、準備出来たか?」
「うん。」
「…行くぞ。」
「はぁ〜い。」



初詣の話

初詣の話



1月1日、元旦。

俺は隣んちのガキの手を引いていた。
月日ってのは早いもんで、俺が小3の癖に振る舞いは幼稚園児で学校以外は
自分から外に出ようとしないこの変わりモンの面倒を見るようになってから
もう一年になる。

その間は変わった…とは言えない。
一年経とうが経たまいがこいつはずっとこいつのままで、
今だって何が嬉しいのか俺の手を握り締めてニコニコしている。

「かおるおにーちゃん。」
「何だ。」
「みてー、いきしろくなるよー。」
「寒いんだから当たり前だろが。」

はそんな俺の言葉なぞ聞こえなかったかのように息をハアアアと吐き出す。
冷たい空気に晒されて、それはあっと言う間に白くなった。

「かおるおにーちゃんもやる?」
「いや。」

俺は言ってのずれたマフラーを直してやった。

「早く行くぞ。」


   ←→←→←→←→←→


テニス部のレギュラー陣で初詣に行こうと提案したのは大石先輩だった。

初詣か…いつも仲間のことを気にかけてる、この人らしい。
提案された瞬間、大半の連中がそれに賛成した。
俺も別に元旦に予定があった訳じゃなし、知った連中と一緒に行くのに
異論はなかった。

その時だ。ふと隣に住んでるガキの顔が浮かんだのは。

そういえばは正月の間どうするんだろうか。
何せ多分に変わった奴だ、友達もほとんどいねぇだろうし一人で
外に出ることもないだろう。

「大石先輩、」

俺は言った。

「連れて行きたい奴がいるんですけど、いいっスか?」

先輩は自分は構わない、と言ってくれた。
他の意見も伺ったところ、全員がO.K.を出した。
ただ、一部の連中は絶対何か勘違いしてやがると思う。
越前までニヤニヤしてやがったからな…そんなにぶっ飛ばされてぇのか。

そういった訳で俺はレギュラーの皆と一緒に行く初詣にを連れて行くことにした。 本人は妙に嬉しそうにしたし、隣のおばさんも話をすると、快く承諾してくれた。
日頃から面倒を見てるせいでどうやら俺は信用されているらしい。
(疑われるよりもずっといいのは言うまでもねぇ)

で、今、と一緒に歩いてる訳なんだが…。

「あたし、はつもーではじめてなんだぁ。」
「そうかよ。」
「おにーちゃんはぁ?」
「さぁな。いちいち覚えてねぇ。」

 キャハハハハ

は突発的に笑い出す。
いつものことだ、だから何がおかしいかは聞かない。

「あ。」

笑い出したかと思えば、今度は何かに気づいたような声を出す。

「いーもん、みつけた☆」
「バッ、よせ!」

俺は慌ててが道の端っこに落ちている松葉をコートのポケットに
入れようとするのを止める。

「なんでぇ、ガラスじゃないからあぶなくないよぉ?」

間抜けな顔で見つめてくるガキに、俺はガックリと肩を落とす。
そーゆー問題じゃねぇだろが…

「今拾っても帰ってきたらもうグシャグシャになってるぞ、それ。
だからやめとけ。」

足りない頭で無理矢理ひねり出した理由には渋々俺の言うことを聞いた。
と行動を共にする場合は、こんな風に何らかの根拠らしきものをひねり出す
芸当も要求される。

大体何だってこいつはいつも見境なく何か拾おうとすんだ。
いちいち世話焼かせんな!
正月にと歩く時は門松を立ててる家がないルートを選んだ方が
いいかもしれねぇな……

って、これじゃまるっきし小さいガキを持った親じゃねぇか。

それでも、とそうして歩くのが俺は嫌いじゃなかった。
確かにはちっと手がかかるし、周りから見ればとんでもないイカレ娘かもしれねぇ。

だが、いや、だからこそせめて俺だけでもこいつを見てやりたかった。

いつまでそれが出来るのかはわからねぇが。


   ←→←→←→←→←→


電車に乗って30分、俺とはテニス部の皆と待ち合わせしている神社に
向かっていた。

電車に乗っている間中、はわりと大人しくしていた。
てっきり騒ぎまくって難儀なことになると思っていた俺はちょっと拍子抜けしたが
まあいいか、と思った。
一応歳相応の分別がないこともないんだろう。

