誰も知らない話 第10話


それからしばらくの間の店はにぎやかだった。
が戻ってきた上、ヴィンセントも体が完全に回復するまでの間
ここに泊まっていたからである。
まったく、ときたらヴィンセントに預ける前とどこも変わってはいない。
もういい歳だというのに甘えるわ、騒がしいわ、時折いらんことをするわ、
食べ物の好き嫌いをするわ、は一体何度子供相手にするような
叱り方をせねばならなかったことか。
ヴィンセントもさぞかし面倒を見るのが大変だっただろう。
彼のようなタイプはにとっておちょくるのに最適だから。
そんなこんなでまるでどこかのほのぼのホームドラマのような日々は過ぎていった。

「じゃあ、。あたし行くね。」

は愛用のクレイモアを背中に差して言った。
暴走の影響でひどかった疲労は既に回復している。
それでもあの暴走はに外傷こそ残さなかったものの
内部にかなりの損傷を与えており、しばらくはの煎じた薬を
飲みながらベッドの中で過ごすことが多かった。
ヴィンセントも傷はすっかり塞がったが、が調べたところ
と同じように体にかかった負担が心配なので安静にさせられていた。
本人は子供ではない、と主張したがが耳を貸さなかったため
ひどくおかんむりだったのが今思い出してもおかしい。
そうして今、2人はやっとこさ完治したのである。

「ええんか。」

が心配そうに言う。

「もう誰も、まぁ今んとこの話やけど、アンタを狙ってる奴はおらんねんで。
 ここに居たいなら無理せんでも。」
「いいの。」

は答えた。

のことも好きだけどあたし、ヴィンセントと一緒にいたいって
 思うようになったんだ。」
「そうか。」

寂しげではあったが、は納得したようだった。

「時たま便り寄こしてな。郵便でも電子メールでもええから。」
「うん。」

は言って、とひし、と抱き合った。
を抱きしめるの腕はやはり暖かった。
しばらく抱き合ってから、の肩を掴んでそっと離した。

「さぁ、行っといで。」
「行ってきます。」

促されてはいそいそと店のドアから出て行く。
外ではヴィンセントが1人、突っ立って空を眺めていた。

「御免、待たせて。」

は声をかけたが、赤マントの青年は答えない。

「ねえ、行こうよ、ヴィンセント。」

それでもヴィンセントは答えない。
空を見上げるその顔にはどこか暗い影があった。

「どうしたの。」

問いながらはヴィンセントの背中が自分を突き放すような
冷たさを帯びていることに気がついた。
それでもそっと彼の手に触れようとすれば素早く振り払われてしまう。

「私は1人で行く。」

空を見るのをやめて、いきなり重々しくヴィンセントが呟いた。

「お前の旅は終わった。お前はここに残れ。」
「いきなり何で。」
「最早お前を狙う者はいない。私がお前を保護する必要はなくなった。」
「でも、それじゃあヴィンセントはどうなるの。」
「お前には関係のないことだ。」

ヴィンセントはの問いに冷たく言い放った。

「私の過去を話したことがあったな。私は大切な者を守れなかった愚かな生き物だ。
 この身はその罪を償うためにある。それだけのことだ。」

確かにヴィンセントの過去は知っていた。
その昔、ルクレツィアという彼が想いを寄せる女性が
お腹の子供を実験に捧げそのせいで自らもまともに
死ねない体となった挙句、身を隠してしまった。
そしてお腹の子供は2年前、星を滅ぼそうとする恐怖の存在と成り果てた。
ヴィンセントはルクレツィアが実験に身を捧げてしまうのを止めることが
出来ず、結果2年前の惨劇が起こったことを自分の罪と考えて
未だにそれを振り切ることが出来ないでいる。
それでも今ヴィンセントが吐いた台詞はあまりに悲しい言葉だった。
彼の思う罪は生きている限り彼を縛り続ける。逃れる術はどこにもない。
ヴィンセントは罪を許されることが一生ないのだ。
だけど、とはふと思った。それは本当なのか。
彼は本当に許されることがないのか。
何か違うのではないのか。
根拠はなかった、が、何かがの中でひっかかっていた。

