三菱の新型「COLT」
 自動車メーカーが昔の車名を再び使ってまったく新しいクルマを作る時には、「原点回帰」の精神が
根底にあるものだ。昨年11月に新発売した「COLT」はまさにそんな印象を受ける。三菱自動車が
提携関係にあるダイムラークライスラーとの共同開発で誕生した新型コルトは、新開発のプラットフォ
ームを採用し、三菱自動車の新しいデザイン・アイデンティティを具現化したコンパクトカーである。

 驚いたのは発売からわずか2日間で約8000台の受注を記録したことだ。月間の販売目標台数が7
000台だから恐ろしく好調な売れ行きということになる。そこで今回は新型コルトの人気の秘密を探
るため、いつもの試乗と同時に開発主査である中尾龍吾氏に取材をした。新型コルトの人気の理由を聞
きたくなったからだ。試乗リポートの中に折り込みながら順次解明してみよう。


 試乗に駆り出したのは主力の1300ccモデルではなく1500ccモデルとなった。基本的な違
いは「車両重量が10kg〜20kg程度重いだけで、サスペンションの味付けも同じです。エンジン
性能としては1500ccの方が当然馬力的にも上回っていますから、1300ccモデルに比べて少
しスポーティな設定に仕上げています」と中尾氏は説明する。さらに続けて「1500モデルは装着タ
イヤが15インチと少し大きいものにしています」と言いながら取り回しの感覚の違いやハンドリング
の感覚の差を解説してくれた。結局、1500モデルはコーナリングスピードや限界性能では1300
モデルを凌駕しているが、逆に走りのバランスが取れている点では、1300モデルの方が優れている
ということである。

 確かに、発進加速は鋭く軽くアクセルを踏むだけで軽快な走りを体感できた。渋滞の多い都心部でも
交通の流れに遅れを取るような場面は一度もなかった。特に時速40kmから60kmでは静かでスム
ーズな加速フィーリングを満喫できた。

 走っていて安心できたのは良好な前方視界である。ダッシュボードの位置も高くなく、ボンネットフー
ドの先端が見えなくても安心感がある。それはフロントガラスの広さも好影響の要因のひとつといえる。

 視界に関して中尾氏は「フロントピラーの先端を前方に設定しているためフロントシートの広さと良
好な視界を確保できているんです。それにアイポイントの位置も大きく貢献しています」と説明する。

 前方視界が良好であれば安全運転につながり長距離を走った時の疲労感が少ない。疲労感という点で
は、フロントシ−ト回りの広々感も注目に値する。

 身長170cmのドライバーが座っても頭上空間には充分の余裕があり、圧迫感はまったくない。助
手席にもほぼ同じ身長の男性が腰掛けていも窮屈感はなかった。それはセンターコンソールのないデザ
インがプラス要因として考えられる。コラムシフトのATレバーや小物入れ用のコンソールボックスも
装備されていない。ドライバーの左側に窮屈感を与えるモノが設置されていないから開放感がありそれ
が室内の居住スペースの広さに直結しているのだろう。外観デザインから見るより室内の居住スペース
は驚くほど広いのだ。

 その点に関しても中尾氏が力説する。「新型コルトを作るにあたってまず重視したのが室内の居住ス
ペースでした。設計段階での最優先項目だったんです。ドライバーが運転席に座ってペダルを踏んだ位
置からリアシートのヒップポイントまではこのクラスでは最も長いんです。その点ホンダのフィットは
荷物を積むラゲッジスペースを重視したためリアシートの広々感がないんです」とライバル車を引き合
いに出して詳しく説明してくれた。つまり、新型コルトは乗る人を重視した設計思想が根底にあるとい
うことだ。フロントシートだけでなくリアシートもクッションの長さと厚みを重視して快適な居住空間
を造り出している。


 少しだけ気になったのはエンジン音だ。加速状態にある時はどうしてもエンジン音が耳障りに感じる
ものだが、エンジン回転が3000回転以上になるだけで騒がしく感じたのは筆者だけだろうか。レッ
ドゾーンは6200回転からだが、少なくても4000回転以上は回す気にはなれない。とはいえ、ア
クセルから右足を少し離せば巡航スピードに入るからそれほど気にする問題ではない。車両重量103
0kgのコンパクトボディを最高出力98馬力で引っ張るのだからそれほどアクセルペダルに力を入れ
る必要はないはずだ。しかもATは全車無段変速機(CVT)を採用するため、走行状況に応じた駆動力
をエンジンとCVTの最適効率点で得られるように制御されるから無駄なエンジン回転数には達しない
のだ。耳が慣れれば何も問題はない。


 それよりも嬉しかったのは4WDが早くに設定されたことだ。しかも2WDに比べて18万円高と比
較的良心的な値段に収まっている点も魅力的。ただ4WD機構はいわゆる生活4WDだから必要に応じ
てビスカスカップリングが作動するオン・デマンタイプだという。「本格的なオフロードを走るための
4WDではないので最低地上高は1550mmでわずかに2WDより高くなっているだけです」と中尾
氏。雪道や寒冷地用としての4WDだからあまり最低地上高を上げる必要はないということだ。

 最後に中尾氏の口から「新型コルトは走っている姿が一番美しいんです」と目を輝かせた。今後も中
尾主査は新型コルトのバリエーション追加に力を注ぐと言うから近い将来魅力的なグレードが誕生する
かもしれない。



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