オリエント急行の殺人
Murder on the Orient Express

放送履歴

日本

オリジナル版(90分00秒)

  • 2012年02月09日 22時00分〜 (NHK BSプレミアム)※1
  • 2012年10月02日 12時00分〜 (NHK BSプレミアム)※2
  • 2013年01月10日 21時30分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2017年01月21日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2017年06月28日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • ※1 エンディング冒頭の画面上部にNHKオンデマンドでの配信案内の字幕表示、エンディング末尾に「ミス・マープル」新作8話(4・5)の放送予告の全画面表示あり
  • ※2 エンディング途中の画面上部に「ミス・マープル5」放送案内の字幕表示、エンディング末尾に「鏡は横にひび割れて」の放送案内の全画面表示あり

海外

  • 2010年07月11日 21時00分〜 (米・WGBH)
  • 2010年12月25日 21時00分〜 (英・ITV1)

原作

邦訳

  • 『オリエント急行の殺人』 クリスティー文庫 山本やよい訳
  • 『オリエント急行の殺人』 クリスティー文庫 中村能三訳
  • 『オリエント急行の殺人』 ハヤカワミステリ文庫 中村能三訳
  • 『オリエント急行の殺人』 創元推理文庫 長沼弘毅訳
  • 『オリエント急行殺人事件』 新潮文庫 蕗沢忠枝訳
  • 『オリエント急行殺人事件』 光文社古典新訳文庫 安原和見訳
  • 『オリエント急行殺人事件』 角川文庫 田内志文訳

原書

  • Murder on the Orient Express, Collins, 1 January 1934 (UK)
  • Murder in the Calais Coach, Dodd Mead, 1934 (USA)

オープニングクレジット

日本

オリジナル版

オリエント急行の殺人 // STARRING DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / MURDER ON THE ORIENT EXPRESS BASED ON THE NOVEL BY AGATHA CHRISTIE / SCREENPLAY STEWART HARCOURT / EILEEN ATKINS, HUGH BONNEVILLE / JESSICA CHASTAIN, MARIE-JOSÉE CROZE / SERGE HAZANAVICIUS, TOBY JONES / SUSANNE LOTHAR, JOSEPH MAWLE / DENIS MENOCHET, DAVID MORRISSEY / ELENA SATINE, BRIAN J SMITH / STANLEY WEBER, SAMUEL WEST / AND BARBARA HERSHEY / PRODUCER KAREN THRUSSELL / DIRECTOR PHILIP MARTIN

エンディングクレジット

日本

オリジナル版

原作 アガサ・クリスティー  脚本 スチュワート・ハーコート 演出 フィリップ・マーティン 制作 ITVスタジオズ/WGBHボストン アガサ・クリスティー・リミテッド (イギリス・アメリカ2010年)  声の出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄  サミュエル・ラチェット(トビー・ジョーンズ) 納谷六朗 ジョン・アーバスノット大佐(デビッド・モリッシー) 金尾哲夫 メアリー・デベナム(ジェシカ・チャスティン) 日野由利加  ハバード夫人(バーバラ・ハーシー) 大西多摩恵 ザビエール・ブーク(セルジュ・アザナヴィシウス) 伊藤昌一 ピエール・ミッシェル(デニス・メノーシェ) 高瀬右光  ナタリア・ドラゴミノフ公爵夫人 勝倉けい子 ヒルデガード・シュミット 蓬莱照子 コンスタンチン医師 上杉陽一  テディ・マスターマン 辻つとむ ヘクター・マックイーン 美斉津恵友 グレタ・オルソン 安藤みどり  ルドルフ・アンドレニ伯爵 渡辺聡 エレナ・アンドレニ伯爵夫人 生原麻友美 アントニオ・フォスカレリ 吉野貴宏  長谷川敦央 長谷川俊介 森源次郎 黒澤剛史  <日本語版制作スタッフ> 翻訳 菅佐千子 演出 佐藤敏夫 音声 田中直也

