トヨタ&GM社の新型ヴォルツ
トヨタが米国GM社と初めて本格的に共同開発した新型ヴォルツ。開発コンセプトは「SUVとステ
ーションワゴンとのクロスオーバー」(トヨタ広報部森下博之氏)だという。外観デザインからすると
どこかクロカン4WD風でもあり、コンパクトなステーションワゴンにも見える。ベース車は現行カ
ローラだが、「コンセプトメイクと内装、外観のデザインはGMとトヨタの共同作業です」(前述・
森下氏)。設計はトヨタが手掛けて、生産はカリフォルニアにあるトヨタの工場(NUMMI)である。

 実際に試乗して新型ヴォルツの走りの性能と使い勝手を総合的にチェックしてみた。試乗に駆り出
したのは4WDのS。まず運転席に乗り込むと意外に頭上空間が広く前方視界も良好である。

 ただ相変わらずボンネットの先端が目視確認できないのは残念。車両感覚を掴むのにある程度の時間
を要するドライバーもいるだろう。だが運転席のシート位置は現行カローラセダンよりも若干高く設計
されているようで目線が高く前方の視界は良い。

 ATレバーをDレンジにシフトして発進すると、静かでスムースな加速フイーリングが心地よい。搭載
エンジンは4WD用の最高出力125馬力仕様だ。排気量は1800ccで同じFF車には最高出力132
馬力仕様がある。スポーツタイプのFF車用には最高出力190馬力仕様も設定されている。


 どうしてフルタイム4WD用にもう少しハイパワーなエンジンを搭載しなかったのかという質問に対
して森下氏は「4WD用のエンジンとして考えた場合、搭載エンジンとのマッチングが最も良いのがこ
の仕様だったということで125馬力に仕上げている」という。4WD車にマニュアルミッションの設
定がないのも同じ理由である。もちろんAT車の普及率を比較したらあえて4WD車にマニュアル車を
設定する必要性を感じなかったのかもしれない。

 市街地走行では、軽くアクセルを踏むだけで不満のない軽快な加速性能を引き出せる。これは低回転
で発生する太いトルク特性によるものだ。車両重量を車検証で確認すると、1320kgとある。125
馬力の性能では若干非力に感じるが、市街地での走りに関してはまったくストレスは感じない。ただし
昇り勾配のきつい山坂道を大人5人乗車で走ると、たぶん「モアパワーを」と感じてしまうだろう。

 驚いたのはシャープでカッチリとしたハンドリングである。現行カローラセダンとは一線を画すスポ
ーティな味付けといっていい。時速100km前後で走る高速走行では適度な安定感と落ち着いた保舵
感覚がドライバーに安心感を与えてくれる。路面から受ける衝撃は多少感じられるものの決して不快で
はない。現行カローラセダンよりも僅かに硬く感じられる程度だから心配は無用である。ベース車はカ
ローラでも「ヴォルツ専用のチューニングは施されています」(前述・森下氏)。

 つまり、FF車の味付けと4WD車との違いを明確にして、さらに搭載エンジンとのマッチングを考
慮して足回りの微細なチューニングを決定しているということだ。トヨタ車らしいユーザーへの細かい
配慮が感じられ好感が持てる。


 使い勝手に関しては、ラゲッジスペースの機能性が高く評価できる。リアシートは6対4の分割可倒
式を採用し、ワンタッチフォールダウン機構の採用で簡単にフラットな荷室空間を創りだせる。乗車人
数や積載量に応じた柔軟な対応策がとれる点は多趣味なユーザーには嬉しい限りである。しかも、バッ
クドアには狭い場所でも簡単に荷物の出し入れができる開閉式のガラスハッチを装備し、ステーション
ワゴンとしての機能性を向上させている。


 ひとつ気になったのは運転席側のパワーウインドーである。ワンタッチで開閉する機構がないのだ。
森下氏の話しでは「GM車に限らずアメリカ車にはワンタッチ機構は安全性の問題から付かなくなって
いるんです。日本向けのヴォルツだけにワンタッチ機構を取り付けるのもコストの問題もあって難しい
んです」という。新型ヴォルツはこういう点を見るとトヨタ製GM車という感じが強く、輸入車の不都
合面が感じられるが、この部分だけである。

 それでも、8月20日の発売後1ケ月の受注台数を見る限りでは、成功の二文字を与えていいだろう。
月販目標台数1500台のところ2倍の3000台を記録。トヨタが「新ジャンルの若者グルマ」と謳
う新型ヴォルツは市場ではまったく未知のクルマということで販売店はネッツ店の専売車種である。

 開発期間は企画開始から約4年。性別では男性が約90%を占めている。年齢層別では、40歳代以上
が約40%で最も多く、次いで10代と20歳代が約35%でこれに続く。30歳代は約25%。

 人気グレードは約75%がSに集中している。中でもFFが50%、4WDが25%。つまり、FF
のSが最も人気があるということだ。高性能エンジンを搭載するスポーティなZは25%で推移。

 ボディカラーの人気はシルバーメタリックが約35%でトップ。2番手は25%でブラックマイカだ。
 付け加えたいのは、カリフォルニアのNUMMIで生産される日本向けヴォルツの品質レベルである。
生産工場から出てきた時に「クオリティゲート」を最終段階でもう1度綿密にチェックを受けるのが日
本向けヴォルツだけ。キャバリエの販売不振の一因を払拭する対策を取り入れた点はさすがトヨタだ。


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