「違う。」

は呟いた。

「違う、ヴィンセントが弱虫なだけだ。」

その言葉にヴィンセントの赤みがかった目がカッと見開かれる。
次の瞬間、はヴィンセントに首をつかまれていた。

「今、何と言った。」

を突き刺さんばかりの睨みようだった。
体からは殺気とも取れるほどの怒りが吹き出している。
日頃感情を表に出さないヴィンセントとしては非常に稀なことだ。
ルクレツィアのことが絡むだけでこの変貌振り、
どれだけ彼が想っているのかがわかる。の胸が痛んだ。
どこまで行ってもこの人の見つめる先にいるのはルクレツィアだけなのだ。
自分がどれだけ想っていても、この人は振り向くことはないのだ。
でも、それでも…。
首を掴むヴィンセントの握力が徐々に強くなっていく。
しかし、はひるまない。

「だってそうでしょ。罪がどーのこーの言ってるけどホントは逃げてるんじゃん。」
「貴様っ。」

ヴィンセントの怒声が響くが、は構わず話を続けた。

「そうやって逃げてれば楽だよね。罪を背負って悲劇のヒーローぶってさ、
 自分の殻に閉じ篭って、外を見ようともしないで。
 怖いって、正直に言いなよ、新しい一歩を踏み出すのが怖いんだって。
 おっかないんでしょ、ルクレツィアさんを忘れるかもしれないから。
 でも誰だって一緒じゃん、みんなちょっとずつ色んなことを忘れちゃうんだよ、
 何もかも覚えてられる人なんていやしないんだから。
 あたしだってそうだよ、それでも生きてこうって決めたんだ。
 なのにヴィンセントはどうしてそうしないの、歳ばっか食って
 この馬鹿野郎っ、意気地なしっ。」

ヴィンセントはとうとう怒り心頭に達したらしい。
彼の手がを殺さんばかりに締め上げ始めた。

「いいよ、殺しちゃっても。ヴィンセントがそうしたいなら。」

少し苦しかったが、は静かに言った。

「ヴィンセントなら別にいいやって、前から思ってたんだ。」

ヴィンセントがはっとしたような顔をする。

「どうしたの。ムカつくんでしょ、目の前から消したいんでしょ。早くしなよ、おっさん。」

ヴィンセントの瞳が揺れた。
何を思ったのか、彼の手の力が少しずつ弱くなっていく。
そうして彼の瞳から何か光るものが溢れ、こぼれて、筋となって流れてきた。

、」

彼は呟いてをとうとう離した。

「私は…」
「ったく、ホント手間がかかるよね。」

軽く咳き込みながらはやれやれと苦笑した。

「罪だとか何とか、そんなの多分ルクレツィアさんだって思ってないよ。
 ヴィンセントがそうやって自分で自分を縛っているだけ。
 そうしないと生きる理由がなくなっちゃうから。」

ヴィンセントは沈黙したまま答えない。何か考え込んでいる様子だ。
怒ってるかもしれない、と思った、が、は話を続けることにした。

「ねぇ、ヴィンセント。もうちょっと楽になろうよ。
 この星はね、いつも色々大変だけど色々いいこともあると思うんだ。」

の保護者はまだ考え込んだままだった。
は一旦話を切ってヴィンセントが口を開くのを大人しく待つ。
多分ヴィンセントは何か自分に答えを返してくれると自然に思っていた。
これも何の根拠もないというのにどうしてそう思えたのかはわからない。

「いいこと、か。」

長い沈黙を破ってヴィンセントが重い口を開いた。

「お前は、あったのか。」
「あったんじゃない、あるんだよ。がいる、が育てた花達がいる、
 それに今はヴィンセントもいる。ヴィンセントだってあるはずだよ、
 クラウド達に起こしてもらって仲間もいっぱい出来て、それにあたしもいるしねっ。」