その代わり、座席に座って首だけ後ろの窓に向けてるの顔は
凄くワクワクしてるような感じだった。
もしかしたら、あまり電車に乗ったことがないのかもしれない。

「人がいっぱいいるねぇ、おにーちゃん。」
「初詣だからな。…手ぇ離すんじゃねぇぞ。」
「うん。」

まだ目的地までは距離があるというのに、既に辺りは人で
あふれていた。
こんなところでうっかりの手を離したら洒落にならない。
探し当てる自信もねぇしな…

そんな人の心配を他所にはものめずらしそうにあっちこっちを
キョロキョロと見回している。まったく、いい気なもんだ。
尤も、そうじゃなかったからそれはそれで困るが。

「おにーちゃん、おにーちゃん。」
「今度は何だ。」
「あれ。」

左手で俺のコートの袖を引っ張りながらは前方を指差す。
その先には、手を振ってる大石先輩や他のメンバーがいた。

「おおい、海堂、こっちだ!」
「よかった、心配したよ。」
「事故にあったかと思ったが、取り越し苦労だったようだな。」

大石先輩、河村先輩、手塚先輩が口々に言う。
他のメンバーも全員揃っていてどうやら俺が一番最後に到着したらしい。

「先輩、遅いっスよ。待ちくたびれたっス。」
「カカカ、越前に言われちゃ世話ねぇなぁ、マムシよ。」
「新年早々蹴られてぇのか、テメェは。」
「おお、こわ。」

ったく、この剣山頭はいつになっても変わりゃしねぇな。
どうにも相変わらずのやり取りを繰り広げていたら、クイクイと
コートを引っ張られる。

「かおるおにーちゃんのおともだちぃ?」

途端、どっという笑い声が上がった。

「ぶわっはっはっは、か、かおるおにーちゃん?!誰のことだよ、あーおかし!」
「つーかこいつ起きてんの?寝ぼけた顔して、変な奴。」
「へぇ、連れて行きたい奴がいるって言ってたの、この子のことだったんだ。」
「何だぁ、てっきり彼女かと思ってたのにさっ。」

どいつもこいつも…笑うな!

目に涙を浮かべながら爆笑する桃城をどついて、目を離した隙に
勝手に抱いて撫で回している菊丸先輩からを取り返す。

「ほら、。」

俺は小さな頭をポムッとやった。

「ちゃんと挨拶しろ。」

『海堂、お父さんみたいだにゃー。』なんて声が上がってるが
聞こえなかったフリをしておく。
当のはというとキョトンとしていたが、俺の言ってることはわかってるのか
すぐにピョコッと頭を下げた。

