いるか座新星はいるかな? > いるか座新星の観測方法 (眼視編)




いるか座新星の観測方法 (眼視編)


望遠鏡編
 いるか座新星も少し暗くなってきました。7等級よりも暗くなると、そろそろ双眼鏡だけで観測するのは難しくなってきます。もし天体望遠鏡やフィールドスコープをお持ちの方はそろそろ切り替えの時期になるかも知れません。

フィールドスコープ
フィールドスコープ(口径6-8cm、倍率20-30倍の地上用望遠鏡)の観測方法は双眼鏡の場合とさほど変わりません。この程度の口径があれば9等級程度まで観測することができるでしょう。空の暗いところならばさらに暗い等級まで観測できるかも知れません。双眼鏡から望遠鏡に切り替える時に見え方が異なり、等級が違って見えることがあります。この時期は両方の機材で観測して、それぞれの等級を記録して報告するとよいでしょう。このクラスの小型地上用望遠鏡の利点は簡単に移動して観測できることです。たとえ自宅に望遠鏡を置く場所がなくても、少し外出して観測することもできます(安全には十分ご注意ください)。家によっては窓から見えるところもあるでしょう。

小型天体望遠鏡
さらにおすすめは10cmぐらいの小型天体望遠鏡を使うことです。7等級の新星は天体望遠鏡にはやや明るすぎますが、わずか数cmの口径の違いで、天体望遠鏡でみる星空はフィールドスコープとはひときわ違って見えます。もし自宅か手軽に利用できる場所に望遠鏡を置いて観測できる条件の方は、ぜひこの機会に星空の望遠鏡観測にトライしてみましょう。暗くなってから望遠鏡に導入するのは難しいですので、今の比較的明るい時期から視野に入れる練習をすることをおすすめします。

この程度の明るさの新星を観測するのに適当な倍率は20-50倍程度です。もし双眼鏡などですでに観測しておられれば、同じように望遠鏡の視野に導入できます。まわりの肉眼星から見当をつけて導入することが難しいことから、必然的に明るい星をファインダーでとらえ、そこから星の並びをつたって目的天体にたどりつきます。いるか座の四角形からファインダーで(57)の星を入れて、そこから望遠鏡を覗くのが妥当な順序でしょうか。視野にはよく似た星がたくさんありますので、星図とよく見比べて上下の方向やスケールが間違っていないことを確認しましょう。天体望遠鏡は上下が逆なので慣れるのにしばらく時間がかかるかも知れませんが、このように星の並びをたどって目的天体に到達するのは天体観測の第一歩で、慣れればどのような天体でも導入できるようになります。ぜひ楽しんでみてください。ここで出発点の一つのいるか座γ星は小型望遠鏡でもよくわかる二重星です。このように途中の面白い天体に寄り道してゆくのも天体望遠鏡を用いた眼視観測の醍醐味です。

暗くなった新星のおもしろさ
さて、少し暗くなった新星を望遠鏡で観測すると何が面白いのでしょうか。まず第一に星空の美しさです。新星は銀河面近くに出現することが多く、望遠鏡で見る視野はにぎやかです。今回のいるか座新星は比較的銀河面から離れていますが、銀河面の星の多いところに出現した新星の場合は、周囲に星の集団や暗黒星雲があったり、生の星空ならではの楽しみを味わえます。もちろん天の川に適当に望遠鏡を向けても同じような光景は見られますが、明るい時期から追跡して「なじみ」になった場所を散策する楽しみは知らない場所を散策するのとはまた違った味わいがあります。それまで明るく輝いていた新星が銀河の星々の間に溶け込んでいく様子を見るのは、まるで宝探しをするような感じです。新星が9-10等級まで暗くなって、10cm程度の望遠鏡を使われるようになるとこの感覚を感じ取っていただけると思います。