最後の台詞に関してはは8割以上冗談のつもりだった。
が、ヴィンセントがそれに対して返した反応は彼女の予想を完全に覆した。

「ああ、そうだったな。お前がいる。」
「あ、え。」

の頭は途端にパニックになった。
気づけばヴィンセントは彼女を抱き寄せているし、とにもかくにも顔が近い。

「遅いんだよ、人がどんな気でいたか知らないで。」

は呟いて、自分もヴィンセントの首に腕を回した。

そして2人は新たな旅へと出発した。



レノはエッジにあるの店までバイクを飛ばしていた。
後ろの荷台にはスーツケース、何だって彼がそんなことを
しているのかというと休暇を与えられたからである。
奇跡的なことに、あれだけの失態をやらかしたにも関わらず
ルーファウス社長から解雇通告が下ることはなかった。
2年前の1件で神羅カンパニーも人手が相当少ない。
自分の身の警護が出来る人材は多少のことに目をつぶってでも
必要なのかもしれない。
いずれにせよ、有難い事だった。
これで失業なんぞしたらに合わせる顔がない。
尤も、のことだ、レノが危険な仕事をせずに済むことの方を
喜ぶ可能性も十分にあったけど。

「さーて、急いで帰るぞ、と。」

レノは更にバイクの速度を上げた。
多分、今頃はも出て行ってて邪魔される心配はないだろう。
はいつもレノの姿を見ると物凄く不機嫌になる。
その上、レノとが2人でいようとすると年甲斐もなく
駄々をこねて会話の邪魔をしだすのだ。
それはもう、『母親の再婚を嫌がる子供』のように。
後は食虫植物だが、こいつは念のため持ってきた犬用ジャーキーでも
突っ込んでやることにしていた。
また噛まれたりセットをグシャグシャにされたりするのは御免だ。
そんなことを考えている間に荒野はどんどんレノの後ろを過ぎて行った。

レノがエッジの町外れに到着するとの店は開いておらず、
ドアに一身上の都合でしばらく臨時休業する旨の貼り紙が貼られていた。
店の前の花壇には相変わらず例の食虫植物が頑張っている。
早速レノに向かって牙を剥こうとしてきたが、レノは素早く用意した
犬用ジャーキーをその花の口に突っ込む。
うまくいくかどうかは実を言うと自信がなかったのだが、
食虫植物はそのままガシガシとジャーキーを(かじ)り始めた。
餌さえ貰えりゃいいのかよ、とレノは思ったが言うところの
『突然変異でたまたま出来た』ものに突っ込むだけ無駄だと思い直す。
とりあえずうるさい門番は黙らせた、後は店主を呼ぶだけだ。
レノはスーツケースをバイクから降ろし、足元に置くと呼び鈴を鳴らした。
数秒たって、店の中からパタパタという足音が聞こえてくる。
更に待っていると、ドアが開けられ、そこからはビーカー片手に
吃驚顔のが出てきた。

「アンタ、どないしたん。」

口調は本当に意外そのものといった風だった。
レノが連絡を入れなかったから当然だが、それにしてもえらい驚きようである。

「休暇が取れた。帰ってきたぞ、と。」

当たり前だと言わんばかりにレノは答える。
実際、彼にとってはそれが事実だった。
が、はそんなことであっさり納得するようなタイプではない。

「いや、休暇はええけど帰ってきたはおかしいやろ。ここアンタの実家ちゃうし。」
「ここが俺の帰省先だぞ、と。」

レノは足元のスーツケースを取り上げると完全にを無視して店の中に入った。
有難い事にはいないようだった。
いたらレノの存在を即刻察知して飛び蹴りをお見舞いに来ているところだろう。
店の中は本来開店時間でないこともあってか、
床は掃除が必要そうだったし、ご自慢の植物達には
水や栄養剤をやらねばいけないようだった。
多分切花なんかは水をまるまる替えてやらねばいけないだろう。
それでも中は相変わらずかぐわしい香りが漂っている。
やっぱりここはいい、とレノは思った。
緑にあふれて色とりどりの花が咲き乱れているし、何よりがいる。
仕事が仕事なだけに落ち着かない暮らしをしている彼にとって
それは束の間の安らぎをくれるものだった。

