HINESS ENGINE 稲村製作所


様々なハイネス

 ハイネスエンジンには様々なバージョンがあります。一般的に市販された09と20サイズは、量産を意図したダイキャストクランクケースですが、様々と言うのは、それらの製品が最終出荷された76年11月以降に真田さん自身の手によって製造された、カスタムエンジンを指します。
 少ない物で3台、最も多い44ツインでさえ640台ほどしか生産されていないハイネスですから、その間に仕様の変更なんか、ザラだったでしょうね。
 左写真は、クロスフロー掃気の20を組み合わせた6気筒エンジンです。スロットルリンケージや燃料パイプの取り回しなどを見ると、実際のテストを行ったと言うことが分かります。

 元々金属表面の染色は、様々な化学反応で処理するもので、つまり「アルマイト加工」と似たようなものと言えます。09と20サイズの黒色バージョンは、排出される公害が懸念された為に無地にマイナーチェンジしました。つまり電気分解の原理を使っていない、薬品の化学反応のみによる黒色染色だったと推測されます。こうなると廃液がどっと出ますので、その処理にかかる経費は・・・・でしょうね。

 左写真は試作の黒色44Tと市販の黒色20です。両エンジンともクロスフロー掃気で、ダブルボールベアリング支持になっています。

 特に20の方は排気口の後端に穴があります。取り説によると「チョークはこの穴からしてください、キャブレターからは、絶対にチョークしないで・・・」などとありました。真田さん、テストしていてなにかひどい目にあったらしいです。

こんなエンジンもありました
 44ツインの改造4気筒エンジンです。水平対向っていうのは実車でも良く聞く配置ですが、このタイプだと飛行機の載せるには機首の形状が大変そう。いや、水平対向だと後方の気筒がオーバーヒートするからこれで良いのだろうか。ヘリに垂直搭載なら問題はないかな。

 搭載方法のみならず、内部にあるはずの動力伝達用ギヤやらなんやらで、その加工精度と寸法はぎりぎりのはずです。それらのカバーとその固定で、ビス類は結構きびしい使われ方をしていますね。分解自体がたいへんそう。
 余談ですが、このニードル位置だと普通のマフラーはつきませんね。形を熟慮する必要があります。
HINESS ARROW

 マフラーの造りが、いかにも「付いてりゃいいんだろう!」って感じです。実用を考えると、その重量がものすっごく気になりますが、私はこのエンジン、保有しておりませんので知ったことではありません。
 手に取ると両エンジンともとーーっても「ずっしり」です。たしかスリムな機首に載せるのが目的って、外国製の同型エンジンに説明があったような気がしますが、さすが試作ですなあ。
 たしかに飛行機に搭載することを考えると、少しでも軽量が良いに決まっています。つまり、このエンジンはやはり試作品なのでしょうね。
 現存するエンジンメーカーでも試作品は、アルミのブロックで製作されていることがありまして、例えばENYAの11CXなんか、たしか冷却フィンもろくに加工されていない、まるで「エンジンに見えない」ような外観でした。基本性能などを把握できれば、軽量化はその後で充分できますからね。
 したがって、ハイネス試作エンジン(の類)が重いって言うのには「文句言うな!」でしょうね。

 じつは、これらのハイネスエンジンを公開しようかどうか、ずーっと悩んでいました。私の解説によっては、ただのこき下ろしと判断される方もいらっしゃるかも知れないと言うのが、最大の理由です。
 クラブ・ハイネスの研究結果通り、09や20であればていねいな扱いで良好な作動が期待できます。問題はそれ以外のタイプ。
 多気筒エンジンやインラインエンジンは、真田彰さんが「ものづくりを楽しみながら」製作されたエンジンだと思っています。自分なりに考えながら様々工夫の結果が、これら「ハイネス・カスタムエンジン」なのだろうと思います。
 したがって、ハイネス・カスタムエンジンを回すなら、それなりの覚悟と技術を持って望む必要があり、部品が破損したら自分で修理するくらいの気持ちが必要です。

 昨日、天国の真田彰さんからメールがきました。内容は以下の通りです。

「俺のハイネス、そう簡単に回ってたまるもんか。くそったれ!」

 私はこう、返信しました。

「やかましい、44ツインだけでも、空にあげてやるからな!」


(2008年2月17日)