DVD版

原作 アガサ・クリスティー  脚本 スチュワート・ハーコート 演出 フィリップ・マーティン 制作 ITVスタジオズ/WGBHボストン アガサ・クリスティー・リミテッド (イギリス・アメリカ2010年)  声の出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄  サミュエル・ラチェット(トビー・ジョーンズ) 納谷六朗 ジョン・アーバスノット大佐(デビッド・モリッシー) 金尾哲夫 メアリー・デベナム(ジェシカ・チャスティン) 日野由利加  ハバード夫人(バーバラ・ハーシー) 大西多摩恵 ザビエール・ブーク(セルジュ・アザナヴィシウス) 伊藤昌一 ピエール・ミッシェル(デニス・メノーシェ) 高瀬右光  ナタリア・ドラゴミノフ公爵夫人 勝倉けい子 ヒルデガード・シュミット 蓬莱照子 コンスタンチン医師 上杉陽一  テディ・マスターマン 辻つとむ ヘクター・マックイーン 美斉津恵友 グレタ・オルソン 安藤みどり  ルドルフ・アンドレニ伯爵 渡辺聡 エレナ・アンドレニ伯爵夫人 生原麻友美 アントニオ・フォスカレリ 吉野貴宏  長谷川敦央 長谷川俊介 森源次郎 黒澤剛史  <日本語版制作スタッフ> 翻訳・台本 菅佐千子 演出 佐藤敏夫 調整 田中直也 録音 岡部直樹 プロデューサー 武士俣公佑 間瀬博美  制作統括 小坂聖 山本玄一

海外

オリジナル版

Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Lieutenant Morris: TRISTAN SHEPHERD; Lieutenant Blanchflower: SAM CRANE; Samuel Rachett/Cassetti: TOBY JONES; Hector Macqueen: BRIAN J SMITH; John Arbuthnott: DAVID MORISSEY / Mary Debenham: JESSICA CHASTAIN; Concierge: STEWART SCUDAMORE; Xavier Bouc: SERGE HAZANAVICIUS; Princess Dragomiroff: EILEEN ATKINS; Hildegard Schmidt: SUSANNE LOTHAR; Pierre Michel: DENIS MENOCHET; Caroline Hubbard/Linda Arden: BARBARA HERSHEY / Edward Masterman: HUGH BONNEVILLE; Gretta Ohlsson: MARIE-JOSÉE CROZE; Count Andrenyi: STANLEY WEBER; Countess Andrenyi: ELENA SATINE; Antonio Foscarelli: JOSEPH MAWLE; Dr Constantine: SAMUEL WEST; Stunt Co-ordinator: CRISPIN LAYFIELD / (中略) / Composer: CHRISTIAN HENSON; Editor: KRISTINA HETHERINGTON; Production Designer: JEFF TESSLER; Director of Photography: ALAN ALMOND BSC; Line Producer: MATTHEW HAMILTON / Executive Producer for WGBH Boston: REBECCA EATON / Executive Producers for Chorion: MATHEW PRICHARD, MARY DURKAN / Executive Producer: MICHELE BUCK; Executive Producer: DAMIEN TIMMER; © Agatha Christie Ltd. (a Chorion Company) 2010 / A Co-Production of itv STUDIOS and WGBH BOSTON in association with Agatha Christie Ltd (a Chorion Company)

あらすじ

 ポワロは事件の調査におもむいた中東で、追いつめた犯人を死なせてしまう。その苦悩の帰途で乗り合わせた満員のオリエント急行は大雪で立ち往生、しかも乗客の一人が刺殺されてしまった。真相にたどりついたポワロが選んだ答えとは……

事件発生時期

1938年1月?

主要登場人物

エルキュール・ポワロ私立探偵
サミュエル・ラチェットオリエント急行乗客、資産家、アメリカ人
ヘクター・マックイーンオリエント急行乗客、ラチェットの秘書
エドワード・マスターマンオリエント急行乗客、ラチェットの執事
ジョン・アーバスノットオリエント急行乗客、陸軍大佐、イギリス人
メアリー・デベナムオリエント急行乗客、家庭教師、イギリス人
ナタリア・ドラゴミノフオリエント急行乗客、ロシアの公爵夫人
ヒルデガード・シュミットオリエント急行乗客、公爵夫人のドイツ人メイド
キャロライン・ハバードオリエント急行乗客、アメリカ人
グレタ・オルソンオリエント急行乗客、スウェーデン人宣教師
ルドルフ・アンドレニオリエント急行乗客、ハンガリー人外交官、伯爵
ヘレナ・アンドレニオリエント急行乗客、アンドレニ伯爵の妻
アントニオ・フォスカレリオリエント急行乗客、イタリア人セールスマン
コンスタンチンオリエント急行乗客、ギリシャ人産科医
ピエール・ミッシェルオリエント急行車掌、フランス人
ザビエール・ブークオリエント急行車掌長、ポワロの知人