色の変化の観察
さらに注目すべきは色の変化です。最大光度を過ぎた後の新星は赤っぽい色に見えるようになりますが、さらに暗くなって「星雲期」に入ると惑星状星雲と同様のメカニズムで光るようになり、惑星状星雲に似た色になってきます。キャッツアイ星雲(NGC6543)という天体のことを聞かれた方があるかも知れませんが、見る方向などによって色や見え方が変わって見えることからこのように名づけられたものです。これは禁制線と呼ばれるスペクトル線のいたずらで、人の目の網膜ではこのスペクトル線に対する感度が場所により違うこと、目が十分暗闇に慣れているかどうかでこのスペクトル線の感度が異なることが原因です。新星でも同じ現象を見ることができます。また新星によってスペクトル線の強さが異なるため、見え方も違ってきます。チャレンジしてみましょう。このように「目でみる新星」(眼視観測)の明るさは、実は網膜をセンサーとする眼視観測特有のもので、他のCCD観測などとは異なってきます。星雲期の新星では、眼視観測の方が写真観測(一昔前の)よりも1等級近く明るく見えることも珍しくありませんでした。現代のCCD観測やデジカメで測定した光度についてはどうでしょうか。

明るい新星をこれほど長く追いかけられる機会は多くないので、いるか座新星はこれを調べるよいチャンスです。たとえCCDやデジカメが万能の時代になっても、過去眼視観測で記録された新星の記録と比べるためには、現代でも眼視観測を続けることは欠かせないのです。

自分の目で星空を散歩する楽しみ
いるか座新星の望遠鏡観測を通じて、自分の目で星空を散歩する楽しみを味わっていただければと思います。新星が少し暗くなってきたら思い切って倍率を少し上げてみましょう。100倍程度で見る星空は、低倍率とはまた違った輝きに見えることでしょう。背景の明るさが暗くなるため、良質の光学系であれば一層暗い星が見えます。接眼レンズへの人工光の混入などを上手に避けることができれば思ったより暗い星を見ることができます。都市郊外程度の明るさの空であればカタログに記載されている極限等級よりも暗い星を見ることすらできます。変光星図を頼りに何等星まで見えるか挑戦してみましょう。これから秋、透明度のよくなる晩はチャンスです。星空観察は低倍率がよいとの常識は一度忘れて、少し高い倍率で星空を楽しんでみましょう。これは天体望遠鏡ならではの楽しみ方です。もし12等ぐらいまで見えるようでしたら、1967年肉眼光度になったいるか座新星であるいるか座HRの現在の姿を探ってみるのも面白いでしょう。この等級まで見ることができれば、他のいくつもの激変星の観測をすることもできます。


双眼鏡編
 今回の新星は5等星程度(現在)と、空の暗いところならば肉眼で見える程度の数字ですが、現在は月明かりが大きいためたとえ空の暗いところでも肉眼で見ることは難しいでしょう。ただし今後月明かりがなくなり、もし新星がさらに明るくなることがあれば肉眼でも見えることがあるかも知れません。


双眼鏡がおすすめです

 現在の新星を観測するのに最も適切な機材は双眼鏡です。もしバードウォッチングなどに使える双眼鏡をお持ちであれば十分に使用可能です。古い双眼鏡が家や知人のところに眠っていないか聞いてみましょう。

 双眼鏡をお持ちでない人で、今後明るくなると言われているアイソン彗星を見たい、あるいは星空を見てみたい、いずれバードウォッチングをしてみたいと考えておられる方は、この機会に双眼鏡を購入されることをおすすめします。双眼鏡は何十年も使うことができて、大変割安な光学機器です。予算が1万円以下であれば選択肢は限られてきますが、8倍程度の低倍率のものを選んでください。店頭で実際に覗いてみてきちんと見えることを確認しましょう。1万円以上の予算があればより本格的なものを購入することができます。例えばバードウォッチングでは8倍口径30mmのものが標準ですので、これを参考にするとよいでしょう。天体専用の方はもう少し大きめの口径(40mm程度)を選んでおくとより暗い天体を見ることができます。よく天文用とされる7倍口径50mmのものは、明るい都会では能力をあまり発揮できませんが、暗いところで使う時はより暗いものを見ることができます。

