〜目指すもの〜 <逆襲開始!!>

東京に来てから誰にも見せた事のなかった俺の腕を覆うものに対して、
海堂さんはひとしきり驚きを見せた後は何の反応も示さなかった。
多分、興味はないのだろう。あられても困るが。

しかし周囲はそうではなかったらしく、あちこちからざわめきが漏れている。
そして、例のドリアン頭の兄ちゃんが何か思い出したかのような顔で
俺を見つめていた。

ああ、あの人はやっぱり知っとうんやろな、俺のこと。

俺はボンヤリと思った。

こんな東京くんだりまで知れるほど、有名やないと思てたけど。

海堂さんがサーブを打った。

「っ!!」

俺は素早く反応して打ち返す!
ドガァッと手に今までよりも強い衝撃が走った。

海堂さんは俺のショットのスピードが上がったことに反応したがそれも一瞬で、
俺の球を即スネイクで返す。
俺はそれを返そうと走る。
また、さっきと同じイタチごっこが再現される。
本当にきりがない。
ここまま行ったら俺は完封で負ける。

だけど、どうする?どうしても決定打が見つからない。
何か、何かないものか。

手を思いつかないまま俺がとりあえず何も考えないで海堂さんの球を
打ち返したその時だった。

「!?」

俺は目を疑った。

海堂さんが…一瞬、ほんの一瞬だが…打ち返すときに躊躇した。

もしかして…

俺は思った。

この人は…

そうとなれば考えている場合ではない、試してみるのみ。
海堂さんが打ち返してくる。今度はスネイクではなかった。
俺はとりあえずそれを返しながら様子を見る。

このコースは? 俺はここか、と思う所に球を打つ。

あかん、普通に返してはる。

ここは?

ここも余裕か。

ほな、こっちはどうや?

ん…?

俺の目にまた海堂さんがほんの一瞬だけ返すのが遅れている姿が映った。
更に確信を得るために俺は色々なコースに球を打ち込む。

しばらくは俺も海堂さんもどっちも退くことのないラリーが続いた。
ここで焦ってはいけない。焦ったらせっかくのチャンスを逃すことは必須だ。

そしてどれくらい続くのかわからないラリーの後、俺はとうとう確信を得た。
間違いない!

海堂さんが打ち返してきた。
俺は素早くバックハンドでラケットを構える!
何か、熱いものが俺の腹から湧き上がって来るのを感じる。

この感覚には覚えがあった。

ーーーーーーーーーーーーーーー!!」

不動峰ベンチから神尾さんの声が響いた。

「いっけぇーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

神尾さんの声に乗せられたかのように、俺はいっきにダッシュをかけた。

「そこやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

ゴォッ

俺のラケットが風をきり、唸る。

「なっ!!」

海堂さんが目をむいた。そして、

ドゴォッ!!

「フィフティーン・ラブ!」

俺の打球は自分でも笑ってしまうくらい綺麗に決まった。



1点を決めた後、俺は癒えない傷跡を残した自分の腕をじっと見つめていた。
感じる。俺の体が昔の感覚を取り戻しているのを感じる。

自分を隠してやりづつけていた時とは全然違う。
何か、熱い。

「それがてめぇの本領発揮か、…」

海堂さんが唸るようにネットの向こうから言った。

「よりによって俺の苦手コースを探り当てやがって…」
「大げさですよ。」

俺は冷静に答えた。

「俺は単に自分の勘が当たっとうか確かめただけです。」
「同じことだ。迂闊だった、まさかてめぇにそんな頭があったとはな。だが…」
「次はそうは行かへん、そうでしょ?」

海堂さんが答えないのは、多分俺の言ったことが当たっているからだろう。

次に海堂さんがサーブを打った後はえらいことになった。

俺をとうとう本気で油断のならない奴と判断したのか、
海堂さんのショットはさっきより明らかに威力が上がっていた。
俺は俺で何かに突き動かされるように体が動いていて、
海堂さんの繰り出す攻撃に力いっぱい反応する。

バシバシと激しいラリーの音がコートにこだましている。

「らあっ!」
「なめんじゃねぇ!!」

俺がここだ、と思ったところに打った球を海堂さんが咆哮とともに返してくる。
俺は攻撃を凌ぎながら次の向こうさんの隙をうかがう。

海堂さんが打つ。俺はそれをこの人がおそらく好まないであろう方に返す。

知らないうちに観衆が静かになっていた。

「ふざけた真似しやがって。」

海堂さんの声がする。この人はさっきから事ある毎に俺に喋っているが、
普段もこんな感じなのだろうか。どー見てもそうとは思えないのだが。

「ぶっつぶす。」

俺は思わずふ、と笑みをこぼしてしまった。

「簡単には行きませんよ。」

海堂さんの返事の代わりに飛んできたのはスネイクだった。
俺は我知らずニヤリとする。ほな、いつものやつ、行くか。

俺は横に走る!

「あらよっと!!」

ズパンッ!!

俺はスネイク・ショットの跳ね上がりを力いっぱい叩いた。

「サーティー・ラブ!!」

不動峰ベンチから歓声が上がった。

「いいぞぉ、ー!」
「そのまま粘っちまえー!」

俺が先輩方にニッと笑いかけた。

次の瞬間、審判はこう告げていた。

「ゲーム不動峰!フォーゲームストゥワン!」

ネットの向こうの海堂さんの目付きが俺を一睨みで
倒してやりたいばかりにグレードアップした。

次睨まれたら、俺死ぬかも。

俺は少し馬鹿なことを思った。

To be continued...


作者の後書き(戯言とも言う)

もうゴチャゴチャ言うのはやめます、ハイ。
次もまた青学メンバーからの視点です。
今度は海堂少年もちゃんと参加しますのでよろしく。


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