義妹と俺様 ―想い―
放課後、部活が終わった後は家に帰ることが多い俺だが、
たまには近所のストリートテニスコートによって楽しんでいくこともある。
ストリートテニスコートは面白い、雑魚っぽいのが練習してるかと思えば
クソ生意気でいい腕してる奴がいることもある。
場合によっては結構好みの女がいたりして、そいつをからかってやるのも楽しみだ。
今日もまぁ、そんな感じだった。
「貴方もしつこいわね。こないだも断わったでしょ。」
ちょっと気の強そうな女がこっちを睨む。
不動峰中の橘杏、あの橘桔平の妹で顔もいいし気が強い所があって
俺の好みに合うところがある。ここのコートの常連らしく、度々顔を見かけるので
つい声をかけてからかってみたくなるんだが…。
「何だよ、随分とつれねぇな。」
「いい加減にしてってばっ。」
「まぁ、そう言うなっ…。」
その時だ、耳元でドガァッと轟音がしたのは。
そして、そのすぐ後に感じたのは頭の痛みだった。
「いきなり誰だっ、ああっ。」
思わず振り返って怒鳴る。
「誰もへったくれもあらへんわ、このアホ兄貴。」
振り返ってみれば、嫌というほど見慣れた面があった。
「、てめぇ。よりにもよって後ろから兄を鞄で殴るたぁどういう了見だ。」
「決まっとうやろ、兄貴の恥ずかしい行動を止めたんやん、妹として。
大体、女の子を無理矢理ナンパするなんて何考えとんねん、それも他所の学校の子に。」
「ちょっと話してるだけだ、てめぇにゃ関係ねぇ。それよりさっさとうち帰れ。」
「関係あるわ、いっつも人に跡部の家の恥になるなとか言うといて、
自分はどないなんよ、他校とトラブったらややこしいんちゃうの、立場上。」
「何だと。」
こいつ。態度が反抗的なのはいつものことだが、ここまで猛然と言ってくるのは珍しいな。
って、問題はそこじゃねぇ。
「兄に対して随分な態度だな、。」
「兄、だぁ。生意気な。そないな台詞はな、もうちょっと自分の行動を振り返ってから言い。」
「生意気はてめぇだっ、このヤロッ。」
「何なんよ、自分が悪いんやろっ。」
結局、散々兄妹でわぁわぁ言い合った挙句、先に愛想を尽かしたのはの方だった。
「もうええわ、私よそ行く。」
「勝手にしろ、晩飯には遅れんなよ。」
は生意気なことに返事もせずにプィッと顔を背けてズンズンと去っていった。
「あのガキ。」
「跡部君、あの子は?」
一連の状況を全部見ていた橘杏が聞いてくる。言いたかなかったが、
会話の内容を聞かれている以上ごまかしは利かないと判断した。
「妹だ。」
苦々しく答えると、橘杏は案の定、ポカンとした顔をした。
「妹、いたんだ。」
ほっとけ。
のせいで思わぬところで大恥をかいた。それだけでも結構ムカつくが、更に腹立つことにの奴は俺が家に戻っても
まだ帰ってきていなかった。
あれほど晩飯に遅れるなと言ったはずなのに、あのガキ。
「おい、から連絡はあったか。」
執事のじーさんに尋ねてみる。すると、は今日は友達と食べるから
家で夕食はいらないと言ってきたらしい。
そんなこと、俺は一言も聞いていなかったからまたイラッとした。
「何で俺様に言わない。」
執事のじーさんは、さて、という風に首を傾げただけだった。
義妹の奴はその後も帰ってこなかったから、晩飯を済ませてから俺がやったのは義妹の携帯電話に電話を入れることだった。
だがあの馬鹿は電話に出ず3回かけて3回とも留守番電話に切り替わるだけだった。時間的にそろそろ帰ってこないとまずいはずなのに何を考えてやがる。
いくらTVといえばアニメしか見ないからって最近の世間の物騒さを知らねぇ訳じゃないだろうに。
次にメールを送ったが当然のごとく返信はない。仕方がなく、最終的に俺は心当たりに片っ端からあれがどこにいるか聞きまくることになった。
大体こんな手間がかかるのも、あの馬鹿がどこの誰と一緒ということを執事のじーさんにも言わなかったからだ。
つっても、義妹の奴はほとんど友達がいなかったから探すのはそう難しくないと思い、
まず電話したのは鳳のところだった。
「妹さんですか。」