「レノ、はよ部屋行って着替えたら。」

しばらく植物を見て回っていたらが声をかける。

「はいよ。」

何の気なしに返事をしてレノははた、と気づいた。

「俺の部屋あんのか。」

は答えない。何やら1人でブツブツ言いながら植物を弄っている。
よく見ればその手はただ葉を触っているだけで剪定をしている訳でも
枯れた花を取り除いている訳でもない。しかも何だか顔が赤いようだ。
ついつい見とれていると、さっさと上がれ、とビーカーを振り上げて
怒鳴られたのでレノは慌てて研究所の二階に上がった。
少々きしむ階段を上がると部屋が三つある。
どれが自分の部屋だろうと思っていたらドアの一つに何かがひっついていた。
薄暗くてよくわからない。顔を思い切り近づけてみてやっと
それが木製のプレートであることがわかった。

「おおっと。」

レノは他人が見たらさぞかし鬱陶しがりそうなくらいニヤニヤと笑った。
尤も、笑うなと言う方が無理かもしれない。
何故なら、ドアに打ち付けられたプレートには洒落た赤い筆文字で
"Reno"とあったのだから。

「やっぱここ俺の帰省先決定だぞ、と。」

満足げに呟いてレノは部屋のドアを開けた。

着替えて下に降りてみると、が店の奥の台所で朝御飯の用意をしていた。
レノが来たのを察知したのか、彼女は振り返る。

「早かったなぁ。御飯食べるやろ。」
「おう、腹が減って死にそうだぞ、と。」

レノは言って、椅子にどっかりと腰を下ろす。
食べ物の匂いが彼の鼻をくすぐった。どうやらベーコンエッグらしい。
長い距離をバイクで走ってきたせいですっかり空になった腹から
ぐううう、と特有の音がなった。
いくら早くに会いたかったとはいえ、ちょっと慌てすぎたかもしれない。
そういえば出る前に後輩のイリーナに、

『そんなに急いで、プロフェッサー・が浮気するとでも思ってるんですか。』

なんぞと言われたことを思い出す。
別にんなこと思ってねぇけどよ、とレノは思う。
滅多に会えねぇんだから0.1秒だって無駄にしたかねぇんだ。
明日をもしれない我が身、会える時間は大切にしたい。

「レノ、パンはどないする。」
「焼いてくれ、あとコーヒーよろしくー。」
「言われんでもわかっとう。」

は答えてちゃっちゃと皿にベーコンエッグを盛り付ける。
レノはテーブルに頭を乗せてかいがいしく働くの様子を見つめる。
普通ならどうということのない日常の光景、だがレノにとっては非日常的なもの。
ささやかにして最大のこの幸福はがいなければ有り得なかっただろう。
レノはここまで考えて1人でニタニタした。

「うんうん、やっぱアレは運命の出会いだったなー。」
「何を阿呆なこと言うとんの、それもニヤニヤ気持ち悪い。朝御飯冷めるで。」
「お、うまそう、いっただっきまーす。」

運ばれてきた朝飯にレノは早速かぶりついた。
非常に休暇らしい休暇になりそうだった。



早速一仕事終えたは岩の上にどっかりと腰を下ろして缶スープをすすっていた。
腹が減ってしょうがない。何たって今日は随分遠くまで来たのだ。
それに加えて化け物退治をするとなるとそれなりのエネルギーを消費する。
そういう訳ではガツガツと飯に食らいついていた。

「今度のスープは当たりだね、ヴィンセント。」
「うむ。」

ヴィンセントは答えて自分もスープを一掬いする。

「やっぱ安いからって得体の知れないの買っちゃダメだよ、
 あのまま前のヤツ食ってたら食中毒起こしてたかも。」
「別にウイルスが入っていた訳ではあるまい。」
「そーじゃないだろ。」

はボケボケな約1名に突っ込みを入れて、缶スープの具を掬い上げた。
スプーンの上に乗っかっていたのは貝だ。
うげ、と思ってヴィンセントが見ていない隙に素早くその辺の地面に捨てる。

