アメリカに居た頃から俺は、クリスマス・イヴとかクリスマスに
大きな執着を持ったことがなかった。

アメリカって国の文化の都合上、クリスマス関係は盛大に祝われてたけど、
俺にとっては自分の誕生日とその次の日ってくらいの認識しかなくて…。

変わってるって言われるけど大きなお世話なんだよね。
だから今年も特に何も考えてなかったんだ。

なのに……。



   次のイヴも
   Ryoma Echizen Birthday Novel



「さむっ…。」

吐く息が白い中、俺はボソッと呟く。

今年の12月24日、俺を含むテニス部レギュラー陣はどういう訳か
皆で集まってカラオケに行った。

首謀者はエージ先輩と桃先輩で、どうも俺の誕生日会も兼ねての計画だったらしい。

最初、俺は行くつもりがなかった。
せっかくの冬休みだってのになんだって
わざわざうるさい街中に出なきゃなんないのさ、メンドくさい。

…なんてことは言わなかったけど、
『ヤダ。』ってはっきり断わったのは言うまでもない。

だけど、エージ先輩と桃先輩が主役が来なくてどーするみたいなことを言うし、
大石先輩や河村先輩はせっかくなんだからって善意の笑みを浮かべて言うし
(河村先輩はともかく、大石先輩のは絶対善意に紛れて圧力がかかってたと思う。)
海堂先輩除く他の先輩達もあくまでも善意だと主張しつつ、
逃がすつもりは毛頭ない感じだったから訳のわからないままに
俺は首を縦に振らなきゃなんなかった。

いつもなら反対するこんな計画を、今回に限って許可した手塚部長を
この時ばっかは恨んだっけ。

…そーゆー訳で12月24日当日、俺は街に出ていた。

今は丁度俺の誕生日会(とエージ先輩は言い張ってる)を終わらせて帰ってるトコだ。

正直言って、疲れた。

これは始めっから見当がついてたけど、俺の誕生会と称しときながら
結局は自分らが騒いでるだけだから散々お祭り騒ぎに付き合わされて帰る頃には
クタクタになる。

何てったって場所が場所。
一応主役の俺を無視して最初にマイクを握ったのは案の定桃先輩で、
しかもマイク離さないし、途中で割り込んでやったら文句を言われた。
(他の先輩には『よくやった』と褒められた。)

後はカラオケの点数が悪かった人に乾先輩が汁を飲ませようとしたとか
(皆で取り押さえたから未遂で済んだ)
誰かが何故かラケットを持ち込んでて河村先輩に持たせたらえらいことになったとか
桃先輩と海堂先輩が喧嘩を始めたとか、エージ先輩に点数で負けた
不二先輩が開眼したとかいちいち挙げたらキリがない。

これだけ何やかんややってて体力消耗しない奴がいたら見てみたいよね。
何が悲しくてこんな寒い日に外に出て、疲れなきゃなんないのさ。

大体、俺に降りかかってくる災難はエージセンパイと
桃先輩が持ち込んでくるのが多い。

家に帰りたい時に限ってチームメイトの尾行に付き合わされたり、飯をたかられたり、
他校との喧嘩を買わされたり(ま、これはビミョーに俺の趣味が混じってるけど)、
ロクなことがない。

で、そんなことに巻き込まれると決まって次の日には3人揃って手塚部長に
大目玉を食らったり、おばさんに出席簿ではたかれたりしてホント、災難。

やれやれ。

俺はため息を一つついて、家路を急ぐ。

時期のせいか、辺りは人でごった返してた。
通りに並ぶ店のほとんどはクリスマスの飾り付けをしてるし、
広場を横切ればでっかいクリスマスツリーが目に入る。
…そーいえば、さっき乗った電車の窓にもスプレーで描いたみたいな
雪の結晶とか柊とかの模様がついてたっけ。

前から思ってたけど日本人ってクリスマスの意味ちゃんとわかってんの?
あ、しかもさっきやたらイチャついてるカップルが通ってったし。
変な国だね、まったく。

阿呆くさいから早く帰ろうと思う。
とにかくひたすら耳が冷たくて、足を益々速めてた時だった。

 バフッ

「うあっ!」
「きゃう!」

いちいち何が起こったか言わなきゃなんないのかな、これって?
言わなくてもわかると思うけど一応説明しとこ。

いきなり前から何かぶつかってきた。
俺よりちっさいガキ、それも女。

「いって…」
「あーっ、ごめんなさい、ごめんなさい!痛かったですよね?」
「…どこ見てんの?」
「ううう。」

……何、こいつ。竜崎のチビ版ヴァージョン???
顔を真っ赤にしてうな垂れるチビ助に、ふと女テニの三つ編み運動音痴の姿が重なる。
この手のタイプ困るんだけどね、ちょっと言っただけですぐパニくるから。