解説、みたいなもの

 雪に閉じこめられたオリエント急行という興趣あふれる舞台設定、そこに各国から集まった多様な登場人物、そしてその大胆な真相によって知られるクリスティーの代表作の映像化。被害者のラチェットを取り巻く設定は、原作執筆当時人口に膾炙した、飛行家リンドバーグの子息誘拐事件に材を取ったと言われる。第12シリーズの制作発表当初からタイトルを出してオールスターキャストでの撮影が告知された看板作品で、クリスティーの生誕100周年を記念した「スタイルズ荘の怪事件」のようにオープニングクレジットのフォントを変えるなど、他作品とは一線を画していることを示す演出がされている。その制作費は200万ポンド近くにも及んだという[1]
 本作は、その展開の大半が雪に閉ざされたオリエント急行の車内でおこなわれるという、田舎の村や一族の大邸宅のように閉鎖的な舞台を好むクリスティー作品の中でも特に限定的な舞台設定となっている。そうした舞台の中ではやはり物語の設定を動かしがたかったのか、登場人物の設定や物語の運びなどは、アメリカ人私立探偵のサイラス・ハードマンがカットされた以外、ほとんど原作そのままに作られた。にもかかわらず、冒頭の事件に加えられた脚色、そしてイスタンブールの街で遭遇した事件の衝撃が全篇にわたって影を落としており、「名探偵ポワロ」の近作に見られる、やや陰鬱で重苦しい雰囲気が全体を覆っている。これは、どうしても比較を避けられないアルバート・フィニー主演の映画「オリエント急行殺人事件」と比べると、その華やかでエンターテインメント性に富んだ雰囲気とはきわめて対照的。しかし、真相に到達して主義や信仰と正義の整合に苦悩するポワロの姿は、「満潮に乗って」「死との約束」でも強調された、敬虔なカトリック教徒としてのポワロ像の延長線上にあり、のちに制作された「カーテン 〜ポワロ最後の事件〜」の方向性も予見させる。本作をこのような方向性でドラマ化することについては、原作をあらためて読み返したスーシェの見解によるだけでなく、監督のフィリップ・マーティンや脚本家のスチュワート・ハーコートとも見解の一致を確認したという[2]。ポワロの吹替を務めた熊倉一雄さんも、そんな本作を「シリーズ70本の中でもトップでしょう」と評した[3]。また、2016年に AXN ミステリーが長篇作品を対象におこなった視聴者人気投票でも、最終回「カーテン 〜ポワロ最後の事件〜」を3位、複数の出演者もお気に入りとして挙げる「ABC殺人事件」を2位に抑えて、1位に選ばれている。
 撮影時期は2009年11月〜12月頃(スーシェの自伝で2010年1月から2月にかけて撮影をおこなったと書かれているのは誤りと思われる)[4][5][6]。オリエント急行の撮影にはスイスロケもおこなわれたようだが、汽車の撮影には〈青列車〉と同じピーターバラ近郊のニーン・バレー鉄道が使用され、途中停車したベオグラードの駅はフェリー・メドウズ駅か。一方、オリエント急行が立ち往生した森はニーン・バレー鉄道沿線ではなく、このドラマシリーズの撮影をおこなってきたパインウッド・スタジオ近くのブラック・パークの森で、わざわざそこまで車両を運び、足場や4000個の砂袋の上に雪をかぶせた吹きだまりをつくりあげて撮影をおこなったという[7]。また、「青列車の秘密」当時、スタッフが〈青列車〉のセットをオリエント急行に再利用する計画を明かしていたが[8]、実際、車内のセットの一部には〈青列車〉と同じものを使用していると見られ、たとえば個室のドアに同じ模様がデザインされているのが確認できる(なお、〈青列車〉もオリエント急行も、ともにワゴン・リ社によって運行されていた)。冒頭のイスタンブールのロケ地も現地ではなく、屋外はマルタ、トカトリアン・ホテル内やイスタンブール駅の改札口はロンドンのフリーメイソンズ・ホールで撮影された。フリーメイソンズ・ホールは、「西洋の星の盗難事件」「盗まれたロイヤル・ルビー」「ABC殺人事件」「愛国殺人」でもやはりホテルとして、また「青列車の秘密」では駅構内として撮影に使われているほか、「あなたの庭はどんな庭?」「スズメバチの巣」「マギンティ夫人は死んだ」にも登場。なお、ケネス・ブラナー主演の映画「オリエント急行殺人事件」でも、イスタンブール(とエルサレム)の屋外はマルタで撮影されている。