 ピントの合わせ方、目幅の合わせ方などは明るいうちに調整しておきましょう。

 双眼鏡観測で非常に重要なのは暗闇に目を慣らすことです。明るい室内から外へ出た直後やパソコン画面を見た後などは当然暗いものは見えません。観測前に10分20分程度は電灯や画面を消し、暗さに目を慣らしましょう。あるいは夜中に目覚めてしまった場合などは観測に大変適した状態になっていますので、こういう時に観測するのも一方法です。


新星の見つけ方

 新星は星座を形作る星からはやや離れたところにありますので、慣れないうちは図と比べながら慎重にたどってみてください。最初に場所を確認するのにたとえ30分や1時間ぐらいかかっても、一度場所がわかるようになれば、2回めからはすぐに見つけられるようになります。他人に望遠鏡で入れてもらったものを見るのでなく、自分の目で見つけるのは大変楽しいものです。だまされたつもりで試してみてください。

 まったく初めての場合は、夏の大三角(ベガ、アルタイル、 デネブ)からまずは星座のたどりかたを確認してゆきましょう。星図に自分の双眼鏡で見える範囲の円を描いておくと見つけやすいでしょう。明るい星をつたいながら次の星へとジャンプして行きます。思ったところに星がない場合はどこかで間違えていますので、山道を行くのと同様、確実なところまで戻ってやり直しましょう。や座かいるか座の配列のわかる人ならば比較的簡単に目的星を視野に入れることができるでしょう。

「からけん」さんの導入方法説明
のビデオがあります。このビデオではこと座のベガからたどっています。

新星を双眼鏡の視野に入れることができたら、その近くで一番明るさの近い星を探します。ここで比較用の星図と比べますが、この新星の近くには4.8, 5.0, 5.1, 5.7 の明るさの星があります(観測用星図では、星と紛らわしいため小数点が省略されています。 48 とあれば 4.8 等級の意味です)。もしこの中で全く同じ明るさに見える星があれば、その等級を記録します。もし 5.1 と 5.7 の間の明るさであれば、どちらの明るさに近いか目分量で見積もってみましょう。ちょうど中間ならば 5.4 になります。眼視観測による等級の測定はこのように行います。新星と比較する星が双眼鏡の視野に同時に入らない場合がありますが、その場合は交互に中央に入れて比較しましょう。最初のうちは図を見比べているうちに場所がわからなくなって最初から入れ直す必要があったり面倒に思えますが、一度観測すれば二回めからはずっと早くできるようになります。やってみましょう。


観測報告に必要なもの

 観測した時刻(1分まで)、比較に使った星の等級をメモしておきましょう。この数字を報告していただきます。


望遠鏡でみよう

 天体望遠鏡があれば新星が暗くなった時でも追跡できます。5等級と明るい時期には天体望遠鏡は明るさを眼視観測で見積もるのに適していませんが、色を見ることができますのでお持ちの方は試してみましょう。上記双眼鏡ではだいたい6-7等ぐらいまで(都会の場合)観測できますが、それより暗くなると望遠鏡の出番です。光度の測定方法は同じですが、双眼鏡よりは視野の移動が難しいので間違った星を探してしまわないようによく注意して導入しましょう。

 双眼鏡を使いこなしておくと望遠鏡の使い方に慣れるのも早くなります。

 今回の新星に限らず、日常的に双眼鏡を使いこなしておくとよいでしょう。天体望遠鏡でなくても、バードウォッチング用などの望遠鏡(スポッテイングスコープ)が使えるならば十分役に立ちます。導入の簡単さは双眼鏡と天体望遠鏡の中間ぐらいです。一度導入できれば三脚に固定できるので星図と比べるには手持ちの双眼鏡よりは便利です。なお天体用でない望遠鏡は高い空を見にくい場合が多いので、新星があまり高くならない時間帯(真夜中ごろを避ける)が見やすいでしょう。(加藤太一)