思ったとおりチビ助は固まっちゃって、しばし沈黙。

「悪いけど、俺急いでるから。」

こちとら固まったチビ助に構ってる暇はない。

「あ…」

俺がその場を去ろうとした時、チビ助が何か言いかけたのが聞こえた気がした。
けど、それどころじゃなかったからその時は全然気にしなかった。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


家に帰ってきたら、従姉の菜々子さんが出迎えてくれた。
何でこの人が今日も家にいるのかはわかんない。
大学にも友達が結構いるはずなのに、誰も誘ってくれなかったんだろうか。
どーでもいいけど。

親父と母さんとカルピンにも顔を見せてさっさと2階の自分の部屋に
上がった俺は早速、さっきの誕生日会で先輩達から貰ったプレゼントを
開けにかかった。

まずは眉間に皺寄りっぱなしの部長の分。
包みの端をめくってみたら、俺は顔に線が入った気分がした。
よりによって日本語文法の本だ。
いくら俺が国語苦手だからってこれはないと思うんだけど。

次は大石先輩がくれた紙袋。
タオルが入ってる。実用重視って感じでこの人らしい。

不二先輩のくれた包みからはリストバンド。
そういえば始めサボテンにするつもりだったけどやめたって言ってた。
やめてくれて正解、だって絶対俺育てられる自信ないし。
(枯らしたら先輩に殺されそうだしさ)

河村先輩のは封筒で、『これぐらいしか思いつかなくて。』とか言ってたから
何かと思ったら自分トコの寿司屋の割引券だった。
これはまた大事に使わせてもらおうと思う。

桃先輩がくれた包みは妙にでかいと思ってたらお菓子類だったんだけど、これには参る。
この人、誰かの誕生日になると決まって食べ物を寄こすんだよね。
量が無駄に多くて、迷惑…。

海堂先輩のは…散々悩んだらしいね。猫じゃらしが入ってる。
でも、これって俺へのプレゼントってよりカルピンへのプレゼントのよーな気がする。

エージ先輩のは箱に入ったちっちゃいテディベアだけど、これ俺にどーしろってんだろ。
自分の趣味と一緒にしないでほしい。

でも極めつけは乾先輩ので、この人はいくつかの入浴剤と一緒に新型汁のレシピを
クリップで止めてた。
入浴剤だけ寄こしてほしかったと思うのは俺の気のせいじゃないと思う。

ま、一応全部ありがたくもらっとくけどさ。

貰った包みを全部解いた俺は中身を部屋の適当なところにしまった。
桃先輩が寄こした分だけは包み自体がでかくてしまいようがないから床のその辺に
おいておく。

「疲れた。」

作業(?)を終えて背中からベッドに飛び込んだら、
いつの間に入ってきたのかカルピンが人の腹の上に乗っかってきた。

「乗るなよ、カルピン。」

カルピンは『ほあら〜』と一声鳴いただけで人の話なんか聞いちゃいない。
一体誰に似たんだろ。

しょうがないのでしばらくベッドの上でカルピンと遊ぶ。
カルピンが飽きたのか、やっと俺の腹からどいた時だった。

 ガチャ

「よぉ、青少年。」
「何、親父?」
「おめーにお客だよ!」
「ハ?」

いきなし人の部屋のドア開けて意味不明のことを言う親父に俺は首を傾げる。
けど、

「おら、何やってんだ、待たせちゃわりーだろーがよ!」

強引に引き摺られる。……このクソ親父。

引き摺られて連れて来られた先は、1階の居間だった。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


居間に入ったら、母さんが知らない誰かと喋ってた。

「あら。」

俺が入ってきたのに気がついた母さんがこっちを向いた。

「リョーマ、あなたにお客様よ。」

だから誰なのさ。
俺はそう思って母さんの向かいに座っている人物を見る。

女、らしい。背は俺より低いみたいだ。
でもあの服装、どっかで見たことあるよーな。

「あ。」

思い出した。

「さっきのチビ助。」
「ち、チビ助……」

そう、母さんの向かいに座ってたのは、さっき帰ってくる時に俺にぶつかってきた
チビ助だった。
さっき会った時はパニックで顔を真っ赤にしてたけど
今は何だかガーンッって顔をしてる。

