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スペクトル観測


参考文献:今村氏の論文  古典新星KT Eridani のスペクトルならびに光度変化の研究

新星のスペクトル概説
 新星の増光時には水素のバルマー線(Hα線:波長6562.8Å、Hβ線:4861.3Å、Hγ線:4340.5Å、Hδ線:4101.7Å)の輝線が見られます。その時に輝線はP Cyg プロファイルという形になることが多いようです。これは輝線が長波長側に少しずれた広い山型になり、短波長側に吸収線を伴った谷型になることを指します。このプロファイルは以下の現象により生じると考えられています。
 

 新星が放出するガスは様々な方向に膨張しています。地球から見て星がバックにない領域は自ら光る輝線を放射しています。しかし、星がバックにある領域では連続光を放つ光球があるので、吸収線になります。この領域は地球に向かってガスが近づく方向にあるので、ドップラー効果により、青い方向つまり短波長側にシフトします。一方、そのほかの輝線の領域は真正面に近づいている領域はほとんどなく、近づくガスもあれば遠ざかるガスも多くあります。そこで、ドップラー効果により、長波長側に少しずれた広い山型になります。

 新星は時間が経つにつれて、スペクトルが大きく変化します。この様子を見ていきましょう。

確認のためのスペクトル観測
 Liverpool John Moores大学のM. J.Darnleyら(Atel 5279)は、14.909日にLa Palmaにある2m robotic Liverpool Telescopeで、分光観測を行い、視線速度2000 km/sのP Cygni profileを持ったHαをはじめとする輝線がみられたことから、新星の初期の段階であることを確認しました。また、Gianluca Masiも、14.92日に低分散の分光観測を行い、Hα輝線を確認しています。

藤井貢さんの観測
 日本では岡山県の藤井貢さんが観測されています。
 以下にVSOLJメーリングリストに寄せられたものを抜粋します。
 8月19日のスペクトルを例に詳しい輝線、吸収線を載せました。


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 まとめられたものは以下の通りです。

8月15日〜20日

8月15日〜20日ノーマライズ

藤井さんのサイトです。


☆10月21日

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☆10月16日

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☆10月14日

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☆10月12日

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☆10月11日

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☆10月4日

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☆10月1日

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☆9月27日

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☆9月26日

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☆9月24日

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☆9月23日

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☆9月22日

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☆9月21日

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☆9月20日

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☆9月19日

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☆9月18日

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☆9月17日

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☆9月16日

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☆9月13日

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☆9月10日

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☆9月9日

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☆9月8日

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短波長側の連続光が少し弱くなったかなといった印象ですがリアルかどうか?
ラインの同定であやふやなのが:
観測波長4647A の強い輝線はN III 4640A か C II 4638Aか?
観測波長5577A は[O I] 5578Aか?
観測波長5680A はN II 5679Aか?
観測波長6727A はC II 6727Aか?
観測波長8677A の強い輝線はN II 8676Aか?
多少気になる点として、極大直後あたりはNa'D'輝線が出現する新星が多いようだが、今回はこの輝線がはっきりしない。

☆9月4日

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6日ぶりの観測でしたが、大きな変化はない様子です。

☆8月29日

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☆8月28日

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☆8月27日

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☆8月26日

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☆8月25日

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バルマー輝線がますます強くなっています。
19日頃からみえていますがC II (7115A)も強くなりました。
またノイジーですがC I (9089A)もみえています。
禁制線 [O I] (6300A, 6364A)輝線が見え始めました。


☆8月22日

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☆8月21日

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☆8月20日

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8/20はP Cygプロファイルが認められなくなりました。
Hα輝線の短波長側(主ピークより25Å)スロープ上に小さなピークが現れていました。
8/15〜20の6夜分を、取敢えず8000Åの箇所を揃えてプロットしてみました。continuum は青側が下がる傾向ですね。
極大の頃、Uバンドのfluxが落ちるようです。


☆8月19日

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バルマーやFe II輝線が再度強く現れるようになりました。
それらのP Cygプロファイルは弱くなっています。


☆8月18日

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今夜19時20分頃(JST)のクイックルックでは昨夜よりさらに輝線は少なくなり、Hαの箇所ですと、連続光レベルを1とすると輝線高さは0.5くらいの感じです。
Hα輝線は17日に比べやや少なくなったという程度でした。


☆8月17日
下図で線の名前は渡辺誠が記入。

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輝線の出方がさらに少なくなった感じです。
Ca II (8498A, 8542A)輝線 が認められます。


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輝線が少なくなるに従いさまざまな吸収線が現れるようになったので前日16日に観測していたεAur (GCVSではA8Iab:)と比較してみました。
似ているようにもあるが、しかしいまいち同じではないなぁ・・・。


☆8月16日
下図で線の名前は渡辺誠が記入。

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輝線が少し弱くなりましたが、弱くなるというより連続光成分が卓越してきて輝線が少なくなってるように見えるというイメージでしょうか?
今夜16日のクイックルックではさらに輝線の出方が少なくなっていました。
相変わらずP Cygプロファイルは顕著です。


☆8月15日
下図で線の名前は渡辺誠が記入。

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バルマー輝線はP-Cygプロファイルを示しています。
Hα吸収線センターは輝線センターより約1300km/sの青い波長側へシフトしています。
Fe II (37) (42) (49) 輝線も顕著でP-Cygプロファイルを示しています。
O I 7477A, 7773A, 8446A 輝線も弱いながら出現しているように 見受けられます。
連続光は短波長側に強いです。
星間吸収をあまり受けていないのでしょうか?
なお、大変ヘイジーで、且つ雲も流れるなかでの観測でしたので、Flux値はかなりいい加減な値です。
He/Nタイプのように急速な減光はなさそうですね。
6時間の間にもう少しスペクトル変動があるかと思っていたのですが、この時間内では大きな変化はないもよう。