電話に出た鳳は不思議そうに言った。
「俺のところにはいませんね。部活の後で別れたきり、会ってないです。」
「そうか、悪ぃな。」
「あの、」
「何だ。」
「喧嘩でもされたんですか。」
「うるせぇっ。」
いらねぇことは言わなくていいんだよ、と思いつつ次にいく。
「何で俺にかけてくんねん。」
次にかけた忍足が迷惑そうに言った。
「同郷同士気が合うかと思ってな。」
「阿呆か、お前の妹は神戸っ子やないか。同郷ちゃうわ。」
「関西人の地域差なんて俺様が知るかっ。」
「とりあえず妹ちゃんはこっちに来てへんで、ほなな。」
ちぃっ、こっちもダメか。とりあえずダメで元々、次に行くか。
「あー、何だよ、クソクソ跡部。今いいとこなのによー。」
向日の野郎は一体TVで何を見てやがるんだ。
「ゴタゴタうるせぇ、それより人の話聞いてんのか。」
「あー、お前の妹がこっち来てる訳ねぇだろ、いたら気色悪いじゃねぇか。」
「誰の妹が気色悪いって。」
「そうじゃねぇだろ、このシスコン。」
クソ、次だ。まず有り得ないところだが。
「ですか、うちには来てませんよ。来るはずもないでしょう。」
案の定とは思っていたが、もうちっとマシな受け答えが出来ねぇのか、こいつは。
「部長も物好きですね、あんな向上心のない奴を気にかけるとは。」
「余程死にてぇらしいな、日吉。」
誰か真実を言えっつった、ったく。次だ、次。
「ああ、てめぇの妹なんざ知らねぇよ。」
人の妹のことを、『なんざ』とは何事だ。
「そうか、手間かけたな。」
「あんだ、まさか家出でもされたのか。激ダサだな。」
「何だっててめぇらは揃いも揃って一言余計なんだ、いい加減にしやがれ。」
ヤバイ、さすがに疲れてきた。後は…
「ふあぁぁぁ、跡部、何の用。眠いんだけど。」
「まだ寝る時間じゃねぇだろが、シャキッとしやがれ。」
どう生活したらこんなに始終眠気に襲われるってんだ。
「とりあえずさぁ妹は来てないよぉ、彼氏とでも遊んでるんじゃないの。
んじゃ、俺もう寝るからぁ。」
「寝ぼけてるくせに不吉なこと抜かすな。」
どうしようもねぇ野郎だな。さて、最後は、だ。
「こちらには来てません。」
「わかった、悪かったな。今日はゆっくりしてくれ。」
「ウス。」
全滅だ、話にならねぇ。ついでに言うと通話料金の無駄遣いだ。
あの阿呆、一体どこにいやがる。
あいつ、鳳やうちの連中のほかに友達とか関わってる奴がいたか?
まさか他校に、いや、馬鹿な。
くだらねぇことをツラツラ考えていたらイライラがまたひどくなったから
とりあえず紅茶を飲んだ。
さっさと帰ってきやがれ、馬鹿義妹。
結局、俺が義妹の面を見たのはその日の夜遅くだった。
しかもこの阿呆は、帰ってきて俺の部屋の前を通る時に
忍者の修行でもしてんのかと思うくらい、そろりそろりと足音を忍ばせてやがった。
何か俺に含むところでもあんのか。
「どこ行ってた。」
廊下でとっつかまえた義妹に俺は言った。
「友達と御飯食べるから遅くなるってちゃんと家には連絡入れたはずやけど。」
ボソボソと答える義妹は鞄を両手で胸に抱え、
足は一歩後ずさった状態で固まっている。
多分、俺の姿を見た瞬間、本能的に逃げようとしやがったんだろう。
「遅いつったって限度があるだろうが、しかもどこの誰と行くとも言わねぇで、
いい歳してんなこともわからねぇのか。」
義妹は何か言おうとしたようだったが、何故か口を噤む。
「あんだ、何か言い分があるなら言ってみろ。」
「勝手やわ。」
「ああ?」
「私には勝手にどっか行くな言うて横に置いときたがるくせに、自分は好きなようにどっか行く。」
何語喋ってんだ、こいつ。
「言ってる意味がわからねぇよ、話そらすな。後、いきなり兄の頭を鞄で殴った分、言うことあるだろう。」
「御免なさい。」
義妹はそれだけ言うと、その場を去ろうとする。
「待て、。話はまだ終わってねぇぞ。」
だが、義妹は人の手を振り切って部屋に籠もってしまった。そのまま後を追って部屋に踏み込むことも出来たが、
こっちも気分を害して本能的に勝手にしろ、と感じたから放っておくことにした。