「ひ、ひどい。」
「だって俺よりチビじゃん、ってゆーか、何でこんなとこにいんの?」

俺が言ったらチビ助はハァァァァァとでっかくてわざとらしいため息をついた。

「……やっぱ忘れてるんだね。」
「リョーマ、覚えてないの?」

母さんまで呆れたように言った。

「アメリカで近所に住んでたちゃんよ。よく一緒に遊んでたじゃない。
 本当に忘れちゃったの?」

…………って言われても覚えてないもんは覚えてないんだけど。

俺は母さんがって呼んでたチビ助をじっと見る。
俺が覚えてないのがよっぽどショックだったのか、がっくりとうな垂れてて
一瞬紅茶カップとでも会話してんのかと思ってしまう。

しょうもないことですぐショック受けちゃう、こんなどこの国でも
やってけそうにない奴なんか近所にいたかな。

「日本に行っちゃう前に…」

チビ助がポソッと言った。

「一緒にテニスしたよね。私けちょんけちょんにされちゃったけど、
1回だけリョーマが私のボール頭に食らってコケてたよ。」
「俺、そんなにドジなんかじゃ…」

チビ助に反論しかけて俺ははた、とやめた。
何か思い出したよーな気がする。

『リョーマ、遊ぼう?』
『ヤダ、俺テニスするから。』
『じゃあ、あたしも一緒にやる。』
『やらないくていーよ。』

…………………………………。

「思い出したみたいね。」

母さん、何でそんなに嬉しそうな訳?

「何でがここにいるのさ。」
「こないだ日本に帰って来たの。リョーマがこの辺に住んでるって聞いてたから
 挨拶代わりに来たんだけど、さっきぶつかったのに全然気づいてないんだもん。」
「いちいちぶつかった奴の顔なんか覚えてられる?」
「わざわざ来たのに、相変わらずひどいんだね。」
「来てくれって言った覚えは全然ないんだけど。」

言った瞬間、の顔が暗くなる。
ホントやりにくいよね、この手のタイプ。言いたいことも言えやしない。

ちょっと雰囲気がヤバくなったのに気づいた母さんが冷蔵庫から
ケーキを出してきたので、それでこの場は何とかなった。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


まだアメリカに居た頃、俺はうちの近所に住んでいたとよく遊んでいた。
遊んでいたっていうより、遊んでやっていたっていうのが正しい。

は歳は一緒ぐらいだけど妙に背がちっちゃくて、今みたいにどっちかってーと
内気でちょっとしたことですぐ傷ついたりパニくったりする奴だったから
よく苛められてて、友達がほとんどいなかった。

別に俺がわざわざ首突っ込むことじゃなかったんだけど、近所に住んでると
どうしても顔を合わせるから、ある時気まぐれで一緒に遊んでやったらそれ以降
は何かにつけて『リョーマ、遊ぼう?』って言ってくるようになってしまった。

友達にはからかわれるし、いつもいつも俺んとこに寄って来るのが
正直ウザいって思ってたはずなのに何でかな、『遊ぼう?』って言われる度に
大抵は相手してやってた。

(弱いくせに)カードゲームが好きなはいつもスカートのポケットにトレカを
突っ込んでいて、しょっちゅう相手させられたのを今頃思い出した。

そういえば、クリスマスになると毎年家にも来てたっけ。
母さんがどういう訳かを勝手に家に呼んじゃうから。
も俺んちに来るのが嬉しいらしくて、この時はいつも普段より元気だった。

今だってそう。
一体何が楽しいのか、さっきまで微妙にしょげてたくせに
今は母さんが切り分けたケーキを妙に嬉しそうに口に運んでる。

単純だね……。

「リョーマ、今もテニスやってるの?」

モゴモゴしながらが言った。

「やってるけど。」
「へー、やっぱ強いんだよね?」
「当たり前。どっかの誰かと一緒にしないでよね。」
「ボール食らってこけたくせに。」
「あれはがクソ力でいきなし打ってきたからじゃん。」
「クソ力じゃないもん!」
「嘘吐き。」

