いるか座新星はいるかな? > 激変星サーキュラーへの招待



激変星サーキュラーへの招待

大島 誠人

 激変星サーキュラー

★ 観測結果を他の人と比べたい
 新星を観測して報告したはいいけれど、あのデータはどうなっているんだろう? 他の人と比べてどうだったのだろう?前後の日はどんなふうに見えていたのだろう? などと、疑問をもつ方もおられることでしょう。観測、というからには、やはりあとあとどうまとめられているかに興味がいくのはむしろ自然とも言えます。

 一番視覚的に分かりやすいのは、サイトトップからも見ることができる光度曲線です。どのように光度が変化してきたか、をグラフとして実感できますし、自分の観測を表示する機能を使えば自分の観測がどこに位置しているかが表示されますから自分の観測が含まれていることも実感しやすいかと思います。

 しかし、もう少し定量的に、「平均光度としてはどうなっているんだろう?」「この光度曲線って何人くらいの観測者のデータからなっているんだろう?」などということが気になる方もおられるでしょう。あるいは、これを機にいろんな激変星の動向について知ってみたい、という方もおられるかもしれません。

★ 激変星サーキュラー
 そんな方におすすめなのが、「激変星サーキュラー」です。これは、VSOLJも参加している変光星観測者ネットワークであるVSNETのメンバーが提供しているもので、寄せられた観測データから激変星(新星も含みます)や特殊な星のものを抜きだし、日ごとの光度をリストしたまとめです。時系列で、光度の値を追っていくことができます。

 と言葉で言ってもわかりにくいので、実際のものを見ていただくのが分かりやすいでしょう。
★ 激変星サーキュラーの見方
 まず最初のところに見たことも聞いたこともない星がズラリと並んでいます。「Dwarf Novae」と書いてあることからピンとくる方もおられるかもしれませんが、これは「矮新星」と呼ばれるタイプの星のみをまとめたものです。今回の目的とは関係ないのでまずは飛ばして、ずっと下へスクロールしてみましょう。

「Other Cataclysmic and Peculiar Objects」という表題が目に入ることでしょう。新星はこちらにまとめられています。

 左端の見出しが星の名前です。日本語でない上に星座名に略称がつかわれているのでなじみがない方もおられるかもしれません。例えば一番上の"And"はアンドロメダ座のことです。今回はいるか座新星のデータをみたいので、いるか座の略称である"Del"を探します。星座名から始まる天体はアルファベット順に並んでいます。"nova2013 Del"というのが見つかりましたか?

nova2013 Del (N)   65(13)* 63(14)! 55(15)! 45(16) 49(17)! 49(18)! 50(19) 52(20)
  54(21)! 57(22) 58(23) 62(24) 58(25)! ACB,ADM,ANR,Abt,BEN,BVE,CGR,
  CSh,Dky,Fah,Fot,Fut,GRL,HAP,HGG,HHU,Heo,Hre,Hsk,Iak,Iha,Imi,Ioh,Ist,

★ 天体のタイプと別の名前
 まず天体名のうしろの( )くくりのアルファベットは天体のタイプを示します。N、とはNova(新星)の略称です。でも、上下を見ると(=Nova Cyg 2008, N)とか(=HD172468, pec/RCB:)などとタイプ以外のものらしきものが書いてあるものもありますね。これはいわゆるエイリアス、別の名前を示します。例えばV2493 Cygという天体は元々は2008年に現れた新星で、変光星名が付く前はNova Cyg 2008と呼ばれていましたし、その当時観測していたけれど暗くなってからは観測をしなくなっており、変光星名が付いたのもまだ知らない方にとってはこちらで探した方がピンときますから併記されているわけです。いるか座新星も、そのうちに「いるか座V○○」のような名前が付けばそちらが正式名称になります。

★ 光度
 そのうしろの数字が光度です。そして、( )で示されているのが日付です。激変星サーキュラーは一ヶ月ごとの月末で締めますので、月は書いてありません。また、等級は小数点をはずして10倍してあり、複数の観測データが一日に寄せられたときは(現在のいるか座新星についてはほとんどの日がそうかと思います)平均値が出ます。例えば、(8月)13日はいるか座新星は6.5等だったというわけですね。
 これをたどっていくと、16日に4.5等まで明るくなり、その後5.0等より少し明るいあたりをうろうろ、21日になると減光を始めて……
 という動向が読み取れてくるわけです。このように、皆様から得られた観測はデータベースとしてまとめられ研究調査のための重要な資料として蓄積されているのです。今、当サイトに掲げられている光度曲線のような図は、論文などの形で研究成果が発表される時にはしばしば引用されますし、個々の詳細な数値は詳細な解析に用いるデータの一部となる使われることもあります。

★ 観測者一覧
 そして最後のズラっと並んだものが観測者一覧です(上にコピペしたものは先頭の一部しか入っていません)。もっともフルネームで入れたら大変な量になってしまうので、観測者コードでアルファベット順に並んでいます。自分の観測者コードが分からない、という方は一番下にリストが入っていますのでこちらから参照ください。