次の日の朝、いつもなら義妹を起こす為に部屋に行くが今日は行かなかった。
正直まだけったくそ悪い。感情のままに人をどついておいてしかも逆切れするってのは何事だ、そんな馬鹿な義妹に育てた覚えはねぇ。
義妹の顔を見ないままに朝食を食べ、いつものように家の門の前で待っていた樺地と一緒に登校した。
胃腸が悪い訳ではないはずだが胃がムカムカしてどうしようもなくすっきりしなかった。
部活の朝練が終わってから携帯のメールで鳳から聞いたところによると、は学校には来ているらしかった。ただし、
『ずっとボーッとしてて、話しかけても素で頓珍漢なことを返してきます。あと、沸点が低くなってて
さっき挑発してきた男子と喧嘩寸前まで行きました。止めに入っておきましたが、見てる方が心配です。』
『差し出がましくて申し訳ありませんが、やはり喧嘩されたんですか?』
喧嘩はしてねぇし俺が悪い訳じゃねぇ、と反射的に思った。
結局、学校でも義妹とはまったく顔を合わせないままに部活の時間になり、ともすればこみ上げてくる苛立ちから逃れるために
部活に没頭していたらいつの間にか下校時間になった。
いつもどおり途中までは正レギュラーの奴らと歩く帰り道、違うのは隣に約1名が居ないこと。
部活中テニスコートの周りに集まってくる女共の中にも紛れている様子がなかったあたり、の奴は徹底的に俺から逃げるつもりなんだろう。
どうせ家に帰れば同じことなのにどこまで馬鹿な義妹だ。
勝手にするといい。どうせ俺がいなければ何も出来ない。日頃俺にどれだけ守られているかを身を以て思い知り、そして泣けばいい。
っと、思考がかなりおかしくなっている。やべぇな、思ったより疲れているのか、この俺が?
俺の様子はよほどあからさまだったのか樺地が小さく大丈夫なのかと問うてくる。
「大したことじゃねぇ。」
そこへ忍足が口をはさむ。
「ややっこしい兄妹やな、お前らは。」
「あ?」
「片方は好きな癖に可愛がり方が下手くそで、もう片方は愛されてることに自信があらへん。」
「何が言いたい、忍足。」
「お前ら両方ともかわいそうやなって話や。とりあえず携帯鳴っとうで。」
カチンと来て思わず言い返そうとしたタイミングに着信とは、俺の携帯はいつから空気が読めなくなった。
「何だ、この曲?」
「そっとしといたり、岳人。わざわざ着信を妹ちゃんの好きなアニソンにしとるんや。」
「うへぇ、どんだけだよ。」
「しゃあないしゃあない、あないせな(ああしないと)妹萌えをよう表現せぇへんねんて。」
全部聞こえてるぞ、てめぇら。後で覚えてろ。携帯を開くとEメールが来ている。表示されている差出人は『馬鹿』、思わず携帯の処理速度を無視する勢いで決定ボタンを連打した。
『御免やけど、いつものストリートテニスコートに来てくれへん?』
何の装飾もされていないテキストメール、書かれていたのはその1文だけだった。が、何にせよやっとこさあの愚妹をとっ捕まえることが出来そうだ。
「樺地、一緒に来い。」
「ウス。」
「お、妹ちゃん見つかったんか。頑張りやー。」
「うるせぇ、忍足、てめぇは明日の朝練グラウンド10周だっ。」
「なんでやねんっ、職権濫用すなや。」
知るか、てめぇが悪い。
樺地と一緒に昨日の事の発端だったストリートテニスコートに行ってみたら、来いといった当の義妹の姿がなかった。呼びつけといてどういうことだ、と思うのが半分、タイミングが合わなかっただけか、と思うのが半分、どっちつかずの気分になる。
ひととおり辺りを見回して義妹の姿を探したら代わりに別の姿を見つけた。
「あら。」
「何だ、アンタか。」
「何だ、だなんてご挨拶ね。どうしたの、キョロキョロしちゃって何かいつもと違うみたい。」
「うちの馬鹿ガキ見なかったか?」
「妹さんのこと?何かあったの?」
「ああ?」
橘杏、いきなり何を言い出しやがる。
「人んちの事情に首突っ込む趣味があるとは知らなかったぜ、杏ちゃん。」
「そんなつもりじゃないけど、実は昨日あの後また妹さんに会ってね、仲良くなったから気になって。