「はじめまして、です。かおるおにーちゃんにはいつもおせわになってます。
あ、あと、あけましておめでとーございます。」

微妙におかしいとこがあるが、とりあえず先輩方も同級生(まだ腹を抱えてる)も
後輩(帽子越しにジロジロ見てる)もの挨拶に満足したらしい。

一通り挨拶も済んだところで、さっそくお参りに行くことになった。

、ぜってぇ手ぇ離すんじゃねぇぞ。」
「わかってるよぉ、おにーちゃん。」

は固く握り締められた手に閉口しているのか、少々
膨れてるような声を上げてついてくる。
が、悪ィが緩めてやるつもりは毛頭ない。

「もしやと思ってたが、やっぱりだったか。」

歩く道すがら、さっきまではほとんど口を開いてなかった乾先輩が呟いた。

「やっぱりって何なんスか。」
「いや、深い意味はないんだが…随分と気にかけてるようだったからな。」

どうもこの人はごまかせた例がない。
何だってこうもいちいち人の思いを言い当てるんだろうか。

「何か悪いことでも?」
「ないさ。ただ…」

乾先輩はふと目を伏せた。

「いつまでもお前が面倒を見てやれる訳じゃないぞ。」
「………そんなこと、十二分にわかってるっスよ。」

俺は呟いて、自分の手の先に目をやった。

は、初めて見る神社の様子に興味を奪われてニコニコしていた。

こいつはわかっているんだろうか。
いずれは俺から離れて、自分で歩かなければならないことを。


当たり前だが、神社の境内は強烈な混雑だった。
只でさえ、行き交う連中がやたら多いってのに大の野郎共が9人も
固まって歩いてると進みにくいことこの上ない。

しかも俺の場合、というおまけ付だ。
下手すりゃ足が浮きそうになる中、俺よりずっと小さなガキの手を離さないように
するのは至難の業だった。

「かおるおにーちゃん、うまくあるけないよー。」
「いいから掴まってろ、もうすぐだから。」

泣き出すんじゃないかと心配してしまう声を上げるをなだめながら
俺は自身も足を何とか動かそうとする。

「みんなー、ちゃんといるかー?」

先頭を歩いていた大石先輩の声が聞こえる。

「だいじょーぶだよ、おーいし。おチビもいるくらいだし。」
「それどーゆー意味っスか、エージ先輩。」
「海堂ー、そっちはどうだー?」
「心配ねぇっス。」

の方を振り返りながら俺は怒鳴った。

「今のところは。」

だがしかし、ガキ連れってのは油断がならない。

「あー、ハトがいるー。」
「バカ、よそ見すんな。」

言ってる先からこれだ。
ともすればすり抜けそうな小さな手に、俺は不安を隠せない。

それでなくてもは縁日の類に縁がないから立ち並ぶ露店の方に
すぐ気が行って先へ進むのが疎かになる。

。」

いい加減イライラしてきた俺は緊急手段に出た。

「わぁっ?!」
「かっ、海堂?!」
「落ちんじゃねぇぞ。」

を肩に乗せてその足をしっかり掴んでやりながら
俺は言った。

正直、これをやっていいもんかどうかよくわからねぇが、
何かの拍子で迷子になられるよりはいいだろう。

度肝を抜かれた河村先輩が横で口をパクパクさせてるし、
人目がこっちに集中してるような気がするが…

「かいどー、完璧父親じゃん!」

菊丸先輩が呆れ半分面白半分で言った。


そうやってやっとお参りが出来るところまでこぎつけたのは
どれくらい経った頃だろうか。

「ハァ。」

肩からを降ろすと、俺は思わず息を吐いた。

「おにーちゃん、だいじょーぶ?」

が俺の背をポムポムと叩く。

「かいだんはいーよっていったのにー。」
「ウルセェ、これぐらい何ともねぇよ。」

言って俺は上体を起こす。
……とは言うものの、さすがにちょっと無理をしたかもしれない。

「ハイハイ、じゃあちゃんと海堂が一番最初ね。」
「き、菊丸先輩?!」
「だってここは親子連れが先でしょぉ?」
「親子じゃねぇっス!」

俺は抗議したが耳を塞いでる先輩には何の効果もない。
その上、

「おにーちゃん。」

ガキがコートのベルトを引っ張りながらトロンとした目で見上げてくるのを
見ちまったら俺に勝ち目はない。

くそっ、菊丸先輩はぜってぇ確信犯だ。

はというと、人のことを無視してとっくにすっ飛んでいっていた。

「はやくー。」
「今行く。」


   ←→←→←→←→←→


 ガランガラン

と一緒に紐を引いて鈴を鳴らす。
賽銭はとりあえず適当、財布の中でジャラジャラになっていた小銭の
一つを放り込んでおく。
は下げていたポシェットから100円玉を引っ張り出して箱に投げ込んでいた。
(その前に1回失敗して、桃城に拾ってもらっていたが)