 序盤にイスタンブールの街で、ミス・デベナムがアーバスノット大佐に話しかける声を聞いてポワロが振り返る場面があるが、その前のポワロが階段をのぼっている場面では二人の姿が見えない。ポワロがのぼっていた階段はバレッタのセント・アーシュラ・ストリートで撮影されたのに対し、二人が曲がった角はそこからすこし離れたオールド・ベーカリー・ストリートで撮影されており、前者での撮影には二人が参加しなかったのだろう。ちなみに、このときミス・デベナムは日本語だと「階段であわてたら危ないわ」と言うが、オールド・ベーカリー・ストリートの撮影場所は実は階段ではなく、だから後者で撮影されたカットでは足下が映らない。その後二人が入り込んだ路地はイーグル・ストリート、広場はセント・エルモ砦内(遠景は合成)。
 ラチェットが受け取ったという手紙には「1月17日 カレー駅にて」とあり、その指示にしたがってオリエント急行に乗車していたように見えるが、ポワロがトカトリアン・ホテルで受け取った電報には 26/9/38 (1938年9月26日) と日付が入っている。なお、年については、謎解きの途中のポワロの台詞からも1938年であることがわかる。
 公爵夫人の名字は日本語だと「ドラゴミノフ」だが、原語では Dragomiroff で、順当にカタカナに直せば「ドラゴミロフ」になるはず。翻訳の際に r と n を見間違えたのだろうか。また、「二重の手がかり」などに登場するロサコフ伯爵夫人や「ハロウィーン・パーティー」のオルガ・セミノフと同様、この型の名字は本来、女性なら末尾に a がついて「ドラゴミノワ」(ないしは「ドラゴミロワ」)となるべきところ。なお、そのドラゴミノフ公爵夫人についてブークが「ロシアのお姫さま (A Russian princess)」と言う場面があるが、「お姫さま」の原語 princess は、ここではイギリス以外の国の公爵夫人・女公爵に相当する女性の称号として使われており、「ドラゴミノフ公爵夫人」の原語も Princess Dragomiroff である。英語の prince/princess は、日本語の「王子」「王女」に限らず、王以外の王族や大公など一部の君主も含めて広く指す言葉で、エリザベス女王の夫君エディンバラ公フィリップ殿下なども prince に当たる。
 ポワロとラチェットの祈りの様子が交互に映される場面では、その祈りの言葉だけでなく、最後にポワロが手にしていたロザリオへ口づけするのに対し、ラチェットはロザリオをテーブルに放置したまま飲み物(おそらくは酒)をあおっており、二人の信仰に対する姿勢の対照が端的に示されている。
 ブークの依頼を受けてポワロが「乗客たちを集めましょう」と言った台詞は、原語だと 'All the passengers present this morning? (乗客は全員そろっていますか?)' という質問で、ブークがミッシェルへ「皆さん食堂車に?」と確認したあとにポワロへ「いましばらくお時間を」と言う台詞も、原語だと 'Not yet, sir. (まだだそうです)' というミッシェルの回答の伝言だった。
 ポワロとコンスタンチン医師が遺体を調べる場面では、遺体の手前からあおるカットのときに、遺体が穏やかに息をしているのがわかる。また、ここでポワロが「あなたは警察医ですか? それとも、その……」とコンスタンチン医師の専門を確認するが、彼が産科医であることは食堂車での初対面時に聞いて知っているはず。ポワロの質問は原語だと 'You are not a police surgeon, are you? No. What are you? (あなたは警察医ではありませんよね? ご専門は?)' という表現で、専門外の内容に予断をくり返すコンスタンチン医師をたしなめたものであって、「ボン」という評価も、ポワロではなくコンスタンチン医師が自身の専門を理解したことに対するもの。
 ミッシェルが「乗客のパスポートを持ってきました」と言って持ってきた束のいちばん上はフランスのパスポートだが、関係者でフランス人らしい名前を持つのは車掌のミッシェルと車掌長のブークだけのはず(原作によれば、ブークはベルギー人だけど)。「乗客」とは言葉の綾で、自分のパスポートも一緒に持ってきたものか。また、ブークがミッシェルに日本語で「次回君がこの列車に乗る際には何も起こらないと思うよ」と言った台詞は、原語だと 'And next time you request a transfer to the Calais coach, I'm sure it won't be so dramatic. (次回君がカレー行き車両に担当換えを希望したときは何も起こらないと思うよ)' と言っており、それを受けたポワロの台詞も 'For this trip, you request a transfer? (この列車に乗るために担当換えの希望を?)' と、ミッシェルの今回の乗務が本人の明示的な意思によることを聞きとがめている。
 犯行時刻近くに目撃された女性が着ていた服を指して言う「キモノ (kimono)」は、日本(語)の「着物」に限らず、それに感化された東洋趣味のガウンなども包含する言葉。