2人で言い合ってたら、母さんが『仲がいいのね。』と訳のわかんないことを言った。
別にそんなんじゃないって。

「そういえばは、どーしてたのさ。」
「? 元気してたよ、見てわかんない?」

そりゃ見りゃわかるけどさ、そーじゃなくて…

「リョーマが行っちゃってからすぐにいじめっ子に気に入ってたトレカ取られてさ、
 あれだけはどーしても取り返したかったから突っかかってったことがあったけどね。」

それってしれっとした顔で言うことかな。
ま、俺がいなくてもうまくやってたみたいだからいいけどね。

「ちゃんと取り返したよ。」
「へぇ、のくせにやるじゃん。」
「何で猫くさいくせに言葉はハリネズミなの?」

…………。
にゃろう、言うようになったな。
 

  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「にしても治ってなかったんだ、会った人のことすぐ忘れちゃうの。」

居間でケーキを食べ終わって、2階の俺の部屋に上がってた時、が言った。

「だったら何。」
「色々困ってないかなーって。」
「関係ないじゃん。」

ベッドにもたれてた俺はそっぽを向く。

「こそ、未だに“すぐパニくり症”でどーすんのさ。」
「私はリョーマじゃないから、こればっかはしょうがないよ。」
「だったら俺もじゃないから、しょうがないね。」
「屁理屈。」
「お互い様じゃん。」

言い合ってしばらく2人とも黙る。
遠くからバイクの音がした。普通より音がうるさいから、
絶対誰かが改造バイクを乗り回してるんだと思う。

「リョーマ、」

先に静かなのを破ったのはだった。

「遊ぼう?」

ヤダって言うつもりだった。
だってはじめに先輩たちのお祭り騒ぎのせいでメッチャ疲れてるから。
でも、次の瞬間俺はこう言ってた。

「別にいーけど。」

はあの頃みたいに嬉しそうに笑った。

どうも。
自分でも知らないうちに俺はの『遊ぼう?』に弱くなってたらしい。

「何すんのさ、言っとくけど今日はテニスはなしだかんね。疲れてるし。」
「私こないだカードゲーム買ってもらったの、一緒にやろ?」
「いーよ。」

特にやることもないし。

心の中で俺はそう付け加える。
そんなことを知らないは嬉しそうに持ってきたバッグをゴソゴソし始めた。
相変わらず、何でカードゲームなんか持ち歩いてんのさ。

「あ、あった。」

しばらくバッグをゴソゴソしてたは底からボール紙の箱
―トランプよりちょっと大きい―を引っ張り出した。
がその蓋を開けると中から透明の帯で留めてあるカードの束が出てくる。
帯が外れるとカードはバサバサと床に広がった。

「何、これ?」

裏向きで床に広がったカードを一枚めくって俺は尋ねた。

「変な絵がついてる…」
「気にしない気にしない。これ、色んなお化けの絵があるから。」

普通は気になると思うんだけど。
けどはそんなことはお構いなしに俺に遊び方を説明しだす。

にゃろう、いつの間にこんな強引になったんだ。

溶けたチョコレートのお化けのカードを見つめながら俺は
歳月は侮れないとかよくわかんないことを思ってた。

そんで次の瞬間には2人して、カードゲームに興じていた。

「あー、全然カード揃わないよー。」
「まだまだだね。」
「リョーマ、もしかしてアイスクリームのお化けのカード持ってない?」
「さぁ?」

実は手持ちにあるけど、知らないフリをしてみる。
つーか、ペラペラ喋るやつはいないと思うけどね。

「次、リョーマだよ。」

言われて俺は自分の手持ちにあるカードを見る。

「にゃろう。」

運悪く、あまり捨てたくなかったカードを捨てる羽目になった。

それからどれくらい俺達は遊んでたかな。

多分外はとっくに真っ暗になってたけど、2人ともカードに夢中で
全然気にしていなかった。

とカードやってたらいつもこうだ。
自身ははあんまし強くないのに、一緒にやってたら妙にハマる。
これもあの頃と変わってない。

気がついたら疲れてきて
(俺の場合その前の疲れもあったから)、
俺もも部屋の床にねっころがっていた。

眠い……意識飛びそう。

「りょーまぁー、」

寝ぼけまくった声でが言った。

「言うの忘れてたー。」
「なに?」
「……………誕生日おめでと。これ、あげる。」

手のひらに、何か平たいものが乗せられるのがわかる。

「あー…」

一応礼を言おうとしてうまくいかないまま、俺は意識を手放した。


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


結局、俺が目を覚ました時にはとっくに次の日の朝だった。
しかもちゃんとベッドの中。
どうやら母さんか親父のどっちかに運ばれたみたいだ。(親父じゃないといいんだけど)

