泉につかって帰路についたが、夏の夕暮れが心地よく感じられた楽しい一日であった。
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