あ、『うちの兄がごめんなさい』って随分言ってたわ。」
あのガキ、余計なことを。
「私は別に構わないって言ったんだけど、何だか沈んでたし
せっかくだからついでに一緒に御飯食べようって誘っちゃって。まずかったかな?」
「別に。」
あいつ、マジで家に帰ったら覚えてろ。普通に橘杏と一緒だって言えばよかったろうが。
「あのガキ、何でちゃんと言わない。」
「ちょっと困らせたかったのかもね。」
橘杏が意味のわからねぇクスクス笑いをしながら言う。
「何?」
「昨日ちゃんから色々聞いたけど、言ってたわよ。うちのにーさんは自分のことを見てくれてるんだかどうだか
時々わかんないって。」
「んなハズはねぇ。」
いつもどんだけ目をかけてやってると思ってんだ。
「どうせ跡部君のことだから、素直に可愛がってないでしょ。
しょっちゅうけなしたりからかったりして、怒らせてることが多いんじゃない。
女の子にもよく声かけてるみたいだし?」
違う、と何故か言えなかった。
「ちゃん、不安なんじゃないかな。」
「何でだ。」
「だってそうじゃない。自分のお兄さんが有名人で女の子に人気だったりするの
しょっちゅう見てたら、いつか自分より遠くへ行っちゃうんじゃないかって思っちゃうよ。
あたしは、兄にそんなこと思ったことないけど。」
「随分うがった見方しやがるな。」
「これもちゃん本人から聞いたのよ?」
の奴、口が軽すぎだ。
「不安なのは自分だけだと思った?」
「さぁな。」
橘杏がまたクスクス笑う。
「何がおかしい。」
「やっぱり大事にしてるのね、妹さんのこと。」
「別に。」
「本当に?」
何だこいつ、妙にしつこい。まさか俺がしょっちゅうちょっかいかけることへの意趣返しか?
「本当はどうなの?」
「思ったよりしつこいな、杏ちゃんよ。」
「いいじゃない、私は聞かなかった振りしとくから、今のうちに言っちゃいなさいよ。たまには素直にならないと爆発しちゃうって言うじゃない。」
ぜってぇ、お前意趣返しだろ。
「ああ、ああ、わかった、うるせぇ。そんなに聞きたきゃ言ってやる。」
くそ、何でこうなった。それもこれものせいだ。思わず頭をかきむしった。
「大事だ。」
息を吸ってから俺は呟く。
「初めて家に来た時は印象悪かったが、今は居ないと落ち着かねぇ。」
「そうなんだ。やっぱりちゃんがいると楽しい?」
「悪くねぇぜ、ちっと鈍くて喋らすとしょっちゅう笑わせてくれるからな。勘違いすんなよ、だからって本物の馬鹿じゃねぇ。
大概のことはちゃんと教えてやれば覚えて自分で出来るし、器量も悪くはない。生憎美人じゃねぇがあれくらいなら十分だ、
言っても本人が信じねぇから言わないけどな。どうしようもねぇ漫画オタクでその手の話になったらはしゃいで語りまくって、文句垂れる癖にどっか連れて行ったら喜んで、
家帰ったら楽しそうにピアノ弾いてて、
あとはあれだ、たいしたもんじゃなくてもくれてやると喜ぶな。どー見てもありゃ素だ、ハハ。」
完全に独り言を長々と抜かす俺に対して橘杏は途中から何も言わず、一緒に来た樺地も黙って聞いている。
「可愛いもんだ、はマジで何も考えてねぇから気が楽だぜ。俺が何か見返りをやるわけでもねぇ、どっちかってーといじめていたかもしれねぇのに
結局呼べば側によってきて、にーさんときたもんだ。えぇ?どうなってんだよ、あいつ。」
一度吐き出したら止まらなくなったのか、俺はもう無意識に喋っていた。
「本当はもっと優しくしてやりたいんだがな、あんまりあからさまだと周りがあいつに何するかわからねぇ。
それに仮にも跡部の姓を背負ってるってことは警戒しなきゃなんないもんも多いってのがあいつはわかってねえんだよ、
あんな呑気娘、気を抜いたらどっかの馬鹿に拐われそうだぜ。だから何度も言ってんだ、どこへも行くなって。」
冷静に考えたらとりとめなさすぎて馬鹿みたいな独り言を橘杏にしろ、樺地にしろ、よくぞ聞いてくれるもんだと思う。だからなおのこと言葉が止まらなかった。
「はだ、誰かの代わりでもなけりゃ誰も代わりにならない、なくしたら取り返しがつかねぇ。いっぺんなくしてるのにもういっぺんなくすなんざ御免だ。」