つまり、俺はほとんど一晩中と一緒にカードしてたってこと。
どーなのさ、そんなイヴの過ごし方って。

「ふあーあ。」

それよりも眠い。
とりあえずベッドの中でモゾモゾとしてたら、何かがハラリと落ちる気配がした。

一体何だろう、と俺は布団をめくって落ちたものを摘み上げる。

「あ。」

それは、一枚のトレカだった。
グリフィン(頭と前足が鷲で体はライオンで羽が生えてる怪物)のイラスト、
それも周りが金色で縁取りされててバックも何か虹色に光ってる
結構豪華なデザインの奴。

ふいにこれまたすっかり忘れてたことが頭に蘇った。

『リョーマ、見て見てー。レアカード当たったんだよ、すごいでしょー。』
『へぇ、これ格好いいじゃん。俺に頂戴。』
『ダメ。これはあげない。』
『ケチ!』

そっか、昨日寝ぼけてたから全然気がつかなかったけど、これ、あの時の…。

そういえば、今気づいたけどが居ない。

俺は寝巻きのままベッドから出て、下に降りた。

「母さん、どこ?」

母さんに聞いてみたら、どうもあの後の家に連絡して迎えに来てもらったらしい。

『悪いかしら、とは思ったんだけど。』って母さんは言うけど俺はそれを
半分しか聞いてなかった。

母さんからのとこの電話番号を聞くや否や、俺は家の電話のトコまで
すっ飛んでいく。
受話器を取り上げてボタンを押してたら、親父がニヤニヤしながら周りをウロウロ
するからカルピンをけしかけて追い払ってやった。

 RRRRRR RRRRRR

『はい、です。』
「越前ですけど。」
『あ、リョーマ、お早う。昨日は御免ね。』
「別に。それより、随分変なことするよね。」
『何のこと?』

電話の向こうのはまだ寝ぼけてるんだろうか。

「カードごときを寄こすのにわざわざうちに来るなんて相当変じゃん。」
『だって昨日がリョーマの誕生日だってことちょっと前まで忘れてたんだもん。
 何がいいのか思いつかなかったし、お金もなかったし。』
「だからってあんなことする、普通?」
『いいでしょ、リョーマいつも遊んでくれたし、
 あのカード欲しいって言ってたんだから。』

だったらあの時くれてもよかった気がするけど。

「ま、いいけどね。でもアレ貰ってよかった訳?」
『うん、最近他にも色々ゲットしたから。』
「マニアック…」
『う、うるさい!』

多分、は今頃顔を赤くしてることだろう。

「、」
『何?』
「来年もうち来る?」
『リョーマがいいって言うなら。』
「だったら来てよ。」
『うん。』

は肯いた。


と電話した後、そのまま俺はさっさと部屋に上がってもっぺん布団に潜りこむ。

「チェッ。」

俺は呟いた。

クリスマス・イヴだろうがなんだろうがどーでもよかったのに、
のせいでどーでもよくなくなったじゃん。

「覚えてろ。」

机の上に置いといたグリフィンのレアカードに向かって半分負け惜しみで言いながら、
俺は頭まで布団をかぶった。


I hope to be with you in next Christmas Eve.
おわり。
作者の後書き(戯言とも言う) また2日遅れだよ、私。 2日遅れで済んだ事自体が奇跡かもしれない。 やっぱリョーマ君は難しいわ…。 とりあえず、遅れたけど彼にはおめでとうと言いたいです。 ・今回使われた実話(?) その1 電車の窓にクリスマス仕様の模様 ホントの話です。神戸の地下鉄の窓に描かれてました。 しかも、最近クリスマスの時期が近づくと駅構内にクリスマスソングが 流れる…。何やってんだ、神戸市。 その2 作中でヒロインが持ち込んだカードゲーム 実在します。 王ドロボウJINGをご存知の方ならお持ちの方もいらっしゃるでしょう(笑) 私と猫商人は今でも時々このカードゲームを引っ張り出しては2人で 延々と遊びます。 基本は3枚一組の役を作るだけのシンプルなルールなのに何かハマる…。 ・今回の背景 郵便局のバイトの帰りに携帯電話で撮影した奴に加工しました。 何だって都合よくバス停の近くに柊が植わってるんだろう。 (そしてどうしてわざわざそれを撮影してるんだろう、私)
越前リョーマ夢小説メニューへ戻る