そして、2人同時に柏手を打って静かに祈る。

「おにーちゃんはなにおねがいしたのぉ?」

祈り終わって、他の連中を待ってる時が開口一番に言ったのはこれだった。
まったくしょうがない奴だ、聞いてどうするってんだ。

「いちいち言うもんじゃねぇだろ。」
「ケチー。」

……こいつは。

「あたしはねぇ、おにーちゃんにいいかのじょができますよーにって
おねがいしたんだぁ〜。」
「!!」

の爆弾発言に俺は思わず顔を熱くする。
一体何言ってやがんだ、このバカガキは。

「馬鹿、何お願いしてやがる。」
「だって、」

は言った。

「いつまでもお兄ちゃんにくっついてられないもん。」

その声がいつもよりしっかりして聞こえたのは俺の気のせいだろうか。

は一人でテッテッテッと階段の方に歩み寄る。
俺は、待て、と言いかけたが何故か途中で止まってしまう。

「あたしだって、わかってるんだよ。」

冷たい風がザザアと吹いて、の髪を揺らす。

「いつまでもお兄ちゃんとはいられないの知ってるから、だからそうお願いしたの。」
「お前…」
「あたしは、まだ自分じゃ立てないから。」

神社の階段の上、自分の足でしっかりと立つの後ろ姿は
今までになく凛々しくみえて、でも同時に何か寂しいものを感じる。

ああ、そうか。

俺は思った。

俺が思うよりもずっと、こいつは自分のことをわかっていたんだ。
自分が何か違うということも知っていて、いつかは俺と道を違えることも
わかっていたんだ。

で、それが何だってんだ?
俺は一体何を割り切れないような気分になっている?

それでいいじゃねぇか、本人が自覚してるなら。
だが……

。」

どうにも妙な感覚を覚えて名を呼ぶと、は振り返った。

「なぁにぃ?」

寝ぼけたみたいな顔で言う姿は、既にいつものだった。

「まだ階段降りるんじゃねぇぞ。」
「わかってるー。」
「だったらさっさと戻って来い、正月早々転がり落ちてぇのか。」
「だいじょーぶだよー。」

フゥ。
…いつもどおりのやり取りに俺は無意識にホッとしていた。


お参りしておみくじも引いた後は、全員でその辺を歩き回った。

食べ物の屋台に即飛びついたのは当然桃城で、
菊丸先輩と大石先輩は射的で何だか無駄に燃えていた。
他の先輩方もめいめい楽しんでいて、越前が興味なさそうな顔をしながらも
キャップの奥の目はかなり面白がっているのが新鮮だった。

俺はというと、相変わらずの手を引きながら歩いていた。
事ある毎に親子だ親子だとからかわれながらも。

、どっか見たいとこあるか?」

俺は歩きながら傍らにいるガキに言った。
こんな台詞、多分相手がじゃなかったら思いつきもしないだろう。

「んー…」

あちこちを見回してばかりだったは少々考え込んだ。
もしかしなくても迷ってるのか?

「あれ。」

が指さした先はすぐ側にある林檎飴の屋台だった。

「…行くぞ。」

俺はを引っ張った。

「あっちはいいの?」
「どうせあのバカの順番が回ってくるまで待たなきゃならねぇからな。」

桃城の野郎がたこ焼きの屋台から伸びる列の中に立っているのを
横目で見ながら俺は言った。

はふうん、と呟いたがそれ以上は突っ込んでこなかった。


林檎飴の屋台もかなり人が並んでいた。
若いカップル、俺達みたいに友達同士で来てる奴、色んなのが
列を作っている。
中には親子連れもいて、足元でじゃれつく子供を父親が笑いながら相手している。

もしかして、俺ともおんなじように見えてるのだろうかと
一瞬阿呆なことを考えた。
丁度その時、が人のコートのポケットに勝手に手を突っ込んで
遊んでいたのをやめさせたところだったから。