「跡部君。」
黙って聞いていた橘杏が言う。
「ハ、何だ。笑うなら笑え。」
「笑えないよ、そんだけ真剣に言ってるの聞いたら。ね、ちゃん。」
「なっ。」
情けねぇ話だが、俺は橘杏の言葉にありえないほど意表をつかれて固まった。慌てて橘杏の視線をたどると、昨日みたいに鞄を胸に抱きしめて立っている義妹が俺の後ろにいる。
いつもなら絶対にこいつの気配を逃さないのに何故気がつかなかったのか。
当の義妹はうつむいていて表情がよくわからない、が、しょっちゅう鼻をすすって肩を震わせている所からして泣いているのは確かだった。
「。」
「にーさん、私、」
「もういい。」
あれだけ泣いていればいいと思っていたのに、いざひどい涙声を出すを目の前にしたら俺は動揺してしまっていた。
「もういいから、こっち来い。」
「ごめん、ホンマごめん。」
「いいって言ってんだろ、同じことを言わすんじゃねぇ。」
言って俺はしゃくりあげてボロボロ泣く義妹を抱き寄せた。久々に抱いたその肩の思いがけない細さにギクリとする。
こいつが自分よりずっとちびなのはわかっていたがここまで華奢だっただろうか。とにかく早く泣き止んでほしい一心で俺はの頭をなぜまくった。
ふいにドサっと音がして足元が一瞬不安定になったかと思ったら珍しくが自分から腕を伸ばして俺に抱きついていて、
さっきまでこいつが抱えていた鞄が地面に落ちている。
そうやって義妹はそのまましばらく俺にしがみつき、俺の腕の中で泣き続けた。
その間中、二人とも橘杏の存在と樺地の存在を完全に忘れていた。
「ったく、随分恥ずかしいことになりやがって。」
「うう。」
帰り道、思わずぼやく俺の横で義妹が呻く。
「まぁ、家に帰る前に面倒事が片付いたからいい。だからそのしけた面をどうにかしろ。」
「そうしたいんやけど、なかなか。」
は言って目を手の甲でこする。
「悪かったな。」
「え?」
「一応気をつけてやってるつもりだったが、こうなるまで思い詰めてるとは思ってなかった。」
正直気まずくて俺は柄にもなく視線を落とす。
「俺には言いたい放題言うからそう溜まっちゃいないと思ってたが、意外と我慢してたんだな。」
「ええよ、もう。お互い様やん。」
まだ泣いたままの赤い目をしながらもは笑う。
「私もあんましにーさんのことわかってなかった訳やし。」
こいつ、ホントお人好しだな。
「おい、。」
「何?」
「わびっつーのも何だが、何かほしいもんあるか。」
「んー、別に。」
おまけに欲のねぇ奴だ。今更だがな。
「こんな妹、どうなんだよ。なぁ、樺地。」
「それで、いいと思います。」
「フン、やっぱりそうか。おい、明日買いもんに付き合え。」
「ウス。」
「ちょ、ちょ、さっきから二人でどないしたん?」
「何でもねぇよ、馬鹿ガキ。」
言うと義妹は意外なことに、はいはい、と笑って流した。さっきまで泣いてたカラスがもう笑ったとかなんとかいうフレーズを思い出して
俺は思わずふ、とつられるように笑ってしまった。
ハメられたとはいえ、思うところをぶちまけたのが考えてた以上によかったのかもしれない。
義妹と俺様 ―想い― 終わり
作者の後書き(戯れ言とも言う)
年単位で更新しないままどうなるかと当の作者本人が思ってました。
久々に友人とカラオケに行ってテニプリの曲を歌っていたら
懐かしさがこみ上げたんでしょうか、急に書く気が起きた次第です。
この話はもともと第7話にするつもりで一旦ボツにしたものでした。
が、本来第9話にするつもりだった話がどうしてもうまく展開が
思いつかず、ボツにした中によく見たらいいのがあるんじゃないかとファイルを探したら出てきたのがこれです。
消さずに置いておいてよかったと思った瞬間でした。
長らく放置状態でしたら、残り1話でConclusionと行きたいと思います。
よろしければ最後までお付き合い下さい。
2011/02/23
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