 ポワロがマスターマンに 'AISY ARMS' の文字列を提示したときにブークが「たぶん会社の名前とか……ラチェットさん絡みの」と言うのは、原語だと 'Is it an arms firm? Was he an arms dealer? (兵器会社では? 彼は武器商人だった?)' と言っているように、 arms (兵器) という単語から兵器産業を連想したもの。なお、ポワロが食堂車でマスターマンを前にメニューの裏へ書きつけたときの文字と、殺害現場の客室でそれに追記をしたときの文字は、筆跡が微妙に異なる。また、アンドレニ伯爵夫人がポワロに請われて書いてみせたサインと、そのサインがアップになったときの筆跡も異なる。
 マックイーンがラチェットと出会った場所を「今で言うイラク」と表現したのは、1932年に同地がイラク王国としての独立を承認されたことを受けたもの。それ以前は主に、英国委任統治領メソポタミアと言われていた。
 マックイーンがラチェットを評して「金の力に頼るような雰囲気で……」と言った台詞は、原語だと '(I don't delude myself by thinking) that he wasn't trying to buy his way back into society (金を積んで社会復帰しようとしているようで)' という表現で、ラチェットの性格一般の話ではなく、具体的に今度の旅、あるいは最近の活動の目的を推測したもの。そのために脅迫状と金の話につながり、「カレーに行く目的は、この金を払うことでした」と言った台詞は、原語だと 'Or that I knew we were going to Calais to pay that money back. (カレーに行く目的がその金を返すことだとぼくが知っていることも(ラチェットは知らなかった))' という表現で、ラチェット自身も以前に「ゆるしを得るために、あるものを返さなければならない」と言っていたように、単に「払う」ではなく「(一度受け取った金を)返す」というニュアンスがあった。さらに、ラチェットの正体に気づいたポワロが、「何か後ろめたいことでアメリカから追放。そして20万ドルもの金を要求され、償いをすると」と言う台詞も、原語だと 'Something dark in America from where he is ostracized, and $200,000 blood money for which he had to atone. (アメリカにいられない後ろ暗い何か、そして償わなければならない20万ドルの命の代金)' という表現で、20万ドルについて他者から明示的な要求を受けたニュアンスはなく、単に償いの対象となるべきものという趣旨である。つまり、ラチェットがアームストロング事件の身代金と同額の金を返却することでゆるしを乞おうとしていることが、ポワロがラチェットと事件の関連に思い至る根拠となっているのである。なお、脅迫状にも書かれた blood money という言葉は命と引き替えの金を広く指し、命乞いのための金とも、誰かの命の代償として得た金とも、また殺人の報酬などとも取れる表現である。
 ブークがドラゴミノフ公爵夫人を評して「のっしのっしと通路をふさぐように歩いていましたよ」と言った台詞は、原語だと 'She waddles down the corridor like the Battleship Bismark. (通路を戦艦ビスマルクのようによたよたと歩くんです)' という表現。戦艦ビスマルクは、劇中当時世界最大級の戦艦として建造中だった。
 リンダ・アーデンという芸名がシェークスピアにちなんでいるというのは、原作によれば、『お気に召すまま』の登場人物であるロザリンドと、その舞台となるアーデンの森をもじったことを言っている。
 ドラゴミノフ公爵夫人が、ラチェットの正体を知っていたら「メイドを呼んであの男を容赦なく死ぬまで鞭打たせてさらし者にする」と言う場面があるが、「メイド」に相当する原語は my servants (使用人たち) と複数かつ性別非限定なので、同行のシュミットのことではなく、また女性使用人にも限らない。また、シュミットが自分はメイドであってコックではないと強調するが、ここでの「メイド (lady's maid)」は貴婦人付きの小間使のこと。こうした小間使がいるような家では使用人の職域は細かく分かれており、小間使が料理をすることはなかった。
 アームストロング大佐が戦功十字勲章を受けたというパッセンダーレは、第一次大戦の激戦地として知られるベルギーの地名。