「食べ物のえり好みをするな、何度言ったらわかる。」

バレていた。おかしい、見ていない隙に処分したはずなのに。

「何ヶ月もお前と付き合わされればいい加減わかる。」
「チェッ、目ざといおっさんだ。」
「言葉も直せ、さもなくば今度プロフェッサーに書面で報告する。
 の偏食が直っていないとな。」
「ひどいっ、最悪っ、脅しをかける気っ。」

は抗議するがヴィンセントは聞こえない振りをして
自分の缶スープにもっぺん取り掛かる。
しばらくは本当にに報告されたらどうしよう、
多分のことだから凄く怒る、ひょっとしたら
携帯電話にかけてきて怒鳴り込んでくるかも、などと考えていた。が、

「ちょっと待って。」

ふと気がついた。

「別にわざわざ手紙書かなくてもさ、今から携帯でメールすりゃいいじゃん。」

ヴィンセントの手が固まった。しかもブルブル震えだす。

「良かった、ヴィンセントがまだメール打つの下手で。」

しかしは甘かった。

「メールは無理だが、」

ヴィンセントが呟く。

「電話は一人で出来る。」
「だーっ、ダメダメ、やめろーっ。」

荒野の真ん中で小戦争が勃発した。

「馬鹿者、っ。離せっ。」
に電話しないで、おねがーいっ。マジやぱいって、殺されるーっ。」
「掴むなっ、これは精密機器だ。」
「とにかく電話閉じれーっ。」

しばらく2人は大騒ぎを起こした。いや、正確に言えば騒いでいたのはだが。
はヴィンセントがに不要な密告をしないようにと
彼の携帯電話を奪取するべく奮闘していた。
が、ヴィンセントだって伊達ではない。
訳のわからないことを喚き散らす女から電話を死守すべく、
あらゆる方向からの攻撃を腕一本で防ぎまくっている。

、いい加減にしろ。」
「アンタが電話かけるのやめるって誓ってくれたらやめるもん。」
「だからお前は子供だと言うのだ。」
「何よ、馬鹿―っ。」

傍から見れば完全に馬鹿みたいな光景だ。
やり取りだけ聞いていたら、小さな子供と父親の親子喧嘩にしか思えない。
そうして大騒ぎしていただが、ふと何かを思ってヴィンセントに
掴みかかる手を止めた。

「ヴィンセント、見て。」

上を見上げては言った。

「何か今日は空が青いよ。」

ヴィンセントもを押さえつけていた手を離して、同じように空を見た。
このところずっと曇ってばかりだったこの地方の空は
今、青々とした澄んだ色をたたえてこちらを見下ろしている。

「うむ、久々の晴天だ。」
「何かいいことあるかな。」
「わからん。あまり期待はするな。」
「いいじゃん、ちょっとくらい。」

は言って眩しそうに目を細めた。



はその頃、店の外に出て新しい植物のサンプルを植えていた。
今日は珍しく晴れ模様、この天気が続いてくれればサンプル達も
順調に育ってくれるかもしれない。

「さぁ、まだまだ忙しくなるでぇ。」

呟くに文句の横槍が入った。

「まだ仕事あんのかよー。」
「ええから手伝(てつど)うて。たまの休みやろ」
「へいへい。ったく、これじゃ休暇にならねぇぞ、と。」

恋人の文句には耳を貸さずにはもう一度空を見上げた。
あの1件のことはエッジの街の連中はほとんど知らない。
連中は多分このままの存在も知らなければ、に昔何があったかも
知らないままに日々をすごしていくだろう。
それでいい。不要なことを知らせて不安な思いをさせようとは思わない。
そもそもこれからまた何があるかもわからないのだ、
この星はどうにも受難体質らしいから。
だがせめていつかは平和が来ることを、自分の植えた花達が咲き乱れ、
誰もが笑って暮らせる日々が続くことを…。



これは誰も知らない話。

クラウド・ストライフが強い気持ちを取り戻したあの1件と
ヴィンセント・バレンタインが新たな星の危機と戦う1件の(はざま)に起こった、
誰一人知ることのない小さな、小さな話。



THE END
Thank you for your reading!



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