ただしデータベースの関係か一部「天体の後ろにはちゃんと名前があるのにリストされない」人がおられるようです。これにつきましてはご容赦願います。

★ その他の記号
 ところで、光度と日付の後ろに*とか!とかついているものがありますね。これは一体何でしょう。

 例えば、13日のデータは「65(13)*」です。「*」は「一日以内に矛盾したデータが報告されている」ことを意味します。じゃあ13日に誰かおかしいデータを送ったの?とびっくりする方がおられるかもしれませんが、これは13日はいるか座新星がちょうど明るくなっている日なので、日の始めの方に撮った写真で写っていないことから「〜等より暗いです」というデータが得られ、終わりの方で「新星見えます」というデータが寄せられているため一日のスケールだとそうなっているという事情です。

 次に14日のデータは63(14)!となっており、「!」がついています。これは一日のデータのうちもっとも明るいものと暗いものの差が1等以上あるという意味です。14日のいるか座新星は増光中だったので、一日の観測の中ではそれくらいの違いが出てきます。15日も同じです。他にもいくつか!が出ている日がありますが、いずれも違う光度体系(波長)で見た観測セットを含んでいるためです。

★ 「何等より暗い」という観測
 最後に、いるか座新星では今のところありませんが、<がついている数字は「何等より暗い」という意味です。例えば先ほど名前のでた"V2491 Cyg"は「<151(5)」ですね。これは「5日は15.1等より暗かった」という意味です。また、この星は5日のあと16日に飛んでいますが、これはその間観測がなかったことを示します。今の ところ、いるか座新星では毎日観測がありますから飛んでいる日はありませんが、今後暗くなると「<」の付く日や飛ぶ日も出てくることでしょう。

★ 更新の頻度
 この激変星サーキュラーはほぼ一日一回、日付が変わる少し前に更新されます。ただ、VSOLJのデータは週末にまとめて追加されるので、皆様からの観測が反映されるのはその時になります。海外の観測者からよせられたデータなどはより早く反映されるので、それとキャンペーンのページの光度曲線と見比べてもおもしろいかもしれません。

★ 新星以外の激変星の紹介
 以上が大体のサーキュラーの読み方です。最後に、ズラリと並んでいる他の星の動向にも興味をもった方がおられることでしょう。もっとも、タイプ名や星座の略称になじみがない方も多いかもしれません。星座の略称は天文年鑑や国立天文台のサイト などが参考になりますが、タイプ名は分かりにくいのみならず流動的に使われているものも多いですし、それぞれどこがおもしろいかを説明しているとそれだけで一冊の本になってしまいます。そこで話は余談となってしまいますが、ここではサーキュラーを少し眺めるだけで楽しめるものをいくつか紹介します。

 上の方にスクロールすると「Dwarf Novae」という項目があります。この項目は「矮新星」のまとめです。矮新星はその名前のとおり新星のようにポンと明るくなってまた暗くなる、という変動を繰り返すのですが、その規模が新星に比べると小さい、というものです。明るくなる間隔はさまざまなので、眺めてもらうと分かるとおり「<」ばかりが並んでいる星も多くあります。

 その中で、例えば一番上にある「RX And」に注目してみます。うしろの分類は(UGZ)となっています。これは「きりん座Z型矮新星」の略称ですが、おそらくこのタイプの星が一番サーキュラーで追う楽しみがあるかと思います。というのもアウトバーストの間隔が非常に短いものが多いためです。 たとえばこの"RX And"、光度を追ってみると8月の始めに11等からぐんぐん暗くなり、10日頃には14.5等になっていますね。この星は普段の「増光していない状態」(静穏時、と呼びます)はこれくらいなので、この時には増光は終わっています。そして見てみましょう、3日後にはまた11等に明るくなりました。その後ぐんぐん暗くなり、23日には「13.0等以下」です。そして、また25日に新たな増光が起きています。

 もっとも、「UGZ」のものでも暗い星や季節があってない星は観測者が少ないので見てもこのようなダイナミックさはありません。わりと明るそうなものをまずは追ってみるのがよいでしょう。「UZ Ser」、「KT Per」、「EM Cyg」、そして「Z Cam」などがおすすめでしょう。

 次に、「UZ Boo」という星があります。これは「UGSU」と書いてありますね。この星は非常にアウトバーストがまれなので普段はずらりと「<」が並ぶ星ですが、今たまたまアウトバーストしているものです。今限定のおすすめ天体といえるでしょう。

 見てみると、12.9等から毎日少しづつ暗くなり、6日には!が出て次の日にはグンと暗くなっています。!は一日の間にデータのばらつきが大きい、でした。つまりこの日にこの星は一気に減光したのです。しかし追ってみると……11日にはまたえらく明るい数字が。観測ミス?そうではありません。この星は「再増光」を示しているのです。14日、18日、と再増光は一度では終わりません。実はまだ再増光は終わっておらず、何回で終わるかは誰にも(星のすぐそばまでいけばわかるかもしれませんが……)分からないのです。