 ポワロがシュミットのアルバムを調べる際、アップになったアルバムの場面と写真の場面の2箇所は映像が左右反転されている。これは、同じ画面に映った文字の向きを見てもわかるほか、そのすぐあとの場面で写真をはずしたページが右側に来ていたり、あとでシュミットに見せた写真に写った二人の立ち位置が反転していることからもわかる。直前の場面でポワロが右から左へアルバムを繰っているので、おそらくはページの開く向きをそろえるために反転したものだろう。
 ラチェットを演じるトビー・ジョーンズは、 BBC 制作の「検察側の証人」ではジョン・メイヒュー弁護士役で主演を務めたほか、ジョン・ネトルズ主演の「バーナビー警部」シリーズでは監察医のドクター・ピーターソン役を、ベネディクト・カンバーバッチ主演「シャーロック4」の「臥せる探偵」ではカルヴァートン・スミス役を演じている。ドラゴミノフ公爵夫人役のアイリーン・アトキンスは、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル3」の「ゼロ時間へ」でのレディー・カミーラ・トレッシリアン役(このときの吹替は、ミス・レモンの翠準子さん)、マスターマン役のヒュー・ボネヴィルはジュリア・マッケンジー主演の「ミス・マープル5」の「鏡は横にひび割れて」でのヒューイット警部役や、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」の一篇、「瀕死の探偵」のビクター・サベッジ役でも見ることができる。コンスタンチン医師役のサミュエル・ウェストは、「ハロウィーン・パーティー」でコットレル牧師を演じたティモシー・ウェストの息子。
 ラチェットの吹替を担当した納谷六朗さんは、アルバート・フィニー主演の映画「オリエント急行殺人事件」では、マイケル・ヨーク演じるアンドレニ伯爵の吹替を担当していた。
 本作では人物の表情を大きく映すことが多く、光の加減もあって、スーシェがコンタクトレンズをつけていることがしばしばよくわかる。
 » 結末や真相に触れる内容を表示
  1. [1] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, pp. 266, headline, 2013
  2. [2] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, pp. 257-263, headline, 2013
  3. [3] 「熊倉一雄インタビュー」, 『NHK ウィークリーステラ』 2014年9月12日号, pp. 25, NHKサービスセンター, 2014
  4. [4] David Suchet is back playing Poirot | London Evening Standard
  5. [5] IMihai Arsene on Twitter: "filming for POIROT - Orient Express stuck in snow in Serbia scene... is an absolute beauty! And David Suchet is a very friendly guy!!!"
  6. [6] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, pp. 258, 265, headline, 2013
  7. [7] David Suchet's Poirot finally boards the Orient Express - Telegraph
  8. [8] 'Behind-the-Scenes,' The Mystery of the Blue Train (Poirot tie-in edition), pp. 387-392, HarperCollinsPublishers, 2005

カットされた場面

なし

映像ソフト

  • 「名探偵ポワロ NEW SEASON DVD-BOX 4」に収録

同原作の映像化作品

  • [映画] 「オリエント急行殺人事件」 1974年 監督:シドニー・ルメット 出演:アルバート・フィニー(田中明夫)
  • [TV] 「オリエント急行殺人事件 〜死の片道切符〜」 2001年 監督:カール・シェンケル 出演:アルフレッド・モリナ(銀河万丈)
  • [TV] 「オリエント急行殺人事件」 2015年 演出:河野圭太 出演:野村萬斎
  • [映画] 「オリエント急行殺人事件」 2017年 監督:ケネス・ブラナー 出演:ケネス・ブラナー(草刈正雄)
2020年6月20日更新