後ろのおばさんが何か笑ってたしな…

そんなこんなでやっとこっちの順番が回ってきた訳だが、
ここでちょいと厄介なことになった。

「うーん。」
「まだ決まらねぇのか。」
「だってぇ、」
「だってもへったくれもねぇ、後ろつかえてんだ、早くしろ。」

屋台に並ぶ林檎飴を見つめながら、の奴は何やら迷っていた。
一体何を迷ってるのか、手を口元に持っていって考えてるような
ポーズをしている。

「何迷ってんだ、早くしねぇとおいていかれるだろが。」
「うー。じゃあね、あれ。」

散々迷った挙句にはやっと姫林檎の飴を選んだ。
さっさとそーしろってんだ。

が選んだが早いか、俺はさっさと代金を払う。
横でが『あ。』と呟くが無視する。

「ほら、行くぞ。」

俺はガキをさっさと引っ張った。

……やっぱり誰かが後ろでクスクス笑ってやがる。
くそ、誰だ、一体。

「おにーちゃん、」
「何だ?」
「いーの?」
「何が。」

はこれ、と林檎飴を俺の鼻先に突きつける。

「くだんねぇ遠慮してねぇでさっさと食え。」

ポシェットの財布を探り出したの片手をそっと押さえて俺は言った。

「ありがとー。」

は言って、さっそく林檎飴に取り掛かった。

単純に嬉しそうな顔だった。


俺が思ったとおり、こっちがちょっとグループから離れていても
問題はなかった。
桃城の奴は大分待たされたらしく、こっちが戻ってきてみれば微妙に疲れていた。

「やあ、お帰り。」

不二先輩がいつものニコニコ顔で言った。

「あれ、ちゃん、それどうしたの?」
「かおるおにーちゃんが…」
「へぇ。」

の言葉を聞いて先輩の顔が何だかイタズラっぽくなる。
本人が最後まで言わなくてもわかるあたり、この人はやっぱり怖い。

「よかったね。」
「うん。」
「うんじゃなくて、はいだろ、このバカ。」
「そういえば、海堂、さっき君達の後ろに並んでた人が『何か不思議な親子だねぇ』って
言ってたよ。」

アンタ、見てたのか。
つーかどいつもこいつも親子親子ウルセェ。

「いいじゃない。微笑ましいってことだよ。」
「フン、どーだか…」

俺は言って、の前に屈むとハンカチで口の周りを拭いてやった。


   ←→←→←→←→←→


それから仲間達とわいわい騒ぎながら(俺はそんなに騒いでないが)帰る頃には
すっかり遅くなっていた。

「フゥ…」

帰りの電車の中、俺はこっそり息を吐いた。

結局、散々親子呼ばわりでからかわれちまったな…
それもこれも、このバカのせいだ。

「スゥ。」

そんなバカは図々しくも人の膝を枕に夢の中にいる。

初めて初詣に連れて行かれて本人も自覚がないままにすっかりハイに
なっていたんだろう、さあ帰ろうと決めた頃には元々寝ぼけ眼みたいな目が
更にトロンとなっていて駅まで歩かせるのも大変だった。

「かおるおにーちゃん…」

寝てるはずのがボソリと呟く。
チッ、寝言で人の名前を呼ぶなってんだ。

「慕われてるな、海堂。」

横に座っていた乾先輩が言った。
遠回りになるのにこの人は何故か俺と同じ電車に乗ったのだ。

「別に。」

俺は言った。

「……いつまでも引っ付き虫で困るっス。」

乾先輩は何故か笑った。

「引っ付き虫なのは寧ろお前じゃないのか?」
「! 馬鹿な…」
「否定するのは結構だが、もしがお前から離れだしたら寂しがる確率8割以上。」

んなもんまで確率計算してほしかねぇ。

「何でそう思うんスか?」
「あれだけ今日世話焼いてるのを見てたら誰だってそう思うさ。」

先輩は逆光眼鏡を押し上げる。

「そもそも、今まで自分がずっと面倒を見てきたのが離れていったら
寂しい気がするのは当たり前だろうし。」
「フン、馬鹿馬鹿しい。」

俺は唸った。

「そん時はそん時だ。」

そう、もしが俺から離れていくのなら、その時はその時だ。

そんな先のことまで知ったことじゃねぇ。

ただ、俺はが嫌いじゃなくて出来る限りは側にいてやりたくて、
それだけだ。

せめて今年だけでも、と一緒に。

それが今日、俺が願ったこと。

「うーん…」
「起きたか、?」
「もうたべらんないよー…」
「………夢ん中でまでモノ食うんじゃねぇ。」

そんな出来事が、今年の始まり。

「何人が親子と間違えるか統計とってみていいか。」
「ぜってぇ断わる。」
「スピィ…」


THE END




作者の後書き(戯言とも言う)

『花水木の木の下で』のヒロイン、再び。

元旦、と思い浮かべた瞬間急に彼女を使いたくなりました。
何故かはよくわかりませんが、多分前作での思い入れの
深さ故でしょう。
私自身は子供の頃以外ほとんど初詣に行ったことがないんですが。

それより正直今回も元旦中に仕上がるか心配だったんですが、
何とかなるもんですねぇ。

これも猫商人が大晦日に『恐山ルヴォワール』を流して
くれたおかげです(笑)感謝。

・今回の背景

 とある時に大学の友人と訪れた先で撮影した代物に
 Paint Shop Proで加工。
 使えるかもと思って撮ったんだけど、まさか本当に使うことになるとは。


2005/01/01

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